こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

118話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 大きな罪
「アイシャ。」
兄はまるで懐かしむように、私の髪を撫でた。
「これからそう長くはないそうだ。」
その優しい言葉に、私は泣かないように必死で歯を食いしばった。
兄の言葉が続いた。
「つらければ、休んでもいいんだよ。」
「……そんなわけにはいきません。」
私がつらいからといって、この多くの軍勢が私のために休むわけにはいかなかった。
でも、兄は真剣だった。
「私にとって何より大事なのは、お前の気持ちなんだ。君が傷つかないためだ。それが目的なら、少し休んでから行くことが何だというのか。」
「………」
私は呆然と兄さんの顔を見つめた。
彼の顔には一片の嘘もなかった。
彼に感謝した。言葉では到底言い表せないほどに。
私は震える声で彼に言った。
「休む必要はありません。本当に大丈夫です。」
「アイシャ、無理しなくていいんだ。」
「本当です。ただ……」
うわの空だった私は言葉を続けた。
「……ただ、お願いが一つあります。」
「どんなことだ?」
兄さんは早く言ってごらんと言うように私を見つめていた。
「……私がどんな選択をしても。」
私はゆっくりと言葉を続けた。
「……憎まないでいてくれたら嬉しいです。」
ただイデンベレのことではなく、彼が後になって私が自ら命を絶ったことを知ることになっても、私を憎まないでほしい。
私の言葉に彼は驚いたような顔をした。
「僕が君を憎むはずがないだろう。」
「私、変なことを言いましたか?」
「もちろんだ。」
彼は私の頬を優しく撫でた。
私はそのまま微笑んでしまった。
そのときだった。
手に持っていたポーチから光と振動が発せられたのは。
驚いて中を開けてみると、中に入れておいた通信機が私の返事を待っていた。
アルセンが私に連絡してきたのだった。
イシス兄さんの前だったので、出るべきか出ないべきか悩んだ。
でも私はすぐに兄に彼のことを紹介することにした。
守ってあげなければ、という気がしたから。
私は慎重にそれを取り出した。
「兄さん。紹介したい人がいるんです。」
通信球に魔力を込めると、それは穏やかな光を放ちながら映像を映し出した。
「前にお話しした、私と協力しているイデンベレの人物です。」
通信が繋がるとすぐに映し出された私とイシス兄さんの姿に、アルセンはすぐに状況を把握したようだ。
「アルセン、こちらは私の兄であるイシス・ド・エルミール皇太子殿下です。」
そう言うと、アルセンは短く頭を下げた。
—「アルセン・ロストフです。」
イシス兄さんはかなり驚いたようだった。
「……アルセン・ロストフ? “あの”イデンベレのロストフ公爵?」
―ロストポフに他にアルセンはいないので、「それ」はおそらく私でしょう。
「アルセン」
彼が皮肉っぽく言ったので、私は静かに彼の名前を呼んだ。
するとアルセンは喉を軽く鳴らした。
―……それより、伝えたいことがあって連絡したんだ。
「どんなこと?」
私は自然に彼の言葉を受け入れた。
―まずはおめでとう。イデンベレの軍隊を退けて、エルシス総司令官を捕らえたという知らせがここまで届いてきた。おかげで首都は今、大騒ぎさ。
「それは良かった。」
―あとは首都を占領するだけだな。良い知らせを伝えてくれれば、まだ皇族たちは首都に残っている。
「……!」
私は思わず驚いて声を上げた。
やはり気にしていた部分だった。
首都に到着する前に皇族たちがみな他国へ逃げ出してしまったら、本当の意味での私の復讐は果たせないのだから。
私は水晶球に顔を近づけて尋ねた。
「あなたがやったの?」
アルセンは静かにうなずいた。
――もちろん。前にも言ったけど、私は皇族たちに大きな信頼を得ているからね。
私は自分の顔が次第に明るくなっていくのを感じた。
やはり私と同じくらい長く復讐を思い描いてきたアルセンには、すでにすべての計画があったようだ。
「……あの、兄さん。」
私は慎重にイシス兄さんに呼びかけた。
彼がどう思っているのか気になった。
しかし、彼は考えにふけっていたのか、言葉も耳に入っていないようだ。
「……お兄様?」
私はもう一度彼を呼んだ。
ようやく彼は私の言葉に返事をした。
「ん?ああ、ごめん。アイシャ。」
『何をそんなに考え込んでいるの?』
首都に進軍する作戦について考えていたのだろうか?
私がそう疑っていると、お兄様はゆっくりと口を開いた。
「ちょっと気になることがあって……」
私はお兄様を見上げた。
お兄様が最初に何を尋ねてくるのか、少し緊張した。
アルセンが信頼できる人物か尋ねてくるだろうか?
それともどうやって彼が皇族たちの信頼を得たのかを尋ねてくるだろうか?
尋ねたいことはたくさんあると思った。
私もアルセンを前世から知らなかったとしたら、彼を信用できなかっただろう。
それだけアルセンは私たちにとって素晴らしい味方だった。
ところが、兄さんが最初に口にしたのは意外な言葉だった。
「公爵、なぜアイシャに対してそんな話し方をするのだ?」
「……?」
「お互いに同意したことなのか?」
私は目を泳がせた。
合意したのか?と考えてみると、アルセンは最初から私に無礼だったし、何の遠慮もなく話しかけてきた。
再会したのも戦場の混乱の中だったし、いつの間にかお互いにタメ口になっていて……。
うろたえる私の様子を見たイシス兄さんは、苦笑いを浮かべた。
「いくら公爵でも、軽々しく皇女にタメ口をきいてはいけない。」
——……
アルセンは言葉を失ったようだった。
「アイシャにふさわしい礼を尽くすように。ロストフ公爵。」
だが兄様の言うことは間違っていなかった。
敵国の皇族であり、彼と私の年齢差があるとはいえ、彼は公爵、私は明らかに皇女だ。
アルセンは長い沈黙の末に言った。
——……はい、皇女殿下。皇太子殿下。
兄様は満足そうに微笑んだ。
その後、私たちはいくつかの話を交わした。
アルセンが先に王宮までの道を開いておけば、エルミール軍が入城して首都を攻め、そして最終的には我々が皇族たちと対峙するのだ。
『……首都の入城は本当に遠くなかったんだな。』
私は遠い空を見上げた。
白い月はこの場所、エルミールとイデンベレの空に公平に浮かんでいた。
十数年、私を苦しめてきた閉ざされた扉に、今や終止符が打たれた。
・
・
・
実際、首都への進軍はそれほど難しくなかった。
バウンド城から出発した我が軍は国境を越え、そのままイデンベルの首都まで進撃した。
国境軍と首都周辺部隊との衝突では若干のもみ合いはあったが、それも大した問題ではなかった。
兵力の圧倒的な差があったからだ。
おかげで私は首都に入る際、馬車に乗る余裕すら持てた。
『……本当に久しぶりだ。』
馬車の中にいながらも、私は窓の外を眺めていた。
天気がよくなって雪が解け、地面は緑に覆われており、所々に水たまりができていた。
その水たまりは太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
馬車や馬が行くにはぬかるんでいて、家畜以外は通れないような場所だったが、私はこうした日常の風景に、なぜか心を深くとらえられるような気がした。
軍人たちが隊列を組んで進んでいたため、イデンベレの人々は軽々しく近づけなかった。
私はそのため、より距離感なく周囲を観察することができた。
見慣れたイデンベレの建物や首都の噴水、市場、道路、木々。かなりの時間が経ったというのに、変わったものはあまりなかった。
首都の商店がいくつか変わっているのに気づくことは、私にとってささやかな楽しさとほろ苦い感情の両方をもたらした。
そして、遠くには皇城が見えていた。
『ああ。』
私は思わず小さく感嘆の声を漏らした。少なくとも、すべてが歳月の中で変わってもそれだけは変わらなかった。
日差しの下で堂々とそびえる白い城壁。
私はしばらく言葉も出せずにそれを見つめていた。
私の前に座っていたルーン様が私に言った。
「……そんなに嬉しいのか?」
私は目をぱちくりさせた。
嬉しい?
最初はその言葉に違和感を覚えたが、しばらくゆっくりと考えてみると、本当にそうなのかもしれないと思えてきた。
十数年ぶりに見る姿だ。
懐かしさに胸がいっぱいになるのは仕方のないことだろう。
しかし私は彼の言葉を聞いて、カーテンで窓辺を隠してこう言った。
「……今では他人なのに、妙にときめいてしまいました。」
ルーン様は私を優しい眼差しで見つめた。
『それでも構わない』と言っているようだったが、私はただ愛らしいドレスの裾だけをぎゅっと握りしめた。
隊列の先頭にはイシス兄様がいるだろう。
イデンベレの人々は、無謀な戦争を仕掛けたラキアス皇帝を罵り、我が軍を歓呼で迎えるに違いない。
私はしばし思いにふけった。
私が何よりも気にかかっていたのは「マリアンヌ」の存在だった。
アルセンでさえ最後まで、彼女の赤い目の正体を解明できなかった。
彼女が身元のわからない少女のような存在であるだけに、何らかの魔法によって偽装されているのではないかと調査していたが、成果はなかった。
それでも兄様にはあらかじめ伝えておいた。
皇族の中に魔術を使える者がいるかもしれないと疑わしい人物が一人いると。
会えばわかるだろうが…。
アルセンが言っていたように、すでに彼は皇族たちに密書を送っていた。
まさか、あのロストフ公爵が皇族を裏切るとは思ってもみなかった皇族たちは、さぞかし驚いたことだろう。
…今や捕虜となり、皇城に囚われているとは。
もうすぐ彼らに会えると思うと、胸が高鳴った。
私も思わずカーテンを再び開けて城を見つめたい衝動に駆られた。
そして、どれほど馬を走らせたのだろうか。
ついに我が軍は城の前に到着した。
城内に入る前に、私たちを迎えたのはアルセンをはじめとする侍従たちだった。
黒いマントを羽織り、冷たい目つきをしていた彼だったが、銀灰色の瞳にどこか馴染みを感じて、最後に会ったときよりも少しだけ温かさを感じた。
彼は私とお兄様、そしてルーン様に挨拶した。
私が精霊王を召喚したことをすでに知っていたので、軍がルーン様についてさらに説明する必要はなかった。
「こうして直接お会いできて光栄です。」
そう語ったアルセンに、お兄様は──
「あなたが首都を整理するのに大いに助けてくれたと聞きました。」
「すべては聖女様のご指導に深く目を覚まされたおかげです。これ以上無駄な血を流さないためにも、この戦争を終わらせてイデンベレの野欲を抑える必要性を感じました。」
他の人々の前に立つ前から、私たちはこの言葉をあらかじめ打ち合わせておいた状態だった。
おそらく今後も私とアルセンは戦争で出会い、聖女に深く感化された関係として知られていくのだろう。
「それでは入りましょう。」
アルセンの言葉に私は思わずイデンベレの皇城を見上げた。
かすかに感じていたイデンベレの城が、今やすぐ目の前にあった。
そのとき、ルーン様が隣でつぶやいた。
「ここ、きつい臭いがするな。」
「……はい?」
私はその言葉に目をぱちくりさせた。
死体があるわけでもないのに、強烈なにおい?
私が戸惑っている様子を見て、ルーン様が続けた。
「闇の中で腐っていくにおいがする。」
そう言っただけで、ルーン様はそれ以上何も説明しなかった。
『闇の中で腐っていくにおい』
どんなににおいを嗅ごうとしても、私には感じられなかった。
でも、精霊王であるルーン様が言うのだから、それなりの理由があるのだろう。
私はなんとなく緊張を感じた。
そのとき、イシス兄さんが最初に一歩を踏み出した。
私はそのあとを追って、火が消えた暗い皇宮のホールの中へと吸い込まれるように入っていった。
ある女性がそわそわしながら扉を見つめていた。
高く束ねられた髪は赤銅色で、めったに見られない美しい色だったが、よく手入れされていて艶やかだった。
彼女はイデンベレの第3皇女であり、結婚してからはデビウート家の公爵夫人となったアドリンヌだった。
彼女が閉じこもっている部屋には、彼女一人だけではなかった。
彼女の兄であり、この国で最も厳格な存在である皇帝ラキアスもいた。
また、彼女の妹マリアンヌと弟ルルスも一緒だった。
二人は互いに寄り添うように座っていたが、アドリンヌはさっきから一人だけ落ち着かず、ある場所を見つめていた。
彼女が見つめているのは、精巧な金の装飾が施された大謁見室の扉だった。
彼女はそこにたどり着くまでに、椅子や、さらにはテーブルまで投げつけてみた。
しかし扉はびくともしなかった。
それどころか、わずかな痕跡すら残っていなかった。
それはすべて、強力な魔法によって扉が守られていたからだった。
アドリンヌはその名前をはっきりと聞き取った。
『……ロストフ公爵……』
まさか、彼が皇室を裏切るとは夢にも思わなかった。
それは単に彼女の考えが浅かったからでも、簡単に人を信じたからでもなかった。
彼は十数年もの間、皇室に忠誠を尽くし、皇族たちの望むままに戦争に赴いていた。
先代のロストフ公爵もそうであったように、変わらぬ忠誠心を誓うその姿に、誰もが疑う余地などなかった。
アドリンヌだけでなく、他の皇族たちも彼を非常に信頼していたのだ。
『それなのに、裏切りだなんて!』
アドリンヌは込み上げる怒りにどうしてよいかわからなかった。
その時、背後から彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。
「やめなさい、アリン。」
「……でも……。」
彼女を呼んだのは兄である皇帝だった。
ラキアスは非常に疲れた顔をしていた。
しかし、まもなく皇族たちを制裁するためにエルミール軍が迫ってくる。
下手をすれば逃げる暇もなく一室に全員を集めて、魔法で結界を張る準備までしていた。
敵軍の総司令官に捕らえられたエルシスを含め、ここで彼らの処遇を決めることにしたのだった。
アドリンヌは気が狂いそうだった。
ラキアスが戦争を準備していると聞いたとき、彼女は当然イデンベレが勝つと思っていた。
それほど彼は現皇帝であり、兄であり、彼女が信頼していたからだ。
しかしここで、牢の中にネズミのように閉じ込められているのは、まさに彼女と彼女の兄妹たちだった。
何かしなければ本当に狂ってしまいそうだったので、アドリンヌは再び投げつけられそうなものを探し回った。
部屋の片隅にいたルルスは、そんな彼女を暗い表情で見つめるだけ。
今回彼女を止めたのは別の人だった。
「お兄様の言う通りです。もうやめてください、お姉様。」
花瓶を持っていたアドリンヌの手が止まった。
彼女の後ろからマリアンヌが話しかけてきたのだった。
振り返ると、そこにはマリアンヌが落ち着いた様子で座っていた。
いつものように、彼女の髪には白い包帯が巻かれ、黄金色の瞳は夢を見ているかのようにぼんやりしていた。
アドリンヌの妹、マリアンヌは現実を忘れたようだった。
彼女は妙な雰囲気を持っていた。
それは彼女が聖女であるからだろうか。
マリアンヌは祈るように手を組んだ。
「エルミール軍が来るって言ってますが、まさか私たち全員を殺すつもりなんでしょうか。」
「……でもマリ……」
「心配しないでください。」
彼女は明るく笑った。
紅い唇が弧を描きながら上がった。
「私がなんとか説得してみせます。」
錯覚だったのだろうか?
彼女の目が一瞬赤く見えたのは?
アドリンヌは一瞬、自分の目を疑った。
マリアンヌは続けた。
「総司令官の妹であるアイシャ皇女も聖女として名が高いと聞きます。神を信じている立場同士で一緒に話し合えば、きっとお互い理解できるはずです。」
マリアンヌの言葉は夢の中を歩いているかのように非現実的だった。
しかしアドリンヌは、いつのまにか彼女の言葉に少しずつ説得されていくのを感じていた。
そして彼女は持っていた花瓶を下ろした。
「……うん、信じるよ。マリィ。」
そう言いながらも、アドリンヌの心の奥では奇妙で複雑な感情が渦巻いていた。
果たしてエルミール軍が彼女たちの話を聞いてくれるだろうか、という不安が頭の中に浮かんでいた。
これだけのものを一か所に集めたとなれば、皇族たちを一斉に殺すか、人質にしてイデンベルの血統を奪おうとする以外に考えられなかった。
しかしその不安はすぐに消え去った。
『マリィを信じよう。』
それは不思議なくらい揺るがない確信だった。
マリィの言葉なら、何でも実現しそうな気がして、彼女の言葉を疑う気持ちは一切なかった。
そうすることが大きな罪のように感じられた。









