こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
134話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥⑦
魔法はその日の夜になっても完全には解けなかった。
私に付き添っていた侍女たちの一人が驚いたのは当然だった。
彼女たちにはこう説明していたのだ。
「一時的に使った幻想魔法で、時間が経てばすぐに解けるだろう」と。
でも実際は……
『いつ解けるんだろうか。』
私はテラスの端に出て、皇宮の下を見下ろした。
今のように出会う人一人一人に説明して回るわけにもいかない状況だった。
幸いなことに、侍女たちが長いドレスを見つけてくれたおかげで、他の服よりは少し体に合った。
その時だった。
あの上の丘の方で、ルン様がじっと座っている姿がふと見えた。
彼の白金の髪は、暗がりの中でも燦然と輝いていた。
私は目を見開いた。
『もう精霊界からお戻りになったの?』
急に行かれたので、いつ戻られるのか心配だったけれど、意外にも早く戻ってきてくださった。
『戻られたのなら、戻ったと一言声をかけてくださればよかったのに。』
私は彼をぼんやりと見つめながら、外へと降りていった。
ルン様にご挨拶もしておこうと思って、さっきのこともあったし——。
それほど高くない丘を登ると、ルン様は私が来る気配にすぐ気づいてこちらを振り返った。
「ルン様!」
私は彼を見てパッと笑った。
とにかく彼が戻ってきたのが嬉しかったのだ。
「精霊界では何をされていたんですか?いつ戻られるのか気になっていました。」
「……アイシャ。」
彼が私の名前を呼んだ。
彼が呼んでくれる私の名前はいつも心地よかった。
でも今日はなぜか、彼の声に張りがない気がした。
「……ルン様?」
私は不安になって小枝を握りしめた。
しばらくの間、私を見つめていたルン様がついに口を開いた。
「まだその姿なんだね。」
「あっ。」
私は気まずそうに自分の髪をくるくるいじった。
「すぐに解けるかと思ったのに、なかなか解けませんね。他の国にも訪問しなければならないのに、大変なことになりました。」
「他の国?」
「はい、リオテン公国のアルミナ姫をご存じですか?その姫が今回結婚するそうなんです。それで、使節団を連れて直接祝福しに行くことにしました。」
私は笑いながら尋ねた。
「ルン様も一緒に行ってくださいますよね?」
当然「もちろん」という答えが返ってくると思ったのに、ルン様は黙っていた。
ただ私を見つめているだけだった。
今日の彼はなんだか妙に無口だった。
「……ルン様?」
私がもう一度彼を呼んだとき、彼はゆっくりと口を開いた。
「魔法を解こう。」
「そんなこともできるんですか?」
私は目をまんまるく見開いた。
ルン様はかすかに笑った。
『ルン様って本当に何でもできるんだな。』
本当にすごい。
精霊王ってみんなそうなの?
私はそっと彼に頭を差し出した。
「では、お願いします。」
彼がゆっくりと私の頭の上に手をかざした。
彼が私を癒やしてくれたときのように、彼の気が頭上から降り注いだ。
やわらかくもあり、どこか温かくもある感触。
私はその感覚に思わず目を閉じた。
その気がつま先まで降りてきたように感じたとき、ルン様の声が聞こえた。
「解けた。」
私はゆっくりと目を開けた。
彼の言葉どおり、私の身体は元の年齢に戻っていた。
長いドレスに包まれていた腕の袖が少し落ち、ドレスの裾も当然のように短くなっていた。
少し名残惜しかったが、結局魔法は魔法だ。
解ければ何も残らないのが魔法というものだ。
私はルン様を見上げた。
彼に感謝の言葉を伝えるためだった。
月が雲に隠れて、一瞬世界が少し暗くなった。
暗がりに沈んだルン様の表情はよく見えなかった。
そして月明かりが再び差し込み、彼を見たとき。
「……ルン様?」
私はそっと彼を呼んだ。
ルン様の表情はとても複雑だった。
何より、いつもは澄んでいた金色の瞳が、ぼんやりと曇っていた。
私は戸惑ってしまった。
「……どうしたんですか?」
彼に何かあったのだろうか?
私は彼に一歩近づいた。
「精霊界で何かあったのですか?」
もう一度聞いてもルン様は答えなかった。
無言で私をじっと見ていた彼は、ゆっくりと視線を下げた。
「いや、何もなかった。」
「でも……」
私が彼を気にかけると、彼は話をそらした。返事はなかった。
「リオテン公国に行くと言ってたよな?私も一緒に行く。お前はもう遅い時間だから、今は帰るようにしなさい。」
確かに彼の言う通り夜は深くなっていた。
私はルン様の顔をじっと見た。
彼の表情はすでにいつもの落ち着いた顔に戻っていた。
私はためらっていたが、彼の落ち着いた態度に、結局は引き返すしかなかった。
「……では、後ほどお会いします。」
彼はうなずいた。私はゆっくりと東屋の下へと足を進めた。
『……何かあったのだろうか。』
どう考えても、彼のことが気になって仕方がなかった。
今日のルン様は本当におかしかった。
丘を降りながら、私はそっと後ろを振り返り、ルン様を見た。
『……あ。』
かなり離れていたが、ルン様はまだ私を見つめていた。
明るい月の下で、ルン様の白金色の髪が輝いていた。
彼はただ、無表情のまま立っていただけだった。
しかし、なぜだろう?
『なぜか……。』
私は思わず目を見開いた。
『悲しんでいるように見える。』
彼から目を離せなかった。
風が吹いていた。
不思議と胸が痛んだ。
その後、私はルン様をほとんど見ることができなかった。
私が忙しかったのもある。
継承式の準備に加え、リオテン公国の使節団との件もあったからだ。
私は一日に体がいくつあっても足りないほど走り回っていた。
そんなふうに休む間もなく働いているうちに、リオテンへ向かう日があっという間に近づいてきた。
家族たちは「気をつけて行ってきてね」と挨拶してくれた。
一国の代表として他国に行くということで、私も緊張せずにはいられなかった。
出発の準備をすべて終えた私は馬車に乗り、ルン様の馬車はすぐ後ろからついてきていたので、それだけでも少し安心することができた。
私は窓の外に見えるルン様の白い馬車をしばらく見つめた。
そういえば、ルン様とちゃんと話をしていなかったことに気づいた。
『………』
私が忙しかったのもあるが、彼の姿を見られなかったことも一因だった。
以前は執務室で仕事をしていても、窓を下ろせばいつも東屋の上にいるルン様を見つけることができたのだ。
それなのに今は。どこかはっきりとは説明できないけれど、ルン様が変わったと感じた。
『……でも、どうして?』
理由はどうしても思い当たらなかった。
私は息苦しい気持ちを抑えるように深く息を吐いた。
「出発します!」
馬車の外では騎士たちと御者の声が聞こえてきた。
私はすぐに雑念を払い、窓のカーテンを閉めた。
ルン様がああなった理由を考えずにはいられなかったが、結婚式に向かうのに沈んだ気分でいるわけにはいかなかった。
『ミナを祝福してあげなきゃ、明るい気持ちで。』
私は無理やりでも笑顔を作ろうと努めた。
『そして、ルン様を信じよう。』
今は話せなくても、ルン様がいつかその理由を話してくれるその時まで待とうと思った。
しばらくの間、馬車はリオテンへと忙しく走り続けた。
夏だったので、馬や騎士たちは暑そうにしていたが、それでも地面が凍りつく冬よりはずっと穏やかに進むことができた。
戦争以来初めて見るリオテンの首都はとても美しかった。
芸術を愛する国らしく洗練されていた。
都は綺麗に装飾されていて、行き交う人々の顔も明るかった。
そして都を抜けてリオテン宮殿に到着した。
馬車から降りた途端、一人の人物が私の方へ駆け寄ってきた。
「……アイシャ様!」
彼女はぱっと笑って両腕を広げた。
そして他の誰かが止める前に私をぎゅっと抱きしめた。
彼女の長い髪が私の胸元をくすぐった。
「まさか、直接来てくださるなんて!」
その熱烈な歓迎に私は少し戸惑ってしまった。
やがて彼女が私を見てにっこり笑った。
その顔には彼女らしい活気があふれていた。私は彼女に挨拶した。
「元気にしていましたか?」
「すごく元気でしたよ!本当にお久しぶりですよね?」
アルミナの顔は花のように咲いていて、笑顔はまるでこの世で一番幸せな人のようだった。
結婚を控えた新婦そのものだ。
彼女は私の手をしっかり握ってきた。
「皇女様はお元気でしたか?ずっとまたお会いしたかったのに、こうしてお会いできて本当に嬉しいです。あ、中に入りましょうか?」
早口で話す彼女に、私は気が抜けてしまった。
その時、別の馬車からルン様が降りてきた。
彼が手綱を引くと、私は彼と目が合ってしまった。
『……あ。』
一瞬、私は彼が私に近づいてくることを願った。
でも彼はただ、私に冷たく無表情な視線を送っただけだった。
胸が締めつけられるようだった。
ミナは慌てて彼に挨拶した。
「せ、精霊王様にお目にかかります!」
そんな彼女にルン様は軽くお辞儀をして挨拶をした。
エルミル宮殿の護衛として仕えているルン様のことを、この大陸で知らない者はいないだろう。
彼に挨拶をするミナの顔には、敬意と驚きが入り混じっていた。
以前、彼女がルン様に会ったことがあると言っていたが、その時はルン様が人間のふりをして官僚として過ごしていた時だった。
こうして新しい身分で再会することになったので、彼女にとっても大きな感慨があったのだろう。
挨拶を終えたミナが私に手綱を渡した。
「アイシャ様、ムルシル宮をご案内します。少ししたら父と母も直接お越しになるはずです。」
「ありがとうございます。それから、ご結婚本当におめでとうございます。」
彼女はぱっと笑った。
「アイシャ様が祝ってくださって、本当に嬉しいです。私の婚約者の顔もお見せしたいんです。」
彼女の明るい雰囲気が私にも伝わってきた。
これ以上なく幸せそうなミナの顔に、私も少し照れながら笑った。
ミナが案内してくれたのは客間の中でも一番良い部屋だった。
ミナは私の隣に並んで部屋の説明をしてくれた。
「そして、精霊王様にはすぐ隣の部屋をご用意しました。」
「……あ、はい。ありがとうございます。」
ミナは単なる配慮のつもりだったのだろうが、私はルン様の顔色をうかがってしまった。
ルン様はただ手綱を持っているだけだった。
少しして、私とミナは応接間へと向かった。
そこには久しぶりに見るアルディエフ公子と公爵、公爵夫人、そして初めて見る男性がいた。
ミナがにっこりと笑い、その男性に視線を向けた。
おそらく彼が彼女の婚約者のモヤンだった。
公爵が両腕を広げて挨拶をした。
「お越しくださりありがとうございます。結婚式が終わるまで快適にお過ごしいただき、無事にお帰りいただけますように。」
「歓迎してくださって感謝します。」
「今夜、宴会があるとのことです。結婚を祝うために来てくださった他の方々も参加される場です。もしよろしければ、ぜひご参加ください。」
「もちろんです。」
公式な場が終わり、非公式な場へと移った。
他の人々が私とミナが楽しく話せるように、席を空けてくれた。
人々が皆退出すると、私は少し楽な気持ちで座り直した。
馬車での移動とルン様に関する心配のせいで、その間いくら休んでも休んだ気がしなかったからだ。
そのとき、ミナが目をぱちぱちさせながら私に尋ねてきた。
「私の彼、すごくハンサムじゃないですか?」
私はミナの言葉に喉を詰まらせた。
確かに二人はよく似合っていた。
何よりもミナがとても幸せそうに見えるのが嬉しかった。
久しぶりに会う友達に言いたいことが山ほどあった。
「でも、突然結婚するって聞いて驚きましたよ。」
兄のアルディエフはまだ結婚していないのに、妹が先に結婚するのはあまりないことだった。
見ようによっては礼を欠いているように見えるかもしれない。
しかしミナはそれを気にしている様子はなかった。
「兄はまだ結婚の考えがないようで、これ以上待つには私の忍耐力が足りなかったんです。私は彼をとても愛しているんですよ。」
本当に彼女らしい答えだった。
私は思わず笑ってしまった。
「ではアイシャ様は?」
彼女が突然私に尋ねてきたので、私は少し戸惑った。
「……私ですか?」
「はい、まだご結婚の予定はないのですか?」
「まだその話は……。」
私は言葉を濁した。
しかし自分の言葉がピンケにおいて不適切だということは自覚していた。
貴族社会では、私の年齢くらいであればすでに結婚しているか、少なくとも婚約している人が多いためだ。
「……考えていません。」
私はただ曖昧に笑った。
ミナがじっと私を見つめた。
「アイシャ様。」
「はい?」
「実は、私はアイシャ様のことが少し心配なんです。」
彼女は非常に真剣な表情で私を見つめていた。
「以前から申し上げたかったんです。アイシャ様はとても温かいお方なので、他の人たちの立場や気持ちを優先して考えてしまい、ご自身のことが後回しになってしまうのではないかと心配で。」
「………」
「アイシャ様はエルミル帝国でたった一人の皇女であり、リオテン公国にとって永遠の恩人であり、そして……」
彼女がにっこりと笑った。
「私にとっては、かけがえのない大切な友達なんです。私は、アイシャ様が笑っている姿が見たいです。」
私は彼女の率直な気持ちに心が温かくなるのを感じた。
「ありがとう。」
ミナはその言葉に、心からの笑顔で応えた。
彼女は少しふざけた口調で私に尋ねた。
「それなら、まだお気に入りの方がいらっしゃらないなら、リオテンの人はどうですか? 今日の夜会には素敵な貴族たちがたくさん来るんですよ。私がご紹介しますね!」
「……考えてみます。」
彼女の冗談っぽい言葉に私は思わず笑ってしまった。
笑っておしゃべりしているうちに、いつの間にか時間がかなり過ぎていたことに気づいた。
夜の夜会の準備をする時間だった。
私はドアの前までミナを見送った。
「では私はこれで失礼しますね。あ、アルディエフお兄様がアイシャ様をエスコートしに来られるそうです。」
「はい。」
私は軽く頭を下げた。
公爵家の人々が私を恩人としてもてなして、あらゆる配慮をしてくれていることはわかっていた。
アルディエフのエスコートを無下に断る必要もないだろう。
ミナがぱっと笑いながら言った。
「未熟な兄ですが、よろしくお願いします。ではまた晩餐会でお会いしましょう!」
「またお会いしましょう。」
私はひらひらと手を振った。
その夜、私は予定通り晩餐会に出席した。
アルディエフは親切で、公爵と公爵夫人は何かしてあげたくて仕方ない様子だった。
それに、リオテンの人々はみな私に好意的だった。
まるで自分のことのように嬉しそうだったミナが、ふと私の元に来て尋ねた。
「ところで、精霊王様は晩餐会にいらっしゃらないのですか?」
その言葉に私は静かに口をつぐむしかなかった。
そうでなくてもルン様と話をしたくて、私は彼の部屋を訪ねていた。
だが、そこにあったのはただ空っぽの部屋だった。
『………。』
私が困っているのを察したのか、隣にいたアルディエフがミナに話しかけた。
「王女様は人の多い場所はお好きではないと聞いています。そうですよね、アイシャ様?」
「……はい、そうです。」
私は目で彼に感謝の気持ちを伝えた。
ミナを含め他の人たちは少し残念そうな表情を浮かべていた。
ミナが私に言った。
「それなら、また次の機会にぜひお会いできれば嬉しいです。あ、もちろんもし可能であればの話ですよ。無理なら仕方ないですけど。」
そう言いながらミナはにっこりと笑った。
私はただ曖昧に笑いながら軽く会釈を返すだけだった。
しかしその後も何度か私を訪ねてきたミナは、最後までルン様に会うことができなかった。
私もルン様には会えなかったからだ。
ミナは私を訪ねてきて、結婚式についても話しながら、エルミル帝国の人々の安否についても尋ねた。
イシスお兄様は元気にしているのか、また継承式にはどんなことがあっても必ず参加すると言っていた。
時折アルディエフが訪れてティータイムを共にすることもあった。
彼はいつも礼儀正しく親切で、彼と一緒にいる時間は悪くなかった。
結婚式の準備が進む様子を見ながら、継承式に役立ちそうなことを学ぼうともしていた。
ミナは私に、結婚式用の12段ケーキが出来上がっている様子を特に誇らしげに語った。
私は時々ルン様の部屋を訪ねた。
彼と話をするために。
しかし、そのたびに彼はいつもいなかった。
他の人たちも見かけたことがないと言っていたので、おそらく精霊界に戻ったのだろう。
私は主の気配がまったく感じられないルン様の部屋を見て、再び部屋に戻ろうとした。
『忙しいのかもしれない。わざわざ呼び出して邪魔しないようにしよう。』
私はそう思い、気を落ち着けようとした。
だが、私を見たミナはこう言った。
「でも皇女様、最近とてもお疲れのように見えます。」
結婚式の前夜だった。
会場の雰囲気はまさにお祭りのようだった。
悲しみに沈む人はこの世に私だけかのようだった。
「……そうですか?」
私は笑ってごまかそうとしたが、友人の心配そうな目を前にしては逃れられなかった。







