こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
135話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥⑧
ルン様の顔を見ることなく数日が過ぎ、とうとう結婚式の日がやって来た。
結婚式当日の空はまるで洗い立てた布のように澄みきっていた。
雲一つない美しい天気に、吹き寄せる夏の暖かいそよ風まで。
今まさに花嫁になったミナの姿は、何よりもまぶしかった。
「どうですか?」
ミナは白いウェディングドレスを着たままゆっくりと振り向いた。
彼女の髪の毛はきれいに結い上げられ、宝石と共にベールで整えられていた。
刺繍のように美しい目はキラキラと輝き、頬はほんのり赤く染まっていた。
「とってもきれいよ。誰よりも。」
私はぱっと笑って彼女に言った。
しばらく気分が沈んでいたけれど、それでも彼女の姿を見て、ここに来て本当に良かったと思えた。
城では、各国から訪れた祝福の行列が絶えなかった。
朝からあちこちで祝砲が何度も鳴り響いた。
私の言葉にミナが照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます、アイシャ様。」
その時、花嫁控室のドアを誰かがノックした。
聞き覚えのある声が外から聞こえてきた。
「入ってもいいですか?」
「どうぞ、お入りください!」
ミナは楽しげな顔で声をかけた。
ドアが静かに開き、私はアルディエフを見ることができた。
彼はクリーム色の礼服を着ていた。
「お兄様!」
ミナはアルディエフに駆け寄って、彼をぎゅっと抱きしめた。
「ミナ、今日は本当に美しいね。」
アルディエフの顔にも穏やかな微笑みが浮かんだ。
そして私を見つけた彼が挨拶をしてきた。
「良い日ですね、アイシャ様。」
「リオテンの婚礼をお祝い申し上げます。」
私は笑顔で彼に挨拶を返した。
「そろそろ式が始まりそうですね。」
アルディエフは私に手を差し出した。
式用の白い手袋をはめた彼の手を、少し戸惑いながらも私は握り返した。
今日も彼は以前と同じく、私のエスコート役を務めてくれる予定だった。
私はミナに声をかけた。
「それじゃあミナ、こっちを見て。会場で待っていますから。」
「まあ、アイシャ様!」
すると彼女は不意に私の手を握った。
「このあと、きっと素敵なことが起こります。そのときは必ず私に集中してください。絶対ですよ!」
私の手を握りしめて強く訴えるミナの様子に、私は少し震えながらも「分かった」と答えた。
するとミナはにっこりと笑った。
花嫁控室を出た私とアルディエフは、外へと向かった。
天気が良く、庭園に飾られた結婚式場は人々で賑わっていた。
私は私に挨拶してくれる人々に一々笑顔を見せていたが、口元が引きつりそうに感じた。
しばらくして、私たち二人は用意された席に座ることができた。
そこは新郎新婦が一番よく見える場所。
その隣には公爵夫妻、そして新郎側のご両親もいた。
彼らに挨拶を済ませた後、私は会場を見回した。
「本当に人が多いな。」
そして彼らは皆一様に楽しそうに見えた。
これ以上ないほど祝福される結婚式だった。
その中で、私は見知らぬ人々に囲まれた気分になった。
賑やかな声がだんだん遠くに聞こえていった。
「私はきっとあんなふうにはなれないだろう。」
皆から祝福される結婚式のことだ。
ミナのように明るく笑うこともできないだろう。
胸の奥がきゅっと痛んだ。
どれほど時間が経っただろうか。
退屈な前半が終わり、ついに管弦楽の音楽とともに新婦と新郎が登場した。
手には色とりどりの花で作られたブーケを抱えている。
ブーケはとても美しかったが、晴れやかに笑うミナの美しさにはかなわなかった。
彼女こそが、今日この世で一番幸せな人なのだから。
人々は歓声を上げた。
彼女の手を握っているルバーディン王子も、幸せそのもののように見えた。
そして二人が司式者の前に立つと、大司祭は二人への祝福の言葉を述べ始めた。
「このように二人が結ばれたことは……」
大司祭の言葉は途切れることなく続いた。
ミナの性格からすれば、もう口を尖らせてもおかしくないほどの時間が経っていたが、彼女の顔にはただ晴れやかな微笑みだけが浮かんでいた。
私は彼女が羨ましいと思った。
視線を巡らせたとき、私は結婚式場の白い柵の向こうに立っているルン様を見つけた。
一瞬、私は彼と目が合った。
とても久しぶりに見る彼だった。
彼の胸には赤いバラのコサージュが飾られており、水色の礼服を着ていた。
柔らかく流れる彼のプラチナブロンドの髪は、無垢な石のような色とよく調和していた。
私は震える瞳で彼を見つめた。
彼は感情を読み取れない表情をしていた。
「……ルン様。」
理由も告げずに私を拒絶したこととは別に、この瞬間だけは彼を理解できる気がした。
今にも駆け寄りたくなるほどに。
彼もまた、この幸せな結婚式の中でどこか遠く離れているように見えた。
結局、私も数年と経たずに死ぬのだ。
まるで誰かと結婚して幸せな家庭を築くことなど、自分にはできないように思えた。
だからこそ、ミナが羨ましいと同時に、どこか遠く感じられた。
ルン様はどうだろう。
彼はそれだけで完璧な存在だから、きっと誰かに惹かれる必要もないはずだ。
それでも私は、なぜか彼が少し孤独そうに見えた。
だが、そんな彼を見つめられたのはほんの一瞬のことで、それも私の思い過ごしだった。
なぜなら、間もなく彼は体を翻し、別の方向へ歩き出してしまったからだ。
「……あ。」
私は思わず目を瞬かせた。
そのとき、歓声とともに拍手の音が会場いっぱいに響き渡った。
視線を戻すと、いつの間にか長かった式は終わっていて、互いの伴侶となった二人が誓いのキスを交わしているところだった。
皆が席を立って拍手を送り、幸せな二人を祝福していた。
やがて、私は彼らのために拍手をし始めた。
「本当に素敵な結婚式でしたね。」
私がアルディエフにそう言うと、彼は少し笑った。
「式はまだ終わっていません。」
「え?」
私は首をかしげた。そのときだった。
「アイシャさん!」
白い壇上に立つミナが、私を見て手を振っていた。
その片手には夏の花で作られたブーケがしっかり握られていた。
私が彼女を見つめると、彼女の顔には明るい笑顔が広がった。
「しっかり受け取ってくださいね!」
そう言って、ミナは腕を大きく振り始めた。
人々は皆、私たちを見つめていた。
そして彼女はぱっと笑顔を見せながら私に向かってブーケを投げた。
確実に届くようにと、しっかりと力を込めて。
そして、彼女が投げたブーケは思いのほか速い勢いで私の方へ飛んできた。
ミナは予想以上に力が強いようだ。
私は呆然と、それを見つめていた。
さっきミナが言っていた「素敵なこと」とは、これだったのだ。
彼女は私にブーケを渡したかったのだ。
私がようやく状況を理解したときには、ブーケはすでに目の前まで迫っていた。
私は手を伸ばして受け取ろうとしたが、すでに遅かった。
あっという間に、ブーケは私の顔にぶつかる寸前だったのだ。
ミナが持っていた大きなブーケには、華やかな夏の花々とともに飾り用の枝や小物がいくつも差し込まれていた。
当たりどころが悪ければ、顔に傷がついたり、痛みを伴うこともありそうだった。
そして、そのブーケが私の目の前に弧を描いて飛んできた瞬間、私が慌てて受け取れずにいると——誰かが手を伸ばして、そのブーケを代わりにキャッチした。
「……!」
背の高いその人は、それをとても自然に空中で受け止めた。
その一連の動きには、微塵の迷いもなかった。
そしてブーケを受け取った人物の顔を確認した瞬間、私は胸が高鳴るのを感じた。
「……ル、ルン様?」
彼はゆっくりと手を下ろした。
その手にはミナのブーケが握られていた。
鮮やかな色合いの花束は、水色の礼服を着た彼にこの上なくよく似合っていた。
確かに、さっきまで彼が遠くへ歩いていくのを見たはずなのに。
「……まさか……」
私がブーケに当たって怪我をしないように、わざわざ受け止めに来てくれたのだろうか?
「でも、なぜ?」
彼を見つめる私の瞳がわずかに震える。
どうしてもルン様の心の内は読み取れない。
もしかして、彼は私をずっと避けてきたのではないだろうか?
「でも、なぜ……」
ルン様はただ黙って私を見下ろしていた。
「何でもない」と彼が言ったので、私は待とうと思っていた。
いつか彼が話してくれる日まで。
でも、もしかしたら、私のほうからもっと積極的に問いかけるべきだったのかもしれない。
今になって後悔が胸に押し寄せてくる。
彼に話しかける勇気を振り絞ろうとした、そのとき——
「アイシャ様!」
アルディエフが私の肩を掴んだ。
彼もこの状況にかなり戸惑った表情をしていた。
「大丈夫ですか?!」
彼の紫色の瞳には心配の色が満ちていた。
「まあ!ごめんなさい!」
ミナが驚いて私のほうへ駆け寄ろうとした。
他の人たちも私に大丈夫かと口々に尋ねた。
もともと人が多かったせいで、一人が少しでも動くと周囲が一気に騒がしくなった。
しかし、人々のざわめきの中でも、私ははっきりとルン様の声を聞くことができた。
「これは君が持っていくほうがいいだろう。」
そう言って彼はブーケを私の手に渡した。
そして、またどこかへ歩き去ってしまった。
「……」
私は、彼が受け取ってくれたブーケを見つめた。
彼が握っていた場所は、ほかの部分よりも温かかった。
息を切らしながら駆け寄ってきたミナが私に言った。
「私、強く投げすぎちゃったみたいですね。ごめんなさい。気持ちが先走ってしまって……」
新しい花嫁の可愛らしい顔が少し歪んでいる。
私は彼女を慰めなければと思った。
「……いえ、大丈夫……」
しかし、私の視線はルン様の後ろ姿を追っていた。
人混みに紛れて、その背中はどんどん遠ざかっていく。
「大丈夫……」
私はかすれた声を漏らした。
ミナが何か言い続けていたが、それに耳を傾ける余裕はなかった。
「……」
私は唇をぎゅっと噛みしめた。
彼を追わなければ——そう思った。
私は顔を上げ、ミナに向かって言った。
「これ、ちょっと持っていてください。」
「……アイシャさん?」
アルディエフは不思議そうな顔をした。
「すぐ戻りますから!」
私はルン様に向かって走り出した。
彼が完全に姿を消してしまう前に、どうしても伝えたいことがあった。
私の着ているドレスと履いている靴は、走るのに適したものではなかった。
だからこそ、私は全力で走った。
『ルン様に聞かなきゃ。』
彼に言うつもりだった。
なぜ私を避けているのか。
そして、避けながらもなぜ私を守ろうとするのか。
直接聞いてみるまではわからなかった。
私は走って、また走った。
周りの景色があっという間に変わっていった。
遠ざかる彼を必死に追いかけ——
彼の腕をつかんだとき、私たちは結婚式場から少し離れた庭園に立っていた。
式場がにぎわっていた分、この庭園には誰もいないようだった。
周囲はしんと静まり返っていた。
「……ルン様」
私は慎重に息を整えた。
私の言葉を完全に無視するわけにはいかなかったのか、彼は私の方を振り向いた。
その表情は無感情だった。
かつて私を見つめて微笑んでくれたときは、もう遠い昔のことのように思えた。
私は、彼が変わってしまった理由を知りたかった。
もうこれ以上、彼の沈黙の中で待ち続けるのは嫌だった。
「……ルン様」
やれる、私はそう心を奮い立たせた。
「……なぜ、私を……」
避けているのですか——そう尋ねようとした。
だが、私より先に彼が口を開いた。
「急にですが、お話があります。」
「……はい?」
「これで私との契約を解消してください。」
「……」
私は瞬きをすることも、呼吸をすることも止めてしまった。
何も言葉が出なかった。
しばらく黙っていた私は、ようやくかすれた声で口を開いた。
「……それは、どういう……?」
今、私は何を聞いたのだろう?
ルン様は続けた。
「君の望み通り、長い間人間界に留まった。これで十分だろう。」
それはどういう意味なのか。
なぜ彼はこれで十分だと思うのか。
私はこんなにも彼を求めているというのに。
言葉にできない感情が胸の奥で渦巻き、自分を苦しめた。
私は彼に問いかけた。
「私……何か悪いことをしましたか?」
彼が言った。
「いや、君は何も悪くない。ただ……もう君のそばにいる理由はないと思う。」
私は呆然と彼を見上げた。
「私も、もう廷礼会に留まりたくはないということだ。」
「……そ……」
「よく考えてみるといい。」
そう言うと、彼は背を向け歩き出した。
私はその後ろ姿を見つめた。
まるで何の未練もないかのように、彼は私から遠ざかっていく。
結局、私にとって彼はただの一時的な存在だったのだ。
彼の長い人生の中で、ほんの短い間だけ出会った、特別でも大切でもない……ただ契約でつながっていただけの関係。
彼の心を欲しがらないようにしようとした。
けれども、現実を突きつけられた今、胸が張り裂けそうになるのをどうすることもできなかった。
彼は一生をかけても、きっと私の気持ちを理解することはないだろう。
私が彼にそばにいてほしいと願った理由も、決して知ることはないだろう。
私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
春の日の霞のように、彼の姿は遠くへ遠くへと消えていった。
どれほどそこに立っていただろう。
私は戻らなければならないと悟った。
他の人たちのいる方へ歩みを返した。
来た道をとぼとぼと引き返す。
結婚式場は依然として賑やかな雰囲気だった。
披露宴へと続く催しの中、人々はシャンパンのグラスを傾けていた。
私を見つけたアルディエフが急ぎ足でやってきた。
「アイシャさん、お戻りになったのですね?」
彼は心配そうに尋ねた。
「そんなに急に走って行かれたので、心配しました。まさか——」
「何かあったのですか?」
私はただ、黙って首を横に振った。







