こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
138話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥⑪
宴が終わり、翌朝、私は約束通りミナを訪ねた。
客人たちに用意された宮殿の中でも、星がよく見える場所にあるミナの部屋に入る前から、扉の向こうから笑い声が聞こえてきた。
「……というわけで。」
リオテンから来た侍女たちと楽しげに話す声だった。
私の後ろにいた侍女が扉を叩き、私が来たことを知らせると、中からミナの明るい声が響いた。
「どうぞお入りください!」
扉がぱっと開いた。
応接室にはミナと彼女の侍女たちが控えていた。
ミナは明るく笑顔を見せ、私を迎え入れた。
「ようこそいらっしゃいました!」
私は部屋の中を軽く見回した。
継承式のために短期間だけ滞在しているせいか、彼女が持ち込んだ絵や彫刻は以前と変わらない。
ただ、その一つひとつが際立って美しかった。
「良い朝でしょう?」
私は微笑みながら朝の挨拶を返した。
ミナはその言葉に笑顔で応え、少し身をかがめた。
「眩しいくらいの朝ですね!お忙しくなければ、お茶でもいかがですか?」
「ええ、ぜひ。ただ、あまり長くは居られませんが。」
「もちろんです。お忙しいお身体ですから。」
ミナは笑みを浮かべながら私を手招きした。
「みんな、皇女殿下にお出しするお茶を用意して。それと“あの箱”も持ってきてちょうだい。」
「はい、お嬢様。」
私はミナに導かれて応接室の椅子に腰を下ろした。
暑くも寒くもなく、ちょうど良い温度だった。
侍女たちは忙しそうに動きながら、私のために温かいお茶を用意していた。
やがてミナが言っていた“あの箱”を手にした侍女がやってきた。
私は好奇心を抑えきれず、その箱を見つめた。
侍女は私とミナの間に置かれたテーブルにそれを置いた。
淡い紫色の箱には、淡紅色のリボンが結ばれていた。
大切に保管されてきたことは一目で分かった。
「これなんです。」
ミナは手を伸ばしてリボンをほどき、箱の蓋を開けて中身を見せてくれた。
それを見た私は、思わず小さく感嘆の声を上げた。
「……あっ、これは……」
丁寧に乾かされた花束。かつては鮮やかな夏の花だったそれは、乾燥する過程で少し色あせていたが、それでも変わらず美しかった。
ミナのウェディングブーケだったのだ。
ミナが言った。
「アルディエフ兄さまが、アイシャ様にお渡しするのをすっかり忘れていたそうです。とても忙しく出発されたものですから。」
「あ……」
私は申し訳なさで胸が締めつけられた。
「本当にごめんなさい。本当はあの時にお持ちすべきだったのに、その間ずっと気が回らず、すっかり忘れてしまっていました。」
「大丈夫です。アルディエフ兄さまも忘れていらしたくらいですし。」
ミナはまるで気にしていない様子だった。私は少しほっとした。
ケーキを見つめながら、私はミナに尋ねた。
「触ってもいいですか?」
「もちろんです!これはもうアイシャ様のものですから。」
私はそっと手を伸ばし、ブーケに触れた。
感触は壊れそうなほど柔らかく、鼻に近づけると優しい香りが漂った。
それはミナの結婚式を思い起こさせる香りだった。
青い空と暖かな日差し、その下でウェディングドレスを着て笑っていたミナの姿は、どれほど美しかったことだろう。
そんな私を見つめながら、ミナは微笑み、口を開いた。
「ご存知ですか、アイシャ様?」
「……何を?」
「ブーケを受け取ると、そう長く経たないうちに結婚できるそうですよ。」
「……」
ミナの顔に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「アイシャ様も、もう結婚できるお年頃ですよね。素敵なご縁に出会えるかもしれませんよ。」
私は何も言えなかった。
「……アイシャ様?」
ミナが戸惑いながらも問いかける。
私は視線を落とした。
何を言えばいいのか、わからなかった。
「……私は、結婚なんてしないつもりです。」
自分の口から出たその言葉に、私自身も驚いた。
ミナも困惑した顔で私を見つめた。
「……え?」
唇を噛みしめたが、一度開いた口は止まらなかった。
もしかしたら、私は誰かに本音をこぼしたかったのかもしれない。
私の心を。
「……本当に好きな人とは一緒になれないんです。」
彼にとって、私はただ通り過ぎていく人間の一人にすぎないのだ。
「きっと、この気持ちは一生口にすることもないでしょう。」
もしもこんな想いを抱いて、嘲笑われることがないのなら、それはむしろ幸運だ。
「だから、こんな気持ちで誰かと結婚するなんて失礼です。いえ、それどころか、他の誰かのそばにいたくもありません。」
私は扇を握りしめた。
自分の気持ちを他人に打ち明けたのは、ミナが初めてだった。
侍女たちや家族にさえ話せなかった本心だ。
ミナは何も言わなかった。
彼女も戸惑っているようだった。
彼女に重荷を背負わせてしまったという思いが、頭の中をよぎった。
「……」
胸の奥に暗いもやがかかったようだった。
もうそろそろルン様を手放さなければならない。
ハイネン様が言っていた通りだ。
それは十分わかっているのに、未練を断ち切れない自分が嫌になった。
「……ごめんなさい。こんな話、急にして……」
ブーケを見たせいか、つい感情が込み上げてミナに打ち明けてしまった。
私は慌てて表情を整え、彼女に笑みを見せようとした。
その時、不意に伸びてきた彼女の手が私の手をぎゅっと握った。
「……!」
驚いてミナを見つめる。
「……ミナ?」
「アイシャ様!」
彼女の顔は、これまでにないほど真剣だった。
紫色の瞳が真っ直ぐに私を見据えていた。
そして彼女は問いかけた。
「その人が皇女様を嫌いだと言ったんですか?」
私はしばらくしてから、彼女の言葉の意味を理解した。
「……い、いえ、そういうわけじゃ……。」
答えながら、自分でも情けなくなるような気分だった。
私は口ごもりながら続けた。
「わざわざ言われなくても分かりますよ。きっと私のことを嫌っているに違いありません。」
嫌いで、二度と会いたくないほどに。
しかし、私の言葉を聞いたミナは、扇を強く揺らした。
「それは違います。」
「……じゃあ……?」
「どうして最初から負けを認めるんですか?」
私は呆然と彼女を見つめた。
ミナは扇を持ち上げながら、はっきりと言った。
「アイシャ様、私が知っている皇女様は、もっと勇敢で、度胸があって、堂々とした方でした。あの大勢の大臣たちの前でさえ、危険な戦争に出ても言うべきことはきちんと言う人。そんなアイシャ様は本当に素敵だと、私はずっと思っていました。
「でも……それとこれとは違いますよ」
「勇気がいるという点では、どちらも似ています」
ミナは真剣な表情をゆるめ、微笑んだ。
「自分の気持ちを伝えるのは、それだけで価値のあることです。たとえ相手を傷つけることになっても、言わなければ誰にも伝わらないでしょう?」
「……ミナ」
「それに、誰かを好きになることは悪いことじゃありません」
その言葉が胸の奥に柔らかな波紋を広げた。
ミナは温かい声で続ける。
「私はそう思います。たとえ縁がなかったとしても……どうですか?生きていれば、もっと良い人に出会えるかもしれません。そうなることだってあるじゃないですか。でも、それもまずはきちんと気持ちを伝えてからです。そうしなければ、心を整理することも、新しいチャンスをつかむこともできません。」
「……」
「最初からあまり悲しまないでください。きっと良いことがありますよ。」
ミナの手から温もりが伝わってきた。
まるで私に勇気を分け与えてくれるようだった。
言い終えた彼女が微笑むと、なぜか頭の中が少し澄み渡る気がした。
「……私は。」
決断を下さなければならない。
ルン様が去る準備をしなければならない。
そして彼を見送ったら、おそらく死ぬまで二度と会うことはないだろう。
この想いは隠さなければならない――そう思った。
私だけがひっそりと忘れてしまわなければならないと。
理解した。けれどやはり……
『……何も言えないまま別れたくない』
心臓がドクンと高鳴った。
ミナの言う通りだ。
私は自分の気持ちを伝えたかった。
私の表情を見たミナが尋ねる。
「決心、つきましたか?」
私はこくりとうなずいた。
「じゃあ、今すぐ行ったほうがいいですよ」
「い、今ですか?」
「決めたなら、すぐ行くべきです。あとでまた怖くなったらどうします?」
確かにその通りだ。
迷っている時間は、ただ無駄に過ぎてしまうだけだ。
ミナは続けた。
「このブーケを渡したのは、アイシャさんに幸せになってほしかったからです。そして幸せって、自分の手でつかむしかないんですよ」
私はブーケを見下ろした。
『……幸せは自分の手で掴むしかない……』
誰かが手渡してくれるのを待つわけにはいかない。
その手を伸ばすのは自分でなければならない。
私が席を立つと、ミナも一緒に立ち上がった。
「お供しますよ。」
「いいえ、大丈夫です。」
私は深呼吸をした。
「飛び立つつもりですから。」
「え?」
ミナの戸惑った声を聞きながら、私はルディオンを召喚した。
強い光が応接室を包み込み、やがて新たな姿へと変わった。
私はミナからもらったブーケを大事に抱きしめ――
「ブーケ、本当にありがとう。話を聞いてくれたことも……」
急な召喚のせいで、ミナはただ瞬きをしていた。
私には迷っている時間はなかったので、ルディオンの背にひらりと飛び乗った。
まるで私の心を読んだかのように、ルディオンは地面を蹴って空へ舞い上がった。
茨の生垣を越えるほどの勢いで飛び上がったルディオンは、すぐさま強風を巻き起こしながら北へと突き進んだ。
通り過ぎる侍女や使用人たちは驚き慌てたが、私にはそんなことを気にしている余裕はなかった。
頭の中は、ルン様のことでいっぱいだった。
赤いカーテンがかかった服飾室と、その向こうの奥まった部屋へ続く扉を越えた瞬間、昼下がりの陽射しの中、ルディオンの背から飛び降りた私は、庭園で手入れをしていた庭師と目が合った。
驚いた庭師がこちらを見つめる中、ルディオンの翼が静かにたたまれていった。
門の庭園にあった花々が一斉にざわめき、花びらを散らした。
「は、皇女殿下?」
驚いて私を呼ぶ護衛騎士や侍女たちの声も聞こえたが、私は彼らに叫んだ。
「後で!ちょっと出かけてきます!」
申し訳ない気持ちは胸の奥に押し込み、庭園を飛び越えるように駆け出した。
ルディオンが羽ばたくたび、風景は目まぐるしく変わっていく。
ルン様と初めて出会った時のことが思い出された。
私は愚かにも、彼をただの精霊師だと思い込んでいた。
もし彼と出会っていなければ、私は今ごろどんな人生を送っていただろうか。
風に揺れる私の髪を、あの時と同じように彼が撫でてくれたことを思い出す。
誰も想像すらできないだろう。
彼は精霊王であり、私はただの人間に過ぎない。
彼の年齢は数千年という歳月を経てきた――
でも、私はまだたったの十八歳にすぎない。
彼と私は何もかもが違うけれど、それでも……忘れられない。
私の名を呼ぶ声、見つめながらわずかに上がった唇の笑み、涙を拭ってくれた手の温もりまで。
――「アイシャ」
その名を呼ばれるたび、私はいつも陽だまりの中で透明に溶けていくような感覚になった。
たった一度でもいいから、この想いを伝えたい。
ルディオンの背に乗っているだけなのに、息が早くなる。
いつもは広くて壮麗だと感嘆していた宮殿も、こういう時は広さがただ邪魔になる。
ルディオンは遠く高く飛び、私の宮殿へ向かった。
風景をかすめていく中で、見慣れた姿が目に飛び込んできた。
鮮やかな赤髪――メリカラだった。
「……アイシャ?!」
それはローズだった。
隣にはアシュリーとクロエもいた。
彼女たちは、今夜開かれる宴の前に私の宮殿へ遊びに来ていたらしい。
「わあ、遊びに来たのに!」
「後で!!」
彼女たちに手を振る暇もなく、私はすぐさま飛び立った。
すでにルディオンは皇女宮を離れ、その後を追って私はいつも登っていた東山へと向かっていた。
根拠はない。
だがなぜか、そこへ行けばルン様に会えるという予感があった。
そして予想通り、彼はそこに立っていた。
空中からでも、その驚いた表情が見て取れた。
無表情ではない彼の顔を見るのは、本当に久しぶりだった。
私は大きく息を吸い込み、叫んだ。
「……行かないでください!」
彼がふらつくのが見えた。
間違いない、ここ数か月ずっとそうだったように、私が彼を見る前に消えてしまうのではないかという予感は的中していた。
ルディオンはゆっくりと高度を下げ、草地すれすれまで降りてきた。
心が急き立てられた私は、再びひらりとルディオンの背から飛び降り、彼のもとへ駆け寄った。
話せば、何かが変わるだろうか?
わからない。
もしかしたら、悪夢の中に現れたときのように、彼は私を嘲笑うかもしれない。
けれど確かなのは、言わなければ何も変わらないということ。
ミナの言葉は正しかった――幸福は自分でつかみにいくしかない。
怖くても、気持ちを伝えなければ。
走って、さらに走って、彼の目の前に立った。
彼は驚いたような、戸惑いを含んだ表情をしていた。
そして――それは私も同じだった。
風を受けて駆けてきたせいで乱れた髪、しわくちゃになったドレス、早まる呼吸と赤くなった頬——誰が見ても慌てているのは明らかだった。
けれど、今でなければならなかった。
今しかできない。
私は唾をゴクリと飲み込み、震える声を発した。
「私……私から離れてもいいです。行かなくてはならないことは分かっています。」
「……だが。」
「それでも、一度だけ聞いてください。私は、ルン様にとって取るに足らない存在だったかもしれません。でも……私にとってルン様は、決してそうではありませんでした。」
彼の金色の瞳が揺らいだ。
「私は本当に、心から、ルン様を……」
「……アイシャ!」
彼が呼ぶ私の名前は、心地よかった。
「……好きです!」
彼はきっと去っていく。
おそらく私は、もうこれ以上、心の整理をつけることはできないだろう。
数年後、私が死ぬとしても――それでも……。
それでも私は、彼が好きだった。
美しくも巧みに取り繕うことはできない。
ただ、これが私の真心だから。
彼は驚いた顔で私を見つめていた。
風が吹き、彼と私の髪を揺らす。
彼が口を開いた。
私は全神経が彼の言葉に向かうのを感じた。
しかし彼は、何も言わずに再び口を閉じた。
その表情は無垢でありながらも、どこか悲しげだった。
その瞳に宿る深い悲しみに、私は思わず問いかけた。
「……ルン様?」
いっそ彼が私を嘲ったり、冷たく突き放してくれたらよかったのに。
なのにどうして、こんなにも悲しそうな顔をしているのだろう。
風の合間に見えたその表情が、胸を締めつけた。
髪が風になびき、私は彼の心をまったく読み取ることができなかった。
しばらく茫然としていた彼が腰をかがめ、私と視線を合わせた。
「アイシャ。」
震える瞳で彼を見つめる。
彼が口を開く。
その言葉は何だろう——そう思うだけで息が速くなる。
「お願いです、私とあなたの契約を終わらせてください。」
しかし、返ってきた答えは私が望んだものではなかった。
心臓がドクンと落ちるように鳴り、涙がこぼれそうになる。
結局、彼と私は同じ気持ちではなかったのだ。
私が顔を上げられずにいると、ルン様は私を優しく抱き寄せ、静かに言った。
「私は方法を探してみる。お前がもっと長く生きられる方法を。」
「……!!!」
私は大きく目を見開いた。
ルン様は私を見つめ、その表情は無垢でありながらも、どこか切迫して見えた。
「……それは……何を?」
私の声は震えていた。
これまで私は、彼が私に怒って距離を置いているのだと思っていた。
だが、彼の口から出た言葉はそれとはまったく違っていた。
――怒っていたわけじゃなかったの?
ルン様の顔には悲しみが滲み、どこかとても苦しそうな色があった。
彼はかすれた声で言った。
「……きっと、失望しただろう。何も言わず、ただ君から離れていた私を。」
まるで告白するかのように、彼は続けた。
「……私は……」
もし彼の行動に胸が痛まなかったとしたら、それは嘘になる。
突然、彼が私を避けた理由が――
冷たい顔で接する彼を見るたび、私は必死に彼の心を理解しようとしてきたが、それは私にはあまりに不足していた。
痛みを伴う記憶が蘇り、私は唇を噛みしめた。ルン様の表情がさらに陰を帯びる。
「……すまない。本当に私は未熟だった。」
「……ルン様……」
「それが最善だと思って、君に真実を告げず避けることに必死だった。……そうすれば君が私を憎み、契約を終わらせる理由にしてくれると願っていたから。」
その言葉は混乱を招くばかりだった。
『……私がルン様を憎むように仕向けて、わざと避けていた……?』
私は震える声で彼に尋ねた。
「いったい、どうして?」
「……」
「私が契約者として未熟だからですか? それとも、私が……」
胸が激しく高鳴った。
「……ルン様を好きだから、ですか?」
ハイネン様の言葉を聞く前、私はもしかして彼が私の気持ちに気づいて距離を取っているのではないかと思っていた。
そんな自分の心を抱えてしまったことが、ひどく嫌だった。







