こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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7話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 見慣れない光景⑤
しかし、皇后はそんな私を気にしていたようだ。
ルセル侯爵夫妻が滞在する宮殿へ戻った後も、彼女は私の背を優しく撫でながら、何度も話しかけてきた。
「アイシャ、ご機嫌ななめ?」
私は彼女の視線を避けた。
すると、困惑したように皇后はわずかに眉をひそめる。
「どうしたら、うちのアイシャの機嫌がよくなるのかしら?」
皇后は独り言のようにつぶやいた。
そして、さっき私が遊んでいたボールを持ってきて、私の目の前で揺らした。
しかし、私が特に反応を示さないと、ためらうように手を下ろした。
「それとも、お菓子をあげようか?私のかわいいアイシャ。」
優しく語りかけてくる彼女を見て、私は少し気まずくなった。
皇后はただ、私が大切だからどうすればいいのかわからず、必死に私の機嫌を取ろうとしているだけなのだ。
私は少し申し訳ない気持ちになった。
もともと彼女が悪いわけではない。
ただ、私がイデンベルの名前を聞いて落ち込んだだけなのに。
彼女が勧めてくれた子供用のお菓子を、私は素直に受け取った。
すると、皇后の顔がまるで満開の桜のように明るく輝いた。
その時だった。
ちょうどそのタイミングで、イシスと前皇帝がこの場所を訪れたのだ。
「アイリス。」
「アイシャ!」
二人は応接室に入るなり、まっすぐ皇后と私の名前を呼んだ。
まるで兄弟ではないかと思うほど、二人の姿はよく似ていた。
さらに、私たちを呼ぶ時の態度も、この世で最も大切なものを扱うような慎重さがあった。
「お二人とも、どういったご用件でしょうか?」
しかし、私と皇后の反応は異なっていた。
皇后が穏やかに彼らを迎えたのとは対照的に、私はただ呆然と彼らを見つめていることしかできなかった。
「愛する妻と娘に会いに来たのだよ。」
「そうさ、アイリス様とアイシャに会いに来たのさ!」
二人は同時にそう言ってから、お互いにまじまじと見つめ合った。
どうやら、自分たちがそっくりだと今さら気付いたらしい。
その光景に皇后はくすくすと笑った。
「まずは座ってください。」
二人のために、新しいお茶が用意された。
テーブルには、イシスのために甘い菓子も添えられていた。
イシスは顔をぱっと明るくしたが、私が目の前にいるせいか、その感情を抑えようとしているようだった。
皇帝は穏やかな表情で皇后の手を取った。
「アイシャも、あなたも元気そうで本当に良かった。」
皇后はそっと頷いた。
「すべては陛下のおかげです。」
皇帝は、先代の皇后であるテティスとは幼い頃からの友人だったという。
彼女は体が弱かったため、常に気にかけ、物心両面で支えていたと語った。
しかし、彼女が無念にもこの世を去った後、皇后の座を空席のままにすることはできず、北部の有力貴族の娘であるアイリスを皇后として迎えたのだった。
テティスを失った悲しみは深かったはずだが、皇帝は新たに宮殿へやってきたアイリスが孤立しないよう、あえて冷静に接していた。
その様子は、傍から見ていた私にも明らかだった。
「そして、イシスもいる。」
菓子を食べていたイシスがにっこりと微笑んだ。
イシスはまさしくイシスだった。
彼女は、腹違いの妹である私に変わらぬ愛情を注ぎ続けていた。
皇位を脅かしかねない私を遠ざけ、用心しているといっても、特に不自然なことはない。
皇后はいつも私たちを温かく見守り、そんな二人の存在がありがたかった。
「……お二人がいてくださって、本当に幸運です。」
応接室には和やかな空気が流れた。
イシスは今、拗ねている私を見て、一緒に遊ぼうと必死になっていた。
九歳の子どもが、私のような幼い赤ん坊と遊ぶのが面白いとは思えないが、彼はいつも私に一生懸命だった。
「アイシャ、あーんする? ほら、あーん。」
私にお菓子を食べさせようとする彼を見て、皇后は微笑んだ。
「いつもアイシャを大切にしてくださってありがとうございます。」
あらゆる手を使って私の視線を引こうとしていたイシスは、ふと小さなボールを手に取った。
「もちろんです。僕は『お兄ちゃん』ですから。」
そう言ってイシスはニッコリと笑った。
「アイシャは僕が守ります。誓います。」
「まあ、頼もしいこと。」
皇后はとうとう笑いをこらえきれず、小さく微笑んだ。
『お兄ちゃん、か。』
私はそんな彼の姿をぼんやりと見つめていた。
今の私にとって、その言葉はもう否定的な意味を持つものではなかった。
その時、イシスは何か言いたげに咳払いをした。
「アイリス様、そしてアイシャ。お話があります。」
その言葉に皇后は小さく微笑んで尋ねた。
「何でしょう?」
イシスは秘密を打ち明けるように、そっと私たちにささやいた。
「僕、アイリス様とアイシャがいて、本当に幸せです。」
そして、過去の話を続けた。
「もし二人がいなかったら、僕はずっと無口で、暗くなっていたと思います。」
「……イシス。」
「母上が亡くなってから、ずっと寂しかったんです。」
「………」
私は少し驚いて口を開いた。
いつも明るいと思っていたイシスが、こんなことを言うなんて。
でも、考えてみれば、それも当然のことかもしれない。
幼い子供にとって、母親の死はどれほど大きな衝撃だったことだろう。
ただ、私は今まで彼の心の闇に気づけなかっただけなのだ。
「でも、今は違います。」
イシスは春の青空よりも明るく輝く笑顔を見せた。
「僕はアイリス様とアイシャが大好きです。二人と一緒にいると、世界がキラキラして見えるんです。」
「………」
「こんなに大切な人たちが僕にはいる。それって、奇跡としか思えません。」
ついに皇后は目頭を押さえながら、涙をそっと拭った。
「……私もです。イシスがいてくれて、アイシャが私のもとに来てくれて、そして陛下と一緒にいられることが、本当に嬉しいです。」
「それは私も同じだよ。」
皇帝が会話に加わった。
「この三人が一緒にいられること、それこそが幸せというものだな。無性に嬉しくなるよ。」
そう言いながら、皇帝はイシスの髪を優しく撫でた。イシスは微笑みながら答えた。
私は両手をぎゅっと握った。皇后がイシスに提案した。
「アイシャを抱っこしてみませんか?」
なぜか、昔ティータイムの時に父が言った言葉を思い出した。
ただ、父と違うのは、イシスは迷っていたことだ。
彼は戸惑った瞳で皇后を見上げた。
「本当にいいんですか?」
果たして大丈夫なのだろうか?
私は少し心配だった。
まだ九歳のイシスに、自分の身体を預けるのは私自身も少し不安だったからだ。
でも、そんな私の気持ちを周りの人たちが察することはなかった。
私は結局、イシスの腕の中に慎重に抱かれることになった。
「こうやって、手でお尻をしっかり支えて抱えないといけないよ。そうしないと体がぐらついてしまって不安定になるから。」
「……わぁ……。」
イシスは皇后に教わった通り、しっかりと私を抱きしめた。
思ったよりもイシスの腕の力は強く、私が落ちる心配はなかった。
近くで見るイシスの顔には、戸惑いと緊張、そして嬉しさが入り混じり、明るく輝いていた。
そこに嘘はなく、純粋な気持ちだけがあった。
「暖かい。」
彼はためらうことなく、私をしっかりと抱きしめていた。
私はその胸に抱かれながら、イシスの鼓動を聞いていた。
新しく生まれ変わった私にできた、新しい家族たち。
彼らは本当に愛おしい人たちだった。
イシス、皇帝、皇后、そして私。
前世の私は、皇族は皆冷淡で自己中心的な人々だと思っていた。
しかし、今この場で私が感じているのは、まるで燃え上がる焚き火のような温かさだった。
私は、自分を抱きしめるその腕の中に、知らず知らずのうちに期待してしまっていた。
二人が帰った後、夕食の時間になった。皇后は私のために直接夕食を用意してくれた。
彼女が運んでくれた食事を食べ、また少し遊んでいるうちに、いつの間にか周囲が暗くなっていた。
「もう戻らなきゃいけないの?」
皇宮の規則上、どんなに幼い皇族であっても、母親とは別々に寝なければならなかった。
皇族には、皇族として必要な礼法があるものだった。
しかし、今日はなぜか、その規則が惜しく感じられた。
私がぼんやりと暗くなった外を見つめていた時だった。
「アイシャ。」
優しい手が私を包んだ。皇后だった。
彼女は私をしっかりと抱きしめ、その腕の中で私の頬に口づけた。
「今日はお母さんと一緒に寝ようか?」
その言葉を聞いた侍女長は、少し驚いた表情を浮かべた。
「しかし、宮廷の規則が……。」
「今回だけは見なかったことにしてちょうだい、エミリー。」
皇后は穏やかに微笑んだ。
「どういうわけか、今日はアイシャと離れたくないの。」
私は恥ずかしそうに、皇后の目を見つめた。
侍女長はどうしようもないという表情を浮かべた。
「それでは、アイリス様のご意向に従って……。」
「ありがとう。」
侍女たちは、私の部屋からいつも抱いて寝る人形やクッション、それにその他の赤ちゃん用の道具を持ってきてくれた。
銀色の髪を下ろし、薄いシルクの寝間着をまとった皇后は、私をベッドの上にそっと寝かせた。
「さあ、今日も楽しい夢を見ようね、アイシャ。」
そう言って皇后は子守歌を歌い始めた。
その歌声を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じるのを感じた。
生まれてからずっと聞いてきた甘く優しい子守歌。
それはまるで、皇后の愛のように、私の心の中に少しずつ少しずつ染み込んでいった。
『アイリス様とアイシャがいてくれて、本当に嬉しいです。』
イシスの声が頭の中に響き渡った。
『この四人で一緒にいられることが、何よりの幸せです。』
皇帝の声も重なった。
私は眠気に襲われ、半ばまぶたを閉じたまま彼女の顔を見上げた。
彼女は優しく目を細め、微笑んでいた。
『……。』
私はそっと目を閉じた。
『……お母さん。』
まだ、あまりにも遠い呼び名だった。
過去のぼやけた記憶が、その言葉にしがみついていた。
けれど、その言葉を思い浮かべると、
胸がそっと高鳴るのを無視することはできなかった。
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