こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

97話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 特別なお客様
「冬だから、戦争がもっと大変なのかもしれない。」
その言葉を聞いた私は、上着を着るのも忘れて立ち止まった。
遠くから、不安げな声が聞こえてくる。
「イデンベルを相手にするんだから、どうしたって長期戦になるさ。」
話していた二人の侍女が、大きな桶を抱えながら私の方を見た。
彼女たちの手には赤カブやジャガイモのような食材がぎっしり詰まっていた。
幼い侍女たちだったが、私を見ると慌てて挨拶をしてきた。
「皇女殿下に謁見いたします。」
彼らの挨拶を受けながら、私は黙って髪飾りをいじっていた。
彼らは服を整え、唇を固く閉ざし、一言も発しなかった。
明らかに私の表情を窺っていたのだ。
ふと、私は無意識に窓の向こうを眺めた。
皇宮の気候は徐々に暖かくなってきていたが、北方でイデンベルと対峙しているエルミール軍は、いまだ厳しい寒さに晒されていることだろう。
兄が出立してから、すでに数週間が経った。
その間、私は兄の指示通り食事を欠かさず、十分に休み、時には運動もした。
新しく身についた癖があるとすれば、それは曇りの日ごとに遠くを見つめることだった。
いつになったら帰ってくるのだろうか。
そして、この戦争はいつ終わるのだろうか。
侍女たちは、私に気づかれまいと視線をそらした。
しかし、私にも耳と目がある以上、分かっていた。
軍の情報を詳しく調べようとはしなかったが、あちこちで耳にする話から、戦況が芳しくないことは明らかだ。
とはいえ、軍の戦力が不足しているわけではない。
今回派遣された人員には、兄上をはじめ、ベルトモア公爵や各地の精鋭騎士団など、そうそうたる顔ぶれがそろっていた。
それでもなお膠着状態が続いているのには、何か理由があるはずだ。
「そう考えると……。」
私は新たな疑問が浮かぶのを感じた。
「敵国の総司令官は誰?」
イデンベル相手にこれほどの戦争を指揮できる人物は誰なのか。
アルセンではないはずだ。
彼とは既に手を結んでいるのだから、今回の戦に関与するはずがなかった。
『では、誰なのだろうか。』
私は思案に沈んだ。
これほどの大規模な戦争の最前線に立てるほどの実力を持ち、軍を統率できる能力のある者。
そうした人物はそう簡単には現れるものではない。
もしかすると、かつて私が皇宮にいた頃に知っていた人々の中に、その人物がいるのかもしれない。
考えに耽りながら部屋の中へと戻ろうとしたとき、侍女長が私の元へやってきた。
「皇女殿下!」
彼女は明るい表情を浮かべていた。
私が部屋にこもっていた間、そしてその後もずっと沈黙していた侍女長が、である。
「どうしたの?」
「特別なお客様がいらっしゃいました。」
彼女の言葉に、私は目を見開いた。
特別なお客?
(母や父ではないはず……。)
両親が時間を割いて私を訪ねてくれることはあったが、”特別な客”と呼ぶには少し違和感があった。
ここ数週間、体調が悪いことを理由に、ほぼすべての面会を断っていた。
それを知っている侍女長が、今回だけ客を通したということは、それなりの理由があるのかもしれない。
本来なら、約束もなく突然の訪問には応じないつもりだったが、久しぶりに誰かと会ってみるのも悪くないと思い、部屋を出ることにした。
「それで、お客様はどちらに?」
私の問いに、侍女長は応接室へと案内してくれた。
彼女が扉を開けた瞬間、私は懐かしい顔を目にすることができた。
「アイシャ!」
突然響いた声が、応接室の中に朗々と広がった。
夏の日のバラのように鮮やかな赤い髪を持つ少女が、席から勢いよく立ち上がると、まっすぐに私のもとへ駆け寄ってきた。
そして、躊躇なく私の手を握った。
「この間、どうしてたの?!」
あまりの驚きに、私は口をぱくぱくさせることしかできなかった。
そんな私を見て、目の前の少女──ローズは満面の笑みを浮かべた。
「どれだけ会いたかったか、わかる?!また会えて本当に嬉しい!」
「ロ、ローズ……。」
私は混乱しながらも、口ごもりつつ答えた。
応接室にはローズだけがいるわけではなかった。
震えながら周囲を見渡すと、他の友人たちの顔も次々と視界に入ってきた。
「新年を迎えた後、初めて会うわね。」
「久しぶりだな、アイシャ!」
クロエが穏やかな微笑みを浮かべながら席を立った。
隣には、明るい笑顔のロズもいた。
私はようやく落ち着きを取り戻し、彼らに尋ねた。
「えっ、どうしてここに? どうやって来たの?」
「まあ、それよりまず座りなよ。」
ロズが私の手を引き、椅子の前まで連れていった。
私は素直にロズの勧める席に座ると、他の三人も席に着いた。
待っている間に、彼らには先にお茶菓子が出されたようで、目の前には香り豊かな紅茶と、食欲をそそる焼き菓子が並んでいた。
カラフルなデザートを目にするのは本当に久しぶりだ。
私がそれらをじっと見ているのに気づいたのか、クロエがそばに積まれていた箱のリボンを解き始めた。
そして、その中身を取り出すとテーブルの上には、レモンパイをはじめ、私の好きなさまざまなお菓子が並んでいた。
冬場にレモンを手に入れるのは相当難しかったはず。
それなのに、彼女はわざわざ用意してくれたようだった。
クロエが微笑みながら言った。
「一緒に食べようと思って、料理長にお願いしたの。レモンパイ、好きだったでしょう?」
「クロエ……。」
私は彼女の優しさに胸がいっぱいになった。
言葉が出ないまま、ローズが急に話に割り込んだ。
「ここまでどうやって来たのかって?それには、ちょっとした理由があるのよ……。」
彼女の言葉を聞いて、私は目を大きく見開いた。
「お母様が、あなたたちに手紙を送ったの?」
「うん。」
「皇后陛下が、あなたが最近元気がないと気にされて、宮殿に来てくれないかと手紙を送られたの。だから私たちは……」
「もちろん賛成したわ!」
ロズが明るく笑ってみせた。
『……お母さま。』
私は胸が熱くなるのを感じた。
兄を送り出し、なんとなく寂しさを感じていたことを、お母さまは気にかけてくださっていたのだ。
『後でお礼を言いに行かなきゃ。』
私を驚かせるために、わざと話さずにいたのだろう。
私は三人の明るい雰囲気に影響され、気づかぬうちに微笑んでいた。
「みんな、来てくれてありがとう。」
お母さまが手紙を送られたとはいえ、こうして私のために来てくれた友人たちがありがたかった。
クロエは都に住んでいるので、そこまで遠くないが、ローズやエシュリーは都から離れた場所に住んでいるため、ここに来るのに相当な時間がかかったはずだ。
私の言葉に、友人たちはクスクスと笑った。
「何を言ってるのよ。私たち友達でしょう? 当然来るわよ。」
「そうよ。それにアイシャに久しぶりに会えるのがすごく嬉しかったんだから。」
「しばらく会えなくて、連絡もなかったからどれだけ心配したことか。」
「それより、お茶が冷めちゃうわよ。」
ローズが促すと、私は友人たちに勧められたお菓子を口にし、温かい紅茶を一口飲んだ。
久しぶりの再会に会話は尽きることなく続いた。
この間、お互いどんな生活をしていたのか、冬の間に何をしていたのか、そんな話題で盛り上がった。
そんな話をするのが楽しかった。
私はいつの間にかさっきよりも明るく笑っていた。
「あっ、そうだ!」
ローズが何かを思い出したように、手をたたいた。
「春になったらみんなで花遊びをしない?」
「花遊び?」
私は目を丸くした。
「うん、春のお祭りが近づくころには花が満開になってるはずだから、みんなで遊びに行こうよ!」
春のお祭り。
まだ寒さが完全には緩んでいないせいか、それは少し遠い未来のように感じられた。
ローズはそんな私を見透かしたように続けた。
「それと、星の広場にもまた遊びに行こうって言ってたじゃない? 星の広場でもまた会おうよ。」
私は一瞬、動きを止めてしまった。
星の広場。
それを思い出した途端、胸の奥がじんわりと温かくなった。
南部の別荘に行ったときのことを思い出した。
ルーン様と初めて会った記憶が自然と蘇る。
満開のバラが赤く咲き誇る庭園、その甘い香り。
初夏の夜の涼やかな空気と、夜空に輝く星々。
たった一年も経っていない出来事なのに、なぜこんなにも遠い昔のことのように感じるのだろう?
きっと、それほどの間に私にはあまりにも多くのことが起こったからだ。
私はそっと微笑んだ。
そして、懐かしさを感じながらそっとコップを手に取った。
「そうだね。それなら、みんなで星を見に行って、お花を摘みに行こう。」
「本当?本当に?」
「うん、もちろんだよ。」
すると、友人たちはお互いの顔を見合わせて喜んだ。
その姿を見ながら、私は静かに微笑んだ。
私と友達は遅くまでお茶を飲みながら会話を楽しんだ。
もう少し一緒にいたかったけれど、冬なので日が早く沈むせいで、彼らは名残惜しそうに次のことを考えながら立ち上がった。
「皇宮で泊まっていくのはどう?」
彼らが帰るのが惜しく感じられた私は、そう提案してみた。
すると、ロズとエシュリーも名残惜しそうに指をもじもじと動かした。
「私たちもそうしたい気持ちはあるんだけど……」
「ここにいる間、公爵閣下が部屋を貸してくださってるの。だからちゃんと挨拶をしないといけないと思うし……」
「アイシャ、あなたも一緒に来ない? お父様とお母様も喜ぶと思うよ。」
私はクロエの提案について考えた。
以前、クロエの邸宅へ遊びに行く約束をしていたこともあるし、久しぶりに会った友人たちともっと一緒に過ごしたい気持ちもあった。
でも、私が突然出かけると言ったら両親も心配するだろうし、私自身、長い間誰とも会わなかったせいか、人に会うこと自体が少し疲れるように感じていた。
だから私は、ただ静かにカップを手に取るだけにとどめた。
「まだ完全に回復していないみたい。ごめんね、また次の機会に約束してもいい?」
「もちろん!いつでも歓迎だから、体調が良くなったらぜひうちに遊びに来てね。」
そして私は、友人たちを皇女宮の前まで見送った。
彼女たちは「送ってくれなくていいのに」と言っていたけれど、それでも私は頑なにこだわって彼女たちと一緒に歩いた。
ここまで来てくれたことが、ただただ嬉しかったから。
「じゃあ、またね。」
馬車に乗り込む彼女たちに向かって、私は手を振る。
彼らはしばらく首都に滞在することになったため、近いうちにまた会える予感がした。









