こんにちは、ピッコです。
「愛され末っ子は初めてで」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

96話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 平穏な時間②
「行きたかった場所ってここなの?」
「うん。」
ミハイルが私を連れてきたのは、他でもない、数年前、レベンティス大公が私を連れてきたあの山だった。
「おじいさまがずっと自慢してたじゃない。」
昨日は大公がやきもちを妬いてどうのこうの言っていたけど、本当に何年経ってもそっくりな孫だ。
「大公おじいさまもまた寂しくなりそうね。ここは二人だけの思い出の場所だって言ってたのに。」
「大丈夫、赤ちゃんには何も言わずに私ばっかりこき使って終わらせるつもりでしょ。」
ミハイルはそれでも嬉しそうにニッコリ笑った。
本当にこの子は、笑えばすべて許されると思っているんじゃないだろうか。
「僕もだっこしてあげようか?できる気がするんだ。」
いや、やっぱり顔がどれだけ可愛くてもダメなものはダメだった。
私がじっと見つめると、ミハイルはすぐに謝った。
「ごめんなさい、ぼくが悪かったです。末っ子お嬢様。」
「ミハイルは本当に、わかっててそうするのが一番悪い。」
侍女たちが用意してくれた弁当のバスケットを開けてごそごそしていると、ミハイルがバスケットを自分の方に引き寄せ、代わりにその場にセッティングし始めた。
「だから、今回は僕がちょっとひどかったんだ。」
本当に憎めない理由は、まさにこういうところだった。
ふざけていても、私が本気で嫌がると素直に謝って、同じふざけは繰り返さない。
いとこ同士の妙な競争心の中で、あんな話をしたことに気づいていないのかもしれない。
ミハイルは手慣れた様子でバスケットの中から食べ物を取り出して並べ、魔法の道具でお茶までさっと淹れてくれた。
この3年の間、ミハイルが私に小さな贈り物をくれたのはこれが初めてではなかったから、こうしてお茶を入れてくれるのもすっかり慣れた様子だった。
静かで穏やかだった。
苦いのが苦手な私のために、濃く煮出したミルクティーに砂糖をたっぷり入れてくれた甘いお茶だった。
「おいしい?」
「うん。お茶がおいしいから許してあげる。」
「よかったね。おじいさまに感謝しなきゃ。お茶の淹れ方を教えてくれたんだから。」
ほんのり赤らむような言葉に私がくすっと笑うと、ミハイルは肩をすくめてしぶしぶうなずいた。
あれこれぶつぶつ言っていても、やっぱり一緒にいるのは嬉しいみたいだ。
ミハイルがいないときに一人で過ごす時間も悪くなかったが、やっぱり誰かがいる方が私は好きだった。
『ようやく八歳になっただけなのに。』
以前はただ一人でいるのが慣れていて、もっと楽だったのに。
…と思っていたけれど、2千年の間誰にも会わなかっただけで、私はやっぱり情に厚くて人が好きなタイプだったようだ。
お茶を飲み、美味しいサンドイッチとデザートを食べ、たわいもない会話を交わしながら春風に当たると、うとうととまぶたが重くなった。
ミハイルがにこっと笑いながら、自分の膝を軽くぽんぽんと叩いた。
「ちょっと寝てもいいよ。」
「いやだ。」
「ダミアンがそうしたって。」
ああ、本当に腹立つ!
兄の名前を出したとたん、私が不機嫌な顔をするのを見て、ミハイルはそれ以上何も言わず、また膝をぽんぽんと叩いた。
「昼寝もしっかり取らなきゃ、よく育たないって言ってたよ。」
「ほんとにひどい。」
「私は可愛がられたくて努力してるのに、赤ちゃんがそれを分かってくれないんだから。」
私はぶつぶつ言いながらもミハイルの膝を枕にして横になった。
青い空、柔らかな風。
そして、見慣れない人の姿……。
「ん?」
見慣れない人の姿?
私はぱっと身を起こした。
「どうしたの、坊や?」
「そこに、人が倒れてる!」
私は寝転がって見えていた、もう少し上の岩陰を指差して話した。
私とミハイルは馬丁や騎士たちまで呼び、倒れている男のもとへ駆けつけた。
先に着いたのはミハイルだった。
「大丈夫、生きてる。どこも怪我してない。ただ……」
「ただ?」
ミハイルより少し遅れて到着した私は、不思議そうな顔で尋ねた。
「……寝てるよ。」
「寝てるって?」
私が振り返ると、ミハイルは自分でも驚いたように私の肩を引っ張った。
「こんな山の中で、敷物もなく草むらの中にこんなふうに倒れて寝てるってどういうこと? 普通、木の下とかを探して寝るんじゃない? もしかして……」と近づいたその瞬間、横たわっていた男が急に肩を持ち上げて私の足首をつかんだ。
「坊や!」
ミハイルは男の手から私の足首を振りほどき、そのまま私を引き寄せて抱きしめた。
すると一緒にいた騎士たちの剣が男に向かって構えられた。
そんな状況でも男は眠たげにまばたきしながら口を開いた。
「子どもの友達は……」
「私のこと?」
「長生きしそうだな……」
何の冗談?
石占いでもしてるの?
まだ二十歳にもならない私に長生きしそうだなんて。
冗談を言ったその男はまたそのまま地面に頬をつけて寝てしまった。
そのあまりの平然さに、眠気が一気に引いた。
「……とりあえず馬車に移す?このままだとダメかも。」
私を抱いていた腕を解いて、ミハイルがそう言うと、騎士のひとりがぐっすり寝ている男を抱きかかえた。
どれだけ図太いのか、人に持ち上げられているのに目を覚ます気配もなく、世間知らずに眠り込んでいた。
まったく、なんて図太く生きる人だろう……
・
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子ども二人が乗るにはそれほど大きくない馬車だったが、男は体を丸めたまま熟睡していた。
男が目を覚ましたのは、公爵邸に近づいた頃。
彼は目をこすりながら起き上がり、真昼の環境でもゆったりとあくびをし、伸びまでするほどだった。
『本当にすごい精神力だな。』
もしかすると、ミハイルよりももっと図太いのかもしれない。
目をパチパチ、パチパチしながら周囲を見渡した彼は、ようやく目の前にいる私とミハイルを見て――何かを発見したように口を開いた。
「子どもたち、こんにちは……」
男は疲れた様子を隠すことなく口を開いた。
「こんにちは。」
「………」
あいさつをした私とは違って、ミハイルは私の腕をつかんだまま、警戒心に満ちた目で男を見つめていた。
「ここがどこか分かりますか?あの、もしかして旅の途中なんですか?」
男は緊張感など全く感じさせない口調で口を開いた。
誰が大人のふりをして子どもたちを連れているって?
思ったよりも荒っぽい世界で生きてきて感覚が麻痺してるタイプなの?
私がそんな深刻なことを考えていると、男は頬を掻きながら私とミハイルに向かって口を開いた。
「……夫婦?」
イカれてるな。
「俺が新婚の邪魔でもしたのか?」
ほんとにヤバいやつだ。
どう見ても人を間違えて助けたみたい。
両親の言葉に従って、困っている人を助けただけなのに、少し後悔し始めた。
「私とミハイルは子どもだよ。」
「うん、わかってる。子どもでも結婚できるかもしれないし。」
「人は偏見を持って生きちゃダメなんだよ。」
ちょっと君は持った方がいいと思う。
私が眉をひそめている間に、男はけだるそうに目についた涙を拭いながら再び尋ねた。
「それで、ここがどこか分かるかな?」
淡々とした会話の中で、しつこく場所だけを尋ねるのが少し気になった。
「僕は怪しい人じゃないから、監獄は嫌だよ。どうせ脱獄するし。」
逃げる気もないのに堂々と脱獄宣言とは。まったく警戒心というものがない人間だった。
「ここがどこか分からないから、家に帰れないんだ。」
「何ですか?」
そう言いながら身分証を差し出すと、ミハイルは目を丸く見開いた。
この奇妙で間の抜けた人間。
魔法使いの塔、その頂点に立つ塔主だなんて!








