こんにちは、ピッコです。
「愛され末っ子は初めてで」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

98話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 魔塔主②
ミハイルは今日一日、自分の気分が本当に激しく上がったり下がったりしたと思った。
公爵邸で一緒に夕食をとって、一部は別のことを考えようとダミアンと最近の勉強のことについて話をした。
大人びたダミアンはいつも良い話し相手だ。
私の妹のことに関してどれだけでも寛容になれる友人は、最後に一言付け加えることを忘れなかったけれど。
「毎回うちのアナスタシアを連れていって独占してってことだよ。」
その言葉にミハイルはただ笑うしかなかった。
本当にダミアン・エンデブランは普段は冷静で思慮深いのに、弟妹たちに関わるとまるで別人のようだった。
「次は許可をもらおうか?」
「いや、これはただぶつぶつ言ってるだけだよ。俺の許可はいらない。アナスタシャが許すならそれでいい。」
こんな言葉を聞くたびに、ミハイルは思わず考えてしまった。
なぜか兄としては絶対にダミアンには勝てない気がすると。
自分には正直に言って少し意地悪になるときがあったからだ。
たとえば、アナスタシャが自分はダメだと言いながら、ラミエルと一緒に庭の手入れをするときなどだ。
『私だってうまくできるのに。』
アナスタシャは本当に公平な子どもだったので、ミハイルとラミエルがこの3年間しょっちゅう衝突していたにもかかわらず、明確に領域を分けてくれていた。
ここまではミハイル、そこまではラミエル。
それがちょっと寂しくもあり、自分が小さい頃に見ていた末っ子のお嬢様に似ていてうれしくもあった。
ミハイルは思わず笑みをこぼした。
アナスタシャのことを思い出すと、今日あった嫌なことが全部吹き飛ぶような気がして。
『おじいさまが来られる前に、また赤ちゃんと時間を過ごせるかな。』
そんなことを考えながら、ダミアンの部屋を出て馬車に向かおうとしたとき、淡いブロンドのくせ毛の男がドンとぶつかってきた。
「おお、子どもの友だち。待ってたんだよ。」
さっきまで気分がよかったのに、ミハイルは急に気分が沈んだのを感じ、魔塔主をじっと見つめた。
「そこへ行け。」
それでもアナスタシャに叱られたことがあるので、自分なりに少しだけぶっきらぼうに言った。
「そんなにしない方がいいと思いますけど、幼い友だちに伝えたいことがあるんですよ。」
するとタッと音を立てて床にまっすぐ足を下ろして立った。
「子どもの友だちが好きな末っ子のお嬢さんと関係があるんです。続きが気にならない?気にならないなんておかしいよ?」
気軽な感じで続けるその口調は、ただの軽口ではなかった。
ミハイルはその言葉に不快感を覚えて魔塔主を見たが、魔塔主は唇をつり上げてニヤッと笑った。
「気になったでしょ?」
「……何が?」
「私には予知能力があるんですよ。」
ミハイルはその言葉を聞いた瞬間、思わず眉間にしわを寄せた。
あまりにも詐欺師のようだったから。
でも魔塔主は少しもたじろぐ様子もなく、ミハイルをじっと見つめていた。
知らない相手なのに、その青灰色の瞳はなぜか不快に感じられた。
やはりこの人は苦手だ。
ミハイルは本能的にそう感じた。
「子どもの友だちがあまり遅く寝るのはよくないので、手短に話しますね。」
ピオニは手に持った短い指揮棒で自分の手をトントンと叩きながら言った。
「末っ子のお嬢さんは、縁切りに合う相です。」
「え?」
「縁切りから逃れるには、あなたがそのお嬢さんを助けなければなりません。」
「それって——」
「運命は絶対的なものです。だからよく考えてみてください、子どもの友だち。私には見えるんです。」
ピオニはくすくすと笑った。
「そう遠くない未来に、あなたが私の弟子になることを。わざわざ会いに来たんですよ。」
その言葉を最後に、彼はさっと一歩引いて後ろに下がった。
そして少し離れたところから手を振り、どこか芝居がかった口調でミハイルに別れを告げた。
「それじゃあ、また今度会いましょう。子どもさん。」
ミハイルは顔をしかめた。
「……嘘つきめ。」
ミハイルはしっかりと聞いていた。
寝ぼけてアナスタシアにプロポーズすると言っていたピオニの声を。
あれは完全に嘘だ。
そう思っても、ミハイルは心のどこかがちくっと痛むのを感じた。
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「え? 魔塔主いないの?」
翌日、私は朝食の席でピオニが見えなかったので尋ねた。
昨晩、父と食事のあとに遊んでほしいとせがまれていたときも、 魔塔主は作業室にくっついていそうな気がしたからだ。
「まあ、アナスタシャ。あの子と情でも湧いたの?」
「そんなことないです。」
私は母の言葉にすぐさま否定した。なぜか認めたくなかったから。
「さっきミハイルにも聞いてみたら、3人で面白かったって。少しでも一緒に過ごす時間を持てて良かったって言ってたよ。」
母は笑いながら、私に温かく温められたショールを掛けてくれた。
「 魔塔主はもともとちょっと掴みどころのない人なのよ。」
「帰ったんですか?」
「うん、昨夜は遊び尽くしたから帰るって言ってたわ。ただちょっと心配なところもあってね。」
「どんなところですか?」
「 魔塔主はね、唐突な言葉で冗談を言ったりするの。」
唐突な言葉?
母の話に私は訝しんで眉をひそめた。
その時、父が深くため息をついて話し始めた。
「ピオニには予知能力があるんだって。」
ああ、そういえば昨日、石売りが予言のようなことを言ってた。
私が長生きするだとか、なんだとか。
「でも問題は、ピオニの予知は当たる確率が半分にも満たないってこと。」
「じゃあ予知って言っちゃダメなんじゃないですか?」
「たまには役に立つから、完全に無視するのもね。」
それでも外れたときのリスクを考えると、かえって悪いかもしれない。
私が目を細めると、母が笑いながら私の前にきちんと包んだ弁当箱を差し出した。
「これ、何ですか?」
「ミハイルが朝ごはんを食べてなくてね。なんだかうちの末っ子が助けてあげなきゃいけない顔をしてたの。」
その言葉に、何かまたあったのかと思いながら、私は弁当の包みをそっと触った。
ミハイルはたまに食事を忘れることがあったが、それは単にうっかりではなく、食欲がないときだった。
『何があったんだろう?』
私はなぜかピオニーが関係しているのではと思った。
彼が砦により馴染んでいくと考えたのも、ミハイルに弟子入りして戻ってくるつもりだと話していたのを覚えていたからだ。
『簡単には離れそうにないタイプだと思ったのに……』
もともと、あまり何も考えていないように見える子が何かに執着し始めると怖いものだ。
それに、ひとたびこだわり始めると誰の言うことも聞かないミハイルを放っておくわけにもいかなかった。
私は心配に満ちた顔で弁当のカゴを手に取り、席を立った。
隣にいたラミエルが少し不満げな顔で話しかけてきた。
「少尉はいつもサシャ様を困らせているような気がします。」
「友達じゃない。」
「でも……」
「ラミエルにこんなことがあった時、私が行かなかったら寂しく思わない?」
「私なんかがとても……」
「とてもだなんて、ラミエルとは仲良しなんだから当然よ。」
私がそう言うと、ラミエルは少し照れたようにしながらも、首元のリボンをいじった。
ただ、気まずそうな顔をしていたのはラミエルだけではなかった。
姉も兄も、なんとなく気まずそうにしている顔だった。
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どこにいるだろう。
こういう日は、ミハイル・レベンティスはちょっと見つけにくい場所にいるので、まずは拠点から探すことにした。
「主君、おっしゃってくだされば、私たちが捜索します。」
「大丈夫。どこにいるか分かっているから。」
信頼できる自分の騎士たちの言葉に私は苦笑いした。
そして、もし本当にピオニが原因で気分が悪いのなら、騎士たちを連れて行かないで行くのがいい気がした。
昨日もなんとか機嫌は直ったけど、また何かあったんだろう。
私は魔力を使ってミハイルの居場所を探りながら、ゆっくりと歩き出した。
天気もよく、両親が弁当かごを直接渡してくれたので、今日は授業を受けずに遊んでもいいということだった。
工房は北の方にそれほど高くない丘をひとつ背にしていた。
ミハイルはその丘の上、他人の視線が届きにくい角に座っていた。
「ミハイル。」
「……毎回末娘様は僕を見つけるのが本当に上手ですね。」
「見つけてくれて感謝してる?」
「うん、本当に。」
明らかに少し前までは寂しそうだったのに、私のちょっとした一言でミハイルが優しく微笑んだ。
「それで、またどうして一人でいるの?今日はミハイルにとって悲しい日じゃないよね?」
ここ3年間でミハイルがこんな風になったのは、両親の命日くらいだった。
私がミハイルの隣にすっと腰を下ろそうとすると、彼は制止してジャケットを脱いで敷いてくれた。
まったく、どうして幼い頃からこういうことだけは一度も抜かりなく覚えてるんだか。
「ただ、ちょっと。」
「お母さんが面白い話をしてくれたんだけど。」
「うん?」
ミハイルが優しく尋ねてきた。
「 魔塔主が言うことって、全然当たってないんだって。」
「……それ、本当なの?」
やっぱり 魔塔主が予言のようなことを言ったんだな。
それで気分を害したんだ。
「うん。お母さんが言ってたよ。どうして? 魔塔主が嫌だったの?」
私の言葉にミハイルは乾いたため息をついた。
「うん、大人が子どもをからかったんだ。」
「本当に?僕がやっつけてあげようか?」
「赤ちゃんの手じゃ小さくて無理そうだけど。」
また私をからかって!
力を込めて叩いたつもりの腕を軽くぺちっと叩いたのに、ミハイルは何も感じなかったような顔をした。
「何か通り過ぎたね。」
「ほんとに、君ってば!」
すぐにでも熱いお仕置きをしてやるとばかりに拳を振り上げると、ミハイルは手をぱっと広げて防いだ。
「ちがうよ、痛い、痛い。」
「ウソっぽいな。」
「ボクは赤ちゃんにはいつも正直だよ、ただ。」
「ただ?」
「ボクが痛いとき、赤ちゃんも痛いと思うとイヤだから。だから叩くのはボクがやる。」
ミハイルは拗ねたような顔で横の方を見つめた。
「……急にお腹すいた。」
「じゃーん、だからママがこれ送ってくれたの!」
私はちょっとはしゃいだ様子で、ミハイルにお弁当バスケットを広げて見せた。
「公爵夫人にお礼を言わなきゃね。ここまで連れてきてくれた赤ちゃんにも感謝だし。」
「じゃあもう“赤ちゃん”って呼ぶのやめてよ。本当に恥ずかしいんだから。」
「赤ちゃんは赤ちゃんでしょう?赤ちゃんって呼ばないでってのは無理があるよ。」
違うってば!
もう8歳だよ。
なんで10歳になってもあの子の口からあれが出てくる気しかしない、そんな不吉な予感がするのはなぜ?
・
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「サシャ、行ってきたの?」
短い食事を終えて降りてくると、お姉さんが待っていた。
お姉さんはミハイルのそばにいた私を勢いよく引っ張ってぎゅっと抱きしめた。
「シャシャが食事の時間にいなくて、お姉さんすごく寂しかったの。シャシャがごはん食べるところを見ないとお腹がすかないのに。」
「お姉ちゃん。」
「うん、お姉ちゃんここにいるよ。どうしたの?ミハイルがいじめた?」
「ううん、いじめられてないよ。ただ朝のお散歩をちょっとしただけ。」
「本当にミハイルがうちのシャシャをすっごく可愛がってるんだよね?」
もちろん、こんなふうに聞かれたら私が答えるしかなかった。
「うん!」
ミハイルの困惑は、あまり気にしなくてもいいんじゃない?
「本当に末っ子令嬢は魅力的ね。降りた途端にすぐラウレンシアのところへ行くなんて。」
当たり前でしょ?
あなたより年上なんだから。
ミハイルのもじもじした様子に、私がもっと甘えてみせると、姉が勝ったかのように満足そうに笑った。
「それにしても、誰がうちのサシャをいじめるって?」
「いじめてないよ。」
「いじめてるじゃない!サシャが気を使ってたじゃない。」
すると姉は堂々とミハイルに向かって、家族用手袋を投げつけた。
「あなた、自分の罪が分かってるのよね?!」
最近姉は古典小説にハマっていた。
主に騎士がたくさん登場するやつ。
ほんとに愛らしい人だ、私の姉は。
「決闘を申し込むわ。ミハイル・レベントス!」







