こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

1話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ
ベアティは困惑した表情で前を見つめた。
「もしかして、私は床に転がっていたの?」
次第に意識が戻る彼女は、近づいてくる死を予感した。
ついに完全な暗闇が訪れ、すべてが終わったと思ったのだが。
「前が……見える?」
それどころか、目の前には彼がいた。
自分を殺した幼なじみ。
「……リテル?これは何?」
「うん?」
彼女が童話の王子様そのものだと思っていた、少年時代のリテルだった。
「僕の名前、知ってたの?」
首をかしげながら天使のような笑顔を見せる少年。
しかし、成長して友人を裏切り者として追いやる冷酷な裏切り者になるとは想像できないほどの顔立ちだった。
「ぼーっとして何やってるの?殿下の前で無礼だよ!」
「あ……!」
鋭い声で叱りつける伯母の姿が浮かんだ。
この日はリテルと初めて出会った日だった。
「まさか……!」
ベアティは慌てて手を下ろした。
「小さい!」
なんと、成長したはずのリテルが幼い少年の姿になっており、自分もまた小さな子供の体になっていた。
「大丈夫だよ。幼い頃に初めて会った時もぎこちなかったから。」
落ち着いた声を自然に思い出させる彼がそこにいた。
「大丈夫って……」
彼はその言葉をよく口にしていた。
「大丈夫だよ。君が何の取り柄もない子リスの召使いであっても構わない。」
自分は高貴なヴァンの召使いでありながらも、ベアティが取るに足らない子リスの召使いであっても、半人前であっても気にしないと言ってくれたリテル。
「僕は君を友達だと思っているから。」
その言葉を信じていた。
しかし、彼女の友達だった彼は、ベアティの夢が叶う直前、彼女の首に毒針を突き立てたのだ。
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ベアティは記憶がある限り、ずっと一人だった。
かつて誰かと一緒にいたのかもしれないが、幼い記憶はあやふやで、あまりに長い時間、一人でいたのだ。
ある数字の中で一番大きな数を選んで、百夜を数え、また百夜を数え、さらに最初から百夜を数えても、誰も来なかった。
結局、子どもの記憶の中には一人だけが残った。
「……彼らはみんな幸せに暮らしたそうです」
何もすることがない部屋の中で、ベアティはひたすら本を読んでいた。
まるでいつか誰かと一緒にいたように、必ずベッドの横に椅子を置いたまま。
ぱたん!
突然、何の前触れもなく部屋の扉が開いた。
「また部屋にこもってるの?」
ベアティの伯母、フィリナだった。
彼女はベアティが部屋の外に出ればうろつくなと叱り、部屋にいれば引きこもるなと叱る人だった。
フィリナは邸宅の中で最も粗末な部屋を見回しながら、満足げに笑った。
「ふん!どこかの野良猫みたいな姉の愛娘には、この部屋でも贅沢なくらい!」
結婚なんて興味がないふりをしながら、実は一番貪欲に夫候補を捕まえようとしていた姉。
そんな姉が、情を込めた手紙や贈り物をよこしていた。
その姉の娘が公女らしく振る舞い、自分に逆らうとは考えるだけでもフィリナの腹の虫が収まらなかった。
「もちろん、そうはさせないわ。」
公爵と結婚したことで自分が勝ったと思い込んでいた姉。
その娘が今や自分の手の内にあるのに、どうするというのか。
冷笑を浮かべながら片方の口角を上げたフィリナが口を開いた。
「立ちなさい。行くところがある。」
「私がですか?」
一度もそんなことを言われたことがなかった伯母の言葉に、ベアティは目をぱちくりさせた。
フィリナは少女の表情にかすかな戸惑いが混じっているのを見て笑った。
「そうよ、あなた。」
フィリナはベアティが読んだ童話に出てくるような美しい花嫁を思わせる、細工の施された手袋を手で軽く叩きながら言った。
「たとえあなたが子供でも、唯一価値があることをするために行くのよ。」
その日、伯母は彼女を王子の元へ連れて行った。
「あなたが公女であるというだけで受け入れてくれるだけで十分感謝しなさい。殿下を未来の夫と考えて、誠実に仕えなさい。」
伯母は慎重で丁寧な口調でまるでささやくように言葉を紡いだ。
「良い妻になりたいなら、紙のように薄くなった心で夫の前で自分を低くしなさい。いつも慎ましく歩き、身のこなしを慎み、決して声を荒げてはいけません。」
まるで戒めを与えるかのような伯母の言葉に、ベアティは婚約者だとされた王子に会う前から怯えて背中が縮こまった。
伯母の話を聞いていると、婚約者ではなく何か恐ろしい怪物に会いに行く前の注意事項のように思えた。
「怖がりだったあなたのお母さんでさえやり遂げたのだから、あなたもできるでしょう。」
伯母は最後に、それが励ましなのか皮肉なのかわからない表情で笑いながら部屋へ連れて行った。
「さあ、挨拶しなさい。礼儀を守り、膝をついて頭を下げなさい。彼は高貴な白鹿の血を引くお方なのだから。」
「はは、そんなにきっちりとする必要はありませんよ。」
しかし、今会ったばかりの王子様は、伯母の言葉とは全く異なる態度だった。
「こんにちは?」
彼は優しく目を細めながら挨拶した。
「アストルム王国の第二王子、リテル・アストルムです。」
爽やかな笑顔が印象的な少年だった。立っているだけでもその明るさは変わらなかった。
「僕と同じ獣人の子どもは初めて見たよ。」
リテルが興味深そうに言った。
彼の視線が向かった先は、彼女の手首に刻まれた「シンナム」だった。
ベアティは無意識に震えていた。
シンナム。
聖爵の後継である獣人だけが持つ、生まれながらに刻まれた星の印。
通常なら誇り高き従人の証であるはずだが、ベアティにとってはそうではなかった。
ベアティは他の従人たちのシンナムとは異なり、自分のそれを手で隠した。
「どうして隠すの?」
「……」
ベアティは、あえて自分の弱みを言いたくなくて、ぎゅっと唇を結んだ。
「大丈夫だよ。それも綺麗だ。」
その様子をじっと見守っていたリテルが、優しく微笑みながら温かい手で彼女の手の上にそっと触れた。
彼女のシンナムについてそう言ってくれた人は初めてだった。
「知ってる?」
柔らかい声でリテルが囁いた。
彼が彼女にこんなにも穏やかな声で話しかけてくれるのは、それだけだった。
「僕は君の味方だよ。」
そうして少年は彼女の唯一の友達になった。
婚約者として決まった王子が良い友達になってくれたことは特に意味を成さず、婚約後、ベアティの世界はさらに狭まった。
「これからは、あなたの教育のために特別に部屋を移します。」
フィリナが言う「教育」とは、本当の授業のようなものではなかった。
彼女は豪華な財産から彼女の教育費として一銭も出さなかった。
代わりに、フィリナは「花嫁教育」という名目で、ベアティの生活全般を制限した。
着心地の良い服、味を楽しむ食事、気を散らす娯楽はすべて禁止された。
「自分のためだけのものを享受しようとする利己的な女性になってはいけません。常に慎ましやかで、謙虚に自分を見つめ直しなさい。」
「厳しさこそが何よりもあなたのためになる」と言いながら、フィリナは自らの苦しみを「教育」と名付けた。
ベアティは以前も外出が特に自由だったわけではなかったが、「別室」に移されてからはさらに極端に制限された。
それでも完全に悪いことばかりではなかった。
埃をかぶった昔の本や、日付が古い新聞の切れ端など、別室の倉庫に積まれた読み物を見つけられたし。
ぽん!
聖爵の祝福のおかげで「子リス」の姿を装い、他人の目を避けてひそかに庭を歩くこともできた。
「何を見ているの?」
友達が一人いたからだ。
たまに訪ねてくるリテルに見せるため、珍しい本を誇らしげに抱え、ベアティは胸を張った。
「商業の本?そんなものを見て何をするつもり?」
「だって、私は将来、商人になって大陸を巡るつもりだから。」
「え?」
リテルは驚いたようだったが、ベアティは堂々としていた。
「私には商人の才能があるの。」
伯母がそう言ってくれた。
「お前なんて他人に見せるのも恥ずかしい子供だから、だから捨てられたんだ。」
そう言いながら、結局自分自身をこう呼んだのだ。
「この恥知らずが!」
何か気に入らないことがあるたびに、怒りの目を向けて叫ぶ言葉だった。
哀れな自分の財産を食い荒らすネズミのような存在が恥を知らないのだと。
そんな言葉をよく耳にして育ったベアティは考えた。
『商人は利益にならない恥知らずとは無縁でないといけないって……』
その考えは読んでいた本の著者が言った言葉だった。
『これって私にぴったり!』
誰も関心を示さない別室の埃まみれの倉庫で、そう感じたのだった。
本を友達としていたベアティは、商人になる夢に心を奪われていた。
遠く、もっと遠くへ行きたかった。
「人目に触れない隅でひっそりと生きるのではなく、大陸を旅して回りたい。」
一度も領地の外に出たことがない彼女にとって、広々とした大陸を旅するという提案は憧れそのものだった。
本の中でしか見たことのない世界を自分の目で見るという想像をするだけで、胸が高鳴った。
「王妃の地位を捨てて……商人の徒弟になりたいなんて。」
初めて友達から聞いた予想外の声に、戸惑ったベアティは急いで口を開いた。
「リテル、あなたもこの結婚を望んだわけじゃないんでしょう?お母さんの言うことだから仕方なく受け入れたって。」
「……ああ、そうだね。僕もそんなことを言ったよね。」
幸いなことに、リテルはすぐにいつもの落ち着いた様子に戻った。
「君に伝えたかったんだ。」
それを聞いて安心したベアティは、少し恥ずかしそうな表情で控えめに言った。
「私たち、友達だから。」
「友達……そうだね。」
唇を引き結ぶリテルの表情は微妙だったが、それに気づかないベアティは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「友達の夢は、私も応援しないとね。」
いつも通り穏やかで優しいその声を、彼女は信じていた。
だから後になって、商人の夢を叶えるために邸宅を抜け出す計画を彼に尋ねた際、何の疑いもなく彼に答えを預けたのだった。
「その計画、僕も手伝うよ。僕は君よりずっとたくさんの情報にアクセスできるから、きっと役に立つと思う。」
「え?でも……君が困るんじゃない?」
「大丈夫だよ。」
リテルは真剣な表情でベアティに言った。
「実は君がずっと心配だったんだ。」
「……私が?」
「ああ。君を助けたかった。」
困惑した表情を浮かべたベアティとは対照的に、リテルはまるで童話の王子のように優しく笑った。
「少しだけ待ってくれる?お姫様。」
「……私はお姫様じゃなくて公女なのに。」
「そうだね、公女様。少し遅れた王子にチャンスをくれない?」
説得力のある友人の頼みに、ついに彼にも計画を共有することにした。
伯母に隠れて集めたわずかな貯金をどこに隠したのか、邸宅の見張りをどうやって避けるのか、出た後どの商団に加わるのか、その全てを。
「……じゃあ、いつ出発するの?」
「シンナムを完全に隠すには、成人にならなきゃいけないから。私の成人式の日。」
計画をいつ実行するのか、とうとうその日が来た。
そしてついに、成人式の前日。
すべての準備が整い、ベアティは出発前の最後の挨拶をするために訪ねてきたリテルと対面した。
「さあ。」
「うん?」
「これが最後だよ。」
両腕を広げて優しく言う彼を見て、ベアティは少し照れながら微笑み、彼を抱きしめた。
彼女は感激に包まれて胸がいっぱいになった。
「元気でね。」
「……。」
しかし、友人は答えなかった。
「リテル、あなたも何か言っ――あっ!」
首元に突如走る不気味な感触に、ベアティは驚愕し急いで彼を突き放した。
『リテルが私の首を噛んだ?』
首の付け根が燃えるように熱く感じた。
「ゴクッ!」
考えをまとめる間もなく、口から鉄のような味が漏れ出した。
『血……?』
突然の異常な身体の感覚にベアティは震えながら友達の名前を呼んだ。
「リテル……?」
揺れる視界の中で見上げた彼は、いつも通り微笑みを浮かべていて、まるで何事もなかったかのようだった。
その姿に一瞬、何かの勘違いだと思った。
『あ、やっぱり何かの誤解で――』
「何ですか、まだ終わっていませんよ。」
しかし、その直後、振り返ったベアティは伯母の声を聞き、驚いて目を見開いた。
『どうして?!』
伯母がここにいるはずはなかった。
リテルが自ら手を打ったと言っていたのに――
「伯母様は今日、邸宅を空けると言っていたはずだけど……?」
「そうだね。確かにそう言ったよ。」
揺れる瞳でリテルを見上げたベアティに、リテルはいつも通り美しい笑顔を浮かべながら答えた。
「嘘だよ。」
「!」
ベアティの瞳が動揺で震えた。
部屋に入ってきた伯母は、いつもとは違う冷ややかな態度で、普段は気にも留めないような様子でリテルのそばに近づいていった。
「とにかく、あなたを直接紹介したのは私よ。私より殿下と仲良くなるのは、よろしくないわね。」
彼女の視線を外さず、伯母は優雅に微笑みながら柔らかな声で皮肉を込めた。
ベアティを支配し、責め続けた伯母と、そんな伯母と同じ冷淡さを帯びた唯一の存在である彼女の友達。
『二人は……最初からグルだったの?』
「リテル!一体いつから私を騙していたの?――ゴホッ、ゴホッ!」
ベアティは怒りに震えながら彼に叫んだが、言葉を最後まで言い切ることができなかった。
次々と口から赤い血が溢れ出したのだ。
赤黒い血は彼女の手を濡らし、腕を伝って滴り落ちる。
息は胸の奥で詰まり、上手く吸うことすらできなくなった。
ガタン!
立つ力を完全に失ったベアティは床に崩れ落ちた。
内臓が全て血となって流れ出すような感覚で、口から新たな赤い血が床に広がっていった。
『苦しい……誰か、助けて……お願い……!』
誰に向かっているのかも分からないまま、彼女は心の中で必死に祈った。
「くくく――」
床で倒れて苦しむベアティの目に、彼女を見下ろす友人の姿が映った。
『リテル?』
まるで彼女を助けるかのように手を伸ばしてきた彼は、
「これを忘れるところだった。」
ベアティのシンナムを力づくで剥ぎ取ろうとした。
「これが一番貴重なものなんだよ、分かる?」
獣人のシンナムは最上級の魔法石よりも高価で希少な価値があるのは知っていたが――
『だからって、この状況で……。』
これまで友人だと信じていた相手が、それを欲しがり、死にゆく彼女の体から奪おうとする様子を目にして、
『リテル、この最低野郎……!』
力が抜けていく体の中で、怒りが沸き上がった。
「僕は君の味方だよ。」
彼の言葉を信じてしまった。
『もし……最初からこんな奴だと分かっていれば!』
そうすれば、毒が混じった甘い言葉に騙されることなんてなかったのに!
奥歯を噛み締めた。
『あの……あの裏切り者に一撃くらわせてやりたいのに!』
悔しかった。
手に力が入らず、目の前で裏切り者を見逃すしかないなんて。
必死に貯めて、一度も使うことなく終わった脱出資金が惜しかった。
『脱出に成功して、自由を手に入れていたら。』
その先に待つ自分の世界は甘美なものだったはずだ。
それに対する未練が最後の最後まで体を震わせた。
次第に視界が狭まっていく。
『遠く、もっと遠くまで行ってみたかった……。』
叶えられなかった夢を思い浮かべながら、ベアティは目を閉じた。
すべてが闇だった。









