こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

10話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑩
-何が、実際に起こったのか?
再び尋ねる公爵の声は威圧的に低く、誰に向けられたものか分からないが、唸るライオンの咆哮が混じったように聞こえた。
ぞくり。
ベアティは首筋に冷や汗が流れるのを感じた。
『先に聞いて追求しているのか、それとも本当に知らなくて尋ねているのか……。』
ごくりと唾を飲み込み、思い切って覚悟を決めた。
『正直に話したら悪く思われるだろうけど、嘘をつくわけにはいかないし……仕方ない。』
小さく拳を握りしめ、ベアティは口を開いた。
「はい。私がリテル第2王子の顔を殴りました。」
-ん?
「え?」
通信機越しの公爵と背後にいる少年の両方から、同時に疑問の声が上がった。
『あれ?まだここまで話が伝わっていないのね。』
周囲の反応を見て、しばらく沈黙していたベアティが、首都で起こった出来事を説明した。
「叔母が結婚のどうのこうのと話をし、その後連れて行かれた席で初めて会った王子に紹介されて……。そして、私はその場で王子の頬を叩きました。」
物語の中の彼女は、紹介されたばかりの王子の頬を叩くという、突拍子もない行動を取った。
『リテル、あの裏切り者が帰る前に私を殺そうとしたとは言えないしね。』
ベアティは混乱した覚悟を持ちながら話を締めくくった。
ところが、家族たちの反応は意外にも穏やかだった。
-ふむ。
「そうだったのか。」
『公爵が何か大きな問題を持ち込んだのかと怒るつもりだったけど?』
微笑みながら話を終えたベアティの背後にいた少年が、流れ落ちるベアティの髪を猫のように素早く掴むと口を開いた。
「よくやった。」
「え?」
思いがけない称賛に、ベアティは戸惑った。
-私に相談もせず、勝手に結婚の話を進めるとは。
「結婚だって?そんな馬鹿げた話をしているんだ。」
不明瞭な通信機から聞こえる声は少年には届かないはずなのに、どうしてか父の言葉がまるでぴったり一致しているように思えた。
想像していた反応とは異なる状況に、ベアティは混乱に陥った。
『ん?』
-私がずいぶん馬鹿げたように見えるんだろう。
公爵はわずかに嘲笑を浮かべつつも、その裏に抑えられた怒りを含んだ声で断言した。
-先に一線を越えたのは王室だ。こちらが気にする必要はない。
「え、距離を置く……?」
「ああ。」
『確かに、距離を置いて逃げるわけではないな。』
『何が起きているのか分かったからには、この戦争が終わり次第、王室に抗議文を送るべきだろう。』
彼の抗議を受け入れないわけにはいかないと見えつつも、怒る気配もなく冷静に公爵は言葉を続けた。
-だから、君はただ戻ればいい。
「え……?」
突然自分に向けられた指示に、ベアティは驚いて口を開けた。
-ここは戦場だ。
「あ、分かっています!」
山を越えれば、絶え間なく戦闘が続く国境地帯が目前にある。
それが北部だった。
王国軍の兵站機能まで担い、戦場がそのまま最前線として機能する場所。
軽い気持ちでやって来たわけではないことを示すため、彼女は弁明するように語った。
「その……戦争が長引いているじゃないですか?それで私が考えたのは—」
-やめろ。
「いや、むしろ、長引く戦争を終わらせるチャンスを掴むための助けになるかと考えて—」
ベアティが慌てて言おうとしたが、公爵の簡潔な声に遮られた。
-そのことについて、お前が考える必要はない。
軍で命令を下す司令官のように、反論を許さない厳格な声だった。
まるで印を押すように、公爵はきっぱりと言い切った。
-ここはお前がいるべき場所じゃない。
その言葉はベアティの胸に深く突き刺さった。
無理に足を踏みとどめてはいたが、元々この場所には自分の居場所がないと言われたように感じた。
『分かっていたけど……。』
ふう、と深いため息をついた。
抑えきれない感情に反応して跳び出した動物の尾が、しゅっと下に降りた。
その様子を見た少年の表情は何とも言えない困惑を浮かべていた。
彼は身をかがめた。
「ふん。」
不機嫌そうに歩み寄った少年は、手を伸ばした。
「?!」
ベアティは驚いて、少年が手から奪い取った物を見つめた。
それは、彼女が持っていた小物だった。
「その子に何を言ったんですか?」
—すぐに戻るようにと言っただけだ。
「首都に?」
—そうだ。北部では体が……。
通信で繋がっているのは少年だけではないらしいと察した公爵は言葉を切った。
「ふん。」
不満げな表情を浮かべたベアティの顔を見て、少年は疑問の表情を浮かべながら聞いた。
「君、行きたくないの?」
「……!」
少年はベアティの目を真っ直ぐに見つめて尋ねた。
その目はまるで、彼女の言葉を重要だと考えているかのようだった。
「……はい。」
「そうか。」
少年の行動に、ベアティは胸の内に不思議な動揺を覚えた。
たった一言の返答で十分だというように、小物を握りしめた少年は通信機に向かって口を開いた。
「その通りだそうです。」
—……それは関係ない。
「どうして?」
—いつ最前線になるかわからない場所だ。
「戦場で奴らを全部追い払えばいいんでしょう? そんな場所で危険なことが何かあるんですか?」
—安易な考えがどれほど危険か、わかっているのか?
「一度も危険だと思ったことがないので、わかりませんけど。」
後継者が家主に対して見せる態度としては、かなり不遜なものだったが、公爵はそんな少年の言葉に慣れている様子で受け入れた。
「私がここにいるんだから、くだらないことで心配しないで。」
—……これ以上君のわがままに付き合う時間はない。
公爵は少年を無視して、ベアティに向かって言葉を投げかけた。
—聞いていないわけではない。
「……」
—繰り返しはない。首都へ戻れ。
公爵の言葉を耳にした少年は、不満げに声を上げた。
「え、嫌がっているのにどうしてですか。」
短い沈黙の間、少年が作った緊張感にベアティは少し驚いた。
『お兄さんが私の味方をしてくれると思っていたのに。』
ベアティは、少年が短い間彼女を真剣に守ろうとしたことに、驚きと感動を覚えた。
きらきらと輝く瞳で自分を見上げるベアティをじっと見つめた少年は、何か考えをめぐらせたのか、再び口を開いた。
「お父様。」
-……。
「今、彼女がどんな姿をしているか見ていませんか?」
無視するように通信機の向こう側から何の返答もなかったが、少年は公爵がベアティのことに言及する自分の言葉に耳を傾けていると考えた。
「水飲み場に立った姿も見たけど、あの無様な様子は尾を巻くにも値しないよ。」
「……?」
ベアティは驚いた目で少年を見つめた。
胸の奥まで湧き上がっていた感動がまた少し薄れた。
「人間の姿って、腕を軽く叩いたら砕けそうな程度?」
ベアティを嘲笑う少年の言葉は容赦なく続けられた。
「あ、それに向かう途中で餓えたのか、顔には一片の肉もなかったね。」
『私の味方をしてくれている……そうだよね?』
ただのからかいじゃないの?
ベアティは疑わしそうな目で少年を見上げた。
「みっともないね。」
ピクリ。
耳を弾くようなその言葉に、ベアティの耳が赤く染まった。
そんな彼女の反応に気づかない少年は、むしろ楽しそうに笑みを浮かべ、あたかも結論が出たかのような顔で続けた。
「このまま送り返したら、首都に戻る途中で使い物にならなくなるんじゃない?」
しばらく沈黙していた公爵が重い口を開いた。
-確かに。
ちくり。
これまでとは違う言葉に、ベアティは思わず耳を傾けた。
-私が戻るまで、そこにいろ。
少年は自分の袖を下に軽く掴んで引き寄せる感覚に気づき、視線を下ろした。
「ありがとう。」
ほのかに顔を赤らめた妹の背中の尻尾がふわりと揺れているのが見えた。
恥ずかしそうに視線をそらしながら発せられた感謝の言葉に、少年はふと笑みを浮かべた。
「ありがとう?」
「はい? ええ……。」
「じゃあ、尻尾を触らせてくれる?」
冷静さを求める少年の態度に、ベアティの瞳がわずかに揺れた。
『……まあ、いいけど。本当に感謝してるんだから。』
もし力加減を間違えて尻尾を強く押してしまったらどうしよう。
警戒心のこもった視線を向けつつも、ベアティは言葉とは裏腹に、慎重に手を伸ばして尻尾に触れた。
少年の手を避けることはなかった。
トク。
豊かにふくらんだ動物の尻尾を初めて触れた少年の顔には、妙な満足感が広がった。
その時、
「た、大変です!」
バタバタと慌ただしくドアを開けて駆け込んできた兵士が、青ざめた表情で叫んだ。
「物資を集めて保管していた倉庫に火が……! くっ、前線に送る予定だった物資が全て燃えてしまっています!」
妹を見つめて一瞬ほころんでいた少年の表情は、瞬時に引き締まった。








