こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

100話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 始まりと終わり
王城の宴会場。
社交シーズンの始まりと終わりを告げるこの豪華なホールは、本来であれば恋愛談義や愉快な噂話に包まれた華やかな空間であるべきだった。
だが、今夜の人々の表情に浮かぶのは、社交シーズンのロマンスに対する興味ではなく、暗く沈んだ影を帯びた、深刻な話題への関心だった。
「聞きましたか? 例の噂。」
「聞かないわけがない。広範囲に、しかもかなり詳細に広まっているらしい。」
「具体的な地名まで出回っているとなると……ただの噂では済まされないかもしれませんね。」
宴会とはそぐわない、静まり返った雰囲気だった。
王城の宴会は、社交シーズンの始まりと終わりを告げる行事。
招待状を受け取った中央社交界の人物なら、必ず出席すべき場であり、むしろ欠席するほうが目立つような場だ。
そう考えていた者たちの顔は、決して明るくはなかった。
貴族たちは扇で口元を覆いながら、ひそひそと流れる噂について語り合っていた。
「もし、その怪しい噂が本当だとしたら…。」
「まさか本当ですか?いくらなんでも、陛下が王国の民にそんな…。」
「…ゴホン!」
思わず声を大きくした者に、隣に座る人物が目線で制止を促した。
王座の上に座る国王をちらりと見やりながら、慎重にするよう注意を促す視線だった。
その視線は、いつものように最も注目を集める存在へと向けられていた――。
宴会場に入った国王は、まるで何事もないかのように宴を楽しんでいた。
側近が何か愚かなことを言っているのを聞くと、彼はくつくつと笑い、それを受けて噂を交わしていた貴族たちは、知らず知らずのうちに嫌悪の表情を浮かべた。
「もし本当にそんなことをしておいて、そんなふうに笑っているのだとしたら、陛下のご心情は本当に犯罪者と何ら変わりがないと認めざるを得ませんね。」
誰かが皮肉めいた言葉を口にすると、それをきっかけに貴族たちは次々と不満を漏らし始めた。
「噂とはいえ、子どもにまでそんな話が届くほど広まっているというのに、それを放置するなど、どういう了見なのです?」
「領民たちはどれほど苦しんできたことか。王宮の役人たちがどれほど多く命を落としたか、その実態を見てきた者なら、何も感じないわけがないでしょう?」
「犠牲は収まったとはいえ、このような話が出るのも当然ではありませんか。」
「でも、もし本当にその噂が事実なら……。」
国王が敵国と手を組み、王国の民を売り渡したという噂。
口に出さなくても、目線を交わしながら同じ考えを共有している人々の中で、誰かが慎重に口を開いた。
「もしそれが事実なら、どうするつもりですか?」
重い質問だった。
民を守るべき王が自らの手で彼らを売り渡したのが事実なら?
間違ったことだった。
それも、到底許されない間違いだ。
だが、それでも――。
「……どうすることもできませんよ。」
「いや、このまま放っておくわけにはいかないでしょう?」
「では、何ができますか?」
「え? いや……つまり、間違ったことだと……。」
すべてを聞いていなくても、予想されたような言葉を最後に、分別のある貴族の一人が口を開いた。
「間違いだったと言えば、陛下はお聞きになりますか?」
「……」
「いいえ、最初から間違いだったと知らなかったとでも?」
「……」
現実を突きつける彼の言葉に、人々は口をつぐんだ。
『とはいえ、大戦初期に反逆の意を示した貴族が最初に姿を消したのだった。』
『大飢饉のときも、どうか施策をと嘆願した役人がどれだけいた?今ではみんな追放されたが……。』
王宮で正しいことを言ったために消えた人々を思い出すと、そこに残された者たちの表情には罪悪感と挫折感が色濃く滲んでいた。
「いずれにせよ、この国の主は陛下です。」
「……」
「主君の過ちを誰が裁けるというのですか?」
冷ややかに言い放たれたその言葉に、誰も何も言い返せなかった。
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沈黙に包まれた人々の顔を見渡しながら、国王の口元が不敵に歪んだ。
『ふん。取るに足らぬ者どもが、何を騒ぎ立てるというのか。』
嘲るような笑みを浮かべ、国王が口を開いた。
「この国の主は誰か?」
「陛下?」
「いや、それとも王妃か?」
突然、話題とはまったく関係のない言葉を投げかけた国王に、第二王妃が思わず笑ってしまった。
そして、上機嫌そうな国王の顔を伺うように、美しい微笑みを浮かべて相槌を打った。
「まあ、どうして急にそんな当たり前のことをおっしゃるのです?」
「はははっ!そうだろう、当然だ!」
『やはり、第二王妃は取り入るのが上手いな。』
国王は口元に浮かぶ満足げな笑みを隠さず、ゆっくりと口角を上げた。
『いくら外で騒ごうとも、私にとっては耳をかすめるそよ風にも及ばぬ。』
確かに、噂は耳障りだった。
遠くの席に座る臣民たちや貴族ですら、不安げな視線を送ってくるのは不快だった。
だが、それがどうした。
『この国の主は私だ!誰が私の言葉を遮るというのか!』
そうだ、最初から気にする価値もないことだったのだ。
耳障りな雑音にすぎぬ、無視すればよい。
『法皇が約束したあれさえ手に入れば……!』
しかし、その未来を思い描きながら口角を上げていた国王の笑みは、長くは続かなかった。
「えっ? な、何?」
宴会場の門で、貴族たちの名前を告げる門番が大きな声で宣言した。
「アスラン公爵家のレオンハルト・エル・アスラン閣下、ご到着です!」
巨躯の公爵が宴会場に足を踏み入れた。
一瞬でその場の視線が彼に集まった。
門番はさらに声を張り上げた。
「カリトス・エル・アスラン卿、ベアティ・エル・アスラン嬢、ご到着です!」
伯父と共に足を踏み入れたベアティは、宴会場の中を一度ぐるりと見渡した。
『ふん、雰囲気は大体把握できたわね。』
あちこちで小規模な集まりを作っている貴族たちを見れば、明らかに話題にしているのは危険な内容であることが察せられた。
薄暗い光に包まれた彼らの表情を見て、そのテーマも容易に推測できた。
『噂の工作がここまで成功しているみたいね。さて、国王は……相変わらずかしら。』
宴の席。
王族のために用意された豪華な食卓から目をそらしたベアティは、不愉快そうな表情で飽き飽きした様子の国王を見つめ、小さく舌打ちをした。
一方、望まぬまま宴に参加した客のほうを眺めた国王の眉間には険しい皺が寄っていた。
風が頬をかすめるたびにぴくぴくと動く眉間など気にすることもなく、国王は不機嫌そうに酒の杯を傾けながら心の中で毒づいた。
『忌々しいアスランめ!さっさと出て行けばいいものを、なぜ私の宴に……。』
客席の隅に馬車を待つ姿も見当たらず、宴の終わりを待つ様子すら見せない。
内心、今回は宴を適当に済ませて帰るつもりでいた国王だったが、予想外の出来事に水を差された形となった。









