こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

108話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 成長②
手の上で安心したように身を丸めていた娘を見ながら、公爵はふと思った。
これ以上に愛おしいことが、この世にあるだろうか?
いや、やはりそんなことはこの世に存在しない、と確信に近い思いがよぎった。
「!」
びくりとした。
娘の小さなリスの手が、公爵の手のひらを撫でてきたのだ。
そして、そっと頬をこすりつけた。
まるで最初にその小さなぬくもりが指先に触れたときのように。
その瞬間、公爵の目に映ったのは──今や手のひらの半分ほどの大きさになったリスの上に、かつては手のひらにも満たなかった小さな毛玉が、ずっしりと乗っている姿だった。
「ドクン」と、心臓が強く鳴った。
「……」
いつも通り木の枝のように、お父さんの手のひらを使っていたベアティは、ふいに静まり返った周囲に違和感を覚え、耳をぴくぴくと動かした。
何か起こったのかと思って、ベアティの目が周囲を見回す。
今まで見たことのない光景だった。
「チュッ?」
『パパ?』
目をまん丸くしたベアティの目に、いつもと違うお父さんの姿が映り込んだ。
鋭く細い目元。
それに調和したしっかりとした顔立ち。
戦場でも常に目を引いた、日差しのように輝く髪の合間から見える大きな耳……。
『ライオンの耳?』
北部の山脈で宣誓式をしたときに見た、大きなライオンの耳が公爵に見えたのだ。
『半獣化?なんで急に?』
普通は強い感情の動きがあるときに現れるのが半獣化だけど、お父さんが今そんなことになる理由はないはずなのに?
不思議に思ったリスはそっと目を細めた。
そして再びしっぽを持ち上げたとき。
『やっぱり私の見間違いだったのね。』
公爵はいつものように、冷静で落ち着いた家長の顔そのままの、毅然とした表情を浮かべていた。
感情的な揺れを見せるような気配は、微塵も感じられない。
『やっぱり、うちのパパはいつだってかっこいい!』
他人の目には厳格に見えるかもしれないが、実はとても優しいお父さんがどれほど素敵な人なのか、ベアティはちゃんと知っている。
そんな誇りを胸に、ベアティは得意げに鼻をぴくぴくさせた。
過去の愛しさに押しつぶされそうな感情を、長年押し込めていた公爵が、数年ぶりに表情を崩したことに、本人はまったく気づいていなかった。
それに対して、お父さんに対してまったく感情を持たないカリトスは、冷ややかな目で公爵を見ていた。
『はぁ……妹よ。』
どれだけチビちゃんが目をきらきらさせていても可愛いが、耳までピクピク動かしてはしゃぐその姿は、さすがに隠しきれない。
『あんなふうにあからさまに可愛がってたら、後でリスに「甘やかしすぎ」って言われて気まずくなるんじゃない?』
すでに過去に多くの失敗をしてきた犯人として、カリトスは自分がもうそんなミスはしないだろうと内心で自分を納得させた。
あえて口に出さなかったのは、この特別な秘訣を父親にまで知られてしまって、リスへの関心を奪われないようにするためだった。
「リス、もうそれくらいで十分測れたんじゃない?」
「チュッ?」
「いつまでそこにいるつもりだ、さあ。」
最初から父親だけがリスの姿を独占していたのが気に食わなかったカリトスが手を差し出した。
一瞬戸惑うように尻尾をパタパタさせて兄を見ていたベアティは、気づかないふりをしていたカリトスの目が真っ直ぐ光っているのを発見する。
「ふぅー。」
『はぁ。』
ひと息つきながら、ぷるぷるとお兄ちゃんの手に身を寄せた。
ぽんっ!
そして手のひらの上をちょこちょこと跳ねまわる小さな温もりに、心の準備ができていなかったカリトスの前に、しっぽが飛び出した。
今までお父さんをからかっていたカリトスは、自分でも制御できなかった不安のせいで、にじみ出た感情の跡を知らないふりをして、慌てて隠した。
・
・
・
家族と過ごしていたアスラン家の穏やかな午後は、ノックの音で中断された。
「お嬢様、こちらにいらっしゃるというお話を伺いまして。」
「シャクランテ。」
すでに人間の姿に戻ったベアティが答えた。
執務室の中に入ってきたその姿を確認して、彼女はほっとした。
「調査結果が出たの?」
「はい。お嬢様がおっしゃった通り『神の手』系列のコネを使って調べてみたところ、大河の経路を追跡できました。」
「それは良かった。」
以前、シャクランテに調査を依頼した件だ。
それはまさに、追い詰めて捕まえた神聖帝国の使節団とは別に活動している新しい首謀者を追跡するためのもの。
表に出ている商団の情報網だけでは知ることが難しくても、各地で取引を望む『神の手』の名義を使えば、裏の情報を得ることができた。
しかし、ベアティの指示通りに成果を出したというシャクランテの表情は、あまり明るくなかった。
まだ何か話すべきことがあると察したベアティは、素早く尋ねた。
「捕まえたの?」
「いいえ、それが問題でして……」
やはり否定的な返答が返ってきた。
この件で悩んでいたのか、少し陰りのある目でシャクランテは報告を続けた。
「“神の手”の糸を使って祭壇から外れた異質な人物を追跡することはできました。」
やっとの思いで尻尾を捕らえた新たな“所有者”を追い詰めたが、その直後に逃げられてしまったのだ。
しかも、こうした追跡と捕獲の失敗が、何度も繰り返されていたことも分かった。
「この者、“新しい”所有者という特徴を利用して、少しでも危険を感じればすぐに空へ飛び去ってしまうのです。」
何度も逃げられた記憶が蘇るように、シャクランテの表情にひびが入った。
「捕まえたの?」
「私たちが持っている道具はすべて使ってみましたが――あの国からどんな魔道具を持ってきたのか……すべて持ち去られました。」
「ふむ……」
「何人もの手で捕らえようとしても、相手は使い手なので、普通の騎士たちでは太刀打ちできませんでした。」
困った表情を浮かべたシャクランテが慎重に口を開いた。
「我々の側で処理できず、お恥ずかしい限りですが……標的確保のために、騎士団長様を派遣していただけませんでしょうか?」
「お兄様を?」
新たな使い手を捕らえるには同じ使い手でなければ難しいだろうと支援を求めるシャクランテの言葉に、ベアティの視線はカリトスに向けられた。
いつものようにベアティ以外の事には冷淡な表情をしていたカリトスも、公爵へと視線を移した。
「父上が行かれてもいいのでは?」
「パパは首都にいるよ。公開裁判を提起した名義が“アスラン公爵”だもん。」
「……」
父に任せようと口を開きかけたカリトスは、ベアティの言葉によってすぐに遮られ、表情を変えないままだった。
だが、その兄の無表情が、騎士団長として任務を果たす際の顔だと知っているベアティは、不思議そうに尋ねた。
「お兄ちゃん、行ってくれるよね?」
「……ちっ。」
あの黒い瞳で見つめられて、誰も拒否できないことを知っているのは間違いなかった。
このあまりにもたくましいリス。
小さくため息をついたカリトスは、望むようにリスのふっくらした頬をやさしく引っぱりながら、その場を後にした。








