こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

109話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 悪夢
「ふあぁ〜。」
いつもにぎやかな家族たちと時間を過ごしたからだろうか。
今日はなぜか眠気がすっと押し寄せてくるような気分だった。
「お嬢様、そろそろ明かりを消してもよろしいでしょうか?」
「うん、ありがとう。」
「いい夢をご覧ください。」
少しだけ口を開けてあくびをした少女をいとおしそうに見下ろした使用人が、明かりを消して部屋を出て行った。
カチャリ。
扉が閉まる音が聞こえると、枕元に頭を乗せて少しだけ目を閉じていたベアティの視線が窓の方へ向いた。
『ああ、今日だったか。』
夜空に馴染み深く瞬く星を見た黒い瞳が、ゆっくりと閉じられた。
そして、彼女が再び目を開けたとき――
「……あっ!」
夢の中では誰にも聞こえないと分かっていても、ベアティは目の前の光景に思わず声を上げてしまった。
「そうか、これは幻なんだね。」
「はい。」
最近見た幻とまったく同じような光景だった。
王宮の奥深くと思われる部屋で、国王と神聖帝国の新たな“所有者”が向き合って立っていた。
『これは……』
夢を通して見せられる聖座の記憶は、ベアティが望むように場所や時間帯を選べるものではなかった。
それでも少しずつ成長してきたベアティの時間に合わせて、転生前の出来事を見せてくれていたが、それは主に大まかな流れや家門に役立つ情報に関わる記憶だった。
吸血鬼が登場する王宮を、聖座の記憶を通して見たのは今回が初めてだった。
ベアティは、この場所で聖座が伝えようとしている、何か重要なことを知るべきなのではないかと直感した。
「まだ何も話さないのね。」
「………」
「じっとしていて、無口なのがそこの主人の好みなら、まあ。私がとやかく言うことじゃないわ。」
自分の好みに合う態度ではなかったものの、新たな使徒に面会を許した国王の表情には、特に不機嫌さは見られなかった。
お互いに言葉を交わさないことが不自然ではない雰囲気の中で、ベアティはこの場面の意味を推測してみた。
『もしかして、帰還前にも国王が敵国と手を組んでいたことを見せようとしているの?』
今回、公開裁判まで要求した国王と敵国の取引は、もしかすると帰還前にも行われていたのかもしれない。
『だとすれば……今は大戦争が終結したタイミング?』
常識的に考えれば、戦争中の国の王が誰かと手を結ぶことなどあり得ない。
『私は大戦がどう終わるのか見届けることなく過去に戻ってきたけれど、始祖様はその後の出来事を全部ご存知なんだろうな。』
たとえ自分は回帰前、大戦の途中で命を落としたとしても、その後の話をリス聖座が記憶を通じて見せようとしているのかもしれない。
ベアティはそう推測した。
しかし、そんな常識的な仮定に基づいたベアティの思考は、すぐに打ち砕かれた。
「そうだ。この奇跡も気に入った。使い道のなかった岩山を鉱山に変える力とはな!」
「“気に入った”と伝えてまいります。」
「そうだそうだ。ははは!前回のラペンデル平野の奇跡の時よりも、はるかに気に入った!」
『まさか!“ラペンデル平野の奇跡”?それって、大戦中の出来事じゃない!?』
大戦争の初期から兵士たちとともにあった若き英雄。
第一王子の突然の死によって王国が一時混乱に陥った時のことで、鮮明に記憶に残っている。
『揺らいでいた民心を、王宮から奇跡的に脱出したラペンデル領地の方針でなだめることができた。』
王宮で実際に配給活動や扉の防衛活動を行っていたのだが、王宮寄りの新聞では「慈悲深い国王陛下の奇跡のような恩恵」として大々的に報じられた。
当時、リスの姿で使用人たちの話をこっそり聞いていたベアティの考えでは、それは民心が本当に爆発する前に急いで手を打った未熟な処置に見えたが——
『でも今、戦争中の敵国の使徒を王宮に入れたってこと?』
ベアティはぎこちなく薄ら笑いを浮かべた国王の顔を振り返った。
『いったい国王は何を考えているの?』
あの親しげな態度は何なの?
敵国の人間に向ける表情とは思えなかった。
「ともかく。法皇との取引を受け入れたことは、王宮の内部記録には極秘事項として記録されるでしょう。法皇聖下もご満足なさっています。」
「そうか。お互いに非常に満足のいく取引だったということか。」
『!』
親しげに会話を交わす二人の姿を見て、ベアティは本能的に、カリトスから教わったありったけの罵り言葉を口にしそうになった。
聖座の記憶の中の人物たちに、自分の声が届かないと分かってはいても、思わずもどかしく感じた。
ベアティは「ふん」と鼻を鳴らし、王のそばへ飛んでいき、その頭にこっそり拳を振り下ろした。
『このイカれた王様!大戦を引き起こした連中と、大戦が終わる前から手を組むなんて!?』
期待していた人物に対しても、そこからさらに失望できるのだと知らせてくれた驚きの光景だった。
そんなふうにベアティが憤りを覚えている間も、国王と新たな使徒の会話は続いていた。
「その奇跡を起こす魔道具は“神の贈り物”と呼ばれている。」
「聖物です。」
「ああ、そうか。聖物。」
新しい使徒は信仰心があるかのように真面目な表情で訂正したが、国王の顔にはあまり関心がなさそうな様子が見えた。
『聖物?』
ベアティは以前、聖座の記録で見た記憶を思い出し、かつて空中を飛び回っていた鷹がくわえていたあの品物を思い浮かべた。
四角形の古代神聖文字の文様が刻まれていたもの。
「それを使うのにかかる代価も非常に効率的で合理的なんだよ。」
「代価ではなく、神に捧げる供物です。」
「供物が何であろうと。」
何度も言い返されて苛立ちを覚えた国王は、額にしわを寄せたが、新しい“所有者”は最初から最後まで同じ表情を崩さず、それはあり得ないとでも言うように言った。
「真の神の聖域で、神が信徒に遺された聖物を使用するには、その奇跡をどれほど強く望んでいるかという誠意を示すべきです。」
「……ああ、そうか。神が望むその誠意って、命を差し出すことなのか?」
「命を捧げることは、それほど誠実な祈りだということです。」
国王の言葉には皮肉がこもっていたが、それに対する新たな“所有者”の返答には、まったく揺るぎがなかった。
「あるいは、偽りの神の信徒を排除することも、唯一真実の神であるあのお方を喜ばせる行為でしょう。」
『偽りの神の信徒?』
新たな使徒の言葉に何かおかしな違和感を感じたベアティの眉が、偽りを目にした時のようにピクリと上がった。
「ふん!高貴さの象徴だと?聖座の後継だと?神聖をそんなふうに利用するのは、お前たちだけだ。」
「小聖座という存在が偽の神であることを明らかにするだけです。決して陛下に不敬の意図はありません。」
「はっ!」
国王は一瞬不快な表情を浮かべ、新たな使徒を見やった。
「ちっ!仕事の話をしろ。」
「はい。」
「次の奇跡に向けて準備を進める必要があるだろう?」
「はい。こちらは聖座様より預かった候補者名簿です。」
「ふむ。見せよ。」
新たな使徒は懐から取り出した文書を国王に差し出した。
そうだったのか。
王が視線を落とした先をベアティが追ってみると、それは数か所が示された地図だった。
アスラン家で戦闘訓練をしっかり受けていたベアティは、一目で地図に示された地域がどこかを把握する。
『あそこって……全部、大戦争地域の前線じゃない!?』
王がしばらく地図を見ていると、新たな“所有者”が口を開いた。
「我々が望むのは二千ほどです。」
「ふむ……」
「新たな候補者でも、ご希望の範囲でも、おっしゃっていただければ、聖下にお伝えします。」
「いや、候補者はもう十分だ。家が一度“奇跡”を使ったこともあるし……もう一度最初から蓄えるとすれば、三千は必要になるな。」
『二千?三千?それって何の数のことを言ってるの!?』








