こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

7話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑦
幼い頃の記憶を思い出したベアティの顔から、一瞬で血の気が引いていった。
『違う。』
それでも彼女は、唇を引き締めて顎を上げ、強い表情を浮かべた。
『私は『片方だけ』じゃない。』
強い意志が宿る黒い瞳が、はっきりと輝いた。
『私には名前がある。』
ベアティ。
その名前は帰郷前、彼女が10歳になるかならない頃に与えられたものだった。
遅ればせながら思いついたかのように、本家から送られてきた一枚の紙に記された名前。
それでも嬉しかった。
遅れてでも与えられた名前は、父親が自分を忘れていなかった証だと思えたから。
『まあ……それが最初で最後だったけど。』
彼女の名前を記して送ったという話を最後に、それ以降、父親からの連絡が来ることは一切なかった。
徹底的に無関心な父だったから、ベアティという名前もおそらく適当に思いついて送りつけた、数文字に過ぎなかっただろう。
それでも。
『自分の手に入れたもの。』
手に握るものがほとんどなかった子供にとって、それはとても大切な『自分のもの』だった。
『自分のものは、自分で守る。』
ぎゅっと、家から与えられた豊かなワンピースの裾を掴みしめて、ベアティは口を開いた。
「あります。名前。」
少し震えた声だったが、それでも彼女は震えさえ振り払うように、はっきりと少年を見据えて話し続けた。
「ベアティ。」
「なんだって?」
振り返った少年の表情は、普通の子供なら怯えて泣き出してしまいそうなほど冷たい無表情だった。
理解できないというようにわずかに寄った眉間の隙間には、冷たい視線が潜んでいるようにも見えた。
しかし、ベアティはひるむどころか、さらに肩を張り、しっかりと自分の名前を繰り返した。
「ベアティ、それが私の名前です。」
その名前を与えた人がそれをどれほど軽んじたかは気にしない。
与えられたものを自分が大切だと思うなら、それは価値のあるものだ。
『私にとって大切なものは、私が守らなきゃ。』
持っているものが少ない分、なおさら大切にしなければならない!
そんな気持ちで、ベアティは少年の冷たい圧力に屈せず、背筋をぴんと伸ばした。
「……」
そんな彼女を、少年は内心を読み取れない目で見下ろしていた。
『滑稽……そう思っているのかな?』
獅子の黄金の目が何を映しているのか。
何も映していない無関心なのか、それともほんの少しの興味が隠れているのか分からないその目に。
じっと見つめられ、ベアティは自分でも知らぬ間に唾を飲み込んだ。
「『ベアティ』なら……祝福という意味が込められていますね。」
そのとき、柔らかな声で割って入ったのは、執事長のヨハンナだった。
彼女は細めた目元で優しく微笑みながら言った。
「素敵な名前ですね、ベアティお嬢様。」
すぐさま名前で呼んでくれたヨハンナの称賛に、ベアティの顔がぱっと明るくなった。
「ご自身でお付けになったのですか? 聡明でいらっしゃいますね。」
「いえ、いただいた名前です。」
「……そうですか。」
ベアティが控えめに返答すると、ヨハンナは少し驚いた表情を見せたが、それをすぐに隠した。
『どなたかが慎重にお付けになったのでしょうね。』
ヨハンナは穏やかな表情を保ちながら、そう考えた。
「ベアティ?」
次に彼女の名前を口にしたのは――
「……!」
なんと、少年の口から発せられた声だった。
『お兄様……』
頭に浮かんだのは、まだ口には出せない呼び名だった。
胸の奥がチクチクと疼くのを感じながら、ベアティは無意識に指先をいじっていた。
「ふん。」
赤く染まったベアティの頬を見た少年は、一度視線を投げかけてから再び口を開いた。
「ちび。」
「えっ?」
「小さいじゃん。」
突然の指摘に、ベアティは驚いて目を大きく見開いた。
「ちびのベアティ。」
名前までくっつけて呼ばれ、少年が満足そうに少し口元を緩めた。
そして、また言葉を続けた。
「子リス。」
「えっ?」
「リスより小さいからさ。」
「……。」
驚いたベアティは唖然とした。
「落ち着いた姿……私の尻尾の毛だけ抜きたいの? 見てみたいわ。」
少年がライオンの尻尾の先に付いた毛束を引き抜いたとは、ベアティには思いもよらなかった。
「妙に楽しんでいる様子ね。」
しかし、何かが昆虫と似たような意味だと感じた。
「尻尾の毛ベアティ。」
ブウ。
ベアティの両方の頬がぷくっと膨れた。
「誰か落ち着かせてくれると思っていたのに、頬っぺたをつねるなんて。」
面白い。
妹の膨れた頬を愉快そうな表情で見つめていた少年が、再び口を開いた。
「尻尾の毛だけの小虫だ。」
「……。」
「一家の癒し役ベアティ。」
「コホン!」
言い争いがエスカレートしそうになるのを止めるために、ヨハンナが大きく咳払いして割り込んだ。
『妹と仲良くなれと言ったのに。』
一緒に仲良く過ごすどころか、すでに幼い妹をからかうことを楽しんでいる意地悪なお兄様だ。
『年長者としての品格を保ってくださいませ、殿下!』
ヨハンナは殿下の行き過ぎた行動に失望した視線を送りつつも、柔らかな笑みを浮かべて振り返り、ベアティに話しかけた。
「ベアティお嬢様。」
そして微笑みながら、口を開いた。
「さきほど殿下がお見えになる前に、大公について尋ねられていましたね?」
「大公?」
無意識に自然と横に傾いている子どもの動きを見て、ヨハンナは胸の中で微笑みながら言った。
「交渉ごと……いや、提案の話をする重要な方に会いたいとおっしゃっていましたよね?」
「はい!そうです!」
ベアティは力強く頭を縦に振った。
「大公様はご主人様が不在のとき、公爵様の代わりに仕事を処理する方です。お嬢様が会いたいと思われるなら、今すぐお呼びしますか?」
「呼んで……大丈夫ですか?」
「もちろんです。」
「じゃあ、遠慮なく、お願いします!」
『フフ、そんな言葉をどこで覚えたのかしら。』
驚いたことに交渉の場で使われる「大人の単語」を自然に覚えたようなその言葉を聞き、ヨハンナは「遠慮なく」といった難しい言葉を使いこなすお嬢様を見て微笑まずにはいられなかった。
「では、お二人で楽しくお話しください。」
『え?』
「ふむ?」
兄妹はあきらかに不満そうな様子で互いを睨み合った。
・
・
・
応接室の扉を閉めて出てきたヨハンナは、家主である大公がいる執務室の方向へ向きを変えた。
足早だが慌ただしさを感じさせず、使用人としての落ち着きを保った歩調で廊下を進むヨハンナの表情は、どこか憂いを帯びていた。
「お嬢様がすでに名前を名乗られるとは……。」
厳しい自然環境が広がる北部には、独特な風習が残る地域がいくつか存在し、そこでミシンと呼ばれる――噂話が広がっていた。
北部では、子供に関する多くの信仰が非常に強く、特に名前に対するものが顕著だった。
「子供の運命に合わない名前は、子供をねじれさせる」という北部の俗信。
子供の性格がひねくれて育ったり、体が実際にねじれるような事故に遭うなど、子供に合わない名前はそういった不幸を招くというものだった。
『絶対にそんなことはさせられない!』
そうした心配と愛情が入り混じった心情から、北部の人々は通常、子供の成長の傾向を一年ほど観察した後に、名前を付けることが多かった。
特に、遅い年齢で授かった大事な子供ほど、親たちはさらに慎重になり、運命に合う名前を考えるため、命名が遅れることがよくあった。
『それでもお嬢様が8歳を過ぎるまで名前が付けられなかったのは、かなりひどい話だわ。』
主人も本当にとんでもない方だと思った。
ヨハンナはゆっくりとスープをかき混ぜながら考えた。
『それにしても、お嬢様に名前を付けられるほどの縁のある人だなんて……誰なのかしら? もしかして首都タウンハウスの方のご主人様かしら?』
疑問を抱きつつスープをかき混ぜるヨハンナの動きが一瞬止まった。
「ご主人様も随分と神経質になられたものね。」
領地で最も貴重な名前を付けたと言いながら、その名を何年も放置していた誰かがこの事実を知ったら、どんな反応を示すのか。
『その時になったら、正式に命名し直してもらえばいいのよ。一番適した名前を選び、意味を込めて慎重に決めるべきですから。』
お嬢様もすでに数歳になっているのに、未だに名前の代わりにただ「お嬢様」や「赤ちゃん」と呼ばれるままだなんて。
その場にいない誰かの顔を思い浮かべながら、ヨハンナはスープをさらに静かにかき混ぜ、歩き出した。








