こんにちは、ピッコです。
「ちびっ子リスは頑張り屋さん」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

9話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑨
小動物の毛皮の代わりにドレスに身を包んだベアティを連れて侍女が出て行った後。
「……。」
少年は力の抜けた手のひらを見下ろし、日差しの中に失望感を覚えた。
「ポフッ。」
なんとなく不満げに肩を揺らしている少年の後ろで、場の空気を読まない騎士が慌てた様子で口を開いた。
「小動物のお嬢様、本当に可愛らしいですよね?私も初めて手の上にあのお嬢様が四つ足を乗せてくださったとき、あまりの感動で——」
「何?」
ジリッ。
険悪な空気を漂わせた少年の目が騎士に向けられた。
「なんでお前、あの子を手に乗せたんだ?」
「あ、その……いや、弱々しいお嬢様が大変な距離を歩くのは難しいかと思いまして……」
「手を出せ。」
「え?」
「お前の手のひらを剥ぐ」
「ひぃっ?それって何か冗談ですよね?殿下がそうおっしゃると本当に冗談みたいで笑えないんですが!」
「冗談じゃない。」
「どうしてそんなことをしたんだ」と叱りつける騎士の言葉に、少年は鼻で笑うように冷ややかに聞き流した。
ポンッ。
手のひらの上から主人を失ったアーモンドが机の上に投げ出され、少年が口を開いた。
「普通、弱いものは俺を見ると震え上がって逃げるけどな。」
ほとんどの生物はそれよりも弱かった。
特に、気配を敏感に察知する動物たちは、ますます少年を怖がった。
訓練された軍馬ですら、彼を見ると怯えて逃げ出すことがあり、今、少年が乗り回している馬も非常に慎重な訓練を経たものだった。
むしろ逃げる方が命に関わることだと理解させるように仕向けられていたのだ。
『だけど……。』
彼の手のひらに乗ってきた小動物は違った。
最初からキラキラとした黒い目で、まったく怯えずに彼を見つめていた。
心の中では警戒心が渦巻いていたが、深く自分を見つめてくる少女の瞳に目を留めた。
ベアティとの最初の対面を頭の中で思い浮かべながら、少年は薄く笑みを浮かべて言った。
「この子、俺には怯えないんだよな。」
機嫌が良さそうに口元をわずかに上げる殿下の顔を見て、騎士は信じられないという表情で額に汗を浮かべた。
「そ、それは……まぁ、そんな理由があるのでは?お嬢様が——」
「そうだな。そのちょっとしたことが——」
二人は同時に次の言葉を口にした。
「——獣人だから影響を受けているんだろうな。」
「——俺のことを兄だと認識しているんだ。」
「……。」
「……。」
一瞬の沈黙が訪れた。
じっと睨むような殿下の視線に耐えられず、騎士は再び口を開いた。
「……ええ、まぁ、兄と認識しているからだと思います。」
「そうかもしれない、じゃなくて、そうなんだよ。」
淡々とした少年の態度に、騎士は静かに口を閉じた。
『殿下がそれで幸せなら……。』
部屋に訪れた静寂は、再びドレスをまとったベアティが戻ってくるまで破られることはなかった。
「ここは元々、ご主人様が執務を行う執務室です。」
侍女の言葉に顔を上げたベアティは、執務室の扉を見つめた。
扉は背の高い重厚な造りで、大人でも少し力を入れて押さなければ開けられないように見える。
金色で装飾された扉の中央には、ライオンの頭部の装飾が刻まれていた。
ゴクリ。
ベアティは思わず唾を飲み込んだ。
『ここに家主様が……。』
緊張した彼女の目の前で、重厚な扉が静かに開かれた。
「おや、やっとお越しになりましたね。」
ベアティは挨拶を受けた。
『誰……?』
執務室の中にいたのは、彼女が新聞で見かけた「アスラン公爵」ではなかった。
やや痩せた印象の茶色の髪を持つ男性が、ベアティの後ろに立っていた少年に軽く頭を下げて挨拶をした。
「公爵様、お久しぶりでございます。」
「うん。」
「戦場からここまでお越しになったのは、やはり今回の報告のためでしょうか?」
「それ以外に何がある?」
「やはりそうですか。」
適当に挨拶を交わしていたその男性が、今度はベアティに視線を向けた。
「お嬢様も……直接お目にかかるのは初めてですね。」
男性は椅子から立ち上がり、片手を胸に当てて丁寧に腰を下げた。
「公爵閣下の業務代行を務めております、ゼロト伯爵です。大アスラン家の令嬢にお目にかかれて光栄です。」
子どもに対してとはいえ、洗練された礼儀正しい挨拶だった。
これは一体どんな状況なのか。
目をくるりと動かしていたベアティが口を開いた。
「家主様がお呼びだと聞いたのですが……。」
「家主様?ああ、はい。公爵閣下から、令嬢が到着されたらすぐに接続するようおっしゃっていました。」
「接続?」
「はい、通信接続です。この通信機を使えば、戦場にいらっしゃる閣下ともお話が可能です。特にこの通信機は長距離通信ができる、王国にたった2つしか残っていない古代の遺物です。」
ゼロト伯爵は執務室の机の上に置かれた円形の機械を示しながら説明した。
ゴクリ。
唾を飲み込んだベアティは、無意識に何かに縋るような形で小さな装飾を両手でしっかりと握りしめた。
間もなく、父と直接話をすることになるかもしれない。
一度も聞いたことのない父の声がどんな感じなのか、ベアティには想像もつかなかった。
「話って、どんな話なんでしょうか……?」
控えめに尋ねる少女の震えた声に、ゼロト伯爵は薄く笑みを浮かべながらも、少し冷ややかな表情を見せた。
「まあ……たった一つのことではありませんか?」
「一つのこと?」
「はい。もちろん、ご家族に会いたいというお嬢様の気持ちは自然なことですから。」
ふっと。
その瞬間、自分を見つめる伯爵の視線がどこか測りかねるものに感じられた。
肩をすぼめながらベアティは不安そうに身を揺らした。
「北部は現在、戦時中ですからね。」
伯爵は、理解を求めるように少し責めるような口調で続けた。
「お嬢様、他の普通の子どものように、お父上に甘えたい気持ちはわかりますが……。」
「甘える……?」
そんなことを一度も考えたことがない、とベアティが否定する間もなく、伯爵が口を開いた。
「ああ、もちろんお嬢様がそのような考えをお持ちであること自体が悪いわけではありませんよ。」
「……。」
「十分あり得ることですが、ただ現在の北部の状況が安定しているとは言い難いのです。ですから、閣下がわざわざお嬢様を首都にお送りした理由を考えれば、軽々しく移動する行動がどのような結果を招くかおわかりになるかと存じます。」
「私——」
「ふぅ。」
大人の重いため息の音に、思わず自分を見つめて額をしかめていた伯爵の姿が目に入ると、ベアティは反射的に身を縮めた。
「少しだけお待ちください、お嬢様。」
想像の範囲内だが、まるで子供を諭すような口調。
「戦争が終われば、公爵閣下もその間にお嬢様が見られなかった分まで十分にご愛情を注いでくださることでしょう。」
伯爵の言葉を聞いたベアティは、まるで体が鉄分で固まったような気分になり、顔を赤くした。
『そうじゃないのに!』
戦争中でも気を配りながら、困難を和らげるためにやってきたのではない。
『その戦争を終わらせる方法を伝えに来たのに!』
内に溜まった言葉を一気に吐き出そうとするも、かえって興奮感に押されて熱くなった幼い体が言葉を詰まらせた。
『息が詰まる……!』
突然の熱を、より深い息に変えて吐き出した。
「ふぅん。」
何か引っかかったような表情で片方の眉を上げた少年が、ゆっくりと歩み寄りベアティの前に立ちはだかった。
「ゼロト伯爵。」
自分に向けられた冷たい声に、伯爵は慌てて肩を震わせた。
「最近、随分と余計なことを言うようになったね?」
「も、申し訳ありません。」
伯爵は弁解の余地もなくすぐに謝罪し、少年の冷たい視線が伯爵の頭上に注がれた。
伯爵はベアティに向かっても再び頭を下げて謝った。
「お嬢様、私の余計な心配が失礼となったようです。どうかご容赦を。」
彼の頭を覆う茶色の髪が揺れるように垂れ下がった。
「え、え?」
自分に謝罪する大人を初めて見たベアティは驚き、目をぱちぱちと瞬かせた。
そのとき、執務室の机の上に置かれていた通信機が、カチカチと規則的に光を放ちながら点滅し始めた。
「ああ、ついに信号が届きましたね。」
興奮した様子の伯爵が通信機に手を触れると、まるで誰かと会話しているかのように一人で口を開いた。
「はい、閣下。……ええ。……はい、すぐにお繋ぎします。……かしこまりました。」
再び身を起こした彼はベアティを見つめながら言った。
「お嬢様、準備が整いました。」
「?」
「おそらく通信機の使い方をご存じないかと思います。」
部屋にいた侍従がベアティの背丈に合わせて、机の前に踏み台を置いた。その上に乗ると、手の届くところに通信機が見えた。
「簡単です。ここに手を置くだけで大丈夫です。」
ベアティは彼の言葉に従い、通信機に手を置いた。まだ動揺している状態を落ち着ける間もなく、
ジーーン。
「?!」
謎の振動が腕を伝い、流れ込んできた。
そして次の瞬間、頭の中に声が響いた。
-どうして。
初めて聞く声だったが、ベアティはすぐにそれが誰のものか理解した。
-首都から降りてきたのか?
自分を問いただす声。
父の声だった。
ベアティは一瞬、呆然とした。
その声は低く、客観的に言えば、人の注意を引きつける力強さを持っていた。
『これが父の声……。』
初めて知った父の声だった。
どうしても口が開かなかった。
「……。」
-聞こえないのか?
しばらく沈黙していると、返答を促すような言葉が聞こえてきた。
『私があまりにも返事を遅らせたせいで怒ったのかな。』
怒鳴り声というほどの感情はこもっていない声だったが、ベアティにはその声の低さだけで、不快感を表しているのだと感じ取った。
彼がさらに怒りを露わにする前に、説明をしなければならないと考えた。
「えっと、それは——」
『どんな質問だったっけ?』
……首都で何かあったのか?
威圧的な言葉遣いの中にも、どことなく彼が心配しているかのようなニュアンスが感じられた。
しかし、ベアティは返答を考えることに必死で、そんな微妙な感情の揺れには気づかなかった。
「首都でですか?」
一瞬、記憶をたどったベアティはハッと気づいた。
『あ!そういえば、首都でリテルを叩き落して降りてきたんだ……!』
どういう奇跡かは分からないが、死なずに生き延びたことに気づくや否や、彼女は目に映る裏切り者の顔を鮮やかに切り落とした。
その行動には一片の後悔もなかったが、全体の状況を知らない他人が見れば、その行動がどのように評価されるかは明白だった。
『王族に暴行した事件を起こし、その後始末を避けるように逃げ出してきた一族の娘……?』
それがどう見えるにせよ、彼女にとっては少しも好ましい印象を与えることはなさそうだった。
外から逃げ出してきて、自分を追い出した場所へ戻ってきたことが、周囲にどのように映るかを考えれば、それは間違いなく否定的なイメージしか生まれないだろう。








