こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
128話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 本当の呪い
ようやく緊張が解けたのだろうか。
足に力が抜け、気づかないうちにその場に崩れ落ちてしまった。
カーリクスが驚いた顔で急いで駆け寄ってきた。
「大丈夫?どうしたの?」
どうしたって、あなたのせいじゃない…レリアは反抗的に(あるいは不満げに)言った。
こらえきれない感情を抑え、しばし深呼吸する。
遅れてやっと安心すると、目に涙が溜まった。
あふれそうな涙を再び飲み込み、彼女は尋ねた。
「…一体どうやってここが分かったの?」
「グリピスとロミオがあらゆる路地を探しても君を見つけられなかったんだ。焦って、直接来たんだよ。」
「…どうやって見つけたの?」
レリアの眉間にしわが寄った。
『神聖力を持つグリピスや魔法使いのロミオですら見つけられなかったのに、どうしてカーリクスが…?』
軽視しているわけではないが、彼女の知る限り、カーリクスは魔剣士であってもソードマスターではなかったのだから。
力だけを持っていた。魔法ではなく剣術を使った。
鍛えられた筋肉質の体格で、武力に関しては最高だったが、それ以外は全くダメだった。
狂竜と戦い、竜の攻撃を全身で受けた後、その衝撃で目を負傷したが… そのおかげで人間の限界を超えた身体能力を手に入れた。
だが、そうだとしても隠れた人を見つけ出すのはほぼ不可能に近いのでは?
どうやってここまで探し当てたのか疑問ではあったが、嬉しくはあった。
「説明しても分からないさ。本能的な感覚だ。」
「……」
カーリクスはまるで自分が猛獣でもあるかのように振る舞った。
臭いを嗅ぎつけたように鼻をクンクンさせたりもした。
レリアはなぜああなのか、嫌いながらも知っている顔、しかも大切な友達であるカーリクスを見ると、心が次第に落ち着いた。
「ねえ、嘘でしょ?」
そうやって気持ちを落ち着けていると、カーリクスが不意に尋ねた。
「何が?」
レリアが振り返ると、カーリクスはしばらく躊躇った後、口を開いた。
「オスカーと結婚するって。フレスベルグ帝国の皇后になるって。」
「……。」
「ありえないでしょ。君は僕と結婚することになっているのに」
レリアはその瞬間、言葉が詰まった。
わあ…本当に純粋に感嘆がもれた。
カーリクスは本当に…あまりに呆れて口をぱくぱくするばかりだった。
このしつこい言い回しはいつになったら終わるのだろうか。
ふと思い出された昔の記憶が脳裏をかすめた。
口を開けば結婚を迫っていたカーリクスだった。
二度とその言葉を口にできないように殴ってやったのに…。
あの日、隊長としての権威を取り戻したと思っていた。
それなのに、まだその言葉を口にするとは。
改めてカーリクスに対して畏敬の念が湧いた。
「君って本当に….」
「うん、叔父さんも許してくれた。」
「……なんだって?」
「カリウス卿が許可したんだよ?君と僕が結婚するって。」
「……カーリクス。結婚は、当事者の同意が一番大事なの。」
「そんなの、もちろんわかってるよ。でも……」
カーリクスは一瞬黙ったあと、恥ずかしそうに体をよじった。
その仕草に、レリアは表情をこわばらせた。
彼の口からどんな言葉が出てくるのか、不安だったのだ。
「君、どうせ僕のこと好きでしょ。」
「……なに?」
「結婚の話を持ち出すなって言ったのも、全部恥ずかしかったからでしょ。」
「……」
また壁だ。
レリアは久しぶりに向き合った巨大な壁を見て、改めて無力感を感じた。
あの壁は本当に誰にも越えられないだろう。
カーリクスは肩をすくめて言葉を続けた。
「それじゃなきゃ、俺にそんなことするはずないじゃん。お前、俺に迫ろうとしたの、何度目だか分かってる?好きでもないのに、なんでキスした?変態か?」
「…それは!」
「変態じゃないなら責任を取れ。勝手にファーストキスを奪っといて、責任も取らないつもり?お前、それでも男か…!あ、男じゃないって言ってたっけ…とにかく、責任取れ。」
「……」
「それに、僕は君が変態でも構わない。どうでもいいけど、君はどうせオスカーとは結婚できないよ。」
「……なに?」
「フレスベルグ帝国の皇后になるって?君が?ありえない。その野郎が君をたぶらかしたんだろ?」
「……」
「君が自分の意思で出ていったはずがない。」
カーリクスの言葉に、レリアは一瞬息をのんだ。
反論できなかった。
カーリクスの言葉は間違っていなかった。
自分の意思で出て行ったとは言えなかった。
その瞬間だけは、逃げ出したくなった。
否定すればするほど、逃げたい気持ちが強くなったのだ。
さらにオスカーに引き渡されたことを知ったときも、まるで窓の外に見える草原を見ながら自由を感じた。
ひとりでどこかへ行けるという口実にオスカーを少し利用した部分もあった。
とてもずるい気持ちだった。
心配する家族のことを思えば心が痛み、怖くもあったが、「仕方がない、これは私の意思ではない」と自分自身に言い訳をしていた。
罪悪感でまともに答えられなかったが、カーリクスはすべて分かっているように言った。
「君はシュペリオン領地を離れる気なんてないんだろ。違うか?」
「……」
「一緒に行こう。家族に会わせてあげるよ。」
「……」
「行って、僕と結婚式も挙げよう。僕が君の夫になるって言ってるんだよ?君はどうせ女なんだから。もう何が問題なんだ?」
「カーリクス……」
「うまくやるから。」
今までふざけた様子だったカーリクスの声が、瞬く間に低く真剣になった。
レリアは戸惑いながら彼を見つめた。
カーリクスは少し照れたように彼女を見つめ、すぐに確信に満ちた声で自信を持って言った。
「大切にして守ってあげる。君もわかってるだろ、この世で俺ほど強くてカッコいい男はいない。君もわかってるだろ?」
「今は…それが問題じゃない。」
「もう、強がるのはやめて認めろよ。気もないのに俺に迫ったなんて嘘はやめてさ。」
「………」
「まぁ…本当に時間が必要なら待ってあげるよ。」
カーリクスはその言葉を最後に、もう恥ずかしいからやめようというように手を振った。
そして周囲を見回した。
「それにしてもこの子はどこに行ったんだ?他人の花嫁をさらっておいて、出てきて謝りもしないとは。」
「………」
それはレリアも同じく疑っていた。
近くで見守っていると思っていたのに、そうではなかったようだ。
もし近くにいたなら、カーリクスが入ってくるのを見てもついてこないはずがないからだ。
レリアはなぜか虚しい気持ちで拳を握ったり開いたりを繰り返していた。
「でもこの人、本当に誰なの?」
「……私のお母さん。」
「え?死んだって言ってなかった?」
「……調べてみたら、生きていらっしゃった。」
「わあ、家族みんな喜ぶね。君の叔父さん、泣いちゃいそう。早く戻ろう。」
カーリクスはそう言いながら、堂々と彼女を腕の中に抱いた。
「これ、何だと思う?ロミオが作ったものなんだ。移動スクロールって言ってね。すぐにシュペリオン領地に戻れるんだよ。」
「……」
レリアはカーリクスの手に握られたものを見て、目を見開いた。
『シュペリオン領地に戻れるって?今すぐ?』
レリアは視線を巡らせ、まだ眠っている母を見つめた。
すぐにでも行きたかった。
家族に母が生きていることを伝え、またいつ現れるかわからない怪物から母を守りたかった。
でも…でも……。
「オスカー、オスカーは……」
オスカーはどうなるの?
どこにいるのかわからないオスカーを置いていくことに、胸がチクチクした。
どこかへ行っていたオスカーが戻ってきたとき、空っぽの部屋を見てきっと驚き、混乱するだろう。
何かあったんじゃないかと心配するだろう。
メモでも残しておこうかと思ったが……自分が結局去ったと知れば、傷つくのは目に見えていた。
「どうしてあんな表情で、あんな目をして出て行ったんだろう……」
最後に見たオスカーの姿が思い浮かんだ。
レリアはすぐに出発すると答えることはなかった。
「少し休んでから行くか。」
その気持ちを察したのか、もじもじしているレリアを見て、カーリクスは気楽に言った。
まるで何も気にしていないように。
「いや、それよりも…」
カーリクスはレリアが他のことを考える暇を与えず、先に話を切り出し、口を尖らせた。
「どうしたの?」
「ちょっと…抱きしめちゃダメ?」
「えっ?」
「俺に会いたくなかったのか?」
「……」
「俺は死にそうだった。心臓に穴が空いたみたいで、心配で、気が狂いそうで……オスカーの野郎とまた会ったら、友達とか関係なく半分殺さなきゃ気が済まない気がしたんだ……」
「……」
「お前だって、俺よりもっと辛かったかもしれないだろ。言ってみろよ、お前もこんなに苦しかったんだろ?」
レリアは答えられず、ただ静かに息をついた。
オスカーがどこにいるのかわからずに困っているのはレリアも同じだったけれど……カーリクスは違っていた。雰囲気が変わっていた。
一体あの口から今度は何が飛び出すのか——こんな言葉が返ってくるなんて、全く想像もできなかった。
カーリクスは彼女が答えられない理由を理解したかのように、少し口をとがらせて言った。
「…俺も君のことが好きみたい。もう片想いじゃないよね。」
カーリクスらしくない照れた声だ。
カーリクスはそのあと、ひとつ息を吐いて両腕を広げた。
「こっちおいでよ、一回抱きしめたいんだ。君を見た瞬間から抱きしめたくてたまらなかったのを我慢してたけど…もう無理だ。」
早く来いと言わんばかりに手招きしたが、レリアはじっとしたまま体を動かさなかった。
「…照れるんだ。」
カーリクスは、以前こっそり訪ねてきてキスまでしてきたレリアのことが、まるで可笑しいかのようにクスッと笑いながら、そっと近づいてきた。
そしてその大きな腕でレリアをぎゅっと抱きしめた。
肩に顔をうずめて深く息を吸い込んだ。
レリアは小さくて細かった。
このまま力を入れれば壊れてしまいそうなくらいに儚かった。
どうしてこの子を男だと勘違いしていたんだろう?
どうやって自分を助けてくれたんだろう?
心が和らぐような香りに惑わされそうになった。
妙に体が熱くなってくる気もした。
その瞬間だった。
バシッ!
大きな音と共に、レリアにしがみついていたカーリクスが吹き飛ばされた。
ガシャーン!
外に出ようとしたカーリクスが、装飾棚にぶつかって物が割れて散らばった。
レリアは悲鳴を上げかけたが、自分の口を押さえた。
視線を移すと、鋭い目つきをしたオスカーが見えた。
真紅のような色に輝く彼の瞳孔が鋭かった。
脳内で危険信号が鳴り響き、警告灯が点滅した。
いつの間にか身体をパッと払って立ち上がったカーリクスは、口元の血をぬぐいながら言った。
「おい、このクソ野郎が… 他人の花嫁をさらったうえに、人を殴るなんてどういうつもりだ?」
友達として大目に見ようと思ってたのに、すごくとんでもない奴だな。
カーリクスは小さな声で続けた。
「死にたくなければ、出て行け。」
オスカーは、取り合う価値もないというように冷たく言い放った。
カーリクスの眉間にしわが寄った。
「お前が俺を殺すって?どこに友達を殺すなんて冗談を言う奴がいるんだよ。」
「友達だと思ったことなんてない。」
オスカーの返事は冷淡だった。
その場ですぐにでも反論しようと近づいたカーリクスは、ピタリと足を止めた。
不意打ちの言葉に、目をぱちくりさせていたカーリクスが凍りついた。
「……ああ、ちょっとそれは傷つくな……」
オスカーは感情のない人のように、カーリクスを見つめた。
必要であれば、本当に今すぐにでも殺しかねないほどの気迫だった。
カーリクスは思いがけず強い衝撃を受けていた。
オスカーは本当にあれほどまでにレリアのことが好きだったのか?
連れ去ったときにもある程度予想はしていたが…あの目を見て、相当な想いだったのだと感じた。
困ったものだ。
どうせレリアは自分のことが好きで、自分と結婚するのに。
友達の顔に泥を塗りたくはなかったが、これはどうしようもないことだった。
オスカーに対して気の毒な気持ちと同時に、情けないという考えも浮かんだ。
好きな女なら、優しくして、そばにいて気持ちを得ようとすべきなのに、連れ去るとは。卑劣すぎる。
まあ、どうせ自信がなかったのだろう…。
もしかしたら、レリアの心が自分に向いているのをうすうす感じていて、それを知っていてあえてそんなことをしたのかもしれない。
奪うことはできないけど、せめて誘拐してでもそばに置いておきたかったのだろう。
そう考えると、自分を殺しそうなあの視線や、冷たい言葉も少しは理解できた。
「オスカー。どれだけ君がそう思っていても、レリアは家族を置いてフレスベルクには行けない。」
「……」
「君はあのか弱くて幼い子を泣かせたいの?泣きながら家族を恋しがるだろうに、そのそばで見守っていられるの?」
オスカーは唇をかみ、何も言えなかった。
今すぐでもカーリクスに向かって一発くらわせたかったが……数か月前のオスカーならまだしも、今の彼には反論すらできなかった。
オスカーは虚ろな目でカーリクスを見つめた。
そして視線をそらした。
レリアが不安そうな目で彼を見つめていた。
あの瞳孔、あの眼差し。
鋭く黒でなぞられたようなその視線が痛々しく感じられた。
これからレリアは永遠に、あんな目で自分を見ることになるのだろう。
愛情も、信頼もない、ただ恐怖だけが満ちた眼差し。
何かを睨みつけるような表情。
胸の奥で押し寄せる痛みが広がった。
発作が治まってからそれほど時間は経っていなかったが、またしても頭の中がぼんやりしてきた。
不吉な感覚が体を駆け巡った。また発作が来るのではないかと感じた。
数分前までこの苦痛から抜け出せずにいた。
すぐ近くにいたのに、自分の発作の苦しみでレリアのそばに行くことができなかった。
それでもどうにか意識を取り戻したとき、カーリクスが来ていたことに気づいて戻ってきたのだった。
「…はぁ。」
だが、もう限界だったようだ。
今にも爆発しそうなほど、心がかき乱された。
オスカーは自分の状態を知られまいとレリアを避け、うつむいた。
そんな姿を見せたくなかったのだ。
幼い頃には何十回もレリアの前でそんな姿を見せてきたが…これは違った。
ずっと昔の記憶が頭の中をかき乱し、彼を苦しめた。
そのせいでの爆発は、幼い頃とはまったく異なる苦痛を伴っていた。
目を背け、苦しみを隠そうとする姿を見せたくはなかった。
みじめだった。
だが、初めて会った見知らぬ相手の前で、心の中の自分は自信を持ってこう言った。
「その程度の怪我、どうでもいい。」
レリアを屋上まで連れてくるためにオスカーはわざとその怪我をしたのだ。
そう、あの怪我を…。
そのときだった。
苦しみを隠していたオスカーに向かって、カーリクスが尋ねた。
「君のそばでは、レリアは永遠に幸せにはなれない。君もわかってるだろ?それが君の望むことなのか?」
冷たい言葉が彼の胸を刺した。
胸に刃が突き刺さるようで、血がにじんだ。
「子供の頃、レオが君にどう接したかを思い出してみろ。それを思い出しても、君は本当にそんなことをしたいと思うのか?」
「……」
認めたくはないが、カーリクスの言うことは間違っていなかった。
無条件の保護だった。
生まれて初めて、誰かに守られるという経験だった。
レオは自分を大切に、そして丁寧に扱ってくれた。
初めて受けた愛情は、不器用ではあるが甘美だった。
その関心に飢え、次第に渇望するようになった。
いつも水を求めて砂漠をさまよっていた彼にとって、レオは彼が求めるたび、いつでも愛情という名の水を注いでくれた。
そうして少しずつ、それに慣れていった。
そんな存在だった。
この世界で唯一……自分を――
「…が。」
オスカーはかすれた声で口を開いた。
喉を搾るような声がかろうじて漏れ出た。
「何?」
「…連れて行け。」
かすかに、オスカーがもう一度そう言った。
「……」
カーリクスは少し切なげな表情で、オスカーを見つめながら考え込むように顎を撫でた。
だが、レリアは違った。
『今、なんて言ったの…?』
レリアはまるで後頭部を殴られたように茫然とした。
心から信じていた人に裏切られたような、顔から血の気が引く感覚だった。
『連れて行けって…今オスカーがそう言ったのか? 聞き間違いじゃないのか?』
あれほど頼んでも、きっぱりと嫌だと答えたオスカーだった。
永遠に彼女を抱えて誰にも見せず隠しておくかのように執着していたオスカーが…。
こんなに簡単に?あっさりと?私を手放すって?
私を閉じ込めておいて、皇后にして、家族には二度と会えないようにするとまで言っていたオスカーが…こんなにすぐに気持ちが変わったって?
あまりにもあっけない決断に、茫然とするしかなかった。
まるで殴られたかのような衝撃だった。
「オスカー……」
無意識に切ない声が漏れた。
オスカーが彼女を見た。
その目には光が宿っていた。
「…行け。君が望んでいた通りに送り出してやるよ。」
「オスカー、どうしてこんなことを……」
「行け、消えろ。」
冷たい声が再び彼女の胸を刺した。
ショックで言葉も出ず、呼吸さえまともにできなかった。
「どうせ君は僕のこと嫌いだろ。あんな目で僕を見るたびに気が狂いそうだったんだ。」
オスカーはその言葉を呑み込みながら、顎をそらした。
レリアはただ、淡々と視線を逸らすオスカーを見つめながら、はっきりと感じた。
ああ、終わりなんだ。これが君と私の終わりなんだ。
そしてもうひとつ、はっきりと気づいた。
『…薬のせいじゃなかった。』
オスカーと目すら合わせられないほど恥ずかしくて、避けたかったその気持ち。
胸のどこかがチクチクと痛んでいたあの感情。
彼が他の女と何を話したのか、なぜ笑ったのかを知りたくてたまらなかった衝動。
それらはすべて、薬の副作用なんかじゃなかった。
彼女が感じたのは、純粋な感情だった。
初々しい感情の芽だった。
なのに、どうして今になってそんなに簡単に「行け」と言うの?と詰め寄りたかった。
どうして私のことを平気で手放せるの?と。
どうしてそんなにもあっさりと諦めるの?と。
込み上げてくる感情に押しつぶされそうだった。
泣き叫びたい気持ちだった。
「行こう、レリア。」
しかし、そんな余裕はなかった。
カーリクスはベッドに横たわっていたセナを慎重に背負い、レリアの元へとやってきた。
「オスカー、少し落ち着いたらシュペリオン公爵城へ来い。」
「………」
カーリクスの言葉にも、オスカーは何も答えなかった。
レリアとカーリクスには一切目を向けず、ただ見たくないというように顔をそらしたまま立ち尽くしていた。
カーリクスはそんなオスカーを哀れむように見つめたあと、レリアの肩をしっかりと抱きしめた。
すると彼は迷いなく手にしていたスクロールを破った。
「…あっ!」
呆然と立ち尽くしていたレリアは、最後の瞬間、思わず手を伸ばした。
一瞬のうちに、オスカーの肩が苦しそうに震えるのを目撃した。
「オスカー、どうして…!」
彼女の言葉は最後まで続かなかった。
一瞬で目の前の風景が変わった。
「レリア!」
そこはシュペリオンの宮殿だった。
彼女がいつも恋しがっていたあの場所だった。
慌ただしく執務室から駆けつけた祖父と叔母が、彼女の元へ走ってきた。
「レリア、いったいこれはどういう……!」
会いたかった家族を抱きしめなければならないのに、母のことを説明しなければならないのに、体も口もまったく動かなかった。
ただ驚きで何も言えず……頭の中は少し前の、オスカーの姿でいっぱいだった。
「レリア!」
レリアはついにその場に力なく崩れ落ち、膝をついた。
二つの首の力の糸がぴんと張り詰めていた。
オスカーは苦しそうに自分の首を動かした。
「ぐっ……」
血が一口、吐き出された。
血のように赤い首と頭がズキズキと痛んだ。
意味もわからない記憶の断片が彼を苦しめた。
「こんにちは?」
「オスカー様。」
「大丈夫ですか?」
幼いレオの声。
しかしそれは、元々の記憶よりももっと昔の、もっと静かで…慎ましやかな声だった。
初めてだった。
誰かが彼に、あんなふうに優しく——その声を聞かせてくれた存在。
それを「救い」と呼んだ。
ただ盲目的に従った。いつか必ずまた会って、その人のために生きようと決意した。
「うっ… ううっ…」
誰かが胸の奥をかき乱すように苦しかった。
まともに呼吸もできず、荒く息をついた。
喉が詰まり、今にも死にそうなとき、再び息ができた。
流れ込む空気のおかげで、かろうじて呼吸が続いた。
そんな存在だった。
レリアもまた、もうすぐ死にそうだった彼にとって現れた大切な存在だったのに……
「幸せになるのか。」
霧のように漂う空間の中から、はっきりとした声が聞こえた。
忘れていた記憶の中の声だった。
彼はためらうことなく答えた。「そうしよう」と。
その後に、恐ろしい呪いのような言葉が続いた。
その恐ろしい罪を犯せば、永遠に苦しみの中で生きなければならないと警告された。
彼は笑って「関係ない」と答えた。
そのあと、天使の姿をした何かが、満足げに微笑みながらその呪いを祝福した。
「はっ…はっ…」
目を閉じて、再び開けると、目の前には別の光景が広がっていた。
数日間彼を苦しめ続けた記憶の一場面だった。
彼を救った、明るくはつらつとした幼いレオの顔には、いつも微笑みが浮かんでいた。
死の影などなかった。
すべてを諦めたかのような虚ろな表情だった。
その幼い子供は、疲れたように森を歩いていた。
月明かりも雲に隠れた暗い夜。
しばらく歩いたその子が立ち止まったのは、池の前だった。
ぼんやりと深く見えるその池を見つめた子は、片足をそっと水の中へと差し出した。
ほんの一瞬のためらいもなかった。
その子は、死よりも過酷な現実から抜け出すために、自由を求めていた。
どうしても知りたかった、自分を救ってくれたあの人がなぜ死んだのか。
その理由を知った瞬間、すべてが崩れ落ちた。
彼の全身は、繊細なガラス細工のように粉々に砕けてしまった。
死をもって自由を得ようとした魂を、無理やり引き戻した。
その呪いをしっかりと抱きしめ、生き地獄のような日々を生きることになった。
罪悪感に全身が震えた。
永遠に逃れられない原罪の重さだった。
その瞬間、また別の光景が脳裏をよぎった。
数日前に見た悪夢だった。
もしかすると、これから起こるかもしれない未来の出来事だった。
フレスベルグに強制的に連れて行かれたレリアは、生気を失っていた。
記憶の中のあの子どものように、死の影が宿る顔だった。
よろよろと縁側を歩くレリアは、まるで幽霊のようにふわりと…再び消えていった。
そこからようやく解放されたレリアは、自由を取り戻した。
オスカーは苦しそうに身をよじりながら、かすかに笑った。
天使の姿をした誰かが祝福しながら与えた呪い。
永遠の命よりも残酷な呪い。
自分は永遠にレリアを手に入れることはできない。
それこそが、彼が耐えなければならない本当の呪いだった。







