こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

40話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- シュペリオン公爵④
赤みがかった鮮やかな髪の老女が、大きく息を吸い込んだ後、レリアに向かって走り寄った。
「おお、エリザベス…私の娘…エリザベス…」
そう言って、彼女は力いっぱいレリアを抱きしめた。
「エリザベス…私の娘…」
呆然と目を瞬かせていたレリアだったが、とうとう涙を堪えきれず、ぎゅっと身を縮めながら泣き出してしまった。
赤い髪の老女もまた、正気を失ったかのように、レリアの背中を強く抱きしめた。
「私の娘…私の娘….」
「…一体どういうことですか、お父様?」
そして栗色の髪の女性、シュペリオン公爵の末娘アティアスは、顔をくしゃくしゃにしている父を見つめた。
「お父様…?」
アティアスは振り返って、シュペリオン公爵を見つめた。
信じられなかった。
今、お父様が泣いているの?
シュペリオン公爵は普段は冷徹な人だ。
自分の妻の前では時折弱さを見せることがあったが、子どもたちの前ではそんなことはなかった。
アティアスは理解できないという表情で、再びお父様を見つめた。
彼女は若い少女を見つめながら考える。
『エリザベスだって…?』
エリザベスは、すでに亡くなった彼女の姉だ。
幼いころに一度だけ会った記憶がうっすらとあるだけ。
『似た子どもなのか?』
アティアスは、ため息をついた。
父がエリザベスに似た子どもを探して連れてきたのかもしれない。
母の体調が悪くなり始めたのは、エリザベス姉さんが亡くなってからだった。
レリアをしっかりと抱きしめていた公爵夫人リサンドラは、ちらりとアティアスを振り返った。
彼女は熱に浮かされたような声で言った。
「あなた、エリザベスが帰ってきましたよ!見てください、うちの娘が死んだはずがないでしょう。こんなに元気に帰ってきたじゃないですか。」
リサンドラは、しわだらけの頬を伝う涙を拭いながらレリアを見つめた。
そして優しい手つきでレリアの頬を撫でた。
「うちの娘、また戻ってきてくれて本当に良かった。この母親にはもう、何も望むものはないわ。ね?」
涙を流していたレリアの表情は、だんだんと固まっていった。
レリアは疑わしげな表情でシュペリオン公爵を見る。
彼は黙ったまま涙だけを流していた。
様子を見ていたアティアスが、公爵夫人に向かって歩いてきた。
「落ち着いてください、お母様。まずは座ってください。医師が、興奮するとよくないと言っていました。」
「…はい、はい、先生。もう大丈夫です。うちのエリザベスが戻ってきたから、もう大丈夫です。」
「……」
「私も、もうすぐ元気になりますよ、先生。ね、そうでしょう?」
公爵夫人は、聞き取れない独り言を呟いていた。
アティアスは慣れた様子で「はい、はい」と言いながら、彼女をソファに座らせた。
レリアはそんな二人を見て、はっと気づいた。
『認知症だったんだ。』
原作では詳しく描かれていなかったため、すでに戻ったものと思っていた。
また涙ぐみ、目に涙が浮かんだ。
シュペリオン公爵がアティアスに言った。
「アティアス。お前の大伯父が到着したら、本人だけで来るよう連絡を入れろ。」
「……はい、お父様。」
「妻と子どもたちは連れて来るな。お前一人だけ来い。」
「……わかりました。」
アティアスはぎこちなくうなずくと、手紙を送るために席を立った。
そして、まだ理解できないような様子でレリアをじっと見つめた。
「うちの娘、こっちにおいで。どうしてこんなに痩せちゃったの? ん?」
リサンドラはレリアをぐいっと引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。
そしてレリアの髪をなで始めた。
アティアスが応接室を出ていくと、シュペリオン公爵も近くに寄り添い、向かい側に腰を下ろした。
「…おじい様。」
レリアがそう呼びかけ、公爵夫人を見たとき、彼は静かにため息をついた。
「…ああ、あれは君のおばあ様だよ。エリザベスを失ってから、病を患ってしまったのだ。」
「病気…ですか?」
「そうだ。年を取った者たちによく現れるものだ。神聖力でも治せず、神が与えた病という意味で『神病』と呼ばれている。」
「……」
レリアは目を細めた。
癒しの力を持つ神聖力については以前から知っていたが、万能ではない。
死んだ人間を蘇らせたり、切断された身体を再生させたり、長く進行した病を治すことは難しかった。
また、脳に関係する精神的な問題も治療することはできず、そのため古くから神聖力を疑う異端が生まれた。
神殿は疑いの目を避けるために『神病』という言葉を作り出した。
死んだ人間を蘇らせるのは神の意志ではないとし、異教徒の仕業だとしたのだ。
規律を失い、身体を再生できなくなるのもまた、神の意志だとされていた。
また、長く続く病気で神の力でも治せない病は「神の罰」と考えられた。
同じく、抑うつや不安、認知症など精神疾患も神の力で癒やせないため「神の病」と呼ばれていた。
神の罰ではないものの、神の力でも救えない病であることから「神病」とされたのである。
そのため、精神疾患を患った家族を持つ者たちの中には、錬金術を学んだり、信仰にすがる者も少なくなかった。
中には狂信に走る者たちも。
「妻を治すために多くの錬金術師たちを訪ねたが、結局のところ確実な方法はなかった。」
シュペリオン公爵もまた同じだった。
それほど強大な権力を持つ者であるため、神殿の目を逃れて錬金術師たちと接触することに苦労はなかっただろう。
レリアが心配そうな顔をすると、シュペリオン公爵は心配するなと言わんばかりに穏やかな微笑みを浮かべた。
「……妻が君を見れば、一目でわかるだろうと思った。」
その言葉に、レリアは視線を向け、こちらを抱きしめているリサンドラを見た。
赤い髪にはところどころ白髪が混じり、顔にはしわが刻まれていた。
それでも彼女はとても優雅で美しかった。
レリアはリサンドラをじっと見つめながら、そっと母の面影を探し求めた。
きっと、この世に残っている人の中で一番母に似ているのが、この公爵夫人なのだろう。
レリアは、こみ上げるような羨望と幸福感を覚えながらリサンドラをぎゅっと抱きしめた。
「そうだね、私の娘。このお母さんに会いたかったんでしょう?どうして今まで来なかったの、ん?」
リサンドラは、まるでエリザベスがレリアと同じ年頃に戻ったかのように、レリアを抱き上げ、頬にキスをした。
レリアはその間、何の不安もなく、ただその幸福に身を任せた。
いつの間にかレリアを抱きしめたまま、公爵夫人はそのまま眠りに落ちてしまった。
レリアはそっと、彼女の膝から降りた。
「とても怖くて疲れてしまったのかもしれません。」
レリアの言葉に、シュペリオン公爵はそっと頭を撫でた。
「そうだな、心配するな。母さんの兄弟たちにすべてを話すつもりはない。」
「……。」
「……夫の資格も、父の資格もないあの男には、絶対にお前を渡すわけにはいかない。」
シュペリオン公爵はきっぱりと断言した。
ペルセウス皇帝への恨みが積もっている様子だった。
レリアは少し考えた末に口を開いた。
「……おじいさま。私が成人するまでここ、領地で過ごしてもいいですか?」
「当たり前のことを聞くな。この爺は、お前が大人になっても手放すつもりなどないぞ。」
愛情深いその言葉に、レリアの心はふっと緩んだ。
皇城を出るときに心に誓った願いの一つが、これで叶った。
それは、大人になるまで安全に生き延びることだった。
今のレリアの目標はただ一つ。
元の世界に残した、もう半分の聖物を見つけ出し、禁呪の魔法を解くこと。
そして、友達に会ってすべてを打ち明け、許しを請うことだった。
『でも、そのためには……』
レリアは、誰よりも強く、頼もしく見えるシュペリオン公爵をじっと見つめた。
『原作に出てきた未来を変えなきゃ。』
原作とは違い、自分の死も防いだのだから、これも可能なはずだ。
レリアは不滅の妖精と呼ばれていたシュペリオン公爵が衰弱していった原因を大まかに知っていた。
シュペリオン公爵は、不安に満ちたレリアの表情を見て、心配しないようにと頭を撫でた。
「何も心配するな。この祖父が命をかけてお前を守る。」
「……はい、おじいさま。」
レリアは拳をぎゅっと握りながら決意を固めた。
ならば、私は禁忌の魔法を解き、命をかけてこの家門の未来を守ってみせる。
一日でも早く未来を変えるために、仲間たちに会いたかった。
『みんな、あまり悲しまないで。もう少しだけ待ってて。きっと、許しをもらいに行くから。』
心の中で友達に語りかけながら、レリアはシュペリオン公爵の胸に顔を埋めた。
おじいちゃんの胸も、おばあちゃんの胸も、お母さんの腕の中も、本当にあたたかかった。
声を上げて泣きたくなるほどに。









