こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

72話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 疑惑
薬をあらかじめインベントリから取り出しておいてよかった。
本城の応接室前。
皇帝の従者たちがレリアとカーリクスの体を軽く検査していた。
セドリックとデミアン、ルートはレリアをにらみつけていたが、三人ともどこかへ行ってしまった。
レリアは内心ほっと息をついた。
何であれ、ルートはあの二人の皇子たちにしっかりと気に入られたに違いない。
とにかく一方の味方になってくれたのだから。
「こちらへどうぞ。」
従者の案内に従って大きな扉の内側に入ると、華やかな家具が目に入った。
応接室と思われる広い空間には、豪華なカーペットが敷かれ、ソファとテーブルが調和よく配置されていた。
そして顎を向けると、ふと見えた大きな扉の奥、ソファの端が目に入った。
そこは応接室よりも少しだけ私的な用途のスペースのようだった。
「………」
レリアは緊張で震える手を握りしめた。
一方、カーリクスはまったく動揺しておらず、落ち着いた様子だった。
侍従は扉の内側にある応接室へ二人を案内した。
ソファに腰掛け、書類を読んでいた皇帝が顔を上げた。
「来たか。」
「………」
レリアはごくりと唾を飲み込んだ。
幼い頃に皇城から逃げ出して以来、皇帝とはこれが二度目の再会だった。
最初の再会は、材料を探して森の奥深くへと潜ったときの夜。
酒に酔った皇帝が足首に触れてきたときの感覚が今でも鮮明によみがえる。
あのときの驚きで高ぶった気持ちがまだ残っているのだろうか、レリアはドキドキと鳴る心臓を落ち着かせるのが難しかった。
「……。」
明るい場所で、呆然とした状態で再会したペルセウス皇帝は、以前と大きく変わらない姿だった。
かなりの歳月が流れたにもかかわらず、彼は依然として若く見えた。
少し痩せたように見えたが。
ペルセウス皇帝の眉間がしかめられた。
話でしか聞いたことがなかったレイモンド卿の実物は……あれは、かつて使用人たちが流行だといって見せてくれた肖像画にかなり似ていた。
しかし、実際に見てみると、その絵よりも別の人物にもっとよく似ていた。
『エリザベス…?』
なぜ初めて見る青年が亡き妻に似ていると思ったのだろう?
瞳の色も、髪の色もまったく違うのに、彼は妙な感情にとらわれていた。
さらには、亡き妻に隠し子がいたのではという疑念まで湧き上がってきた。
あらゆる疑いが一瞬で彼を支配した。
それほどまでに雰囲気や表情が似ていた。
あのとき、確か酔っ払ったある夜、路地裏で見たエリザベスに似た女がふと思い浮かんだ。
都を封鎖してその女を探したが、妻に似たその女性は影も形もなく消えてしまった。
だから酔って見間違えただけだと結論づけたのだが――
けれども……。
「……陛下?」
沈黙があまりにも長く続いた。
たまりかねたカーリクスが疑わしげに皇帝を呼んだ。
相変わらず皇帝は呆然とした表情だった。
カーリクスはレリアのほうへと顎を向けるように目線で示した。
『お前、女ってバレたんじゃないのか?』
目線だけではその意味を理解することはできなかった。
レリアはぎこちなく唇を引き上げて笑みを作ろうとした。
わずかに引き上がった唇がぶるぶると震えた。
レリアもまた、ペルセウス皇帝のじっとした視線に戸惑っていた。
そのとき、ようやく正気を取り戻したペルセウス皇帝が口を開いた。
「……カーリクス卿。お前も一緒に来ていたのか。」
「この友人が精神的に非常に弱っていたので一緒に来ました。」
「……そうか、ありがとう。だが、あちらで待っていてくれるか?」
その言葉に、カーリクスはレリアを一瞥しながら軽く礼をして扉の外へ出た。
幸いにして分厚い扉で、閉ざされた空間に二人きりになったわけではなかった。
そのことに安堵したレリアは、皇帝が示した席に腰を下ろした。
「………」
皇帝はレリアを座らせたまま、しばらく何も言わず静かな視線でじっと見つめていた。
何を考えているのか、レリアには全く分からなかった。
そのとき、ペルセウス皇帝がふいに立ち上がり、何かに憑かれたかのように窓の周りを行ったり来たりし始めた。
『人の血を乾かす気かっての。』
レリアはその隙を狙って、インベントリウィンドウを開き、アイテムを取り出した。
<私を男だと思い込ませる薬>
万が一のために予感が働いた。
『私が母さんにあまりにも似てるから、何かおかしいと思って疑うかもしれない。女だと疑う可能性もある。』
タイミングを見てフタを開けるため、レリアは袖の内側に薬瓶を隠した。
ペルセウス皇帝はゆっくりと椅子にもたれ、レリアを見つめながら口を開いた。
どうやら、なぜ「レイモンド卿」と呼ばれたのか、その理由を思い出したようだった。
「ユリアナ皇女が君を気に入ったと聞いている。」
「……私の口から申し上げるのも何ですが、私は女性関係が少々複雑でして。皇女殿下のご関心はありがたいのですが……」
「女性関係が複雑だと?」
ペルセウス皇帝は口元を少し引き締めながら尋ねた。
確かに、皇女の婿候補として呼んだ手前、あまりにあっけらかんとした返答に言葉を失ったかのようだった。
だが、皇帝は別のことを口にした。
「……私の知人によく似ている。ローズベリー帝国の貴族の出身だったか?」
「ええ… 皆さんが私を見てそう言うんです。何かの絵に似てるって…?」
レリアは気まずそうに笑いながら、視線を逸らした。
しかし、ペルセウス皇帝は腕を組んだまま、顎を反対側に傾けた。
「私に隠してることはないか?」
「え?何のことですか……」
ペルセウス皇帝はしばらく言葉を選ぶように沈黙し、やがて口を開いた。
「私が王であれば、何の取り柄もない者がユリアナ皇女の婿候補になっていても気にしない。だが君は……」
「………」
なんなの、それって婿になりたいって思ってるってこと?
レリアは内心で呆れた。
冷ややかな表情で皇帝の言葉の続きを待っていた。
「正直に聞こう。男か?」
「……!」
「私の目には… 性別を隠して入り込んだ女のように見える。性別を偽ってユリアナ皇女を欺いたのが事実ならば… 重い罰を免れないだろう。」
ペルセウス皇帝は軽く机を叩いた。
「………」
ドナテッリの絵のおかげで、これまで女性として直接疑われたことがなかったレリアは
慌てて戸惑った。
まさか皇帝がこのように直球で尋ねてくるとは思いもしなかった。
ペルセウスは意味深なまなざしだった。
その目を見て、レリアは確信した。
『あの夜に出会った女性が私だと疑ってる。』
レリアの直感は正しかった。
ペルセウスはレリアをじっと見つめながら、あの夜に見た女性だとほぼ確信していた。
自ら抱えた細い足首、気絶する前に聞こえた声、かすかに漏れた悲鳴。
それらは間違いなく女性のものだった。
意識が途切れる直前に起きたことを、皇帝はすべて覚えていた。
今はどういう手段を使ったのか分からないが、あのときと違い、少し低い声が聞こえてきたが――それでもペルセウス皇帝は確信していた。
目の前の人物が『レイモンド卿』の仮面を被ったこの者の正体は女性であると。
一体何の目的で皇城に侵入し、なぜ性別を偽ってユリアナ皇女に近づいたのか?
また、当時オドゥマクを訪れていた騎士をどうやって無力化したのかも調べなければならなかった。
命令を下したにもかかわらず、皇城の魔法使いたちは何の痕跡も見つけられなかったのだ。
しかも死んだエリザベスとよく似た顔である。
意図は不明だったが、ペルセウス皇帝は『レイモンド卿』が自分の弱点を握ろうとする意図を持った者だと判断していた。
「それは一体……」
レリアはとりあえず口を開いた。
しかしその険しい表情と緊張した口元を見て、ペルセウスはますます確信を深めていた。
「どんな目的で私に近づいたのか、気になるな。」
「……」
言葉もなく、ただ視線を交わす二人の間に緊張感が漂った。
一方、外でその会話をすべて聞いていたカーリクスはため息をついた。
『やっぱり聞こえたか。』
カーリクスはちょうど扉のすぐそばに立ち、背を壁に預けたまま、その会話を一語一句もらさず聞いていた。
すぐ前には彼のために用意されたお茶が冷めつつあったが、今はのんびり座ってお茶を飲みながら待つような状況ではなかった。
カーリクスはどう動くべきか、思案していた。
皇帝はレリアを黙って見過ごすはずがない。
だが、それがどうした?
カーリクスとロミオが彼女を守る以上、皇帝といえども彼女を力づくで連行することはできない。
せいぜい皇城から追放するのが関の山だ。
機を見て代わりに皇帝に話しかけようとしたそのときだった。
「申し訳ありません!」
突然、内側からレリアの怒りのこもった声が響いた。
カーリクスは驚いて体を少し傾け、扉の向こう側をそっと見やった。
「申し訳ないと?」
ペルセウス皇帝は笑いながら席に腰を下ろした。
「はい、失礼ながら申し上げます。いくら皇帝とはいえ……それはあまりにも理不尽な侮辱です。」
「では、それを証明できるか?」
彼は余裕ある口調で問いかけた。まるで確信しているかのようだった。
レリアは表向きには平静を装ったが、内心では極度の緊張を隠しきれなかった。
『見破られたら終わりだ。』
皇帝は彼女が宮殿に侵入した人物であると確信しているようだった。
それが事実だと明らかになれば、ただでは済まない。
まず罪人として裁かれるのはもちろん、ロミオやカーリクスにも累が及ぶだろう。
そして、ルートの贈り物も永遠に失われる。
今、確実に否定しなければならなかった。
『この瞬間を乗り切れなければ、すべての計画が台無しになる。』
レリアは手元に隠していた薬瓶のふたをそっと開けた。
音もなく開いたふたの隙間から、目に見えない霧のようなものが流れ出した。
<私を男だと錯覚させる薬>
名前からしてストレートなこの薬は、「錬金復権」ゲーム内で店の常連である“怪盗ルッピン”のために作られた薬だ。
似たようなシリーズで出来の悪いものもたくさんあったが、レリアにはこれが一番合っていた。
【アイテム <「私を男だと錯覚させる薬」> を使用します!効果は10分間持続。あなたは最高の男に見えます!(。•̀‿-)✧】
レリアは画面に小さく浮かんだメッセージを見て、立ち上がった。
「証明してみせます。ただし、私が男であると確認できた場合、さきほどの侮辱については、どう償っていただけますか?」
レリアが堂々と出ると、ペルセウス皇帝は片方の口角を上げながら答えた。
「お前が望むことを一つだけ叶えてやろう。」
【錯覚の霧、発動!薬の効果が進行中です。✨*̣̩⋆̩☽⋆゜( ˘͈ ᵕ ˘͈ )✩】
今や薬から発せられた煙が相手に完璧な幻覚を見せるだろう。
現実でないと疑う余地のないほど完璧な仕上がりだった。
問題があるとすれば、相手がどんな幻覚を見ているかを、レリア本人には知る術がないということだ。
「………」
ペルセウス皇帝はぼんやりと虚空を見つめていた。まるで幻を見ているかのようだった。
皇帝の視線の先では、レリアがクラバットを外し、上着のボタンを外して次々と脱いでいた。
すると、くっきりとした筋肉質の胸板と、その下に引き締まった腹筋があらわになった。
誰が見ても、男性の体だった。
ペルセウスはそれを幻覚か、錯覚だとすら思えず、目をそらした。
自分の誤りを認めざるを得なかった。
『あの日のことで、私はあまりにも理性を失っていたのか……』
ペルセウスは小さくため息をついて、手を伸ばした。
一方、
『あいつ頭おかしいのか?なんでズボンを脱いでんだよ?!』
別の誰かも錯覚の霧による幻覚にとらわれていた。
カーリクスのいる位置からは、ちょうど正面にレリアが見えた。
その前でレリアは今、ズボンを引っぱりながら脱いでいた。
カーリクスはすぐさま駆け寄って彼女を止めようとした。
彼はレリアが正気を失ったと判断したのだ。
しかし一歩も動けず、その場で凍りついた。
『いや、おかしい…あれ何だよ?』
いや…まさか…。
目をこすって見直しても、あれは…?
レリアは確かにレオの妹だと言っていた。
妹、妹… しかし、あのたくましい筋肉は――誰が見ても男の体だった。
皇帝の前で男であることを証明するために服を脱ぐような人がいるのも驚きだが、本当にそうだったという事実の方がもっと驚きだった。
カーリクスは見てはいけないものを見たかのように背を向け、ソファの方へ歩いていった。
『いや…いや….』
彼は混乱していた。
二人が幻覚を見ている間、レリアはクラバットやズボンの裾を整えてきちんとした姿勢でじっと立っていた。
「このくらいでいいでしょう。これで証明になりましたか?」
レリアは淡々と言いながら再び席についた。
皇帝がどんな幻を見ていたかは分からないが、ともかく堂々と立ち向かうしかなかった。
「………」
ペルセウスは黙っていた。
自分の誤りを認めた。
しかし、目の前にいる「レイモンド・ケイン」の耳の形や雰囲気が、あまりにも亡き妻に似ていて……。
衝動的に抱いた考えを口に出してみると、実のところ理屈が通らなかった。
あの日見た女性の瞳の色は、妻とそっくりな緑色だった。
しかしレイモンド卿の瞳は淡い茶色だ。
瞳や髪の色を変えることのできる魔法使いは滅多にいない。
目の前のレイモンド卿が魔法使いであったなら、女性に関する報告がないはずがなかった。
優秀な魔法使いであるロミオ皇子が魔法で助けてくれたという話も、やはり不自然だった。
ローズベリー帝国と我が国は長年にわたり冷戦状態だったのだ。
ロミオ皇子も、戦地から帰還して間もないのに、自分に味方する理由などあるはずがなかった。
さらに、彼が錬金術師である可能性も否定された。
錬金術師は魔力に似た雰囲気を持っているが、レイモンド卿からはそのような気配はまったく感じられなかった。
――つまり……すべては自分の過度な妄想、あるいは被害意識の誤解だったかもしれないという疑念だった。
最近はさまざまな問題で頭が混乱して、うまく判断できなかったようだ。
ペルセウス皇帝は率直に謝罪した。
「侮辱してしまってすまない。どうやら何かを誤解していたようだ。」
レリアは心の中で安堵のため息をつきながら、この状況が少し気まずくて悔しいような気持ちだった。
「……似たような疑いはよく受けてきました。わりと性的な意味のある疑いも。」
「遠慮せず言え。望むことを言いなさい。」
「……」
レリアの目が輝いた。
もしかしたら、これはチャンスかもしれない。
『ルートの聖物を手に入れるチャンス。』
レリアはゆっくりと口を開いた。
カーリクスとともに皇帝の部屋を出ると、すぐ近くの柱に背を預けているルートが見えた。
彼は女性の姿をしたレリアを待っていたようだ。
レリアはその後ろに続いて出てきたカーリクスに言った。
「カーリクス様、ご一緒してくださってありがとうございます。先に行ってください。すぐに後を追います。」
「え?あ、あ、ああ……。」
カーリクスは魂が抜けたような表情だった。どうしてだろう?
レリアが少し前に皇帝にアイテムを使っていたとき、カーリクスは応接室のソファに座っていたと認識していた。
だから、彼があの中で起きたことを聞いたり、見たりしたとは想像もしなかった。
いくらカーリクスが単純だとしても、まさか皇帝との会話をすべて聞いたのに礼儀も知らないとは思わなかった。
「どうされたんですか?カーリクス…兄さん?具合が悪そうに見えます。」
『まさか…』
しかし、もしかしたらということもある。
まさか彼もあのアイテムの影響を受けたのではと思い、尋ねようとすると、カーリクスは手を振った。
「…いや、急に少しふらっとして。」
その言葉に、レリアはぎょっとした。
再び副作用が出たのかと思い、不安になった。
「帰って具合が悪くなられたら、私がお渡しした薬を必ず服用してください。では、失礼します。」
「……。」
その言葉を最後に、カーリクスはぱっと身を翻した。
まるで急いでいる人のように。
『本当にまた発作の前兆なのか?』
顔色が青白いカーリクスを見て、心配が押し寄せてきた。
まさに先日、夜に見た場面が思い浮かび、気分が良くなかった。
いつもひとりで、あんなにも苦しみを耐えてきたのに……。
レリアは早くルートの処理を終えて、カーリクスの元に戻ろうと思った。
そんな気持ちでルートに急いで近づいていった。
「……。」
ルートは依然として、仇を見つめるようにレリアをにらみつけていた。
もし視線だけで人を殺せるなら、自分はすでに死んでいたことだろう。
レリアは大きくため息をついた。
「ルート卿、お話ししたいことがあります。」
「……当然あるだろう。」
ルートは片方の口角を歪めて皮肉に笑った。
レリアがついてこいと言わんばかりに堂々と歩き出すと、ルートは目を逸らしながらその後をついていった。










