こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

86話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 帰郷④
翌朝早く、レリアとオスカーは急いで領地へ向かった。
遠くにスフェリオン城の塔の先端が見えた。
レリアの心臓が激しく高鳴った。
祖父、祖母、叔父や叔母、ベッキーまで。
照れくさいけれど、自分を待ってくれている大切な家族がいるという事実に、胸がいっぱいになった。
領地の境界線の検問所を通過する直前だった。
レリアはオスカーに何度も言ったことをもう一度言った。
自分を「レオ」と呼ばないでということだ。
同じことを何度も繰り返して言うのが面倒になるほどで、オスカーの表情にも苛立ちが見えた。
「分かったから、もう言わなくていい。俺のそばで逃げようなんて考えさえしなければ、お前を困らせたりはしない。」
「…ここは私の家なのに、どこに逃げるっていうのよ。」
オスカーの鋭い返答に、レリアはしばらく沈黙した。
あれこれ対処するのに気を取られて忘れていた。
城に入って家族にどう説明すべきか、またオスカーにはどう弁明すればいいのか考えると、頭が混乱してきた。
そんな中、門番は祖父から預かっていた印章を見せると、すぐに腰をかがめて門を開けてくれた。
レリアは緊張しながら本館の建物へと馬を進めた。
本館の入口に近づくと、オスカーが先に馬から降り、レリアに手を差し出した。
レリアはしばらく呆然としたが、その手を握って馬から降りた。
使用人が馬を引いて厩舎へと向かい、すぐに本館の扉が勢いよく開かれた。
「レリア!」
「おじいさま!」
最初にレリアを迎えたのは祖父だった。
領地の境界線を越えるときには連絡を受け取れず、城門まで駆けつけてやっと知らせを聞いたのだろうか。
シュペリオン公爵は慌てて出てきた様子だった。
知らせを聞いて慌てて飛び出してきた祖父のことを思いながら、レリアは低い階段を何段も駆け上がった。
「おじいさま……」
「そうだ、我がレリア。ああ… 来たのか、お前だったのか。やっぱりお前だ。そうだ…!」
シュペリオン公爵はレリアの頬を両手で包み、顔をじっと見つめた。
思った以上に感激してくれる祖父の姿に、レリアは思わず泣きそうになった。
祖父の態度は、まるで永遠に戻ってこないと思っていた人が現れたかのように驚き、そして喜ぶ様子だった。
レリアの目に溜まっていた涙がこぼれた。
「もちろん来ましたよ。すごく時間がかかりましたね、私……」
「いや、もういいんだ。来てくれただけで、十分だ……」
涙声でそう言うと、侯爵は孫娘を抱きしめ、頭を撫でた。
しわだらけの頬に熱い涙がこぼれ落ちた。
そのときだった。
そんな侯爵の肩越しに、誰かが激しい声を上げながら駆け寄ってきた。
「レリア!」
祖父の腕から離れて振り返ったレリアは、わっと泣き出した。
「おじさま…!」
「……」
6年ぶりに再会したカリウスは、やはり立派な姿だった。
少し痩せたのか、頬がこけていた。
レリアを見つめる彼の表情は、呆然としていた。
涙をこらえるために表情を保とうとしたが、涙は目尻から溢れて鼻まで伝った。
レリアは両腕を広げたおじの元へ走り、しがみついた。
まるで10歳の子どものように、しゃくりあげながら泣き声をあげた。
幼い頃からそうだった。
レリアは祖父母の前ではむしろ大人ぶることが多かった。
しかし叔父たちの前では、年相応の子供のような一面が時々顔をのぞかせた。
そのことを知っていたカリウスやシュペリオン公爵は、なおさら胸が痛んだが、レリア自身はその気持ちに気づいていなかった。
「我らが姪っ子、顔を見せてごらん。いつの間にこんなに大きくなって、大人になったんだ?あんなに小さかったのに!」
「……」
レリアは無理に微笑みながら笑った。
カリウスはいつの間にかすっかり大きくなったレリアを見て感心したように笑っていた。
しかし心の中では、火に焼かれるような痛みが込み上げていた。
6年ぶりに再会したレリアは、死んだ姉にそっくりだったのだ。
『幼い頃も成長するにつれてますます似てくると思っていたけど、こんなに似るとは…』
未だ亡くなった姉を忘れられず、その分だけ胸が締めつけられた。
『姉さんが生きていてこの子の姿を見られたらよかったのに…』
カリウスは唇をかみしめながら、レリアの頬を撫でた。
この子にもう一度会うために、地獄のような戦場を耐えて戻ってきたのだ。
亡き姉の代わりに、この子を一生安全で幸せに守るために。
だが、何かがおかしかった。
6年ぶりに再会したレリアの姿は、驚くほどエリザベスに似ていたが、外見だけをすっと通り過ぎたような…まるで別人のように以前とはまったく違う身なりだった。
いったいこの服はなんなんだ?
カリウスは濡れた袖で涙を拭いながら、目をぱちぱちさせて尋ねた。
「でも、髪の毛はどうしたんだ?」
「……」
涙をぬぐっていたシュペリオン公爵も、ようやくレリアの服装に目を向けた。
カリウスの言う通り、「どうしてこんな髪型に?」という疑問が自然と湧き上がるほどの格好だった。
背中まであったレリアの長い髪はすっかり短くなっていた。
騎士たちのように整えられた短い髪だった。
「何が……」
カリウスとシュペリオン公爵は同時に視線を下げてレリアの服装を見つめた。
貴族の息子のような顔立ちが重なって見えた。
レリアはきちんとした身なりだったが、明らかに男性貴族の衣服を着ていた。
「それは……だから……」
ちょうど涙を拭いたレリアが戸惑いながら弁解しようとしたその時だった。
トクトク。
レリアが駆け上がってきた階段を、遅れて誰かが登ってくる足音が聞こえてきた。
しばらく彼らの再会を見守っていたオスカーが、険しい表情のまま階段を上がってきていた。
その目には何かを必死に押し殺しているような光があった。
オスカーを見つけたシュペリオン公爵の目が細くなった。
一方で、カリウスの瞳孔は王宮の門のように大きく開かれた。
「お前、まさか!」
オスカーを見分けたカリウスは言葉を失い、しどろもどろになりながらも驚いていた。
レリアは当然のように自分のそばにやってくるオスカーの腕をつかんだ。
祖父や叔父たちにオスカーを紹介しようと思っていた。
「友達」だと。
ここに来る前に、オスカーにもそう紹介すると決めていた。
だが、レリアがオスカーの腕をつかむ様子はカリウスやシュペリオン公爵に誤解を招くには十分だった。
公爵はすぐさま首の後ろをつかまれた。
カリウスは同時に「ああっ!」と幽霊でも見たかのように叫んだ。
「おじいさま、叔父さま…どうしてそんなに…」
「だめだ、レリア!男を連れてくるなんて!まだ婚約も、結婚も全部早い!だめだ!」
「レリア!あの男はだめだ!あのチンピラはだめだ!叔父さんは反対だ!」
誤解した二人の激しい反対に、オスカーの目元が微妙にピクピクと震えた。
レリアは慌てて手を振った。
「あ、違います!そんなのじゃありません!私の友達です。ただの友達です!」
「…友達、だと?」
シュペリオン公爵の表情はすぐに和らいだ。
だが、カリウスは違った。
彼は依然として険しい表情で叫んだ。
「ありえない!!あんな奴とどうしてお前が友達なんだ?!」
「……」
レリアはオスカーをじっと見つめた。
疑わしい点は多いはずなのに、オスカーは全く動揺した様子を見せなかった。
あるいは、叔父とオスカーが知り合いだとは思っていなかったのかもしれないが――
『オスカーがスパイだって?』
もちろん…そう思われるのも無理はない。
実際、レリア自身もここに来る道中、似たようなことを何度も考えていたのだから。
だが幼いころのオスカーは、まさに天使だった。
叔父もまた、オスカーが幼い頃に会ったはずだが、
それでも「スパイ」だなんて言葉はあまりにもひどすぎるように思えた。
レリアはとりあえず中に入って話をしながら、叔父をなだめた。
・
・
・
「お嬢様!」
城の中に入ると、階段から急いで駆け下りてきたベッキーが泣きながら飛びついてきた。
「ベッキー!」
レリアはベッキーとも再会の抱擁を交わした。
「お嬢さま」という言葉に驚いたオスカーの表情を見ようとしたが、走ってきてしがみついてくるベッキーのせいでそれどころではなかった。
一気に泣き出したベッキーは、抱きしめられたまま涙を流しつつ、すぐさま質問を投げかけた。
「ねえ、お嬢さま。この方は誰なんですか?すっごく素敵!まるで本物の貴族の男性みたいです!」
「ベキー…それは……」
ベキーをなだめながらオスカーの様子をうかがったが、彼の表情はいたって冷静だった。
まるで驚いていないようだった。
むしろ驚いて「どういうことだ?」と目で問いかけてきたのは、レリアのほうだった。
レリアがぱちぱちと目を瞬きして彼を見つめたが、オスカーは何も言わなかった。
そのとき、ベッキーが遠慮がちに尋ねた。
「でも、どうしてそんな格好をしてるんですか、お嬢様?」
カリウスとシュペリオン公爵もまた、答えが気になるようにレリアを見つめた。
「…ただ…領地に来る途中、この服が楽そうで。」
レリアはとりあえずそう説明したあと、もっと大切なことを尋ねた。
「おばあ様はどこにいらっしゃいますか?」
「あの…」
祖母の話題を切り出すやいなや、公爵のの表情に心を奪われた。
レリアは胸がドキッとするような感覚に驚いて尋ねた。
「どこにいらっしゃるんですか?まさか、もっと悪くなられたんですか?」
「…今、アティアスと一緒にテレン地方の別荘にいる。」
テレンはシュペリオン領内の小さな村で、避暑地として知られている場所だった。
『避暑地に移るほどなら、あまり状態が良くないってこと?』
祖父の腕をつかみ、再度答えを求めると、公爵はためらいながら答えた。
「そんなに悪くはない。少し悪くなっただけだ。あまり心配するな。お前が来たから、すぐに城へ戻るよう連絡しなければ。」
そう言う祖父の手をしっかり握りながら、レリアは言った。
「私が祖母の治療薬の材料を手に入れてきたんです。」
「本当か?」
シュペリオン公爵は半信半疑ながらも期待に満ちた目で尋ねた。
実際、彼の妻の状態は深刻だった。
レリアが首都に旅立って以降、彼女の体調は急速に悪化していた。
いまでは夫の顔さえ認識できないときが多かった。
そのため、アティアスとともに療養のために送り出したのだが、レリアが治療薬を持ち帰ったとは――。
実は半信半疑だったが、彼はレリアの言葉を信じたかった。
しかし治療薬が効果なくても、レリアを責めようとは思わなかった。
それはただ運命として受け入れるしかなかった。
「心配しないでください。」
レリアは不安げな公爵の気持ちを察して、しっかりと手を握った。
いつの間にか、祖父を安心させる言葉をかけられるようになった自分に気づき、シュペリオン公爵の目が再び潤んだ。
「おじさまは……?」
レリアは不安そうに問いかけながら考えた。
『まさかもう戦闘が起きたわけじゃ……?』
原作では、伯父であるジェノンは、光竜との戦いで命を落とす──その後、異教徒の軍と戦って命を落とした。
光竜が死んでから間もないこの時期、異教徒が現れたという報せはまだ届いていなかった。
まさかあの戦が起こったとは思えないが、不安な気持ちを拭えなかった。
「神殿から領地にお達しが届いたので、神殿に使者がいるはずだ。明日には来るだろう。」
祖父の言葉に、レリアは「ふぅ」と小さく息を吐いた。
そしてその後、応接間で叔父と祖父の手をしっかり握りながら、いくつかの話を交わした。
時が少し流れた後、祖父は「私の気を少し紛らわせてくれ」と言い、レリアにこう言った。
「ここまで来るのは大変だったろう。部屋に戻って休みなさい。夕食の支度ができるまで少しでも疲れを取っておくといい。体をきれいにしないとね。」
「はい、おじいさま。」
温かい水で洗いたいという気持ちが強かったレリアは、ためらわずに頷いて立ち上がった。
シュペリオン公爵は、無口だったオスカーにも客間を用意するよう命じた。
二人が応接室を出て行った後、シュペリオン公爵は目を細めたまま息子に尋ねた。
「あの男、誰だ?」
カリウスは渋い顔をしながら答えた。
「フレスベルグ帝国の皇太子です。この地を滅ぼしに来た奴ですよ。」
そう言いながらカリウスは自分の頭を指先で軽く叩き、強調するようにした。
「頭が?なぜ?」
「とても言葉にできないやつです。少し前、フレスベルグ帝国の皇帝が半ば失脚したという知らせがありましたが、明らかにあの男の仕業でしょう。」
「何だって?」
シュペリオン公爵が驚いて振り返ると、カリウスは小声で続けた。
「完全にイカれてて、無礼で野蛮なやつです!うちのレリアと親しくさせてはいけません!」
「でも裏には何か事情があるのかもしれないだろう…。親だからってみんなが同じ親とは限らないさ…。」
「それでも親を無能者にしたやつなんです!前の父がクズだったとしても、あんなことはしなかったはずです!!」
この息子がまた…
シュペリオン公爵は眉をひそめながら問いかけた。
「では、もしレリアがペレスエウスのやつを無能者にしたとしても、非難するのか?」
「いいえ、むしろ褒めますけど?」
「………」
「それとこれは明らかに別の話です、父上。」
カリウスはまるで情け容赦がないように、冷たい目で父を見つめた。
「…ふう。」
シュペリオン公爵は言葉を失い、ただため息をついた。
カリウスはそんな父を呆れたように言った。
「どうしてレリアにそんな言葉を使おうと思ったんですか? 父上は本当に…少しは考えて発言してください。」
「この野郎、しかし!」
結局、カリウスの額には大きなこぶができた。
カリウスは痛む額を押さえながら、「父上の力はまだ健在だな」と思った。
『実際、6年ぶりに戻って老いた父を見て心が痛んが…よかった。』
彼は内心ホッとしながらも、こめかみの血管がぴくりとした。
しかしカリウスの考えとは違い、シュペリオン公爵の健康は思わしくない状況だった。
健康が悪化したのは、レリアが領地を離れてからだった。
何を食べても味がせず、毎日ずっと沈んでいて憂鬱な日々を送っていたせいで、体も心も弱っていった。
実のところ、シュペリオン公爵はレリアが二度と戻ってこないかもしれないとも考えていた。
ペルセウス皇帝がいくら自分の子だと認識しなくても、親は親だ。
祖父としてできる限りの愛情を注いで育ててきたつもりだったが…やはり親が与える情には敵わなかったのだ。
だから、レリアが遅れてでも両親を探しに旅立ったのだと考え、たとえ二度と戻ってこなくても、元気で幸せでいてほしいと願うだけだった。
こんなに早く戻ってくるとは!それも男の腕に抱かれ、変な奴まで連れて帰ってきたが、それが多数ではなかった。
『元気に戻ってきた』ことが大事だ。
「ところで、父上。フェルセウス皇帝には永遠に明かされないご計画でしょうか?」
カリウスが尋ねると、公爵の顔が歪んだ。
「話したところで、あいつが信じると思うか?」
「でも、すべてを知っている乳母の行方さえ、まだ見つかっていないと聞きましたが。」
「………」
公爵が黙っていると、カリウスはもうどうにでもなれと言わんばかりの口調で言った。
「でも…どうなるかなんて結局は、ペレスエウス皇帝が直接確かめに来るまで分かりませんよ。皇帝が気づいたら、すぐに皇城に連れて行かれるでしょう。」
公爵は重いため息をついた。
実はこの問題について悩み続けてすでに数年になる。
レリアはどう見ても私の母に瓜二つの、美しいお嬢様に育った。
証拠が何であろうと、実際には何の証明も必要なかった。
エリザベスが好んで着ていた白い服だけを身にまとって現れたとしても、ペレスエウス皇帝はすぐに自分の娘だと気づくだろう。
『レリアが幼かったころならともかく、今となっては他の証拠など何も必要ない…』
レリアはそれほど私の母に似ていたのだ。
そんなレリアを見ていると、公爵は時折、罪悪感に襲われた。
レリアのためにも、フェルセウス皇帝に事実を知らせるべきではないかと思った。
『天の縁を断ち切ることはできないのだから…』
しかし、フェルセウス皇帝の所業によって、その思いはすぐに消え去った。
さらにレリアが皇城で苦労しながら育ったことを思えば、あの男を殺しても胸のつかえは取れなかった。
愛しい娘まで死なせたあの男が、今度は孫娘まで送り込んで何をさせようというのだ?
『どうせ実の娘のように思っているという娘もいて、今では皇后との間に息子までできたというのか?』
エリザベスの実兄であるセドリックとデミアンがいなかったら、本気で縁を断ち切ってシュペリオン領を独立させていただろう。
まさにそのタイミングでカリウスが関連する話を切り出した。
「セドリックとデミアンはどうするつもりですか、父上?兄さんを都に送った方が良いのではないですか?」
「…それも考えているところだ。」
ペレスエウス皇帝と現在の皇后の間に子が生まれてから、皇后側の勢力は都の貴族たちを扇動していた。
『今こそ真の正統性を持った皇太子が生まれたのだ』というのが彼らの主張だった。
再婚した皇帝夫妻の間に遅れて生まれた子どもを祝う言葉のようでもあったが、それはセドリックとデミアンを無視する発言でもあった。
すでに成人した皇子が二人もいるというのに。
そのような言葉が首都の新聞にまで載るとは。
実際、これまでセドリックとデミアン皇子の立場は揺るぎなかった。
外戚(母方の実家)であるシュペリオンが宮廷に留まって助けになる必要もまったくなかったほどだ。
しかし最近では、雰囲気が徐々におかしくなり始めていた。
皇帝が再婚してから、現皇后の一族は春風に帆を張った船のように急速に勢力を増していた。
そして今や、母屋(本家)を脅かす巨大な枝葉となった。
その彼らは次第に一線を越えつつあった。
まだ赤ん坊である皇子を皇太子として冊封しようという動きまで見られるとは、驚愕すべき情勢だ。
問題は、それを分かっていてもペレスエウス皇帝が何の対応もしないということだった。
シュペリオン公爵は怒りを抑えて歯を食いしばった。
しかし、まだ時間はあった。いくら赤ん坊を皇太子にしようとしても、それは簡単なことではない。
彼らに反対する勢力もまた、現在は強固な力を持っているため、まずは状況をもう少し見守るのが良い。
当面のところ、妻の健康とレリアが戻ってきたという事実の方が何より重要だった。
公爵はため息をつきながら言った。
「まずは様子を見よう。」
「…はい、父上。それでは私はこれで。レリアに渡そうと思って買ってきたプレゼントがあるんです。」
「プレゼント? 戦争が終わって戻るときに、プレゼントまで買ってきたのか?」
「首都で買いました。レリアと道が分かれるとわかっていたら、もっと首都に留まったでしょうに……お父さんこそ、ちゃんと連絡してくださいよ。」
「それで、そんな奴が父親のプレゼントは一つもないってことか?」
「まったく……その年で物欲とは。僕が無事に戻ってきたことこそが、お父さんへのプレゼントですよ。」
その言葉に、シュペリオン公爵は高笑いしたかと思うと、すぐに溜息をついた。
カリウスはその様子を見ると、ばたばたと応接室から逃げ出した。










