こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

110話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 窮地②
皇帝宮。
フィローメルはエレンシアが視野から消えると、物陰から出てきた。
実は執務室の前まで行ったが、エレンシアの叫び声が聞こえたので近くで待機していたのだ。
大体聞いているだけでも、二人の間の空気は険悪だった。
『このくらいなら、うまく二人の仲を裂けたみたいね。』
さらに偽のエレンシアの足まである程度縛りつけた。
これもすべてカーディンの手柄だった。
本物のエリーを見つけ出すために協力してくれたのが彼だから。
エリーはエレンシアの命を受け、この場所を離れる前に皇宮の通信所から故郷の家族に「すぐ帰る」と連絡していた。
そして偶然にも、エリーが使った薬を届けたのは魔法使いのカーディンだった。
彼は帰り際にも「皇女様が特別にくださった休暇がどうのこうの」という話を、わざわざフィローメルに知らせにやってきたのだった。
ちょうどその時、フィローメルはエミリーから気になる報告を聞いたばかりだった。
「皇女が何やら変な女を連れてきたんですよ!」
エレンシアは、理由は分からないが、その女性を離れた部屋に閉じ込めて、侍女たちには口外を禁じていたと言った。
フィローメルが「他に気になる点は?」と尋ねると、エミリーは記憶をさらにたどった。
「……そういえば。そういえば昨日あたりからエリーが急に見えなくなりましたね。ああ、エリーはあの皇女様のそばで働いている侍女ですよ。」
ちょうど現れた女性と同じ頃に姿を消した侍女。
単なる偶然なはずがなかった。
カーディンが持ってきた情報でフィローメルの疑念はさらに強まり、エリーは故郷に帰ろうと門前にいたところをジェレミアに捕まっていた。
彼は兄の仕事を指示しながらも、どこか面白がっていたのだが……。
『よく考えてみると、じっと座っているだけで皇宮内の雑多な事情を把握できる役職だったのね。』
通信席を持ち歩く貴族とは違い、宮人たちは通信をする際には通信所を利用しなければならなかった。
だから彼らが去った理由は、まさにカーディンの情報だった。
エレンシアから身辺の安全を保証してもらう条件で、エリーは皇帝の前で真実を告白した。
エリーを移動させる作業は予想以上にスムーズに進んだ。
彼女はフィローメルを見つめながら、控えめに言った。
「そのときはちゃんとご挨拶できなくて、わざわざ来てくださりありがとうございました。」
何を言い出すのかと思ったら、ケルトン伯爵領で虐待されていた侍女が、実はエリーだったという。
ケルトン伯爵領で拳を振るったのもカーディンであり、今回の件は完全に彼のおかげだった。
フィローメルが「ありがとう」と言うと、彼は目を輝かせて喜んだ。
『だけど……』
すべてがうまくいったはずなのに、彼女の気分はあまり晴れなかった。
「おいで、フィローメル。」
執務室でフィローメルを迎える皇帝を前にすると、気分はさらに沈んだ。
「お久しぶりです、陛下。」
世界樹に会うために旅立つ前、最後に食事を共にしたのが彼との最後の顔合わせだった。
席についたフィローメルを見つめながらユースティスは言った。
「本当に君なんだな。」
「……はい?」
「別に。」
フィローメルは何か分からない声をあげたが、彼はそれ以上何も言わなかった。
フィローメルはただうつむき、考えを巡らせていた。
『本物って?じゃあ私も偽物なの?』
偽物はフィローメルではなく、彼が先ほど会ったあの女だった。
自分がユースティスの本当の娘ではないと信じている、その女。
だからこそ、フィローメルの気持ちは晴れなかった。
偽物のエレンシアは「お父さんは私を信じている」という妄言を吐き、去っていった。
皇帝は本当の娘が自分を恨んでいると思っているのではないか。
「最近はどう?」
機嫌をうかがうように尋ねる彼の姿は、なんだか寂しそうに見えた。
「陛下のおかげで、日々忠実に過ごしております。」
「私のおかげだなんて、とにかく元気にしているなら幸いだ。」
彼と日常的な会話を交わしながらも、フィローメルは心の中で悩んでいた。
『本当はもう少し状況を見てから話そうと思ってたのに……。』
皇帝の頭上に浮かぶ赤い幕に目がいった。
『92%』
気づかぬうちに好感度の数値が上がっていた。
『こんなものを見ると、気持ちが弱くなってしまう……』
好感度はフィローメルに対して、かすかな安堵感を示した。
自分がエレンシアの正体を明かしても、皇帝はきっと聞き入れてくれるだろうと思ったのだ。
結局フィローメルは当初の計画を放棄し、音声が入った袋に手を伸ばした。
トントントン――。
すると、急いだようなノックの音が響いた。
「失礼します!急に申し訳ありませんが、お伝えすべきことがあります!」
外から、プラン伯爵の声が聞こえた。
その声は深刻な気配を漂わせていた。
承諾を求めるユースティスの視線を感じながら、フィローメルは袋を引き寄せた。
「何事だ?」
皇帝の問いかけに、彼は深刻な表情で答えた。
「乳母が亡くなりました。」
フィローメルは驚愕した。
皇帝の額にも皺が寄った。
「原因は?」
「状況から見て事故のようですが、当時唯一乳母と一緒にいた皇女殿下から何もお話がなく、詳しくは……。」
「エレンシアが?」
「殿下は大きな衝撃を受けたのか、ずっと——」
「……分かった。もう行っていい。」
フィローメルは混乱した頭を回転させようと努力した。
幼い頃、たくさんの時間を共に過ごした存在が死んだのは、奇妙な感覚だった。
だが、今は亡き乳母のことを思い返すべき時ではない。
『乳母が事故で死んだ?』
自分の直感は、これは単なる事故ではないと告げていた。
もしそうだとしたら、いったい何なのだろう。
エレンシアはぷりぷり怒ったまま戻ってきた。
エミリーの話によれば、彼女は普段からおしゃべり好きな乳母をよく叱っていた。
『そして、乳母が死んだとき、一緒にいた人物は…エレンシアだった。』
事故の可能性を消せば、答えは一つしか残らなかった。
「フィローメル、こうなった以上、私は行かねばならぬ。」
「ちょっと待ってください!」
フィローメルは席を立ち、皇帝の衣の袖をつかんだ。
この瞬間、エレンシアの真実を暴露すべきだと感じた。
「陛下に申し上げたいことがあります。」
「急ぎでなければ後ほどにしては……」
皇帝は言葉を止め、フィローメルを見つめた。
琥珀色の瞳は切実な光で揺れていた。
その昔、大雨が滝のように降ったある日。
あの子のこんな目を無視したことを後悔したことがあった。
皇帝は再び席についた。
「そうか。話せ。」
西宮のある部屋、突然用意された皇女の臨時の居所。
「ひっく……ひぃ……」
エレンシアはそっと周りの反応を確かめた。
「皇女殿下、こんなに泣かれては体を壊してしまいます。」
「どうかお水だけでもお飲みください。」
侍女たちは心配そうな顔で彼女を支えた。
エレンシアは心の中でほくそ笑んだ。
やはり自分は天才だ。
『危機をチャンスに変えるなんて!』
皆、乳母の死を目の前で目撃した皇女を同情していた。
これまで乳母を好きなふりをしてきたことが、こういうとき役立った。
あとはただ一人が来ればいい。
だが彼女が待っているその人は、まだ姿を現さなかった。
『ポラン伯爵が行ってから随分経つのに、なぜ来ないの?』
その時だった。
「陛下、陛下がいらっしゃいました。」
侍従の言葉とともに、皇帝が部屋に入ってきた。
「お父様!」
エレンシアは走り寄り、皇帝の腕に飛びついた。
青い瞳から涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「どうしたらいいの?乳母が……乳母が死んだって……。」
彼女は泣きながら言葉をつないだ。
「ひっ、私があんな場所に置いちゃいけなかったのに……全部私のせいです。」
皇帝は冷徹ながらも自分と会話を交わしたばかりだったが、衝撃を受けた娘を突き放す理由はなかった。
『自然に同情心が芽生えるだろう。』
山査子の件を公表するか、彼女の財産を凍結するという決定が下されてもおかしくなかった。
いや、そうさせなければならなかった。
だが。
『あれ?』
皇帝を見上げたエレンシアは体を強張らせた。
娘に向けられたその目の光から、冷たさが感じられた。
いつものように叱責や問い詰める感じではなく、それよりもさらに冷たい何か。
こんなのは初めてだった。
「お、お父様……怒っていらっしゃるんですか?私がさっきちょっと行き過ぎたことを言ったのなら謝ります……。」
「……。」
皇帝は何の躊躇もなく、エレンシアがもともと使用していた処所に向かった。
彼女は不安を覚えながらも彼の後をそっとついて行った。
部屋にはまだ乳母の遺体がそのまま残されていた。
腫れた目を見たエレンシアの腕に力が入った。
彼女はユースティスの腕を掴んだ。
「お父さん、乳母があまりにもかわいそうです。冷たい床にあんなふうに……目を閉じさせてあげてください。ね?」
棺でも祭壇でも何でもいいから、早くあそこから連れ出してほしいと思った。
皇帝は感情を読み取るのが難しい声で返事をした。
「心配するな。あの者の無念が残らぬようにしてやる。」
エレンシアがそれがどういう意味か聞こうとする暇もなく、皇帝は隣にいたポーラン伯爵に命じた。
「責任をもって死亡の原因とその経緯を明らかにしろ。」
「謹んでお受けします。」
続いてポーラン伯爵は侍従たちに現場を封鎖するよう指示した。
エレンシアが慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!乳母がどうやって死んだのか、私、はっきり見ました。今から説明を……。」
皇帝が彼女を制した。
「お前の説明とは別に調査は進められる。」
「何の調査ですか?」
「人が死んだのだから、当然調査しなければならない。事故か事件かを区別するためにでも。」
ダメだ。どんな手を使っても止めなければならない。
自分は犯罪の専門家ではない。
調査が行われれば、事故ではなく殺人であることが明らかになる可能性が高かった。
「私が事故だと言っているのに、なぜ信じてくれないのですか!」
「調査を止めたい特別な理由でもあるのか?」
「そ、そんなのありません!ただ私が疑われるのが怖いからです……。お父さん、お願いですから、こんなことしないでください。」
ユースティスは切なそうに涙を流す彼女を見つめた。
「当分の間、精進するように。私はこれで失礼する。」
その瞬間、エレンシアは皇帝の頭上を見上げた。
赤い幕が威圧的にピクピクと震えた。
『80%』
今まで絶対にその下に落ちることのなかった好感度の数値、言うなれば最後の線。
『79%』
『78%』
『77%』
その線が崩れた。
南宮、国賓館。
フィローメルはユースティスの前で乳母の死亡の詳細と犯人がエレンシアである可能性についての推測を伝えた。
「それを聞いた皇帝の反応はどうだった?」
ジェレミアの問いに、フィローメルは皇帝宮での出来事を思い出した。
彼女はユースティスに神の書の一部を数回朗読したことを告白した。
予想通り、皇帝はその件についてフィローメルを咎めることはなかった。
むしろ、すでに知っていたような様子だった。
皇帝も神の書を読んで、他の世界から来た使者の存在を知っているようだった。
侵入者については知っていたので、話は早かった。
フィローメルは彼に、侵入者がエレンシアの体に入ったという事実を知らせ、録音石に録音された会話を聞かせた。
皇帝は混乱に陥ったような声でこう言った。
「……私に少しだけ考える時間をくれないか。」
理解できた。
フィローメルも彼がすぐにこの衝撃的な事実を信じるとは思わなかった。
しかし、乳母の死を確認しに西宮に行った後では、彼の心に潜んでいた疑念が一層強まっていた。
今日は東の塔へ向かった。
カトリンにエレンシアについて聞くためだった。
『カトリンは、エレンシアがある日突然変わったと言うだろう。』
皇帝がカトリンを嫌っているとしても、十数年娘を育てた者の言葉を無視することはできないだろう。
フィローメルは確信した。
そう遠くないうちに、皇帝の心の中での自分への疑いは完全に消えるだろうと。
「時間が少し必要に見えますが、いずれ真実を認めることになるでしょう。」
そうなれば、皇帝の暗黙の許可のもと、エレンシアを制圧できるだろう。
ジェレミアが口を開いた。
「順調に進んでいるな。皇帝は思ったよりお前を信頼しているようだ。」
フィローメルはなんとなく気まずくなった。
「そうですか?皇女として一生懸命生きてきた甲斐がありますね。」
レクシオンが尋ねた。
「ところで、その日記帳に火の手は残っていましたか?」
彼はフィローメルが手に持っているエレンシアの日記帳を指差した。
「陛下にお渡ししようと思って。これもエレンシアの変化を示す証拠ですから。」
「でも、突然使う文字が変わったんじゃないですか?」
「それに本当にエレンシアが残した痕跡でもありますし…。これを見ると、陛下でも力が…。」
その時、鋭い声が聞こえた。
「考えすぎじゃない?」
ルグィーンは不安そうな表情で、じっとフィローメルを見つめた。
「お前がそこまでして、その件にこだわる理由があるの?」
「いや…ただの日記帳一冊を持って行っただけです。」
「ふん。」
ルグィーンは不満げに、子供のようにコケを払いながら後ろを向いた。
『ナサールに関することもそうだし、最近は鋭いな。』
しかし理解できた。
ルグィーンが正体を隠し、猫として生活してからもう四ヶ月が過ぎようとしている。
少しはうずうずするだろう。
カーディンも『ああ、モンスターを捕まえたい! 戦いたい!』とよく独り言を言っていたし、ジェレミアも密かに短剣を磨いていた。
レクシオンを除いて三人とも体がうずうずしているようだった。
フィローメルはなだめた。
「もう少し我慢してください。全部終わったら、以前話したようにここを観光案内してあげますから。」
ジェレミアを市場に連れて行くとき、ルグィーンにそう言った。
彼は目を輝かせた。
「観光じゃなくて、他のことも望めば聞いてくれる?」
「私にとって不可能だったり無茶な願いじゃないなら、何でも聞いてあげますよ。」
「そういうことなら……」
そして続いたルグィーンの願いはすべて些細なことだった。
少し考えた彼女は、ためらわずにうなずいた。
「いいですよ。」
少し戸惑ったが、よくよく考えれば、聞いてあげられないことでもなかった。
「本当?」
ルグィーンは繰り返し尋ねた。
「ええ。その間、私のために尽くしてくれてありがとう。そして、ここでの務めもほとんど終わったでしょうから。」
「よし!じゃあ、僕が望む方向でいこう。」
「希望する方向はありますか? まあ、具体的に決まったら教えてください。」
「わかった!」
そんなに嬉しいのだろうか。
妙な気分になった。
彼女はしばらくその件について議論している四人の補佐たちを見守りながら、ひび割れた口杯を撫でていた。
エレンシアは乳母を殺した。
だが彼女は過去にミドの名前をかけて乳母を自分が守ると誓ったことを思い出した。
『もしや……』
真実の口杯によって、彼の残した記憶を蘇らせたのではないか。
ついに、自分がそれほどまでに望んだ完全な真実が。
そう考えると、なぜか緊張してじっとしていられなかった。
「ルグィーン。」
「え?どうしたの?」
「別の岩の上で試してみたいことがあるんだけど、手伝ってくれる?」
決戦の瞬間が近づいてくる前に、関係する全てのことを一つ一つ確認しようとした。








