こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

111話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 窮地③
まずいことになっていた。
『何かがおかしい……!』
とても大きく道を誤っていた。
皇帝の命により、エレンシアは仮の処に一時的に半ば軟禁された。
指定された時間にのみ外出でき、その際も西宮の外には出られなかった。
その時、エミリーが皇女の目配せを受けて部屋に入ってきた。
エレンシアは本来、エミリーを排除する予定だった。
しかし皇帝が自分を注視している現状では無理だった。
結局、やむを得ず再びエミリーの世話を受けるしかなかった。
エミリーが憎らしかった。
「殿下、サシャ・ムリエル公女様がいらっしゃいました。」
「やっと来たか。すぐに入れと伝えなさい。」
監禁された初日、エレンシアは自分を解放してほしいと泣き叫び、気を失うまで泣き続けた。
『そんなふうに大声で泣き叫んで得た結果が、せいぜい一度の面会だった。』
それもキリアンやその側近のように簡単にはできず、いわゆる「友人」と呼ばれるような人たちにしか許されない特権だった。
その後現れたサシャに、エレンシアは赤裸々な状況を問いただした。
「人々の間でおかしな話が広まっています。皇女様が皇帝陛下の弱みを握っているのではないかと……。」
予想通りだった。
謹慎処分を受けたせいで、彼女はすべての予定をキャンセルしなければならなかった。
社交活動を活発に続けていたのに突然姿を消した皇女について、噂が立つのは当然だった。
さらに、エスカル家の上層部が暗殺事件に関して大規模な調査を受け、皇女もその件に関与しているのではないかという推測まで出た。
みんなこれまでエレンシアがエスカル家と親しくしている様子を見ていたからだ。
その疑いはもうすぐ確信へと変わる寸前だった。
二日後は皇帝の誕辰宴だ。
そしてエレンシアは出席を許されなかった。
父親の誕生日パーティーに娘が来ないというのは、それ以上に父娘の不和を示す証拠がどこにあるだろう。
エレンシアは爪で椅子の肘掛けを引っ掻いた。
「これも全部フィローメルのせいだ!」
皇帝は一瞬で態度を変えた。
明らかに自分の本当の娘かどうかを疑っているのだろう。
その疑念を植え付けた唯一の人物はフィローメルであった。
このままやられっぱなしでいるわけにはいかなかった。
皇帝の疑念を解き、自分への歪んだ関心を他の方向へ向けなければならなかった。
「相手が王なら、フィローメルの方へ。」
エレンシアは部屋に残っていたエミリーを見つめ、まるで心から喜んでいるかのような笑顔を浮かべた。
「ムリエル従者。」
「は、はい!」
「今、私が信じられるのは従者だけよ。私のお願いを聞いていただけますか?」
お願いの内容を聞いた従士ムリエルは驚いた顔をした。
「それは国法に背くことに……」
「難しいことじゃないじゃないですか。ただ人一人届けてくれればいいんです。」
「しかし……」
じれったくなったエレンシアは従士を睨みつけた。
「おい!そんな心構えでどうやって家門を支えるつもりですか?本当にがっかりですよ!」
「……で、殿下。」
「私が皇帝にさえなれば、ムリエル公爵家はかつての威光を取り戻せるんですよ!」
サシャは震えながらも最終的にエレンシアの頼みを引き受けた。
多くの侍女たちの中で、サシャを選んだ理由はこれだった。
彼女はロザンヌ事件で家門の勢いを失い、それを取り戻したいと思っていたのだ。
『切に望むものがあれば、何かしらの犠牲を払わねばならないのは当然のこと。』
サシャが去った後、エレンシアは深いため息をついた。
「なるべく良い方向に考えよう。」
乳母が亡くなってからすでに5日が過ぎた。
その間、何の連絡もなく、殺人の証拠も出てこなかったことから、無事だと思い込もうとした。
サシャがムリエルに頼んだことは単純だった。
エレンシアが以前に用意しておいた人物を皇宮に連れて入ればよい。
本来は高位貴族であっても、皇宮に出入りする者の身元が確認されていない者を入れるのは決して容易なことではなかった。
ティボルトですら偽エリーを連れてくるのに相当苦労した。
『でも、大規模な宴会が開かれる時は話が別だ。』
人が多い分、検問もやや緩くなる。
二日後、皇帝の誕辰宴。
その日が、エレンシアがこの危機を乗り越える最後の機会だ。
時は流れ、ついに皇帝の誕生日がやって来た。
エレンシアは侍女たちから嬉しい知らせを聞いた。
フィローメルも宴会に参加する意志を示したというのだ!
普段なら、そういった宴会の招待は断るフィローメルが、今回は異例のことだった。
『あの子はまだ若いのに、どんな恥をかかされるかも分からないのに。』
早くも自分が勝利したと思い込み、油断してしまった。
フィローメルがその場に出席するなら、エレンシアにとってはさらに好都合だった。
皇女は不敵に笑った。
「これは、かなりの舞台演出ができそうね。」
皇宮舞踏会場。
「皇帝の貴賓、レディ・フィローメルとエイブリドン小公爵様がいらっしゃいました!」
侍従の声とともに、フィローメルとナサールは建物の中に入場した。
二人の登場に参列者の間から小さなどよめきが起こった。
「お二人は婚約破棄したんじゃなかった?」
「また会うって噂、本当だったの?」
「小公爵様は国賓館の門の前をよくうろついてるらしいじゃない。」
フィローメルは少し気恥ずかしさを感じつつ、自分をエスコートするナサールにそっと寄り添った。
「ごめんなさい。こんなふうになるとは思わなくて、軽々しく言ったことを後悔しています……」
フィローメルは何も答えず、ただ彼の言葉にじっと耳を傾けた。
「もちろん、あの時は辛かったですが、今考えればあれは良い選択だったと思います。」
「どうして?」
「フィローメル様のおかげで、最初からやり直せた気がします。」
彼は会場を見渡し、出席者たちを一人ひとり見つめた。
「それに、私にとって大切なのはあの人たちではなく、あなたの家族です。これからもご家族のために尽力しますし、皇帝陛下にも誠意を示さなければなりません。」
気がかりだったのか……。
フィローメルはぱっと笑った。
「陛下は私たち二人の仲を応援してくださったんですよ。」
「……驚きですね。」
フィローメル自身も少し驚いた。
どうせ皇帝はこの件を持ち出せば、なぜ破談させろと言ったのかと叱責されるだろうと思っていたのだ。
それは、エレンシアの日記帳を渡すために皇帝宮に行ったときのことだ。
娘の日記をしばらく読んでいたユースティスは、過去を振り返るようにかすかに言った。
「そういえば、イサベラもけっこう食べさせたな。」
フィローメルはその横顔を見て、やはり日記帳を見せてよかったと思った。
そして他の問題について考えた後、そこを離れる前に、密かにナサールとの接触があったことを知った。
いずれにせよ、皇帝が知るのも時間の問題だった。
最初はつまらない表情をしていた彼は、表情を変えながらこんな質問をした。
「もしお前があいつとくっついたら、首都で一緒に暮らすことになるのか?」
「うーん……そこまで考えたことはないけど、もし私が公爵夫人になるなら、きっとそうなると思います。一年の半分はここに滞在しなければならないでしょう?」
一年の半分は首都で、残りの半分は領地で。首都に住居を構える貴族たちは大抵そう暮らしていた。
ユースティスは不満と満足が入り混じったような微妙な表情で言った。
「お前が本当に望む道なら、私は歓迎する。だが、いつでも気が変わったら迷わずその男を捨てろ。」
表情は怖かったが、フィローメルは皇帝の反応を「応援」と受け止めることにした。
だが、ナサールの考えは少し違ったようだった。
「……応援とは距離があるようです。絶対に見放されないよう、最善を尽くします。」
「緊張しましたか?心配しないでください。私たちの意見が一番大事です。」
フィローメルは彼の隣にぴったりと寄り添い、腕を組んだ。
「……フィローメル様。」
金色の髪の間から見える首筋が赤く染まった。
フィローメルも少し恥ずかしそうだった。
人前で堂々と親密な行動を取るのは初めてだった。
彼らを見つめる周囲の視線も変わった。
フィローメルとナサールの雰囲気がかつてよりも親しげだと気づいたのだ。
そのとき、侍従の声が高らかに響き渡った。
「帝国の太陽、皇帝陛下がお出ましです!」
それに続き、姿を現した皇帝に向かって、皆が礼を捧げた。
「陛下、三十六回目のお誕生日をお祝い申し上げます!」
「お祝い申し上げます。これからもどうか末永くご健勝でいらっしゃいますように!」
そして視線は自然と皇帝の隣の席に向けられた。
そこには誰もいなかった。
皇帝は一人でこの場に現れたのだ。
『皇帝陛下と皇女殿下の間に不和があるという噂は本当だったのか!』
貴族たちは最近、最も注目していた話題だった。
それに比べれば、フィローメルとナサールの再婚話は少しも騒がれることはなかった。
彼らは、もしかしたら皇帝が皇女の不在について言及するのではないかと待っていた。
「分かっていて楽しむことだ。」
だが、彼は短い一言だけを残して座った。
宴会の主人公だと思えるほどの堂々たる姿ではなく、むしろ厳粛で沈黙する空気を漂わせた。
やがて無言の集会が始まり、優雅な音楽が流れた。
「さあ、私たちも心ゆくまで楽しもう。」
フィローメルはナサールを会場中央へと導いた。
彼らは他の男女の間に入って、視線を合わせ、笑顔を交わした。
ナサールの言葉は正しかった。
これまで彼と婚約者として何度も踊ってきたが、今回ほど心が躍ったことはなかった。
二人はまるで初めて出会った人たちのように、ときめきを感じながら楽しく踊っていた。
あまりに夢中で体を動かしすぎたせいだろうか。
わずか一曲踊っただけでフィローメルは疲れてしまった。
「少し風に当たりませんか?」
フィローメルの様子に気づいたナサールは、すぐに端のテラスへと彼女を連れて行った。
二人が踊る人々の列を抜けてテラスに向かう途中、思いがけず一人の人物と目が合った。
騎士、キリオンだった。
エレンシアが謹慎処分を受けているため、一人で宴会に出席していた彼は、少し寂しげに見えた。
ナサールの顔が引き締まった。
「何を見ているんです?」
「気になりますね。まさにあそこを見ているのではないでしょうか。」
フィローメルは険悪な雰囲気を和らげるため、二人の男性の間に割って入り、キリオンに冷たく言い放った。
「おかしな人ね。ここがどこだと思っているんですか?」
「……ずいぶん失礼なことをおっしゃいますね。」
キリオンは眉をひそめ、フィローメルを見つめたが……。
『7%』
彼の頭の上に表示されている好感度は、なんと4%も上がっていた。
『もしかして……』
やはりキリオン・エスカルは悪口を言われると好感度が上がるタイプだった!
騎士でありながらサンサル草の独占計画に協力したという行動とは別方向に、無視し難い存在だった。
フィローメルは試しに他の言葉も投げかけてみた。
「あなたのお父様と一族は調査を受けている最中なのに、一人でのんきに宴会に参加したかったのですか?」
『9%』
「知らなかったんですね、無能者ですね。」
『11%』
「それでも騎士ですか?騎士の称号は返上してください。」
『16%』
話すたびに好感度が上がる様子が目に見えた。
これには少し恐ろしさすら覚えた。
『そもそもエレンシアにはどれだけ悪口を言われたのだろう?』
フィローメルは引き続き話し続けた。
「風のような奴ね!なんだか軽薄な顔してるし!」
『16%』
ただし、このような皮肉や悪口には、好感度の増減が見られなかった。
おそらく何らかの基準があるのだろう。
隣でナサールが彼女の耳に顔を近づけてささやいた。
「フィローメル様、少々過激ではありませんか?それとも、別の意図があるのですか?」
「……」
ああ、面白くてつい何でも口にしてしまった。
キリオンの顔は赤くなったり青くなったり大騒ぎだった。
実は最後の言葉はただの原色的な非難だった。
どんなに嫌いな人でも外見をけなすのは良くない。
フィローメルは謝ろうと口を開いた。
「最後の言葉はやりすぎでしたね。気分を害しましたか……」
今にも噛みつきそうに歯を食いしばっていたキリオンはくるっと背を向けた。
「もういいです。理由はわからないけれど、あちらと長く話すと頭が痛くなる。」
顔をしかめたまま男は他の場所へ行ってしまった。
テラスに出ると、フィローメルは肩をそっと撫でた。
季節はすでに秋へと移り変わり、少し涼しくなっていた。
ナサールは自分の外套を脱いで差し出した。
「羽織られますか?」
「ありがとう。」
フィローメルは遠慮せずに外套を肩にかけた。
外套からは草の香りが漂っていた。
その香り。
芝生の上で剣術訓練をしていたナサールの姿が頭に浮かび、フィローメルは口を開いた。
「これも含めて、ナサールには感謝することばかりね。」
「どうされたのですか?」
「急だったのに今日私のパートナーとしてここに来てくれてありがとう。」
「むしろ私の方が感謝します。もし他の人にこの役を任せていたらきっと後悔していました。」
フィローメルは予想外の答えに笑みをこぼした。
「後悔するんですか?」
「ええ、後悔します。」
「一度見てみたいですね。」
「今後悔してみますか?」
彼女はいたずらっぽく彼のふっくらした頬をつついた。
「はい、どうぞ。」
ナサールは目を閉じてじっとしたままの表情で、フィローメルの手をそっと握り、微笑んだ。
「到底できません。あなたのことを考えると、つい笑ってしまって。」
ナサールはフィローメルの手のひらに顔をうずめ、そっと頬をこすりつけた。
フィローメルの手の中で感じられる柔らかい頬、魅惑的な赤みがかった瞳。
その瞬間、ぞわっとした感覚が足元から全身を駆け抜けた。
これほどのスピードで心を奪われてしまうものなのかと、なぜか怖くなった。
フィローメルは柔らかい頬から手を離した。
「あっ」と短い吐息が彼の口から漏れた。
彼女は気まずさを感じ、視線を逸らし話題を変えた。
「私と一緒にいること、お父様は反対されなかったんですか?」
天上のエイブリトン公爵がフィローメルに満足するはずがなかった。
「反対はされましたが……私には関係ありません。」
「本当ですか?それなら公爵位も気にしないとおっしゃるんですか?」
「そんなもの、公爵位なんて捨てますよ。」
「捨てるだなんて、もったいない。」
フィローメルの反応に、彼はすぐに言葉を変えた。
「それなら絶対に手放さず、必ず持って行きます。」
「どこに?」
「それは魔塔ですよ。」
「なぜ?」
「あなたが魔塔に行くなら、私も当然行きますよ。」
冗談かと思ったが、彼の言葉は本気だった。
ナサールは淡々と言った。
「残念ながら、魔法検査官は諦めたほうがいいかもしれません。家門に所属する全ての魔法使いたちに聞いてみましたが……、私はほんの一滴ほどの魔法の才能もないそうです。」
すべて本心だった。
父の意向は関係ないという言葉も、公爵位さえ捨てるという言葉も。
そばで見てきたからよく分かっていた。
彼が幼い頃から親に認められる子どもになるためにどれほど努力してきたか。
鼻の奥がツンとした。
「ナサール、私のためにそこまでする必要はないんです。長引く恋愛も悪くないかも……」
「絶対ダメです。」
ナサールは微動だにせずフィローメルの意見をきっぱり否定した。
そうして二人はしばらく会話を交わし、フィローメルが少し休もうとした頃、室内に入った。
会場内をぐるりと見回したナサールが言った。
「まだ今回はないようですね。」
「そうですね。」
「もう少し待った方がいいでしょうか?」
「そうですね。今頃ならそろそろ……。」
フィローメルは現在、二人の人を待っていた。
一人は、この場に留まりこの宴会に参加するように見せかけておきながら、実際には魔塔に行ってしまったある魔法使いで、もう一人は……。
その時、顔色が青白くなった令嬢が一人、彼らの前に現れた。
「おお、レディ・フィローメル、お久しぶりです。」
「久しぶりですね、ムリエル令嬢。」
「今日は必ずレディにお会いしたいと思っているお方がいらっしゃるので、こんなにも失礼を……」
「ま、待ちなさい!」
突然、フィローメルの後ろから男の声が飛び出してきた。
彼は顔色が悪く、手を震わせていた。
使用人たちの服を着た男が大声をあげた。
「おお!お前がフィロメルか!」
ちょうど会場内には穏やかな曲が流れていたため、人々の視線が彼らに集中した。
皇帝もまたこちらに注目した。
男は感激したように震えた声で叫んだ。
「今日になって初めて会うのか!私がお前の父だ!」








