こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

112話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 魔塔主
男の目から大粒の涙が流れ落ちた。
「君の母さんとは、以前から付き合いがあったんだ。カトリーヌは皇后陛下の侍女で、私はただの従者だった。だがそのうち、カトリーヌが突然姿を消してしまい、絶望していたが……まさか私の子供を妊娠していたとは!一度でいいから近くで顔を見せてくれ!」
ナサールはフィローメルに近づこうとする男性を遮った。
男性はなおもフィローメルを見つめて涙を流しながら叫んだ。
「見た目で分かるんだ!お前は私の娘だ!カトリーヌの子だ!彼女は慎ましい女だから、私以外の男とは関係がなかった。」
男を遠くから見ていたフィローメルは、思わず笑いをこらえた。
呆れたというように。
「何かと思えば、結局これなの?」
男はふらつきながらもひたすら自分の主張を続けた。
「そうだ。今さら現れた私がみじめに見えるだろう。でも仕方なかったんだ。私の末路を見てくれ。堂々とお前の父だと名乗れなかった。」
一目見ても、その男は健康も精神もまともではなかった。
典型的なアルコール中毒の症状だった。
彼を見つめる貴族たちの視線から、鋭い嫌悪感が感じられた。
「カトリーヌが去った後、酒で心を慰めようとしていたが……だが、あなたが私をここに紹介してくれるという、その優しい方に出会い、心を入れ替えたんだ。これからは本当に誠実に……」
「その話はもういい、ムリエル令嬢。」
男の話を遮り、フィローメルはサシャ・ムリエルを見た。
「私の前にこの人を連れてきたあなたの意図は何ですか?」
サシャは唾を飲み込んで、口を開いた。
「……この男が居酒屋でしょんぼりしている姿を、私の家の使用人が偶然見かけました。その話を聞いて……」
「会ったこともない女性をお連れして差し出そうというわけですか?」
「そうです。」
「その言葉に責任を持てますか?」
「……はい。」
「これはなんという奇妙な縁でしょう。」
フィローメルはにっこりと微笑んだ。
「実は、私の実の父親だと主張する人がもう一人いるんです。」
従者と男の顔に同時に困惑の色が走った。
ゲエエエッ!
その瞬間、どこからか不気味な怪物の声が響き渡った。
そして窓の外を覗き込んだ誰かが叫んだ。
「モンスターだ!」
エレンシアは皇宮舞踏会場へと続く道を駆け抜けた。
「はぁ、はぁ。」
彼女はちょうど西宮から脱出したところだった。
誰もが驚いていた。
まさか皇女がこの階から飛び降り、身一つで塀を越えるとは思わなかったようだ。
こういうときに、卓越した身体能力を持つこの体はとても便利だった。
『毎日泉で水を汲んでいたおかげか?』
何はともあれ、貴い皇女である彼女は、仙入観の桶の中で発見されたのだった。
後で捕まったとしても、父の誕辰の宴を遠くからでも見守りたかったのだと言い訳すればそれでいい。
そんな風変わりな娘を誰が咎められようか。
エレンシアは持ってきたマントで顔を隠しながら駆け出した。
皇宮の舞踏会場に到着してすぐ目撃する場面を思うと、気分が高揚した。
『フィローメル、私が用意したお前の偽の父はどうだ?』
彼はエレンシアがサンサル草を大量に服用した時から準備していた駒だった。
治療薬が破棄されるのと同時に爆発する予定だった。
自分の評価だけ上げてどうするというのか。
相手の評価も引きずり落とさなければ。
いくら目を凝らして探しても、フィローメル本人には特に目立った欠点が見つからなかった。
ただ一つ、大きな問題を抱えた父親を持っているということを除いては。
人々はよく「親が問題だから子も問題だ」と言うが、実際には親と子を分けて考える人はほとんどいなかった。
自分が育った場所でもそうだったのだから、親の身分を問われるここではなおさらである。
エレンシアは、カトリーヌと同じ時期に皇宮に出入りしていた人々の中から、ふさわしい人物を見つけた。
アルコール中毒、ギャンブル場での放蕩、数多くの犯罪歴──このような人間の末路を、皇帝もいずれは悟ることになるだろう。
自分がそんな人間の浅はかでくだらない言葉に惑わされ、実の娘を疑っていたこと。
『フィローメル、否定してもいい。そして言うんだ。私の父はこの人じゃなく魔塔主だと!』
そのとんでもない真実を聞いた人々は、ますますフィローメルの言葉を信じなくなるだろう。
魔塔主。
エレンシアはゲームで見たキャラクターを思い出した。
ジェレミアのルートの後半に登場し、多くのプレイヤーに悪夢を与えた人物。
『お前たちの愛とやらを、どこまで証明できるか見せてみろ。』
魔塔主は大体そのような大使を挟んでエレンシアと息子の関係を引き裂こうとする。
「ジェレミア・ルートの難易度をさらに過酷にした元凶!」
一言で攻略をさらに難しくする厄介なキャラクターだった。
さらに、その父はさらに感情をうまく表せず、いわゆる「中二病」的な設定まで持って登場した。
彼の承認を得ないとジェレミア・ルートのトゥルーエンディングを見ることができないため、多くのプレイヤーが魔塔主の心を掴もうと挑戦し、見事に打ちのめされた。
あるユーザーが攻略法を見つけ出すまで、Q\&A掲示板は難易度に対する罵声で埋め尽くされるほどだった。
攻略自体はとても簡単だった。
ただし、実行するのが難しかったのだ。
それは、魔塔主との最初の出会いまでにジェレミアの好感度を100%まで上げておくこと。
愛の前で涙を流す息子を見て初めて、彼は素直に従うのだ。
いずれにせよ、あの冷酷な男が、失敗作の娘のために動くとは到底思えなかった。
フィローメルは逃亡したとき、魔塔のあるアンヘルリウムに行った。
きっと実の父親に会うためだったのだ。
彼らは目を皿のようにして探しても、フィローメル本人には全くそれらしい手がかりを見つけられなかった。
問題は、あまりにも多い父親の方だった。
人々はよく「親が問題だ、子が問題だ」と言うが、実際に親と子を明確に分けて見る人は少なかった。
自分が育った場所でもそうだったが、ここで親の身分を問われるこの場所ではどうだろうか。
エレンシアは、カトリーヌと同じ時期に宮中を出入りしていた者たちの中で、適任の人物を見つけた。
アルコール中毒で、賭博場を出入りし、犯罪歴も多い人間、まさに問題だらけの人間だった。
皇帝も、まもなく気づくことになるだろう。
「もう着いた。」
近づいてきた皇宮の舞踏会場を見て、エレンシアは歩みを少し緩めた。
「入場するには招待状をお見せください!」
前を塞ぐ門番の前で、彼女は帽子を取った。
「私です。」
「はっ、皇女殿下!」
「しっ。静かに入ってもいいですか?びっくり登場してお父様を驚かせてあげたいんです。」
「承知しました!」
皇女が軟禁されていたことはごく一部の宮中の人間しか知らない事実だったので、門番は特に怪しまず、また皇女が奇妙な行動を取るのは一度や二度ではなかった。
エレンシアはフィローメルが今頃どんな表情をしているかを想像しながら、くすくすと笑った。
その時だった。
「ケェエエエエッ!」
天を突くような怪物の咆哮が耳をつんざいた。
巨大な竜が広場に姿を現した。
「うわっ!あれ、何だ!モンスター?」
しかし、接近してくるモンスターを見つけたら、皇宮の守備隊が即座に攻撃を仕掛けた。
騒然としたエレンシアを落ち着かせたのは、ムンジギだった。
「飼いならされたワイバーンだそうなので、ご心配なく。」
「……ワイバーン?」
「ええ、事前に聞いてはいましたが、実際に見ると驚きますね。」
ワイバーンは馬車が駐車されている場所へと降下した。
そして空いた場所に巨大な肉体を横たえ、羽をたたんだ。
まるで自分が馬車でもあるかのような動作だった。
ワイバーンの背から一人の人物が降りてきた。
きらびやかな金糸が編み込まれた黒と灰色の衣装。
エレンシアが今まで見た中で最も豪華な魔法使いのローブだった。
その魔法使いに続いて、ぼろ布で覆われた巨人がワイバーンから降りた。
巨人は自分の体より大きな装飾のついた尻尾を引きずっていた。
門番は目を見張った。
「ほぉ、あれはゴーレムですね。あれ、ゴーレムまで連れて来るって話だったかな……?」
堂々と舞踏会場の入り口まで歩いてきた魔法使いは、門番に招待状を差し出した。
彼がぼんやりと立っていたエレンシアの前を通り過ぎようとしたときだった。
「入るつもりがないなら道を塞がないで。」
ふと呟くように捨て台詞を吐いた口調は、まるでゴミを見下すような軽蔑を含んでいた。
ローブの下から金色の装飾がちらりと見えた。
確かに見覚えのある顔だった。
それも少し前まで思い出せずにいたその顔だった。
招待状の確認を終えた門番が扉を開き、司会者が声を張り上げた。
「魔法使いたちの故郷、北塔の主がお越しです!」
エレンシアはゆっくりと、会場の中へと入っていく男の後ろ姿を呆然とした目で見つめていた。
「一体どうなってるの……」
状況は彼女の想像とはまったく違った展開を迎えていた。
まったく、全然違っていた。
舞踏会場の中は大きな騒ぎになっていた。
「なんと、魔塔主だって?」
「魔塔に籠って外には出ないって聞いてたのに!」
「あの魔物たちは魔塔主が連れてきたのか?」
窓の外のワイバーンを目撃し、右往左往していた人々は、魔塔主の登場にさらに大きな混乱に陥っていた。
フィローメルも驚いた。
「ワイバーンがあんなに大きいなんて話は聞いてないわよ……!」
それに、ゴーレムに関する話も聞いたことがなかった。
ドンッ!
ルグィーンについていき、入り口までついてきたゴーレムは飾りを床に置くと外に出て行った。
奇怪な巨人の姿に緊張していた人々は、息をついた。
そこに、ポーラン伯爵が出てきて、予期せぬ来訪者を迎えた。
「魔塔主様、ようこそおいでくださいました。皇帝陛下よりお知らせがあります。魔塔主様の訪問を喜ばれております。」
しかし玉座に座るユースティスは、喜んでいるというよりもむしろルグィーンをじっと見つめ、今にも殺してやりたいような目をしていた。
事前にワイバーンの出入りなどについて許可を与えたとはいえ、それは喜んでいるという意味ではなかった。
皇帝に日記帳を渡しに行ったとき、フィローメルは実の父の正体も明かしていた。
ルグィーンの頼みを聞き入れるためには、皇帝の許可が必要だったのだ。
「そうか……そうだったのか……」
反応は予想外だった。
彼は戸惑っているようでもあり、落ち着いているようでもあった。
フィローメルが「知っていたのか」と尋ねると、彼はこう答えた。
「極めてわずかな可能性だと思っていた。」
言い換えると、彼なりに大胆な推測はしていたのだということだった。
神の書を読んだこともそうだし、父親に関することもそうだった。
これまで自分が周囲をうまく欺いていると思っていたのに、結局は皇帝にすっかり見透かされていたようで、何ともやりきれない気持ちだった。
フィローメルは「後で詳しくお話しします」と告げ、その場を離れた。
心の中では、「<皇女エレンシア>から始めよう」と決意していた。
堪えてすべての事実を打ち明けたくなったが、ぐっと我慢した。
今もエレンシアのせいで考えることの多い人の頭を、これ以上複雑にしたくはなかった。
また『皇女エレンシア』について話すとなれば、彼が自分を処刑する場面も語らなければならない。
……それにはまだ心の準備が必要だった。
ぶうっと音を立て、ルグィーンがナイフでリボンを切る音に、フィローメルの意識は現在に引き戻された。
色とりどりの包装紙に包まれた贈り物が積まれていた。
ルグィーンはその中から手のひらほどの大きさの箱を手に取った。
最も小さく、包装も簡素だった。
彼はポーラン伯爵に向かって小さな贈り物の箱を投げ渡した。
「皇帝陛下にお誕生日おめでとうとお伝えください。これは私からの贈り物です。」
「責任を持ってお伝えします。しかし、その後ろのものは…」
当然、全部が皇帝への贈り物かと思ったが、その中の一つだけが、どうやら違うようだった。
「おや、これは?」
ルグィーンは平然と中身を確認しながら笑った。
「これは私の娘への贈り物だ。」
フィローメルは思わず驚いた。
『えっ、今日誕生日の人は別にいるのに、それをなんで私にくれるの?』
驚いたのは他の人々も同じだった。
「娘だって?」
「魔塔主に子どもがいたのか?」
「息子がいるって噂はなんとなく聞いたことがあるけど。」
「でも娘に渡すプレゼントをなんでここに持ってきたんだ?」
「もしかして娘がこの場に……?」
参席者たちは互いの顔を見合わせ、会場内をざわめかせた。
ルグィーンはそんな周囲の反応を無視して淡々と歩み寄ってきた。
彼は歩きながら、まるで敵意があるようでないような曖昧な様子で、フィローメルの隣にいた偽物の父の肩に手を置いた。
「うっ!」
男は力なくふらつき、体を支えきれなかった。
ルグィーンはフィローメルの肩にきっちりと片手を置き、権威者のいる方向に向かって視線を向けた。
「今まで私の娘を育ててくれてありがとう。これからは私が責任を持つから、そちらの方は気にしなくても大丈夫だ。」
それは、彼が娘に対して抱いていた願いだった。
それは、フィローメルが自分の娘であるという事実を、世間に向けて明らかにすることだった。
多くの視線が集中する中で、彼自身が望んでいたことだった。
彼は最大限かっこよく、最大限華やかに登場した。
ただし、魔塔主が考える「かっこよさ」と「華やかさ」は世間一般の常識とは少し違っていた。
本来なら魔法使いの軍団と手懐けたモンスターたちを引き連れ、祝砲まで鳴らしながら来ようとしていたのをフィローメルがなんとか止めたのだった。
『戦争でも起こす気?』
だからワイバーン一頭に乗ってやってきただけなのだが……それでも満足できなかったのか、ゴーレムまで連れてきたらしい。
衝撃的な発言に呆然としていた人々が、一人二人とざわめき始めた。
「つまり、レディ・フィローメルは魔塔主の娘だって?」
「さっきのあの男の娘だって言ってたじゃない!」
「どっちが本当の父親なの?」
娘一人に父親が二人?
笑い話にもならない滑稽な状況だった。
ルグィーンの鋭い視線が、床に倒れている男に向けられた。
「ふん、その男が私の娘の父親だって?」
「そ、それは……。」
男は魔塔主の威圧感に押され、まるで木の葉のように震えていた。
ルグィーンは手を後ろに組みながらつぶやいた。
「誰が本当にフィルの父親なのか、決闘で決めよう。皇宮内では魔法が使えないから、拳で……。」
グエエエエッ!
どうやって察したのか、主の気配に反応してワイバーンが大きな唸り声を上げた。
外で聞こえるはずなのに室内を揺るがすような怪物の声だった。
両腕で頭を抱えた男が頭を下げた。
「申し訳ありません!私の勘違いでした!お許しください!」
フィローメルはしばらくして口を開いた。
「さっきは間違いないって言ってましたよね。」
男は必死に頭を下げ続けた。
「違います!私の言いたかったのは……。」
ルグィーンは威圧感を漂わせながら冷たく言った。
「私の娘がそう言っているのに、あえて違うと言えるか?」
「それは、その……。」
男は言葉を探せず、口をもごもごさせただけで、しばらく沈黙した。
「実はお金を渡すので、レディ・フィローメルの子供であるかのように装えという提案を受けました!」
フィローメルは逃げ出そうとするように、そわそわと女性を見回した。
「ムリエル令嬢。」
彼女は、エミリーの目を避けながらも、エレンシアがこっそりムリエルを連れて何かを企んでいることを知っていた。
ジェレミアがシャシャの動きを見張って、彼女が男と接触していることも知っていた。
しかし事前に彼らの陰謀を阻止しなければという気持ちは起きなかった。
男は平凡な酒飲みに過ぎなかった。
暗殺者でもなく、大した技術を持っているわけでもない。
シャシャが彼を家の使用人に変装させて連れてきたところで、特に脅威にはならないだろう。
むしろ気になった。
いったい何のたくらみをしているのか。
しかし結果はかなり失望させられた。
たとえ今日がルグィーンが現れる予定の日ではなかったとしても、彼らの陰謀がフィルローメルに打撃を与える可能性はなかった。
『どうせならただ実の父親が誰か明かせばいいだけだから』
今までそうしなかった理由は、ただ自分の気持ちの問題だった。
ルグィーンと兄弟たちを真の家族として受け入れる準備ができていなかったからだ。
すすり泣くサシャを見ながら、フィローメルはそっと立ち上がった。
「あなたの背後に誰がいるのか話す方が、神様にもいいでしょう。そうすれば最大限、あなたとあなたの家門を傷つけない範囲で……。」
会長席を見渡したフィローメルは、小さく声を出した。
もしかしたらサシャの自白は必要ないかもしれなかった。
会長席は空いていた。
フィローメルは何か予感に駆られてルグィーンに手を差し出した。
「私が預けていたポーチ、今取り出してくれますか?」
インベントリ拡張機能。そんな名前のポーチを彼に預けていた。
ルグィーンはすぐに自分のローブからポーチを取り出した。
彼と兄弟たちが研究した後に返してくれた品々がこの中に入っている。
フィローメルはポーチを持ったまま人々の間をかき分け、出口へ向かった。
ルグィーンとナサール、そして会場の中にいた兄弟たちも彼女の後を追った。








