ニセモノ皇女の居場所はない

ニセモノ皇女の居場所はない【140話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【ニセモノ皇女の居場所はない】まとめ こんにちは、ピッコです。 「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介と...

 




 

140話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 穢れの中心へ

悪神の本拠地。

魔法使いは通信石を握りしめ、叫ぶ。

「フィル!フィル、聞こえる!?そっちはどう?一体、何が起きてるの!?」

返事は、まだなかった。

しかし、通信石はジジジ……という雑音を立てるだけだった。

「ちっ……!」

彼は近くにあった普通の石で、反応しない通信石を乱暴に叩きつけた。

先ほどから、外部との連絡は完全に断たれたままだ。

自分のいる場所が悪いのか。

それとも、相手側に問題があるのか。

確かめる術は、もはや残っていなかった。

「……両方、か」

邪神は死んだ。

正確に言うなら、邪神を“宿していた器”だけが死んだのだ。

ルグィーンは冷え切った眼差しで、床に投げ出された死体を見下ろした。

――やはり、弱すぎる。

この女の体に残っていた力は、あまりにも微々たるものだった。

戦闘が始まってしばらくしてから、ルクインはようやくその事実に気づいた。

『命だけは、どうにか繋いだか。正義神を殺せるとでも、本気で思ったのか?』

『さあ、お前が持っている力をすべて使って、足掻いてみろ』

戦いの前に、この女が口にしていた言葉の数々は、すべて虚勢だった。

ルグィーンの魔力を消耗させるための、取るに足らない演技。

――間違いない。

悪神には、別の“器”が存在する。

この女は、そのための捨て石にすぎなかったのだ。

そして、その器は勇者選抜式が開かれる大神殿へ向かった可能性が高かった。

「フィル……」

フィルメルは、あの子の身を案じた。

自分の息子でもなければ、血のつながった子でもない。

だが皇帝が、あの子を危険な目に遭わせるはずもない。

「魔塔主様!」

そのとき、配下の一人が声をかけてきた。

「何だ」

魔塔主の鋭い視線に、男は息をのんで答える。

「考え得る限り、あらゆる手段を試しましたが……この地を覆う闇は、いまだ消えておりません」

「……そうか」

魔塔主は、短くそう漏らした。

ルグィーンは苛立たしげに前髪をかき上げた。

連中がこの地下の牢から、いまだ脱出できずにいる理由。

それは――彼らをこの場所に閉じ込めている、悪神の“術”に他ならなかった。

どんな光をもってしても、掻き消すことのできない完全なる闇。

彼は何度も、その闇を突破しようと試みた。

だが結果はすべて同じ。

気づけば、必ず元の位置へと引き戻されている。

しかもこの闇は、単に進路を遮るだけではなかった。

「……魔法は?」

短く、要点だけを切り出した問い。

その問いに、側近の配下は迷いなく、はっきりと答えた。

「――通じません」

「依然として不可能です」

理屈は分からないが、魔法も使えなくなっている。

ただし、ルグィーンだけはごく微弱に魔法を行使できていた。

普段の十分の一にも満たない力ではあるが。

「となると、どうする。分身を使って大神殿の状況を探ることもできない」

最初から闇が強かったわけではない。

数時間前までは、通信も不安定ながら繋がっていた。

「それが、急に切れた」

フィルメルとの最後の通信では、確かに爆発音が聞こえた。

それを境に、闇はさらに一段濃くなった。

イエリスが、新たな力を得た――そう考えるほかない。

封印から解き放たれない彼女自身の力とは別に、まったく異なる力を行使しているなど、想像すらしていなかった。

「……じ、実はもう一つ、魔塔主様にお伝えすべき事案がございます」

配下が慎重に言葉を選びながら、口を開く。

「何だ?」

「地下のさらに深奥にて、巨大な岩が発見されました。表面には古代文字がびっしりと刻まれており……どうやら、ただの岩ではないようです」

封印石。

悪神が封じられたと神話に語られる、あの岩だ。

ルグィーンは、幾重にも折り重なった死体の山から、ゆっくりと立ち上がった。

冷たい眼差しが、闇の奥を射抜く。

「……案内しろ」

その声には、わずかな高揚と、抑えきれぬ苛立ちが滲んでいた。

このまま、まともに動かない通信石を握っていても仕方がない。

「何でもいい、試してみるぞ。岩がある場所へ案内しろ」

「はい!」

「……あ」

彼は、忘れていたことを思い出した。

「皇女は?もう一度探しても、見つからなかったか?」

「はい。似た印象刻印を持つ人物も確認できません」

ここにいるはずだと推測されていた皇女の姿は、どこにも見当たらなかった。

まさか、大聖殿へ向かったのだろうか。

 



 

場所は再び、大聖殿。

フィロメルと三名の神官は、簡単な自己紹介を済ませると、すぐに歩みを進めた。

目指すのは、大聖殿の中心部に位置する「幹」。

中央庭園から少し外れた場所にある。

――つい昨日の朝まで、確かにそこにあったはずなのに。

穏やかに祈りを捧げ、安らぎの中で過ごしていた時間が、やけに遠い昔のことのように思えた。

そのとき、神官エルレインが叫んだ。

「……見てください!前方にモンスターが二体見えます!」

「私が処理します!」

そう叫ぶと同時に、別の神官――テオドールの手から光の矢が放たれた。

「ギィエエエエッ!」

モンスターは苦しげな叫び声を上げ、体をよじらせた。

「援護する!」

そう言って、さらに光の矢を放ったのは神官カイルだった。

ドン!

重たい音を立てて、モンスターの巨大な体が地面に倒れ伏した。

「連携、息ぴったりね」

フィロメルは、感心したような目で彼らの連携攻撃を見つめていた。

さすがは首席神官たち。

二、三度呼吸を合わせただけで成せる芸当ではない。

彼らの真価は、戦闘の場だけにとどまらなかった。

「あぁ……」

自分の脚を抱え込み、苦悶の声を漏らす男がいた。

中央へ向かう道の途中で出会った、避難してきた一般の民だ。

エルレインがすぐに歩み出る。

「患部を見せていただけますか?」

男は頷き、裾をまくり上げると、靴と靴下を脱いだ。

「急に脚が痛み出して……確かめてみたら、この有様で……!」

露わになった脚には、不自然な変色が広がっていた。

まるで、大地の穢れが――生き物の身体へと、侵食してきたかのように足元から膝下にかけて、黒く変色していた。

「もしかして、その黒くなった地面を踏んで、こちらに来たんですか?」

「え、ええ。モンスターを追いかけていて、そのまま……」

「戻るときは、絶対にその黒い地面を踏まないでくださいね」

エレインは自分の神聖力を注ぎ込み、男の脚を浄化した。やがて脚は元の肌色を取り戻した。

男は思わず歓声を上げた。

「痛みも消えました!さっきは本当に痛くて、脚にまったく力が入らなかったんです!」

「それはよかったです」

「神官様、足首も捻ってしまったので、治療をお願いします」

その頼みに、エレインは一瞬戸惑った表情を浮かべた。

するとフィロメルが、懐にしまってあった絆創膏を慌てて取り出す。

「これを貼れば治りますよ!」

「……たったの絆創膏、ですか?」

「疑うなら、試しに貼ってみてください。さあ。」

男は半信半疑のまま、絆創膏を自分の足首に貼った。

疑念は、すぐに驚きへと変わる。

「本当に良くなりました!もう痛くありません!」

汚染された大地すら浄化できる神聖な力は貴重だ。

だが、一般的な負傷であれば、包帯で治療するより何倍も効率が良かった。

しかも消耗も少ない。

その後もフィロメル一行は、さらに何人かの住民と遭遇した。

彼らはモンスターを避け、壊れた建物の中に身を潜めていた。

怯えきった表情で、必死に訴えてくる。

「まさか、塔があった場所へ向かわれるんですか?」

「ダメです!あそこは凶悪なモンスターが特に多いんです!」

「そうです!私たちは、あちらから逃げてきたんです!」

結局、神官カイルが人々を先導し、来た道を引き返すことになった。

彼らもまた、恐怖を押し殺して無理に前進できる状態ではなかったのだ。

「他の神官たちと合流したら、彼らを引き継いで、また戻ってきます」

そう言い残し、カイルはその場を離れていった。

一人欠けた分、モンスターとの戦いは先ほどよりも、さらに激しさを増す。

「エレイン!一体、取り逃がしたぞ!」

前線で三体のモンスターと交戦していたテオドールが叫んだ。

モンスターは素早い動きで、エレインへと迫る。

彼女はテオドールの攻撃を強化する神聖魔法を使っていたため、迫る敵に気を配る余裕がなかった。

バン!バン!

「ギィエエエッ!」

乾いた殴打音とともに、モンスターの悲鳴が響き片手で軽く振り払っただけだった。

それだけでモンスターは黒い塵へと変わり、風に乗って散っていった。

「……お見事です」

エレインが、やや引いたような声で言った。

「それほど力を込めて振り回しているようにも見えない物で、これほどの威力を出すなんて……」

そこへ駆け寄ってきたテオドールが割って入る。

「違うって!見た目は頼りなさそうだけど、間違いなくすごい武器だよ!」

「そうなの?」

「さすが勇者様だな。さっきの包帯もそうだけど、不思議な道具をいろいろ持ってるんだね!」

テオドールはそう言って、頭をかいた。

「実は勇者様が、キリアン候補を力でねじ伏せる場面を目の当たりにしていたのに、完全には信じ切れませんでした。お恥ずかしい限りです」

「大丈夫ですよ」

それも、よく効く霊薬の効果ですから。

「それで……あの品々も、やはり魔法主様の作品なのですか?」

「ええ、まあ……そうですね……」

その一件をきっかけに、フィロメルと二人の間にあった壁は取り払われた。

もともと二人はフィロメルに親切ではあったが、今では気兼ねなく言葉を交わせる関係になっていた。

テオドールは、フィロメルの腕を軽くつつきながら問いかけた。

「失礼ですが、勇者様ってあまり筋肉があるようには見えませんよね。それなのに、どうしてあんな力が出せるんですか?」

「……実は、私の筋肉は内臓型でして。外からはあまり分からないんです」

「なるほど!内臓型ですか。初めて聞きました。今日はまた一つ、勉強になりました」

テオドールはフィロメルのもっともらしい説明を真に受け、感心した様子で彼女の腕に触れた。

「……私も筋肉、鍛えられるでしょうか?」

その言葉に、そばで聞いていたエレインも興味を引かれたように視線を向ける。

フィロメルは二人を交互に見やり、心の中で思った。

――変わった人たちだ。

それでも、まだ救いはあった。

二人がこうして場の空気を和らげてくれたおかげで、フィロメルの気持ちも少し軽くなったのだ。

もしそうでなければ、道中で目にした死者たちの姿が、頭の中を埋め尽くしていただろう。

そこにあった遺体は、モンスターに襲われた者ばかりではなかった。

黒く濁った気配が全身に広がり、死に至ったと思しき者も、ちらほらと見受けられた。

イエリスは、この地を生命が生きられない土地へと変えてしまっている。

「一点方向!モンスターの群れが接近中!」

そのとき、テオドールが叫んだ。

「今回は……十体です」

多い。

しかもそのすべてが、中型級以上の個体だ。

「エレイン、俺のすぐ後ろに付いて!」

フィロメルはエレインの腕をつかみ、自分のほうへ引き寄せた。

彼女の得意分野は、あくまで後方支援だ。

「こいつらっ!」

テオドールが相手にしていた十体のモンスターのうち、三体は倒したものの、残りは二人めがけて突進してきた。

ドン!

フィロメルは手当たり次第に棍棒を振り回した。

何発かが命中し、五体のモンスターが弾き飛ばされる。

「グルルルル……!」

だが、まだ動ける者もいる。

そいつらは体勢を立て直すと、再びフィロメルへと襲いかかってきた。

――そして……。

バチバチバチッ!

予想どおり、自動防護魔法が発動した。

「ギャン!」

ドン!

モンスターたちが火花に気を取られ、隙を見せた瞬間を逃さず、フィロメルは素早くトンカチを振り回した。

七体すべてが、トンカチの餌食となって消え去る。

(ふぅ……ルーンが自動防護魔法に魔力を補充してくれていて助かった)

フィロメルは肩を回し、安堵のため息をついた。

「わあ!」

テオドールが目をきらきらと輝かせながら近づいてきた。

「それ、何なんですか?すごく格好よかったです!」

エレインは、すでに答えを分かっていた。

「自動防護魔法でしょう?実用性のない魔法だと思われてましたけど、違いましたね」

「えっ!そんな魔法もあったんですか?僕にも誰かかけてくれたらいいのに」

「それが、どれだけ高価な魔法か分かってる?」

「どれくらいです?」

「二万ベルよ。しかも勇者様の場合、魔塔主様が直接かけてくださったんだから、十倍の二十万ベル相当になるわ」

「――――っ!」

息をのんで口をあんぐり開けたテオドールが、思わず自分の指をぎゅっと握りしめた。

「俺の給料を四十年くらい貯めれば、いけるかもしれないな」

「馬鹿ね。昇給分を考慮したって、その程度じゃ無理よ。それに、一生ずっと貯金しかしないつもり?」

だが、今は冗談を言い合っている場合ではなかった。

「二人とも、後ろを見て!」

人の背丈の三倍はあろうかという巨人が、姿を現したのだ。

彼らから少し距離を取った位置に陣取った巨人は、地面に転がっていた岩をつかみ上げ、そのまま力任せに投げつけてくる。

「うわっ!」

テオドールは、かすめるように飛んできた岩を間一髪でかわした。

巨人は、今度は塔の破片をつかみ上げた。

続いて、配達用の荷車から落ちた牛乳缶を。

「なるほどね!」

フィロメルは、巨人の行動の理由を理解した。

「私たちに近づいても、勝ち目がないって判断したのよ!」

「だから、物を手当たり次第に投げてくるんですか?」

「たぶん、少し前に私たちが他のモンスターと戦っている様子を見て、分析したんでしょうね。もしかすると、十体くらいは囮だったのかも……」

「体は大きいのに、見た目以上に頭が切れる相手ですね!」

三人は、あちこちから飛んでくる物体を避けるのに必死だった。

フィロメルの首筋を、冷たい汗が伝い落ちた。

自動防護魔法には、ひとつ致命的な欠点がある。

――無生物には反応しない。

この魔法は、相手の悪意を感知して発動する仕組みだ。

つまり、悪意を持たない攻撃であれば、いとも簡単にフィロメルを害することができてしまう。

無生物には意志がない。

相手が自ら武器を振るって突進してくるならまだしも、離れた場所から投擲されれば、防ぎようがなかった。

巨人がそこまで計算していたかは分からないが、状況は明らかに危機的だった。

フィロメルは飛来する物体を必死にかわしていく。

十体のモンスターと相対する前に服用した俊敏の秘薬が、今まさに真価を発揮していた。

だが、回避に意識を割かれるあまり、巨人へ距離を詰めることはできなかった。

テオドールが叫んだ。

「アイツ、ものすごい勢いで投げてきますね!」

状況は、彼やエレインにとっても大差なかった。

そのとき、フィロメルの正面へ、太い木の幹が飛んできた。

これは避けられない。

『危ない!』

フィロメルは反射的に、両腕で顔をかばった。

しかし――予想していた衝撃は訪れなかった。

ドン!

誰かが、フィロメルに向かって飛んできた物体を、足で蹴り飛ばしたのだった。

「ナサール!」

ナサールだった。

彼は電光石火のごとき速さで、巨人へと接近する。

「クウェエエッ!」

次の瞬間、巨人の首が宙を舞った。

「フィロメル様!」

ナサールはフィロメルのもとへ駆け寄り、そのまま強く抱きしめる。

「ご無事で何よりです!」

「ナサール……」

「お怪我はありませんか?どこか傷ついていませんか?それとも、あの黒く汚れた大地を踏んでしまわれましたか?」

「私は大丈夫です。それより……」

テオドールは、しばらくこちらをじっと見つめていた。

そしてエレインに一発殴られてから、ようやく我に返ったように、慌てて視線をそらした。

「見る目もあるのに、こういうのは後回しなんですね?」

ナサールは、ふっと笑い、フィロメルのもとへと近づいた。

「助かりました。あまりにも安心してしまって……」

こうして、ナサールはフィロメル一行に合流することになった。

ナサールは、自分がここに来ることになった経緯を説明した。

「聖物保管庫の前に到着したところ、フィロメル様がこちらへ向かわれたと聞きまして」

「ほかの皆さんは、どうなったかご存じですか?」

「皇帝陛下のお取り計らいで、私が聖物保管庫へ向かえるよう、道を開いてくださいました」

「陛下が、ですか?」

「はい。私がいた場所は、やけにモンスターが多く集まっていて、そのうえ上級個体まで現れました。二人だけで突破するのは、さすがに厳しかったのです」

そして彼は、フィロメルが気になっていた別の進路についても教えてくれた。

「兄貴たちは、こちらへ来る途中で少し見かけましたが、モンスターとの戦闘に手こずっている様子はありませんでしたよ」

「怪我人はいませんか?」

「それなら、心配するべきは兄貴たちより、むしろモンスターの方ですね」

フィロメルは「ふう」と小さく息をつき、安堵のため息を漏らした。

そうだろうとは思っていたが、実際に聞くとやはり安心する。

(事前に応急処置でジェレミアの足を治しておいて正解だった)

こんな混乱のさなかで、足を負傷したままだったら大事になっていたはずだ。

ナサールは柔らかく微笑んだ。

「兄貴たちもフィロメル様を探していましたが、僕が一番乗りでしたね」

――可愛い。

フィロメルは反射的に湧いたその感情を必死に押し殺し、彼にこれまでの状況を説明した。

話を聞き終えたナサールは、表情を引き締めた。

「フィロメル様のご決断を、私が止めるわけにはいきませんよね?」

やはり彼女が「幹」へ向かおうとしていることが、気がかりな様子だった。

「私が行かなければならないのです」

バルバドの剣が、主として認めたのは――他でもない、フィロメルだった。

しかも……。

――また会おう。ミオが選んだ、もう一人の子よ。

夢の中で、悪神はそう囁いた。

「ミオが選んだ、もう一人の子」

最初は、その意味がまったく掴めなかった。

だが今ならわかる。

代神官の言葉を借りるなら、システムは美と神の力。

(それなら、“選ばれた”というのは、システムに守られているという意味なんだ)

侵入者が存在する以上、「もう一つの」という修飾が付けられたのだろう。

どれだけ考えても、こんな危機的な状況で、ただ見ているだけでいろと美と神がフィロメルを選んだとは思えなかった。

「……私が行かなきゃ」

フィロメルは、もう一度同じ言葉を繰り返した。

ナサールは一瞬、目を閉じ、そして再び開くと、どこか覚悟を決めたような表情で口を開いた。

「分かりました。お供します」

「本当ですか?」

思っていたよりも、ずいぶんと早い了承だった。

もう少し悩むものだと思っていたのだが。

「フィロメル様が強いことは、誰よりも私が知っています。それに、一度決めた道は、どんな反対があっても曲げない方だということも」

そう言って、彼は少し頬を赤らめながら続けた。

「それに……あなたを一人にしてモンスターと戦わせるよりも、共に戦う方が、ずっと安心できますから」

一緒にいたいという気持ちは、フィロメルもまた同じだった。

「ええ。決まりですね。このまま進みましょう」

二人は再び、歩みを進めた。

ナサールは、神官カイルの穴を見事に埋めた。

いや、それどころか、埋めてなお余りがあった。

彼はほとんど飛ぶようにして、次々とモンスターを討ち倒していった。

二人の神官は、目を丸くしたままナサールの活躍を見守っていた。

「……かっこいい……」

テオドールの感嘆の声に、フィロメルは思わず肩をすくめた。

神官カイルは人々を連れて去ったきり、戻ってはこなかった。

連絡も一切なかった。

(……もしかしたら、道を間違えたのかもしれない)

その考えが、皆の脳裏に不吉な影として浮かび上がった。

エレインは、きっぱりと言い切った。

「安全な場所まで戻ってから私たちを追いかける、というのは現実的じゃありません。カイルは足も速い方ではありませんし」

最初から、カイルが再び合流するのは難しいと分かっていた。

それでも、戦力を無視したり、無理に連れ回したりすることはできなかっただけだ。

カイルにも、いずれ別の役目を果たしてもらう必要がある――そう伝えてある。

「公爵様がいらっしゃれば、私たちだけでも十分です!」

テオドールが自信満々に言い切り、エレインもまた、慎重にその意見に同意した。

フィロメルも、同じ考えだった。

(今この瞬間も、人々は次々と命を落とし、汚染は広がり続けている。)

これ以上、ためらっている時間はなかった。

兄たちと合流したい気持ちもあった。

だが、いつ彼らと連絡がつき、合流できるのかは分からない……。

(ここで人数を増やせば、エレインとテオドールにかかる負担が大きくなる。)

なぜなら、これから向かう先は――すでに汚染された土地だったからだ。

 



 

 

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