こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

74話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 拒絶
フィローメルは自分の部屋に戻り、ナサールに手紙を書くために机に向かった。
やはり皇帝の命令よりも、彼女自身の連絡で婚約破棄を知らせるほうが良いと判断した。
通信席で会話しながら知らせるには少し距離があると感じたため、手紙を選んだ。
しかし、ユースティスの処理はフィローメルの予想よりはるかに速かった。
フィローメルが手紙をどう書くか長く悩んでいるうちに、ナサールが南宮に到着したのだった。
「……いらっしゃいませ。」
フィローメルは気まずさの中でナサールを迎えた。
ナサールと二人きりで話したかったので、ルグィーンは当然来られず、護衛のジェレミアも遠ざけられた。
当然ながら、冷たい態度を取る雰囲気ではなかった。
ナサールの目は限りなく深い場所へ沈んでいた。
力を失った声が響いた。
「結局こうなったんですね。」
「……ナサール。」
「こうなることは予想していました。その瞬間を耐えるべきでした。」
昨夜、彼に満ちていた生気と活力は、今ではどこにも見当たらなかった。
「皇帝陛下は何の理由もなく婚約破棄を命じましたが、それがフィローメル様の意思であることは知りません。」
フィローメルはそれに耐えられず、申し訳なさそうに口を開いた。
「ナサール……ごめんなさい。」
「謝らないでください。それが私をさらに惨めにさせます。」
そうだ。
それでも謝罪の言葉を口にしたのは、純粋にフィローメル自身の心を楽にするためだった。
ぎゅっと結んでいた唇をわずかに緩めたナサールが、ようやく一言発した。
「私のことが嫌いですか。」
「そんなことはありません。」
「では、なぜ婚約破棄を望むのですか。」
「今さら理由が重要でしょうか。」
突き放してみても、お互いに傷つけるだけなのは明白だった。
「重要です!もしかしてエレンシア皇女様のせいですか。そうではありませんか? あなたは不思議なほど私と彼の関係に関心を持ちませんでした。もしかして……。」
彼は、フィローメルが婚約破棄の理由をエレンシアだと言ってくれることを期待しているように見えた。
フィローメルは息を飲んだ。
彼はついにこの言葉を、自分の口から言わせるように仕向けた。
本当に言いたくなかったのに……。
「私はあなたを愛していません。」
フィローメルの言葉に、ナサールの瞳孔が大きく開き、口が開いた。
明らかな衝撃が彼を襲った。
衝撃を受けた表情のまま、彼は震える声で言った。
「ええ、知っていました。知らないはずがありません。そうでなければ、ずっと私を遠ざけることはなかったでしょう?」
「私が?」
「はい。幼い頃、ある瞬間から今まで。私が近づこうとすると、いつも笑いながら線を引いていましたよね。」
そうだったのか。
彼はただ皇女の婚約者として彼女にかかる負担を取り除きたかっただけだったのに……。
いや、これは言い訳だ。
そんな理由が全くなかったとは言えないが、基本的には彼女に壁を作っていたのは事実だった。
なぜなら、彼はエレンシアの恋人になる人間だったから。
そうだ、すべての始まりは〈皇女エレンシア〉だった。
エレンシアの存在が明らかになる日も遠くはなかった。
それまで幼いフィローメルは、ナサールをひたすら好きだった。
彼が自分を愛していないことを理解しても、それでも変わらず好きだったはずだった。
しかし、その本を通じて、ナサールが心からエレンシアを愛する未来を知ってしまった。
彼が誰かをそんなに愛せる人間だと知ってしまったのだ。
『むしろ知らなかったら、彼は誰に対しても優しいけれど深く愛せない人なのだと、そう思い込むことができたのに。』
だが、そんなナサールが今はフィローメルを愛していると言う。
しかし、皮肉にもエレンシアはもう存在しない。
問題は、すでにナサールに対するフィローメルの気持ちが消えてしまったことだった。
フィローメルはナサールを愛していなかった。
それが問題の始まりであり、終わりだった。
ナサールは無表情のまま、しかし痛ましい顔で言葉を紡いだ。
「否定したかったんです。確かに以前は私を好いてくださっていたのだから、今の冷たい態度は、ただ本心を隠しているだけだと、そう信じたかったんです。」
そうだったのか。全く気づかなかった。
フィローメルは黙って彼の言葉を聞いていた。
「いなくなって、また戻ってこられたときは、以前よりも私に歩み寄ってくださるのではないかと、ひょっとして、ひょっとしてと希望を持っていました。」
彼はずっと自責していた。
「実は、自分の気持ちを完全に悟るまでに時間がかかりました。本当に愚かですよね、私?」
まったく愚かではなかった。
ただ、もどかしかった。
もし彼が自分の感情を少しでも早く気づいて表現していたら、何かが変わっていたかもしれない。
可能性がまったくなかったわけではない。
人の心というものは、まるでナイフでスパッと切れるものではないのだから。
ナサールを好きだった幼いフィローメルの心は、一瞬で消え去ったわけではなかった。
心の奥で、ゆっくりと枯れていったのだ。
『もしもう少し早く言ってくれていたら……。』
しかし、それは無意味な仮定。
フィローメルは心から、彼が苦しまずにいてほしいと願っていた。
「ナサール、もうやめてください。自分を傷つけないで。あなたは十分に素晴らしい人です。」
「そんなの何の意味があるんですか!あなたが僕を愛していないのに!」
その瞬間、彼の体が震えた。
大声を出したことに、本人が最も驚いたような表情だった。
「す、すみません……。一瞬、我を忘れて……。」
「大丈夫です。」
フィローメルは、静かな表情で彼を見つめた。
ナサールは、そんな彼女の顔をまともに見ることができなかった。
しばらくして、切実な視線が再びフィローメルを向いた。
「やはり、僕ではダメですか?」
彼の目に涙がにじんでいた。
「僕を嫌いじゃないって言いましたよね?」
「………」
「違うんですか?」
傷つける言葉だと分かっていても、フィローメルは自分の本心を伝えるしかなかった。
「嫌いじゃないです。好きです、友達として。」
「……それなら、婚約を解消しないでください。」
「え?」
予想外のお願いだ。
「きっと私がフィローメル様のお役に立てるはずです。自分で言うのもなんですが、学問も剣術も得意な方ですし、料理も……。」
「婚約に役立つかどうかが、なぜ重要なのですか?」
「では、どうすればあなたのそばにいられますか?」
「ナサールは、ナサールを愛してくれる人と出会うべきです。」
ついに、ナサールの頬を涙が伝った。
「でも……。私が愛しているのは、あなたなのに。」
フィローメルは何も言えなかった。
どんな言葉もナサールのためになることはなかった。
涙がすっかり乾くほどの時間が経った後、ナサールは口を開いた。
「もしかして、心に他の方がいらっしゃるのですか?」
嘘はつきたくなかったので、フィローメルはそのまま答えた。
「いいえ。いません。」
「それなら、僕が君をもう少しだけ好きになれるように許してください。」
「ナサール!」
「僕を友達のように思うと言いましたよね。だから、友達として君のそばにいたいんです。」
「それではダメです。」
「幼い頃、私に本当にやりたいことをしろと言ってくださった方は、フィローメル様ではありませんでしたか?」
フィローメルは言葉を失った。
ユースティスもそうだったし、ナサールもそうだったし、なぜこんなに昔のことをよく覚えているのだろう。
「……ナサールだけが苦しむことになりますよ。」
「大丈夫です。」
ナサールは涙で濡れた瞳を輝かせながら微笑んだ。
「あなたに迷惑をかけない限り、残りのことは私が耐えなければならないことです。」
そう言って、ナサールは去っていった。
フィローメルは窓の外に視線を向け、ナサールが南宮を出ていくのを見送った。
視線を感じたのか、彼はフィローメルがいた窓を見上げる。
しかし、二人の視線は交わらなかった。
片腕を窓にかけたルグィーンが声をかけた。
「嫌いな奴か?俺が消してやろうか?」
フィローメルは、彼が魔法で窓の外から見えないように視界を遮ったことに気づいた。
「違います。そんな言い方をしないでください。ナサールは良い人です。」
ナサールはしばらくその場に留まることができず、窓を閉めた。
そして、重い足取りで歩き去った。
フィローメルは崩れ落ちるように安楽椅子に身を沈めた。
ルグィーンが「フィル、どこか痛むのか?」と尋ねたが、彼女はただ黙ってうなずくだけだった。
ジェレミアも彼女の動揺を感じ取ったが、フィローメルは何も言いたくなかった。
できなかった、ナサールを完全に拒絶することは。
本当に彼のことを思っていたのなら、最後まで突き放すべきだったのに……。
結局、曖昧なまま彼がそばにいることを許してしまった。
なぜそうしてしまったのだろう。
ナサールに悪い人として残りたくなかったから?
それとも、彼が努力すれば、私たちの前に良い未来が待っていると思ったから?
「本当にバカみたい。」
フィローメルは呆然とした。









