こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

75話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- side ナサール
幼いナサールが各分野で頭角を現したとき、彼の両親は大いに喜んだ。
特にエイブリトン公爵は満足げにこう言った。
「やはり私の息子だ。」
ナサールはその言葉が気に入った。
父にもっと褒められたかった。
だから毎回、さらに一生懸命努力した。
しかし、努力すればするほどやるべきことが増え、その代わりに好きな人たちと過ごす時間は減っていった。
「疲れた。」
ナサールはわずか十七歳の年齢で、すでに虚無感に囚われていた。
努力しても得られるものは何もなかった。
かといって、努力を怠れば状況はさらに悪化するだけ。
ナサールに対する父親の期待はすでに高まっており、少年が努力を怠ったとしても、以前のように戻る可能性はなかった。
そんな時期に、彼は初めて皇女に出会った。
自分より一つ年下のかわいらしい少女に。
「わあ!きれい!君の名前は何?私はフィローメル。一緒に友達になろう!」
ナサールを見るなり、少女はそう言った。
そして熱心に彼を好きになった。
「ナサール、私と結婚しよう!」
正直、彼は戸惑った。
好きになってくれる気持ちはありがたかったが、少年にとって人々の好意はありふれたものだった。
一人の好意に特別な価値を見いだすには、彼は好意そのものに慣れすぎていた。
それでも、その知らせを聞いた公爵は今までにないほど喜んだ。
「皇女がお前を気に入ったとは!やはり私の息子だ!」
ナサールは困惑した。
父の称賛は、自分が努力したときにだけ得られるものではなかったのか?
しかし、皇女の愛を得るために彼がした努力はほとんどなかった。
時々会話を交わし、和やかに接してはいたものの、ナサールは基本的に誰に対してもそっけない態度を取る性格だった。
皇女との婚約が決まったとき、公爵の満足感は最高潮に達した。
「では!私の息子でなければ、誰が次期皇帝の夫になるというのだ!私はお前が誇らしいぞ。」
やはり婚約に至るまで、ナサールは何の努力もしていなかった。
婚約は皇女が皇帝から得た成果物だ。
そうしてナサールの自尊心は削がれていった。
『皇女の愛を受けるだけで自分の価値が決まるのなら、今まで自分がしてきた努力は何だったんだ?』
認めたくなかった。
それを認めるには、少年の短い人生の大部分が、その虚しさで満ちていたからだ。
だからナサールは変わらず努力し続けた。
努力してまた努力すれば、いつか父が努力の価値をもっと高く評価してくれると信じていた。
そんなある日、遊びの時間に皇女が言った。
「ナサール、どうしてこんなつまらないことをするの?勉強なんかやめて、一緒に遊ぼうよ!」
ナサールは毎週、皇女に会うたびに無駄に過ごす時間がもったいなく感じた。
家では睡眠時間を削ってまで勉強しているのに、皇宮に来るととても退屈だった。
少年はその退屈な時間を有意義に使おうと、皇女に勉強を教えようとした。
自分も教えながら復習できるし、皇女も学びが得られるので良いこと尽くしだった。
しかし、皇女の考えは違っていた。
勉強を嫌がる皇女を粘り強く説得してみたものの、少女はうんざりした表情でこう言い放った。
「どうしてやらなきゃいけないの?私はやらなくてもいいの。父上も気にしないことだし。」
ナサールにとって、それは天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
彼の父は、ナサールにさまざまな義務を課し、「公爵になる者なら、この程度は当然だ」と教えた。
ベレロフ帝国の五大公爵の一人であり、帝国最高の名門であるエイブリドン家の名を継ぐ者として、与えられた使命を果たせと。
ナサールはそれを鉄則のように信じてきた。
では皇帝はどうなのか?
皇帝は公爵よりもさらに高く、重要な地位ではないか?
ならば、次期皇帝となる皇女はなぜ別の義務を負わないのか?
実際、皇女が学業を怠り、礼儀作法を守らなくても、誰一人として大きな関心を示さなかった。
皇女の乳母は小言を言ったが、皇女が変わるだろうと期待する様子はなかった。
ナサールが一度、父にこの悩みを打ち明けたことがある。
「お前も、何を言っているんだ。ただ皇女が好きなようにさせておけ。」
「え?でも、臣下は君主が誤った道に進んだとき、忠言し、正しい道へ導くのが臣下の道理ではありませんか?」
ため息をついた公爵が言った。
「これはもう……先生たちが、お前に理想ばかりを吹き込んできたな。そろそろ現実を学ぶときが来たようだ。」
そして、続いた言葉は本当に衝撃的だった。
「皇女が立派な皇帝になれないからといって、お前が国政に関与するわけではない。現皇帝のように、すべてを自分でやろうとすれば、我々が損をする。」
「……え?」
「単なる国舎にとどまるつもりなら、私がお前の教育に気を配ると思ったか?」
ナサールが信じてきた価値観と信念が根底から揺らいだ。
貴族としての使命を運命づけられた話は、すべて表面上のものでしかなかったのか。
尊敬していた父に対する失望と幻滅が押し寄せた。
少年は混乱に陥った。
この混乱を隠すために、もしかすると意図的により優しく振る舞っていたのかもしれない。再び「一緒に遊ぼう」としきりにせがむ皇女に対して。
「では、皇女の前に単独で行きます。私はお手伝いします。」
ナサールは初めて見た笑顔に皇女はその時、驚いた。
何度か彼を呼んでも、すぐに返事はなかったが、彼女が少し笑ったことで、嬉しさが伝わってきた。
「公爵!ナサールが嫌いなら、どうしましょう?」
「それなら、その理由があるでしょう。私がうまく話しますから。」
皇女に向かって優しく笑う父親が、その日に見た優しさをナサルは忘れなかった。
懸命に苦しみながら、初めて経験したことだ。
一つの小さな失敗は、彼が失望した父。
それでも、そんな父をただ見守るだけの母が、依然として彼を愛しているという点だった。
そしてナサールは、彼らなしでは生きていけない子供だった。
だからこそ、希望の方向へと視線を向ける。
すべての疑問と混乱は、皇女と出会ってから始まった。
自分にこのような混乱をもたらした皇女が、羨ましかった。
半分は、憧れから生まれた羨望でもあった。
当時、皇帝が皇女に見せた無関心さは、その頃ナサールが両親に必死に求めていたものだった。
それでもナサールは、皇女を嫌いにはなれなかった。
自分を好きでいてくれる存在は、真心で身近にいることが基本的に大事だと少年は考えた。
また、姫が寄り添うことにも抵抗を感じていた。
外見の良い人だった。
もっと見ると強さを持っている人になりたいと思った。
しかし、少年はその外見に深く悩んでいた。
外見を感じるためには、過去に多くの人々に囲まれていた状態だった。
少年は姫に対して複雑な感情を抱えていた。
嬉しいときもあったし、嫌なときもあった。
少女の応援が心地よいときもあったし、負担に感じるときもあった。
ただ一つ確かな事実は、少年は姫のために準備された存在だったということ。
父への失望感は依然として残っていたが、反発心は次第に薄れていった。
飽き飽きしたのだ。
親を変えられないなら、その方が楽だった。
そうして時が流れた。
皇女が彼に敬語を使うようになり、ナサールの背がぐんぐん伸びても、何も変わらないと思っていた。
いや、変わるはずがないと信じていた。
だが、今回のことが起こった。
彼が十歳、皇女が十九歳の時に。
皇女がある瞬間、変わったのだ。
それはまるで突然の変化だった。
ナサールは、自分なりにその原因を探そうとしたが、結局、失敗に終わった。
罪を犯したことはあったが、この程度の変化を恐れることはなかった。
遊んでいる姫の遊びを見て、少年は困惑した。
「姫は私を必要としなくなったらどうしよう?」
少年の存在価値がすっかり消えてしまったように感じた。
ある日、彼は姫に無理にお願いして、何かが間違っているなら教えてほしいと願った。
そしてその日、少年は新しい経験をした。
「私が言ったことをそのままやってみて。」
姫はその言葉を受けて、次のように言った。
「私は大切な人です。私は誰にでもこう言います。誰かのために生まれた存在ではない。
自分の思うままに生きる。」
最初は皇女に言われて仕方なく従ったが、同じ言葉を繰り返しているうちに、妙に気分が高揚してきた。
言葉には力があるものだった。
この出来事で彼の人生が劇的に変わったわけではないが、くすぶっていた反発心に火がついた。
彼は次第に、唐風の服をまとうように変わっていった。
父である公爵に直接反抗することはなかったが、彼の称賛や認められることに以前のような関心を持たなかった。
説教は聞き流すことができたし、時には指示に反抗する行動をとることもあった。
公爵は息子の背が伸びて健康的に成長したことに喜んだが、年齢を重ねるにつれて成長が遅くなった。
少年は依然として外見的には不恰好だったが、内面的には成長していった。
変わった人物は少年だけではなかった。
姫もまた、完璧な後継者としての役割を果たすために努力していた。
公爵は姫を育てることが難しくなり、少年はその変化に戸惑いを感じた。
分明予想の中では、姫は尊敬されるべき皇帝になることを望んでいた。
その日、出来事は瞬時に変わり、彼女と皇帝の間には再び距離ができてしまった。
ナサールは、広がった溝をどうにかして埋めたいと思ったが、方法がなかった。
彼が近づこうとするほど、皇女はますます遠ざかっていった。
彼女の関心事は皇帝との関係であり、ナサールとの関係ではないように見えた。
外から見れば、お互い礼儀を守る模範的な婚約関係。
しかしその内側には、他人と変わらないぎこちなさだけが存在していた。
そのときまで彼は、自分の感情に気づいていなかった。
皇女に対する感情が、ただ重い荷物を背負わされた仲間意識のようなものだと考えていた。
もしかすると、あまりにも幼い頃から意識せずに接してきた相手だから、気づくのが遅れたのかもしれない。
その場所は、少年が自分の感情を自覚した場所だった。








