こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

8話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑧
そばにいた厄介者たちがいなくなった後、フィローメルの日常は穏やかになった。
規則的な日課と、どこにいても付きまとう人々の視線、いつ命を奪われるかわからないという恐怖は、時折彼女の息を詰まらせたが、すぐに振り払った。
幸いにも、乳母と元の侍女たちがいなくなったおかげで心は軽くなり、デルス伯爵夫人と新しく迎えた侍女たちは、それぞれの役目をしっかり果たしていた。
だが……。
「これだけでは足りない。」
朝食を取る前、部屋で一人、本をめくっていたフィローメルは思考にふけった。
乳母たち一派が消え、徐々に周囲の認識を得るようになったのは良かった。
だが、まだ安心するには早い。
少なくとも、一人で逃げられる年齢になるまでは、生き延びるためにできることはすべてしなければならない。
今はまだ9歳の幼い体では何もできない。
これから数年間は厳しいだろうが、いずれ宮殿を出るときには自活できるようにならなければならない。
『とりあえず、少しずつ逃走資金は貯めているけど……他にできることはないだろうか?』
逃走方法?
これは以前から考えていたことだが、この計画を実行するには大きな障害があった。
それはまさに、皇帝からの信頼を得ることだ。
逃げる際に最適なアイテムがあるが、問題はそれが皇室の宝物であることだ。
皇帝、もしくは皇帝に認められた後継者だけが使用できる貴重な宝物。
「でも、どうやって信頼を得ればいいのか……」
最近、皇帝は再びフィローメルを目にするようになったが、それでも二人の距離が急激に縮まることはなかった。
たまに食事の席に招かれる程度で、それ以上の関係の進展はなかった。
『うーん……どうしよう?』
しかし、だからといって皇室の宝物を諦めるには、それがあまりにも魅力的なアイテムだった。
習慣的に『皇女エレンシア』を再び読んでいたフィローメルの目が輝いた。
「そうだ、これだ!」
フィロメルは急いで呼び鈴を鳴らし、デレス伯爵夫人を呼んだ後、ある物を持ってきてほしいと頼んだ。
しばらくして、伯爵夫人が緑色の粉が入った薬瓶を持ってきた。
「ご指示のあった山査子(サンザシ)を乾燥させて作った粉末です。」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。でも、なぜ山査子の粉が必要なのか、聞いてもいいですか?普通は薬として使われるものですが。」
「これでお茶を淹れて、陛下にお出ししようと思っています。」
「……皇帝陛下に?」
「はい! 陛下はお酒をよく召し上がるじゃないですか。私、本で読んだんですけど、山査子を煮出したお湯が二日酔いの解消にいいらしいんです!」
フィローメルはあえて純粋な子供のように無邪気に話した。
それを聞いた伯爵夫人は、子供の善意を尊重しようとする良き大人だった。
「うーん……そうですね。陛下も皇女殿下のご厚意をきっと喜ばれるでしょう。」
予想通り、夫人は一瞬表情を曇らせたが、すぐに微笑みながらフィローメルを応援した。
「では、茶器とティーカップも用意しましょうか?」
「ハンカチもお願いします!」
「ふふ、すぐにお持ちしますね。」
デレス伯爵夫人が部屋を出るや否や、フィローメルは薬瓶の蓋を開けて鼻を近づけた。
「うわっ、臭い!」
ツンとくる強烈な酸っぱい匂いが部屋に広がった。
フィローメルが皇帝に山査子茶を献上すると言った時、伯爵夫人が戸惑った理由はこれだった。
山査子が二日酔いに良いのは有名な話だが、実際に翌日、山査子茶を好んで飲む人は少ない。
その理由は、強烈な匂いとそれ以上に強烈な味のせいだった。
『でも、これさえあれば大丈夫。』
フィローメルは部屋の奥深くにある金庫の前へ行き、扉を開け、自分の手のひらほどのガラス瓶を取り出した。
瓶の中にたっぷりと満たされた黄金色の液体が姿を現した。
それはまさに「世界樹の実の汁」だった。
苦い山査子茶にこの世界樹の実のジュースを加えると、驚くほど苦味が和らぎ、飲みやすくなるという。
書物には、エレンシアが父親から贈られた世界樹の実のジュースを山査子茶に入れたことで偶然に健康を回復したという話が書かれていた。
『良いものに良いものを混ぜれば、もっと健康に良くなるはず。』
そんな単純な考えから生まれた偶然の奇跡だった。
『やはり、本物の皇女は何かが違うものだ。』
フィローメルは苦笑した。
とにかく、エレンシアのおかげでただの山査子茶が、宿酔の解消にさらに優れた効果を発揮し、元気回復まで助けるといういわゆる「特級山査子茶」が誕生した。
それまで誰も、貴重な世界樹の実のジュースを強烈な味の茶に混ぜるなど考えもしなかった。
エレンシアが「特級山査子茶」の最初の発明者ということになる。
もちろんフィローメルがそれを横取りするつもりだけれど。
『ごめんね、エレンシア。どうせお前はこれがなくても美味しいものを食べて、贅沢に生きていけるんだから、私に譲ってちょうだい。』
そんな心の中の欲望を呟いていると、伯爵夫人が戻ってきた。
フィローメルは、彼女が持ってきた茶こしを使って山査子茶を入れた後、ティースプーンで黄金色の液体を垂らした。
最高の味を引き出すには、比率が重要だ。
フィローメルは本に書かれていたとおりに、ティースプーンで二杯分を入れた。
慎重にスプーンを回して茶と混ぜるうちに、彼女の額には汗が滲んだ。
「できた!」
そっと味見してみると、驚くことに、ほのかな甘みがあって美味しかった。
『エレンシア、お前は心が清らかだから、この貴重なお茶を、宿酔もせずにいるどこかの騎士にでも与えていたのかもしれないけど、私は違う。』
良いものは権力者に捧げるべきだ。
フィローメルは、一歩早く世の理を理解した者として、そのまま皇帝の寝室へと向かった。
茶の入った盆は熱くて危険だからと、デレス伯爵夫人が代わりに持ち、彼女についてきた。
昨日、皇帝は久しぶりに高位貴族たちと宴を開いたと聞いた。
晩餐が遅くまで続いたという話から、今朝、彼が二日酔いに苦しんでいる可能性が高いと考えられる。
そんな中、寝室へ向かう途中で、フィローメルはポラン伯爵と鉢合わせた。
ポラン伯爵は、フィローメルの説明を聞くと、目元をほころばせた。
「ついに、お二人の間にも春の兆しが……!陛下が、すぐにでも目覚められる時間です。行きましょう。」
『やっぱり、まだ二日酔いから回復していないようね。』
フィローメルは内心喜びながら、皇帝の寝室へと歩を進めた。
伯爵が先に寝室の扉を開けて入った。
「陛下、誰がいらしたかご覧ください!」
寝台の上から、苦しげな声が聞こえてきた。
「……うるさい、騒ぐな。」
横になっていたユースティスがゆっくりと目を覚ました。
『今だ!』
フィローメルは伯爵夫人から茶の載った盆を受け取り、寝台へと近づいた。
「陛下、ご機嫌いかがですか?」
フィローメルは、これまで練習してきた完璧な礼儀作法で挨拶をした。
思いがけない声に、ユースティスは驚いた。
「フィローメル? なぜお前がここにいる?」
「陛下の健康に良いかと思い、サンザシ茶をお持ちしました。よろしければ、一杯いかがですか?」
後ろからポラン伯爵が口を挟んだ。
「皇女殿下が直々にお淹れになられました。殿下のご誠意がたっぷり詰まっております。」
ユースティスは渋い顔で、立ちのぼる湯気に目を向けた。
むっとするような匂いのせいか、薄暗い室内がさらに不快に感じられた。
世界樹の果実の蜜はサンザシの酸味を和らげてくれるが、匂いまでは消せないのだ。
『まさか、この匂いで飲まないつもり……?』
心配になったフィローメルはもう一歩足を踏み出した。
「匂いはこんな感じですが、味は……」
うっ、フィローメルの表情が一瞬ひきつった。
『お酒の匂い!』
サンザシの香りでも隠しきれない酒の匂いが皇帝から漂ってきた。
フィローメルの視線の先には、テーブルいっぱいに並べられた空の酒瓶が見えた。
昨夜、従者たちが片付けなかったとは思えない。
つまり、これは昨晩のうちに飲み干されたものに違いなかった。
『宴が終わった後にも、これだけ飲んだってこと……?』
愕然として目を見開いた。
「私から離れろ。」
フィローメルの考えを読んだのか、ユースティスが後ろに身を引いた。
「でも……。」
盆を持つフィローメルの手がぶるぶると震えた。
『重くてこれ以上は無理なのに!』
茶器と茶杯が載った盆を、子供が長時間持ち続けるのは無理だった。
「……よこせ。」
ひと息ついたユースティスが盆を取り上げ、ベッドの上に置いた。
彼は茶を飲もうとしたが、しばらく考え込んだ後、ひと息で茶杯を空にした。
「……?」
ひびが入っていた沈黙がすぐに和らいだ。
「味は……悪くないな。」
予想通りの結果にフィローメルはにっこりと笑った。
「でしょう?世界樹の果実の蜜を加えたので、苦味が消えたんです。」
「世界樹の果実の蜜?」
「はい!陛下が私にくださったものです。」
「……お前が飲めと言っていたはずだが。」
「私はもうどこも痛くありません。ですが、陛下はよく二日酔いでお苦しみになられるので……。」
ポラン伯爵が相槌を打った。
「今後は皇女殿下のことを考えても、お酒を控えられるのがよろしいでしょう。いくら陛下がご壮健であっても十年間もお酒を飲み続ければ、健康に支障をきたさないはずがありません。」
「うるさい。」
「皇女殿下はまだお若いのに……。」
「うるさいと言っている。」
二人の会話を聞きながら、フィローメルは新しい事実を知ることになった。
『ずっとお酒をたくさん飲んでいたんだな……。』
普段彼と会うことがなかったため、そんなことは知らなかった。
『それに、十年前って……。』
フィローメルが生まれた年だ。
そして、イサベラ皇后が亡くなった年でもある。
きっと彼は皇后の死後、酒に溺れ、孤独に苛まれながら生きてきたのだろう。
だからこそ、どこか空虚な雰囲気が漂っていたのかもしれない。
彼はすっかり廃人のようだった。
なんとなく妙な気分になった。
『妻が亡くなったかと思えば、今度は娘まで死んだと思っていたなんて……。』
しかし、フィローメルはその感情をすぐにかき消した。
『いや、誰が同情するものか。』
いずれ自分を殺す相手だ。
だから滅びるその時までは、決して心を揺るがせてはならない。
「フィローメル。」
その時、杯を盆の上に置いたユースティスが、低い声で言った。
「おかげで少し頭が冴えた。何か望むことがあるなら言ってみろ。」
やった!
フィローメルの予想通りだった。
皇帝は賞罰が明確な人物だった。
今回も目立った行いをしたのだから、報酬として願いを聞いてくれると考えた。
何を願えばいいのか。
『この程度であのアイテムを要求するのは……さすがに負担が大きい。』
ならば。
しばらく考えた末に、フィローメルは自分の望みを口にした。









