こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

80話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 妖精の羽根布④
レクシオンが差し出した妖精の羽の布を見たセレフィアナの目から、涙がこぼれ落ちた。
「…ああ。私の子どもたちの身体で作られた布に間違いありません。」
彼女のそばにいた小さな妖精たちも、嗚咽を漏らした。
女王の手のひらにあった布入りの箱たちが宙に浮かび上がった。
「これは私たちが持ち帰ります。死者たちの墓のそばに埋めようと思います。」
星が浮かぶ夜空のような瞳がウィリアムを見つめた。
彼女の怒りに空気が張り詰めた。
「うぅぅぅ……イヤだ! 解放して!」
ウィリアムは必死にもがいたが、彼を縛った縄から抜け出すには力が足りなかった。
セレフィアネは水のように静かに彼のもとへ歩み寄った。
美しく冷たいその手が男の顔に触れた。
その手よりも冷たい声で女王は言った。
「あなたも私たちと一緒に来てもらいます。」
一緒に行ったときに起こる未来を予感した彼は、必死に拒絶した。
「嫌だ!私はベレロフ帝国の国民だ!罰を受けるとしても、故郷で受けるんだ!」
セレフィアナはあまりにも美しくて息を呑むような微笑みを浮かべた。
「私たちの地で、私たちの同胞に罪を犯したあなたが、なぜこの国ではなく自分の国で罰を受けるの?」
彼女は男の顔をトントンと優しく叩いた。
「心配しないで。すぐに死なせるつもりはないわ。生きたまま羽をむしられ、苦しんで死んでいった同胞たちの痛みを、あなた自身で味わってもらわないと。」
「俺がやったんじゃない!狩人たちがやったんだ!あなたたちも知ってるだろ!」
「くだらない言い訳ね。その狩人たちを雇ったのはあなたじゃない。」
「そ、それは……!」
「罪を償う過程は孤独ではないわ。狩人たちも私たちの土地であなたを待っているから。」
「嫌だ!行きたくない!」
彼はフィローメルを見て必死に訴えた。
「フィローメル、お願いだ! 助けてくれ!」
だが、彼女にはその哀願に応える理由も、応えたいという気持ちもなかった。
怒りに満ちた小さな妖精たちがウィリアムの周囲を飛び回り始めた。
妖精たちに取り囲まれたまま、罵声を上げていた男は、すぐに静かになった。
それがウィリアム・ハウンズにとってふさわしい結末だった。
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出発前、セレフィアナはフィローメルに感謝の意を表した。
「ありがとうございます。これで故郷で眠っている仲間たちに会えるかもしれません。」
フィローメルは照れながら答えた。
「いえ、私は何もしてません。」
「とんでもない。あなたでなければ、魔塔主が私たちにこの男の存在を知らせてくれたのかしら。」
彼女は足元に倒れているウィリアムを見下ろした。
彼は死んではいなかった。
ただ、妖精の粉に酔って意識を失っているだけ。
これから訪れる未来を思えば、いっそ死んだ方がましだろうが。
セレフィアネはその場の痛々しい光景から目をそらし、ルグィーンを見つめた。
「あなたにこんなに可愛い娘がいたなんて知らなかったわ。」
当惑したフィローメルは手を差し出した。
「可愛いなんて、そんな……」
同性さえも魅了するほどの美貌を持つ妖精の女王にそんな褒め言葉を言われるなんて――恥ずかしかった。
にっこりと笑ったセレフィアナが、フィローメルの両手を握った。
「見た目だけじゃなく、あなたは本当に優しくて慈悲深い方ですね。」
「お褒めにあずかりすぎです。」
「いえいえ。私たちのために“妖精の羽布の禁止法案”を最初に考えたのは、あなたでしょう?」
「……どうしてご存じなんですか?」
「あなたのもう一人のお父様から聞きました。」
皇帝から?
「世界樹で三年ごとに開かれる種族会議でお会いしたことがあります。普段は無口な方なのに、そのときは珍しく……」
セレフィアナの話はそこで途切れた。
ルグィーンが絡んできたせいだった。
「誰が誰の父親だって?お前、帰れ!他人の娘にくだらないこと言うならさっさと消えろ!」
女王は可愛らしくむっとした。
「男の嫉妬って見ていて面白いわね。」
「何?」
「ふふ、まあ何にせよ、可愛いフィローメル!」
彼女はふわりと飛び上がり、フィローメルに顔を近づけた。
チュッ!
フィローメルの額にキスをした。
柔らかな唇が触れた場所にぬくもりが広がった。
セレフィアネが声を上げた。
「数多くの我らの仲間を危機から救った者よ――そして、苦しみの中で死に、目も閉じられなかった子どもたちに安らぎを与えてくれた方よ!」
小さな温もりがフィローメルの全身に広がっていくような感覚がした。
「あなたに妖精の加護を授けましょう!明るい未来があなたの前に広がりますように。そして呼びかけにも応えてくれますように。」
高く空へと飛び立った女王のあとを、小さな妖精たちも舞い上がった。
気絶していたウィリアムも同様に連れて行かれた。
故郷へ帰る長い旅路。
ルグィーンの力を借りれば一瞬で戻れたとしても、彼らはあえて長い空の旅を選んだ。
亡くなった者たちの安らぎを祈る旅路とするため。
こうして、セレフィアナと小さな妖精たちは旅立っていった。
ルグィーンは自分の息子たちと娘を見ながら言った。
「僕たちも帰ろう。」
フィロメルにはひとつ疑問が浮かんだ。
「ところで、なぜセレフィアネ女王に連絡されたのですか?お話を聞いた限りでは、お二人はそれほど親しい関係でもなさそうでしたが。」
「お前が言ってたじゃないか。」
「……?」
「ちょっと嫌な気分になったくらいで人を殺しちゃいけないって。」
「まあ、そう言いましたけど。」
「だったら、あいつを殺したいほど嫌ってる存在に知らせればいいだろ。」
「それで、妖精たちに……?」
「そうだ。君だってあいつらのすることを止めなかったじゃないか。」
深く染み込んだ彼らの恨みを自分がどうこう言えるはずもなかったし、止めたいとも思わなかった。
むしろ、悲しみと怒りを抑えていたセレフィアナが自分に頼ってきたとき、助けたいという思いだけだった。
それが、彼らに許されない罪を犯したウィリアムと、血縁関係、いや同じ種族として最低限守るべき道理だと感じたのだ。
ルグィーンは笑いながら言った。
「風が冷たいな。そろそろ帰ろう。」
フィローメルは彼の後ろ姿を見つめた。
『正直、まだこの人がどんな人なのか、よくわからないけど……』
なぜか、さっきの彼の言葉は、ただウィリアムを殺したくて妖精たちを呼んだ、という意味に聞こえた。
しかし、今まで見てきた彼の姿を思い出して、フィローメルは首をかしげた。
「まさか、それだけってことはないでしょ?自分なりに正義感があったんじゃない?」
結論として、妖精たちの復讐を手伝ったことからして、思ったよりも悪くない人なのかもしれないと思えた。
「一緒に行きましょう!」
フィローメルはルグィーンについて、二人の兄弟がいる場所へと歩いていった。









