こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

83話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母との面会②
扉の前に立っていた警備兵が力強く軽く敬礼をした。
「レディ・フィローメル、こんにちは!」
「カトリンに会いに来ました。」
「ポルラン伯爵様から伺っております。ここまで歩いて来られるのはお疲れになりませんでしたか?」
「ええ、ちょっと大変でした。」
悪いことをしたわけでもないのに、近衛兵は慌てて謝罪した。
「申し訳ありません!補助席を設けるよう要請いたします!」
「そこまでしていただかなくても……」
「いえ!ですが……その、猫も一緒に入られるのですか?」
「ダメですか?」
「規則上、それはちょっと難しくて……」
フィローメルのしょんぼりした目つきを見た警備兵が言葉を変えた。
「……猫が人間の言葉を理解しているわけではないので、大丈夫かと存じます。」
「ありがとうございます。お疲れ様です。」
キーッという音とともに扉が開き、フィローメルは部屋の中に入る。
部屋の家具は簡素だった。ベッドと小さな本棚程度がすべてだ。
そのほかには、扉の近くに豪華な椅子が一脚置かれていた。
面会者用の椅子だろう。
フィローメルがその椅子に座ると、ちょうどベッドから起き上がった女性の目が驚きに大きく見開かれた。
「……フィ、フィローメル。」
フィローメルは二ヶ月ぶりに会う自分の母に挨拶した。
「お久しぶりですね、カトリン。」
二人の女性の再会は、ぎこちなくもあたたかかった。
カトリンは娘に近づこうとする。
「どうしてここに来たの?まだ宮殿にいると思ってたのに。元気だった?」
だがそのとき、「ガシャン」という音と共に、彼女の足首に付けられていた足枷の鎖がピンと張られた。
足枷は、カトリンが椅子に座ったまま他者に接近できないよう、長さが調整されていた。
万が一の襲撃に備えた保護装置だ。
カトリンは今もなお罪人。
皇宮の監獄に囚われた身だった。
より清潔で広々とした環境が提供されてはいたが、それでも変わらない真実があった。
『それでもここにいる方が、監獄に閉じ込められるよりはマシよね。』
ポルラン伯爵から聞いたところによると、面会がない日には警備兵が彼女の足かせを外してくれるらしい。
机の上に置かれた数冊の本を見ても、彼女にはそれなりの娯楽が与えられているようだ。
さらに、週に一度は東の塔の前庭での散歩も許されていると聞く。
皇女と自分の娘をすり替えた大逆罪人としては、かなり良い待遇だろう。
フィローメルはふかふかの椅子の背もたれに体を預けた。
「ご質問にお答えすると、私は元気に過ごしています。皇宮に滞在していて、ここに来たのはあなたに伺いたいことがあったからなんです。」
「えっ、本当?元気なら良かったわ!でも、どうして皇宮に……?」
その後、彼女はカトリンにこれまでの事情を詳しく語った。
フィローメルが皇族の貴賓になったという話に、カトリンはうつむいた。
「そう……罰は私ひとりで受ければいいの。あなたは正しいことをしただけなんだから。」
フィローメルは母のこの態度に、以前からずっと違和感を覚えていた。
まるで彼女は心からフィローメルに対して申し訳ないと思っているようだ。
『申し訳ないなら、最初からそんな罪を犯さなければよかったのに。』
しかし、これ以上カトリーヌに対して否定的な感情を注ぐ必要はない。
今重要なのはそんなことではなかった。
そして、この場所に足止めされているカトリーヌとは違い、フィローメルは前に進まなければならなかった。
許すという意味ではない。
ただ、くだらないことに自分のエネルギーを無駄にしないと決めただけだ。
まずはカトリーヌに質問を投げかけようと思った。
「それで、あなたに聞きたいことがあって……」
すると突然、カトリーヌが彼女の言葉を遮った。
「わかってる。あなたが一番気になっているのはあのことよね。ちゃんと話してあげるべきだったのに。」
……まだ何も言っていないのに、エレンシアのことを尋ねたいことがあるって?
カトリンは娘に真剣な眼差しを向けた。
「よく聞いて、フィローメル。あなたの実の父親のことなの。」
その言葉に沈黙が流れた。
そしてカトリンは、フィローメルがまだ実の父親の正体を知らないという事実に気づいた。
「あなたの実の父親は、あなたの想像をはるかに超える立派な人物なの。もしも頼る場所が何もなくなったら、その人を訪ねなさい。彼はあなたを見捨てたりはしないわ。その人というのは、実は……」
その先の言葉が続く前に、フィローメルが母の言葉を遮った。
「大丈夫です。私の実の父が魔塔主様だということも全部知っています。」
「それをどうしてあなたが!」
カトリーヌは驚いて口をぽかんと開けた。
フィローメルは椅子の足元にいた猫に向かって話しかけた。
「もう元の姿に戻ってもいいですよ。扉が二重になっているので、外には私たちの声がまったく聞こえないと思います。」
すると、ポンという音とともに猫が消え、その場所に人間が現れた。
「やあ、カトリーヌだったか? 久しぶりだね。」
カトリーヌはハッと驚いた。
「ルグィーン様!」
フィローメルはカトリンに、どうして自分がルグィーンと一緒にいることになったのか、簡潔に要約して話した。
「よくわからないけど……エレンの香水が怪しくて調べてるって話よね?ルグィーン様は私を守ってくれてるの。」
ルグィーンがぱちんと指を鳴らした。
「そう、それだ。」
カトリンは嬉しそうに微笑んだ。
「それにしても、ルグィーン様、お久しぶりですね。まったくお年を召していらっしゃらない。」
「君も同じだよ。昔の顔のままだ。」
「私のことなんて、もう覚えてないでしょう?」
「うん、そうだね。ただ、一度会ったふりをしてみただけさ。」
「性格も変わってないのですね。」
フィローメルは無言で彼らを見守っていた。
一人の親よりも、久しぶりに会った近所の人たちが話しているような会話だ。
『まあ、二人の間に特別な何かがあることを望んでいたわけじゃないけど、なんだか気が抜ける……』
二人はしばらく思い出話を続けた。
「パルロス山の近くでモンスターの群れに囲まれていた私を、ルグィーン様が助けてくださったんですよ。」
「パルロス山……? ああ!あの時、もう少しで命を落とすかと思った女性が君だったのか。」
「その川を越えたら、私の故郷なんです。」
新たな情報にフィローメルは耳を傾けた。
「ねえ、ルグィーンがカトリンを助けてくれたの?」
フィローメルが尋ねると、カトリンが答えた。
「そうよ。本当にすごかったわ。一度にあれだけのモンスターを倒すなんて……」
それって、まるでロマンチックな出会いじゃない?
フィローメルがよく読んでいたロマンス小説では、主人公の二人がよくそんな風に出会っていた。
彼女は母を見つめた。
『もしかして、カトリンはルグィーンに少しでも想いを寄せてたんじゃ……?ルグィーンが去ってから、昔の恋に執着してたのかも……』
フィローメルの意味深な視線を察したカトリンは、すぐに手を振った。
「違うわ!私はルグィーン様を尊敬していただけで、恋愛感情なんて、ほんの少しもなかったのよ!」
「……そうなんですか?」
「本当だってば!そんな哀れみの目で見なくてもいいのに!昔の私は黒髪じゃないと興味なかったのよ……」
「なんですって?」
「あ、いや。それは……」
フィローメルは呆れて叫んだ。
「全部、あなたがその黒髪の男にやたら執着したから起きたことでしょ。」
「誤解しないでよ!もうあの人のことなんて忘れたわ!黒髪はただの好みってだけ!」
フィローメルはため息をついた。
「最初は髪の色だけで人を好きになるなんて……」
「ねえ、フィローメル。あなたにも好きな髪色くらいあるんじゃないの?」
「ありません。」
「そんなこと言わずに、ひとつだけ決めてみてよ。将来恋をする相手はこの色の髪がいいなって、そういうの。」
「ないってば。」
「じゃあ、好きな色くらいはあるでしょ。」
「うーん……じゃあ金髪?」
「なにそれ、あの子金髪だったの!?」
「ち、違います!そんな子いませんってば!」
「隠さなくてもいいのよ。好きな男の子がひとりくらいいてもいい年頃なんだから。」
カトリンはまるで娘の恋愛相談に乗る母親のような顔で話していた。
「今、二人で何してるの?金の髪?そんなことより銀の髪の話でもしなさい。」
ルグィーンは不満そうな目で二人を見つめた。
ああ、ついカトリンのペースに巻き込まれてしまった。
思ったよりずっと柔らかい性格の人のようだ。
これまでカトリンと一緒にいるといつも雰囲気が重かったから気づかなかったが、これが本来の彼女の性格なのかもしれない。
こんな人があんな大きな罪を犯したという事実に、妙な感情が湧いてきた。
『いや、今は感傷に浸っている場合じゃない。』
口をつぐめなくなるほどエレンシアのことを聞かなければならなかった。
「私が聞きたいのは、実の父ではなく、エレンシアに関することです。」
「エレン……」
カトリンの顔が一瞬で曇る。
「きっとあの子は私を恨んでいるわよ?一生ここには来ないと思う。」
フィローメルはカトリンの言葉から、エレンシアがまだ東の塔を訪れていないことを察した。
もしかしたら、彼女もポルラン伯爵からカトリンとの面会が可能になったという知らせを聞いたのかもしれないが……。
『まだあまり時間が経っていないから?それとも……』
しばらく沈黙していたフィローメルがカトリンを見て口を開いた。
「以前、エレンシアが別人のように変わったって言ってましたよね?」
カトリンの体がピクッと震えた。
「わ、私の思い違いだったのかもしれない。あり得ない話でしょ。」
「そうかもしれません。でも、話してください。エレンシアがどう変わったのか、はっきりと。」
フィローメルはカトリンに対して、本のことについては一言も言わなかった。
それでもカトリンは、自分の養女にただ事ではないことが起きているという事実をしっかりと理解していた。
「いいわ。私が知っていることなら、なんでも話すわ。」
どれくらいの時間が経っただろうか。
カトリンは何か決心でもしたかのように、大きくため息をついた。
「エレンが変わったと最初に感じたのは、あなたが現れる一月ほど前かしら。冬だったわ。」
机に肘をついたまま、彼女は記憶を手繰った。
「正確にその日だったかどうかは……確信はないけど、ある日、外出して戻ってきたあの子の様子が少しおかしいと感じたの。家にも遅く帰ってきたし、私の名前を覚えていないように尋ねてきたのよ。」
カトリンの名前を覚えていなかった?母親なのに?
誰が見ても怪しかった。
「寒い日に外に長くいたエレンが風邪をひいて、うわ言を言っていると思って薬を飲ませたの。そのあとで気がついたのよ。次の日になっても彼女の様子は変わらなかったし、その次の日も、さらにその次の日も……」
彼女は自分の頬をなでながら、言葉を続けた。
「そして何日か経ったある日、様子が少し変わったの。」
声が突然大きくなった。
「急に元気になったって言えばいいのかな?見た目は以前のエレンに戻ったようだったけど……なにか微妙に違ったの。感情表現が極端になったというか。エレンはもともと感情に素直なタイプだったけど、そんな彼女でも気分の波が激しいわけじゃなかったのに。」
以前に牢で彼女から聞いた話を思い出したフィローメルが尋ねた。
「食の好みとか歩き方とかも変わったって言ってませんでした?」
カトリンは手のひらを打った。
「そう!だからおかしいと思ったの。人の心がそう簡単に変わるって言っても、一瞬で変わるのは難しいでしょ?でもエレンは変わったの。」
彼女は指を折りながら、エレンシアの変化した点を挙げていった。
「元々は歩くのがゆっくりだったのにすごく早くなったし、ご飯もすごく早く食べるようになったわ。話し方もちょっと苛立った感じに変わったの。悪意があるわけじゃなさそうだけど、なんだか聞いていると腹が立つっていうか……。」
共感が湧いたのか、フィローメルは無意識に眉間にしわを寄せる。








