こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

85話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母との面会④
最初に戻ってきていたフィローメルは、遅れて戻ってきたルグィーンを見て尋ねた。
「カトリンとはうまく話せましたか?」
「うん、まあ、別に大したことじゃなかったよ。」
彼女の後ろについてきた猫がいないことに気づいたのは、塔を出てからだ。
ルグィーンなら移動魔法で戻ってくるのは簡単なはずだが、塔に残っていたのは予想外の行動だった。
『カトリンと話すべきことが他にあったのかな?』
もしかすると、自分たちにも話しておくべき事情があるのかもしれない。
たとえ夫婦ではなかったとしても、一人の子どもの親ではないか。
『でもどう見ても、実験者と被験者以上の関係には見えないけど。』
フィローメルがルグィーンをちらりと見ると、彼は少し慎重な態度で尋ねた。
「フィル、僕とカトリンが恋人じゃないって知ってがっかりした?」
「えっ?」
彼はフィローメルの書斎がある方向を指差した。
「君が持ってる本を見てると、いつも男女が出会って『愛』という非理性的な感情に落ちて、やがては結婚して子どもを作るんだよね。」
「……どんな本を読んだんですか?」
「タイトルがですね……運命的な愛、完璧な公爵様の秘密、大公と令嬢の隠された……」
「うわあああっ!やめて!」
フィローメルは悲鳴を上げてルグィーンの口を塞いだ。
「もう一度でもその恥ずかしいタイトルを口にしたら、一生その顔は見ませんからね!」
その真剣な目つきに、ルグィーンは何度か咳払いをした。
彼の口を自由にしてから、フィローメルは両手で顔を覆う。
『どうして見たの?絶対に隠しておいたのに!』
やはりそういった本を、オブジェで隠された本棚の隅にしまっておくのはあまりにも無防備だったようだ。
『せめてけばけばしいカバーをはがして、カバーだけでもかけておくべきだった……』
いや、全部読み終えた後は燃やしておくべきだった。
しかし恥ずかしさに染まったフィローメルの心に、別の考えがふっと湧いてきた。
『どうして私、恥ずかしがってるの? 私は〈皇女エレンシア〉を調べるためにあの本を買っただけなのに!』
そうだ。最初は明らかに〈皇女エレンシア〉のためだった。
もし市場に他の〈皇女エレンシア〉が出回っていないか確かめたかったのだ。
フィローメルが持っていた本に共通する〈皇女エレンシア〉という本があるのかどうか。
幸いと言うべきか、長い調査の末にも別の『皇女エレンシア』は発見されなかった。
皇女、もしくは王女が主人公のロマンス小説は数多くあったが、それと似たような内容のものはなかった。
後には貴族の令嬢が主人公の小説まで調査の範囲を広げたが、『皇女エレンシア』のような小説は彼女が持っていたものが唯一だった。
全ての本をひっくり返してまで調べた末にようやく、フィローメルは安心した。
他人によって自分が偽の皇女であるという事実が暴かれる危険はなさそうだと。
ただ、その過程で彼女が重度のロマンス小説マニアになってしまったことが問題と言えば問題だった。
混じり合った内容も含まれていたその本たちを他人に見られるのは、少し恥ずかしくもあったが、それでも捨てることはできなかった。心が痛んだから。
『だから隠してたのに。』
手をぎゅっと握ったフィローメルの手が震えた。
あまりにも恥ずかしかった。
人に知られたなんて!
しかも、それがよりによって彼だなんて!
ルグィーンがさらに慎重な口調で尋ねた。
「……フィル、どうしたの?僕がその本を読んだのって、そんなにいけないことだったの?」
悪いことだとは言い切れないが、フィローメルは唇をきゅっと噛んで答えた。
「い、いいえ……読むことはできます……でも……絵を描かないでください……(いえ、そういうこともありますよ。でも次からはやめてください)」
「う、うん……」
深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせた後、フィローメルが尋ねた。
「それで、もともと何の話をしていたんでしたっけ?」
「……私とカトリンが恋人同士じゃないって知ってがっかりした?」
「はい。そうでした。」
フィローメルはそっとうなずいた。
「がっかりはしてません。最初に知ったときはちょっとがっかりしましたけど、それは昔の話です。」
「本当?」
「本当ですよ。お二人が愛し合っていた関係だろうが、そうでなかろうが、それが今の私自身を変えるわけでもありませんし。」
フィローメルが皇宮に戻り、多くの人たちの中でささやかな幸福を感じながら気づいたことだった。
ルグィーンには何でもないように言ったが、実は自分の出自の真実を初めて知ったとき、彼女は絶望していた。
両親の愛なしに生まれた実験体。
それが自分なのだと考えたから。
エレンシアがうらやましかった。
本の中で皇帝と皇后の愛がどれほど美しく描写されていたことか。
『そんな美しくて切ない愛の結晶として生まれたからこそ、エレンシアは皆に愛されたんだ』
フィローメルはぼんやりとそう思った。
そして自然と、自分にはそんな資格はないと感じた。
自分は失敗作の実験体に過ぎないのだから。
愛ではなく、現実的な利害関係の中で生まれた。
それでも多くの人々がフィローメルを好いてくれた。
彼女が偽の皇女であることを知っていても、誰も咎めなかった。
デレス伯爵夫人、ポルラン伯爵、侍女たち、メルリンダ、他の令嬢たち……そしてナサール。
ルグィーンと三兄弟も期待以上にフィローメルに好意的だった。
そうでなければ、果たしてこの場所までついてきてくれただろうか。
そのおかげでフィローメルは、自分も十分に幸せになれる人間だということに気づいた。
『もうエレンシアがうらやましくない。』
ルルグィーンとカトリンが恋人同士だろうが、実験者と被験者の関係だろうが、フィローメルは変わらずフィローメルのままだった。
フィローメルは確信に満ちた声で、まるで宝物を語るように言った。
「がっかりなんてしてません。」
ルグィーンの顔が少し明るくなった。
「それなら良かった。」
「でも、どうしてそんなことを聞いたんですか?」
「ただ、気になっただけ。」
フィローメルは疑ったが、それ以上は問いたださなかった。
彼女にはすぐにやらなければならないことがある。
エレンシアの日記帳を手に入れなければならない時だった。








