こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

88話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 神の書
エレンシアの故郷に行ってから、もうかなりの時が流れていた。
その間にエレンシアの誕生日パーティーが開かれたが、フィローメルは自分のもとに届いた招待状を無視した。
エレンシアの行動をじっくり観察する機会は、それ以外にもいくらでもあった。
『形式的で退屈なパーティーに出る必要はない。』
フィローメルがすっかり夢中になっていたのは、また別の問題だった。
言うまでもなく、それはエレンシアの日記帳。
日記帳を目の前に置いていた彼女の丸い額に、しわが寄った。
「うーん……」
ただ読むだけでは、意味不明な文字の羅列を解読できるはずがなかった。
「はあ……」
日記帳を脇に置いて、ひとつため息をついた。
いまだにエレンシアの日記に書かれていたミミズのような文字の正体は謎のまま。
レクシオンもその文字を見てわからないと言って首をかしげていた。
ジェレミアも同じ反応で、カーディンはというと……
いつも部屋にいた猫の姿も、最近では見かけなくなっていた。
「魔塔の書庫を調べてみよう。」
ルグィーンはこの言葉だけを残して、あっさりとその場を後にした。
レクシオンも「図書室で調べてみる」と言って去っていった。
彼らが自分のために力を尽くしてくれているのに、フィローメルが何もしないでいるわけにはいかなかった。
「可能性は非常に低いけど、試してみるしかない。」
彼女は静かにそう言って、南宮へと向かった。
目的地は皇帝宮。
皇帝に、皇帝専用の書庫への入室を願い出るつもりだった。
皇帝専用の書庫とは、ベレロフ帝国の始まりから代々受け継がれてきた記録が眠る場所だった。
極秘で授かったという神託の内容から、帝国建国の秘密まで、皇帝にのみ許されたあらゆる国家の機密がそこにあった。
『どう考えても、私を中に入れてくれるわけがない場所よ。』
でも、他に方法はなかった。
フィローメルに許可された記録の中で、ミミズのような文字に関係している可能性が高いものはすでにすべて調べつくされていたからだ。
フィローメルは未練がましい気持ちを抑えながらも、決意をもって皇帝の執務室に入った。
しかし――
「いいだろう。」
皇帝はあっさりと答えた。
フィローメルのひそかな覚悟があっけなく崩れる瞬間だった。
「本当に、廃妃指定された専用書庫に私が入ってもよろしいのですか?」
「よい。」
「本当、ほんとうですか?」
「本当だ。」
あまりにもあっさりした許可に、思わず聞き返してしまった。
「えっ、そんなに簡単に誰でも入れてもいいんですか……?」
「君は“誰でも”じゃないだろう?」
フィローメルは嬉しさとともに、少し気が抜けてしまった。
こうなるとわかっていたら、もっとちゃんとした服で来ればよかった。
とはいえ、ありがたいものはありがたい。
「ありがとうございます!必要な資料だけ見て、すぐに出てきます!」
「好きなだけいて構わない。管理者に前もって伝えておく。」
「いやいや、私は部外者なんですよ。国家機密に触れるなんてとんでもないです。」
「国家機密って言っても大したことじゃないし……そういえば、触れてはいけない本が一冊あるんだったな。」
『触れてはいけない本?』
フィローメルは興味を引かれて眉をひそめた。
「それって何ですか?」
フィローメルの質問に、ユースティスは簡単な説明とともに、それが初代皇帝の時代から代々皇室に伝わる古文書であることを答えた。
『ああ、それか……』
フィローメルは、絶対に手を触れてはいけないと改めて心に誓う。
その時、皇帝の視線がフィローメルの手に向けられた。
「今日は紅玉の指輪をはめているんだね。」
「あ、はい。こんなにきれいな指輪をただ宝石箱にしまっておくのはもったいないじゃないですか。」
実は少しでも皇帝に好印象を与えて、専用書庫への入室許可を得るための策略だった。
その指輪は彼がくれたものであり、ロザンヌに奪われたときに探し出して返してくれたのも彼だったから。
ユースティスはかすかに満足げな微笑みを浮かべた。
「それにしても、君も本当に学問が好きなんだな。古代語に興味を持って、私の書庫に入りたいとは。」
「はは、私はちょっと言語の方面に興味がありまして。」
後継者の授業を受けなくなってからというもの、その本には一度も手を触れていなかったが、ああ言われると少し気まずい気持ちになった。
会話が一瞬途切れた後、フィローメルを見ていた皇帝が口を開いた。
「フィローメル、もし午後に時間があるなら……」
ノック、ノック!
だがその時、ノックと共に外から聞こえてきたポルラン伯爵の声が、皇帝の言葉を遮った。
「陛下!お話の途中で誠に恐縮ですが、現在、西部地方の国境から連絡が……!」
非常に緊急かつ重要な用件のようだ。
その場を譲るべきだと考えたフィローメルは、彼に丁寧に挨拶した。
「では、これで失礼いたします。」
「……そうか。」
フィローメルが執務室を出た後。
「陛下、今、大変なことが……。わ、私、何か間違ったことでも……?」
理由のわからないポルラン伯爵の切迫した声が聞こえてきたが、彼女の関心を引くことはできなかった。
『早く行って確かめなきゃ!』
フィロ^メルは駆けるような足取りで、皇帝専用書庫がある皇帝宮の地下へ向かった。
・
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特別な照明があるわけではなかったが、書庫の中は明るかった。
フィローメルは、古い本の匂いで満ちたその空間を見回した。
狭くはなかったが、思っていたほど広くもなかった。
それでも天井に届くほど高く積まれた長い本棚には、資料がぎっしり詰まっていた。
本、書類の束、巻物、さらには点字板まで。
形もさまざまだ。
書庫の外に立っていた管理者が、内側に足を踏み入れようとしたフィローメルに丁寧に言った。
管理者であっても、この書庫には無断で入ることはできなかった。
「高いところに置かれた本をご覧になりたい時は、あちらにあるはしごをご利用ください。本の整理はご心配なく。すべての本には、一定時間が過ぎると元の位置に戻る魔法がかかっています。」
扉が閉まり、管理者の姿が見えなくなると、フィローメルは本格的に動き始めた。
言語関連の資料が保管されている書架を探していた彼女の目に、不思議な物体が映った。
他の本と違い、本棚に収まっておらず、宙に浮かんでいる本。壁とつながった光る糸のようなものが、本を包んでいた。
『あれが例の本?』
ユースティスが「触れてはならない」と言っていた物。
皇室の宝の一つ、“神の書”だ。
伝えられるところによると、それは「ヴェレロン神の言葉」が記されたものらしい。
「取ろうと思っても、あそこにあるのにどうやって取れっていうの?」
しかも神聖な力で封印されていた。
明らかに皇帝だけがその封印を解く方法を知っているはずだ。
フィローメルは神の書から目を離し、探していたものをまず見つけた。
──数時間後。
「うあああ、もうこれ以上は無理!」
フィローメルは書庫の中央にあるテーブルにぐったりと倒れ込んだ。
何冊もの古い本がテーブルの上に山のように積まれていた。
古代語、希少な外国語などに関連しているようだった。
記録はすべて持ってきていた。
だが、ざっと目を通したとき、日記に記されていた文字と似たようなものは見当たらなかった。
だから今回は、じっくり見ようと決めたのだが、進み具合は亀のように遅かった。
単語ひとつ読んでは辞書を引き、またひとつ読んでは辞書を……そんな調子ではスピードが出るはずもない。
フィローメルは呆然としたまま立ち尽くした。
「ここで何も見つからなかったらどうしよう?大神官専用の秘密図書館にまで忍び込まなきゃ……?」
おびえた大神官の顔を思い浮かべていたフィローメルの目に、もう一度、宙に浮かんだ本が映った。
もしかしたら、“神の書”にほんのわずかでも記されているかもしれない——
フィローメルはその本に向かって手を伸ばした。
本気で神の書を読みたいわけではなかった。
ただ、やけくそでもいいから手を伸ばしただけだった。
だが、彼女の思いに応えた存在があった。
パァッ!
右手にはめた紅玉の指輪が光を放つ。
そして、その光の粒子が一瞬にして弾けて、粉のように散っていった。








