こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 昔の思い出
もう大丈夫だと思い、フィローメルがほっとしようとした、その時──
「先に行って食べなさい。私は確認してから行く。」
皇帝がフィローメルを見つめながら言った。
「……今すぐでなければならないご用でしょうか?」
フィローメルの声が震えた。
「そうでもないが、時間はかからない。先に食事して、あとでゆっくり処理すればいいのではないか。」
「私はできるだけ早く陛下と食事したいのです。」
「ありがとう。すぐに行く。」
いや、ありがとうなんかじゃなくて……!
フィローメルは口を噤んだ。
今となってはこの方法しか残されていなかった。
深呼吸して――
その直後、彼女は「痛っ!」と叫びながら、お腹を両手で押さえた。
体はふらつきながら崩れ落ちた。
「フィローメル!」
幸いにも床に倒れる直前、ユースティスの腕がフィローメルの背中を支えた。
「どうしたんだ!」
「お腹、お腹がすごく痛くて……」
魂を込めた演技だったが、口調はまるで本を棒読みするかのようにぎこちない。
フィローメルは基本的に演技にはあまり才能がなかった。
当然ながら、その様子を見守っていたポルラン伯爵と侍従たちの表情は微妙だ。
彼女自身もわかっていた。
「お、…お腹が……」
だが途中で止めることができず、演技を続けた。
信じる者など一人もいない演技だったが。
「フィローメル! しっかりしろ!」
いや、一人は信じた。
フィローメルを抱きしめた皇帝が叫んだ。
「何をしている!早く宮医(医者)を呼ばないか!」
「は、はい!」
その一言で侍従たちはざわめきながら動いた。
だが、彼らが宮医を連れて来るのを待てなかったのか、皇帝自らが動いた――
まぶたの向こうからまぶしい光が感じられた。
それは、フィローメルを連れて移動魔法を使ったからだった。
「一体何の病気だ!」
「そ、それが……」
皇帝の指示でフィローメルの腹部を診た若い医者は、困惑した表情を浮かべるだけだった。
まるで最高の宮廷医が不在の間に彼女を診察することになった不運な人物のようだった。
「口がきけないなんて、もしかして……深刻な病気なのか?」
「い、いえ、それよりは……」
医者は今にも泣き出しそうな勢いだった。
明らかに、自分の診察では何の問題も見つからなかったのだ。
しかし、皇帝が出てくるのを見て、どうにも振る舞えないようだった。
ベッドに横たわり目を細めて状況を見守っていたフィローメルは、心の中で名医に謝った。
『申し訳ありません。申し訳ありません。どうかもう少しだけ耐えてください。』
神の書が正確にいつ元の位置に戻るのかは分からないが、少なくとも今ではないようだった。
そのときだった。
ぐぅぅう。
まだ制服姿のフィローメルのお腹が大きく鳴った。
「いったい、どんな病気なら腹からあんな音がするんだ?」
フィローメルはその口をしっかりと閉じてしまった。
ついに皇帝は言ってはいけない言葉まで口にしてしまった。
「治せないなら、お前は死刑だ。ほかの者たちも同じだ。この宮廷に医者なんぞ、二度といらん!」
ああ、もう見過ごすわけにはいかない。
「へ、陛下……」
フィローメルは自分が出せる限りのかすかな声を絞り出した。
「フィローメル!ひどく痛むのか!」
皇帝がベッドのすぐそばまでやってきた。
「……少し痛みます。それに、そんなふうにおっしゃらないでください。私を治せないからといって、それがどうして医員たちのせいなのですか。皇宮で医員たちがいなくなったら、病人を誰が診るのですか? 彼らも誰かの親であり、兄弟であり、子どもです。私は以前から陛下が誰かを殺すとか生かすとかおっしゃるたびに心が落ち着かなくて……」
フィローメルがあれこれと話し続けると、彼はやや困ったような表情を浮かべた。
「……わかった。気をつけるよ。それでも幸いだな。話す力はあるようだ。」
そのとき、医員室の扉が開き、最高の宦官が駆け込んできた。
「申し訳ありません!お連れする侍従と道が分からなくなって……」
「いったいどこに行っていて今来たんだ! 死にたいのか!」
言いたいことを堪えていた皇帝は、ベッドのそばで口をつぐんだ。
「フィローメルを診察しろ。」
最高位の侍医が怪訝な表情で皇帝を見た後、フィローメルの元へ歩み寄った。
「少々失礼します。」
フィローメルの体を診察した侍医の顔色が変わった。
そして、彼女は茶目っ気のある瞳で自分の患者を見下ろした。
『なるほど。ただの仮病か。』
若い医者とは違って経験豊富な彼女なら、この事実をそのまま皇帝に報告しても問題ないだろう。
彼女は先日のボート遊びの時、水に落ちたエレンシアが仮病を使っているという事実を皇帝に堂々と知らせたこともあった。
しかし女官は、皇帝に代わってフィローメルの耳元でそっとささやいた。
「何日ほど休ませましょうか?」
「………」
少し考えたフィローメルは、同じように小さな声で答えた。
「一日で大丈夫です。」
にっこり笑った最高女官は、フィローメルの病状を適度に誇張して皇帝に報告した。
「よかったな。しっかり休みなさい。」
フィローメルは医務室を出ようとした皇帝の袖を掴んだ。
彼がもうすぐ書庫に戻るところだったので―
「もう少しだけここにいてもらってもいいですか?」
「……私がいない方が楽だろうに。」
「体調が悪いせいか、誰かがそばにいてくれたら嬉しいです。侍女よりも陛下が……やっぱり……皇太子様にお願いできますか?」
「いいだろう。そうしよう。」
ベッドのそばに座っていたユースティスは、無理しないでと声をかけたり、身体を気遣う言葉をかけたりしていたが、やがて黙り込んだ。
彼は静かにその場を守っていたが、しばらく経ってフィローメルが眠ったふりをすると、そっと身体を起こした。
そして、最高位の侍医の助けによってフィローメルの仮病疑惑も特に疑われることなく収まった。
神の書も、定められた時間内に元の場所へ戻ったのだった。
その後、何の騒ぎも起きなかった。
フィローメルは一日中医務室で療養しながら、神の書に書かれていた内容について考える時間を持った。
そしてその間、南宮には皇帝が送る物資が次々と届いた。
世界中の果実にも劣らない、様々な貴重な薬草材料が。








