こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

95話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 世界樹②
顔を赤らめて現れた老いたドワーフが体を起こした。
「なんだ?人間じゃないか。どうやってこんなところまで来たんだ。」
ドワーフの表情は一気に険しくなる。
「とっとと出て行け! お前みたいなチビの人間がいる場所じゃない!」
ドワーフ族は、他種族に対して非常に排他的な種族だった。
とりわけ人間に対しては。
フィローメルは、彼が自分に害を加えるのではと少し心配したが、そのようなことは起きなかった。
老ドワーフはぶつぶつ文句を言いながら、つまずいて倒れそうになった。
「ヒック。」
彼は身体を支えるのも困難なほど酔っ払っていた。
再び花畑にばったりと倒れたドワーフが叫んだ。
「俺の酒瓶どこ?俺の酒瓶!」
「……これ、探してたんですか?」
フィローメルが近くに転がっていた酒瓶を手渡すと、ドワーフの顔に血の気が戻った。
「どこでこれを見つけたんだ!」
「そこの方です。立派なお酒かもしれませんが、もう十分に酔っているようですし、そろそろお酒は控えた方がいいのでは?」
ドワーフは彼女をじっと見つめながら、そっと言った。
「お前……良い人間なんだな?」
近くの桐の木を椅子代わりにして座ったドワーフは、しばらく黙ったまま震えていた。
「良い人間なんて滅多にいないのに!最初に怒鳴ってしまってすまなかった。十年以上、酷い人間に一人付きまとわれていたんだ。」
「酷い人間ですか?」
隣にいたフィローメルが尋ねた。
ドワーフとこうして話すのは滅多にない経験だった。
ドワーフ族は一族全体が優れた戦士であり、鍛冶職人だった。
同時に建築家でもある。
時折、ドワーフの使節団が帝国を訪問することはあったが、個人的に話をしたことはなかった。
酒瓶を空けたドワーフがゲップをした。
「いるんだよ。そんな奴。俺たちは“白い悪魔”って呼んでるんだ。」
白い悪魔?
「やることがまるで悪魔みたいなんだよ。毎年あいつが掘り出す鉱石を数えるだけでも、俺たちは腰がやられそうになる。」
ドワーフは少し神経質な手つきで、だらしなく伸びた髭をかき上げた。
「族長として一族を守らなきゃいけない責任があるのに、あいつのことを考えるだけで酒が進むんだ。」
「大変そうですね。」
「そうだとも!そいつがどんな奴かって言うと……」
フィローメルが軽く相槌を打つと、族長ドワーフは熱心にその“白い悪魔”への悪口を語り始めた。
悪魔、クレイジー、狂ったやつ……
族長ドワーフが知っている限りの罵詈雑言を全て吐き出していた。
誰かは分からないが、とにかくとんでもなく悪い奴らしい。
『でも、それだけ罪が重いやつなら、人間側に協力を求めて罰することもできるんじゃない?』
フィローメルがそんな疑問を口にしようとしたとき、目の前に黄金色の果実が差し出された。
いつの間にか、ルグィーンが彼女の背後に立っていた。
「もう世界樹を見つけたんですか?」
「いや、まだ。もしかしてお腹がすいたかと思って、これ持ってきた。食べな。」
彼はフィローメルの手のひらに世界樹の果実を乗せた。
『これ、こんなふうに勝手に取ってもいいの?』
帝国の皇帝に献上される世界樹の果実は、自然に木から地面に落ちたものだけ。
だから、世界樹の果実を枝から直接もぎ取るのは、不敬に当たる行為だ。
『でも枝に火をつけるような人間が、そんなこと気にするはずもないか。』
フィローメルはおそるおそるした表情で果実を手に取った。
「ねえ……」
そのとき、族長ドワーフが震える声で口を開いた。
「あっ。」
そこでようやくフィローメルは、この場にもう一人の存在がいたことに気づいた。
「ルグィーン、この方がドワーフ族の族長さんなんです。偶然ここで出会って、お話をしていたんですが……」
族長の様子に気づいたフィローメルは、途中で言葉を切った。
ドワーフの族長は真っ青な顔で震えていた。
酔いのせいで真っ赤だった顔色もすっかり消えていた。
ルグィーンはその族長を見て、笑みを浮かべた。
「彼とは知り合いなんだ。ふむ、ところで族長。」
ドワーフの族長がビクッと震えた。
「さっきうちの娘が変なことを言ってたんだ。」
「む、娘?」
目をぎょろっと見開いた族長がフィローメルとルグィーンを交互に見る。
「この子は私の娘なんだ。」
「……あまり似てないけど……」
「年取ったら視力までおかしくなったみたいだな。それより、こっちでちょっと話そうか。」
彼はよろよろしながら族長を隅の方へ連れて行った。
しばらくして二人の間で何やら会話が交わされた。
「そういうことだったのか……」
その様子を見守っていたフィローメルは、族長ドワーフが話していた“白い悪魔”の正体を悟り始めていた。
『ルグィーン、本当に何か悪いことしてるんですか?』
最初は彼との心理的距離のせいで、親の正体を明かすのがためらわれたけれど、今はただ素直に恥ずかしいと思っていた。
彼女は父がくれた黄金色の果実をかじりながら、思索にふけった。
確かに、彼は最近になって娘に妙に優しくなった。
フィローメルの心が、まるでマシュマロのようにふわふわと柔らかくなっているのは、まさにそのせいだった。
『もしかして、あの人に完全に期待してもいいのかも?』
怖くないわけじゃなかった。
いつかジェレミアが言っていたように、ルグィーンは娘への興味をきっぱりと捨てきれなかった。
そう感じているのは、自分だけかもしれないが――。
『でも、いくら説明されても……』
・
・
・
ちょうど話が終わったのか、ルグィーンと族長ドワーフが戻ってきた。
魔塔主はドワーフの背中をバンバン叩いた。
「じゃあ、私はまた世界樹を探しに行くから、あっちでは娘が退屈しないように面白い話でもしてやってくれ。」
「了解!笑わせるのは俺が一番得意だからな!」
ドワーフは不自然なほどに意欲に満ちていた。
「それと、世界樹を見つけたら捕まえておけよ。この前みたいにまた逃げられたら……わかるな?」
「おう、わかってるよ!任せとけ!」
「フィル、行ってくるよ。ちょっとだけ待っててね。」
ルグィーンは「ふっ」と息をついて、姿を消した。
族長ドワーフが再びフィローメルの隣に座った。
「……あの、お嬢さん、どこからお話しすればよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。無理に話さなくても構いません。」
「え、本当に?」
「はい。どうぞ気楽にしてください。年上のご年配なのですし。」
ドワーフは感動のあまり目を潤ませた。
「どうしてあんな無礼な父親から、こんなに優しい娘さんが……!」
「はは……」
「おっと! 今のは内緒にしておいてくださいね!」
「わかりました。」
緊張が解けたのか、おしゃべり好きな族長から多くの話を聞くことができた。
その話によると、かつてこの場所には、退屈すると略奪を日課のようにしてドワーフを殺していた凶悪なドラゴンが住んでいたという。
そしてそのドラゴンを倒したのが、他ならぬルグィーンだというのだ。
『ということは、ルグィーンドワーフ族の英雄ってこと?宝石を掘りに行ったドラゴンを倒したって……』
フィルローメルが疑問を口にすると、ドワーフの族長はこう答えた。
「ドラゴンは宝石しか求めてこなかった。でも!あいつ、あんたの父上の鉱山からは別の鉱物まで奪おうとしたんだ。」
「ルグィーンが先に要求したんですか?」
「……それは違うよ。こっちがドラゴンを倒してくれれば何でも渡すと言ったんだ。まさか本当にドラゴンを退けて、その上であんな要求をしてくるとは思わなかったよ。」
とにかく、ルグィーンを非常に信頼できる人物だと思っていたので、「偉大な対価くらい要求してもいいだろう?」と考えたのかもしれない。
フィローメルは黄金色の果実を食べ終えると、残った種を床に捨てた。
「もし本当にお困りなら、要求量を少し減らしていただけるか、私が一度お願いしてみましょうか?」
「本当に、お願いしてくれるのか?」
「ですが、他人のお父様に向かって“あの男”とか“アイツ”とかおっしゃるのは、そろそろやめていただけませんか。子どもとして聞いているのが辛いです。」
「努力はしてみるが……」
「要求があまりにもひどいのが問題であって、ドラゴンのように好き勝手に奪っていくわけではないでしょう?」
族長ドワーフは何か言いたそうに口をもごもご動かした。
「でも……」
「まだ何かあるんですか?」
「でも、フィルローメル嬢のお父様は、私のひげが見事だとおっしゃって、こんな風にキラキラと編み込んでくださったんだよ!ほどけないように魔法までかけて!」
そのときフィルローメルは、族長の派手なひげ飾りがドワーフ一族だけの趣味ではないと気づいた。
「……じゃあ、少しだけ悪口を言ってください。」
ドワーフは父の横暴に対してそれ以上言えることはなかった。








