こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

161話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ルカ・マイバウム
目を開けたルカ・ヴィンターバルトは、信じられないという表情で自分の手を見下ろした。
その手は震え、ぎこちなく握ったり開いたりを繰り返していた。
だが、その小さな手のひ弱さには似合わない、地獄の底から這い上がってきたかのような力強さが宿っており、それがどうしても自分の手だとは思えなかった。
やがて、彼はぼんやりとした意識の中で見慣れた光景に気付いた。
それは戦争直前の古びた邸宅——彼の記憶のどこかに埋もれていたマイバウム家の家だった。
ルカはその瞬間、自分が過去に戻ったことを悟った。
信じられないことだった。
混乱したまま、ルカは自分の最後の記憶を必死に手繰り寄せた。
「願いを込めた杯に置かれた炭塊が願いそのものと認識されたというのか……旧時代の遺物だと思っていたが、本当に願いを叶える聖なるものだったのか? だが空っぽの杯が過去へ戻ることを意味するなんて、どういうことだ?」
ルカはただ幸せになりたいという、幼いような短い嘆きを漏らしただけだ。
復讐だけを求め、必死に駆け抜けた結果、すべてが終わった時には、周囲には何一つ残らない人生を悔やむような、そんな嘆き。
「願いの杯で過去に戻ることが、私が幸せになる方法だと思ったのか? ハッ……笑わせるな。」
ルカは幼い微笑みを浮かべた。
彼が歩んできた人生は、幸福とは程遠いものだった。
再び人生をやり直すことは、またあの苦しい日々を繰り返すだけに終わるかもしれない。
しかし、逆に自分が逃してしまった機会や、自分を残して死んでいった人々……そのすべてをもう一度掴み直せる機会でもあると考える。
そして、自分という存在がヴィンターバルトに影を落とした罪を償うこともできるだろう。
ヴィンターバルトはルカのせいで血筋が途絶える運命をたどったのだから。
自分の父親であるヨナスがヴィンターバルトの一員ではなかったと知った時、彼がどれだけ驚いたか。
しかしその事実を知った時には、すでにヴィンターバルトの正統な血筋は完全に途絶えていた。
「最初から叔父が私のために死ぬ必要なんてなかったのに。」
リューディガーはヴィンターバルトの血筋を守るという責任感から命を捧げた。
だが、最初からその責任感を抱く必要などなかったのだ……。
リューディガーがルカの代わりに犠牲になった時を思い出し、無力感がルカを包み込んだ。
息が詰まりそうになる中、ルカは大きく息をついた。
もう同じことは繰り返さない。
今度こそ……ルカの青い瞳が固く決意したように輝いた。
「そういえば、叔母さん……叔母さんはまだ生きているのだろうか。」
ルカは自分に対していつも冷たく当たっていた叔母のことを思い浮かべた。
以前はそれでも恐ろしい存在だった叔母。
しかし、叔母が自分を憎んでいた理由が、自分の母親が原因だったと知った今となっては、その感情がルカの心の中で複雑に交錯していた。
けれども、ユディットがルカにとって血の繋がった唯一の家族であることは変わらなかった。
「最初に叔父さんが私を迎えに来たとき、新しい家族ができたから叔母さんはもういらないと思ったけれど……。」
『結局、ルカにはユディットだけが残った。』
ルカは自嘲した。
結局、ルカにとってはユディットだけが頼れる存在だった。
家族というものに執着することは、愚かなことだと理解していた。
それでも、唯一の血縁者に対して何の感情も抱けないほど冷たい人間ではなかった。
「……いや、違う。」
ルカは小さく呟いた。
自分は家族や血縁に執着しているわけではない。
ただ、それが自分には与えられなかったものであるために、幻の果実のように思えるだけなのだ。
『今、自分は大体十歳くらいだろうか……。きっともうすぐ叔父さんが迎えに来るはずだ。』
ルカは心の中で考えた。
どこかで自分を見守っているリューディガーを、叔父とは思わないようにしていた。
彼は自分の家族ではない。
最初から線を引くべき存在だった。
自分を助けるために命を投げ出すようなことを、もう誰にもしてほしくないと心に決めていた。
ルカはふと口元を引き締め、心を落ち着けた。
考えるだけで心がざわつき、過去の苦しみが蘇るが、今度こそそれを変えられるかもしれないと信じていた。
『叔父さんが迎えに来る前に、少し計画を練ろう。もう二度と前のように無防備で痛い目を見ることはしない。』
そんな決意を胸に、ルカは再び自分に向き合った。
どこかぎこちなく笑いながらも、彼が優しく声をかけてくれるのではないかと期待していた。
しかし、その甘い期待とは裏腹に、懐かしいほどに刺々しい声が耳に響いた。
ルカは小さく笑った。
そして、その声のあとに続く怒りの言葉を予想しながら、固く閉ざされたドアを力強く押し開けた。
ルカはユディットの怒りの言葉を想像していたが、実際に目の当たりにしたのはそれ以上に混乱を招く光景だった。
ユディットは部屋に飛び込んできたかと思うと、驚きと戸惑いに満ちた表情を浮かべていた。
わずかに開いたドアの隙間から、彼のうつむきがちな視線を見て、彼がベッドに横たわるか、部屋の中をうろうろ歩き回るだけなのだと気づいた。
時々、彼は自分の顔をそっと撫でながら、震えるようにため息をついていた。
「信じられない……」
「なに?前にもこんなことがあったの?」
ルカは、どこか心ここにあらずといった様子のユディットに疑問を抱いた。
彼のこんな行動は記憶の中にはない。
しばらくしてユディットは、どこかぼんやりとした目つきで彼を見つめるのだった。
再び日常生活に戻った。だが、何とも説明できない混乱と不安が心を満たしていた。
しかし予期せぬ状況は依然として続いていた。
ユディットがルカに異常なほどの関心を示し、まるで何か重大な秘密が隠されているかのようだった。
ルカはその行動に対して呆然とし、何が起こっているのか分からないままだった。
この世界そのものが、彼の過去と何らかの形で関係している可能性すら考えた。
そして、彼が持つ情報がまったく意味を成さないものになる危険性もある。
その危険が自分の死という結果を招くなら、それは避けたいと強く願った。
さらに、またもや周囲の誰かが犠牲になるならば……。
『いっそこのまま家出してしまおうか?』
もしかしたら、自分が彼らから遠ざかることで、リューディガーーやユディット、そしてその他すべての人々が幸せになる方法かもしれない。
『都会に行けば、どんなに困難でもなんとか生きていけるだろう。都会の貧民窟でさえ、地面に掘った穴よりはましだ。』
だがそんなルカの決心は、実行に移されることはなかった。
春風邪をひいてひどく体調を崩してしまったからだ。
「ハクション!」
ちょうど村では祭りの準備が最高潮に達していた。
ルカは、その時がリューディガーが自分を探しに来るタイミングであることを悟った。
過去において、ユディットはルカの細かな言葉には全く関心を持たなかった。
さらには病気のルカを放って祭りに出かけようとしたこともあった。
後になって分かったことだが、ユディットが祭りに出向いたのは遊びのためではなく、何か仕事を探しに行ったのだ。
祭りの巫女として選ばれた村の若い娘の髪を整えたり、村の長老たちを手伝い、肉をいくつか受け取るためだった。
病気のルカに肉を食べさせるためだったのかどうかは分からない。
ただ少なくとも遊びに行ったのではなく、生計を立てるためだったという事実が、ルカの心に一種の安心感を与えた。
その事実を全く知らなかった当時のルカは、一人ぼっちでベッドに横たわり、泣き続けるしかなかった。
『でも今は……』
ルカはぼんやりとした目つきで、自分を見守るように横で眠っているユディットをじっと見つめた。
その目には、何か悟ったような感情が浮かんでいた。
過去に戻った後、最も大きく変わったのはユディットだった。
鋭い視線も、冷たい雰囲気も消え、境界線を引くことなくルカに優しく接してくれた。
ただ、驚いたように微笑むことしかできなかった。
ユディットはルカに対して親切だった。
手を伸ばしてくる指先は柔らかくルカを包み込み、その手から伝わる優しさにルカは言葉を失った。
ルカはこのすべてを信じることができなかった。
実際、自分が過去に戻ったのではなく、幻を見ているだけなのではないか?
もしかしたら、自分はもう死んでいて、これはただ自分が望んだ夢に過ぎないのかもしれない……。
次の日、マイバウムの邸宅に一人の男が訪れた。
ユディットは相手について正確に説明しないまま、ルカにその男を紹介した。
しかし、その男がリューディガーであることは一目瞭然だった。
ルカは混乱した。過去のまま流れていることもあれば、そうではないこともある。
苦い現実を覆い隠すために、一さじの蜂蜜の甘さが口の中で溶けるような感覚があった。
それは明らかに過去にはなかったものだった。
もし本来の流れ通りであれば、今日ルカはリューディガーと共にヴィンテルバルトを離れていただろう。
ユディットがリューディガーに何かを託したのだろうか。
どうやって話したのか、彼との再会が翌日に延期されたものの、ヴィンテーバルトに行かなければならないという事実は変わらず、物事は過去の流れに沿って進むだろう。
ルカはヴィンテーバルトに行きたくはなかった。
しかし、幼いルカができることは何もなかった。
たとえヴィンテーバルトに行くことになっても、今回はフランツの狡猾さを知っているので、前回のように簡単に騙されることはないだろう。
「そうなったら叔母はどうなる?」
ユディットはフランツの手を掴み、それに従って生きることを余儀なくされていた。
二人で苦しむことも当然だった。
「どうしても叔母とフランツが関わるのを見たくない。じゃあどうすればいい?」
ルカは頭を抱えた。
そして次の日が来た。
ユディットとリューディガーを含む三者面談の時間がやってきた。
ルカはリューディガーに巻き込まれないためにわざと距離を置き、やんちゃで反抗的な子供のふりをした。
本心も少し混じっていたが。
しかし、状況は不思議なほどスムーズに進んだ。
それはユディットの性格が変わったからだろうか。
彼女は過去とは違って冷静だった。
リューディガーにルカの信頼を託すという決断は、特に怒りや大声ではなく、静かで落ち着きのある育児的な態度で行われた。
困惑するルカの気持ちに気づいてか、ユディットは優しい目でルカを見つめていた。
その瞬間、ルカの胸に怒りがこみ上げた。
ルカは行きたくないとどれだけ抵抗しても、最終的には連れて行かれる未来が目の前に見えた。
このままだと過去と全く同じことが繰り返される気がした。何かを変える必要がある。
短い時間の中で、ルカは混乱した心を整理し、ついにユディットを連れて行くことを決断した。
仮にエムデンで何か事件が起きても、その状況を放置するよりは、彼女をそばに置く方が良いと考えたからだ。
そう心を固めたルカは、大きく口を開いて叫んだ。
「お母さん!」







