こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

163話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 10年後
首都ブルウィエンにあるビンターバルトのタウンハウスのロビーには、大きな肖像画が掛けられていた。
ユディットとリディガーが結婚した際、「家族写真」という名目で描かれた肖像画だ。
その前に一人の少女が立ち尽くしていた。
おそらく六歳くらいだろうか。
わずかに怖じけたような表情を浮かべた少女の淡い紫色の瞳は、肖像画に釘付けになっていた。
「ルドヴィカ。」
そんな少女に声をかけたのは一人の青年だった。
金色の髪を優雅になびかせ、絵画の中から抜け出てきたかのような端正な容貌を持つ青年。
彼こそが、今や立派な大人となったルカ・マイバウムだった。
ルカは微笑みながら、ルドヴィカと呼ばれた少女に歩み寄った。
「そんなに難しく考え込んでるのか?」
「この絵、ママとパパとお兄ちゃんでしょ?」
「その通りだよ。」
ルカは肩をすくめて答えた。
少女はビンターバルトの後継者であり、ユディットとリューディガーの一人娘、そしてルカの唯一の従妹であるルドヴィカ・ビンターバルトだった。
ルドヴィカは父親譲りの黒髪と母親譲りの淡い紫色の瞳を持って生まれた。
誕生したときのルドヴィカの整った容姿に、どれだけ周囲が驚いたかは語るまでもない。
ソフィアもまた同様に驚きを隠せなかった。
ルドヴィカ誕生を機に、先王はユディットに新しい相手を探すことを諦めた。
ルドヴィカを見ていると、ビンターバルト家の特徴である黒髪が彼女の存在で十分だと思えたからだ。
ビンターバルト家と王家の長老たちは、新しい公女の名前を決めようとこぞって意見を出した。
父親であるリューディガーはもちろん、さらにはルカも「叔父」の立場を振りかざして名付けの権利を主張するほどで、その競争は熾烈を極め、しまいにはラムガート全域で話題になるほどだった。
平素のユディットならば、気まずそうに笑って場を収めようとしただろうが、今回は違った。
彼女はきっぱりと「子どもの名前は私が決めます」と言い切った。
母であるユディットに勝てる者は誰もいなかった。
こうして、子どもは「ルドヴィカ」という名前を得ることになった。
この名前を提案した理由や、それが特別な意味を持つのかどうかを問いただす声もあったが、それらを押し切ってユディットは名前を決めた。
その理由を知りたがる人々に、ユディット少し恥ずかしそうに答えた。
「ルカの名前から取ったんです。ルカはマイバウムで、ルドヴィカはビンターバルト。それぞれ苗字は違うけれど、何かしらの繋がりを示す証にしたかったんです……だって私たちは家族ですから。」
その話を聞いた瞬間、ルカは気づかぬうちに涙を流していた。
感動と呼ぶべきか、胸の奥が熱くなるような感覚に襲われ、言葉にならなかった。
もちろんその出来事は、6年経った今でも彼にとって忘れられない思い出のひとつである。
おそらくその理由からだろう。
ルカはこの幼い小娘が愛らしくてたまらなかった。
しかし、ルドヴィカはまだ不満でもあるのか、不機嫌そうな表情を崩さない。
そんな中、彼女はぽつりと言った。
「どうして私がここにいないの?」
「お前はその時いなかったからだよ。」
「私がいなかったとしても、そうしてくれてもよかったのに。」
「おい、お前がいないのにどうしてお前を知ってるっていうんだ?」
まるで理屈が通らない子供じみた抗議に、ルカは困惑しながらも問い返した。
しかし、やがてルドヴィカはため息をついて深く息をつき直した。
「はあ、いつもお兄ちゃんは、これができるだ、あれができるだと偉そうに言うくせに、こんなことも知らないの?」
血圧が上がるのを感じたルカは、心を鎮めるために必死で気持ちを落ち着けようとした。
若い頃の自分もそうだったのだろうか?
いや、自分はもっと素直だった気がするが……。
ユディットがここにいれば、彼女はさらに厳しく叱りつけただろうが、今ユディットはいなかった。
ルドヴィカをただここに座らせておくだけでは済まされない。
この年齢なら、彼女に見合った新しい挑戦が必要だ。
かつて、ルカが10歳の時、叔母と向き合った時のように、彼もまた一歩を踏み出すべきだったのだ。
成人した今、6歳の幼い姪と顔を合わせると、そのことを思い出さざるを得なかった。
なぜか笑いを堪えきれないルカは、にこやかにルドヴィカをからかう。
「そのとき君がいたとしても、写真には入れなかっただろうね。」
「どうして?」
「写真のモデルになるって、とても大変なんだよ。じっとしてないといけないし、何時間もその場にいなきゃならない。君にはできる?写真撮られるの嫌いだろう?」
「ふ~ん。」
ルドヴィカは真剣に考え込んだ。
運動が得意なユディットと、身体能力に恵まれたリューディガーの血を受け継いだせいか、ルドヴィカはじっとしているのが苦手だった。
そんな彼女を見て、ルカはクスクス笑った。
「おい、君、どうしてそんなにお母さんとそっくりなんだ?」
「お母さんの娘だから当然でしょ。」
ルドヴィカは当然だというように毅然と答えた。
すると、返す言葉を失うのはいつもルカの方だった。
「はあ……いいさ。せめて君のお父さんにだけは似ないでくれよ。」
「ルカお兄ちゃんはいつも私に何か言ってばかりだね。」
「だから、僕は君のお兄ちゃんじゃないって言っただろ!叔父さんと呼んでくれ。」
「叔父さんって何よ。もう叔父さんなんて言わないから。ルカお兄ちゃんはおじさんじゃないでしょ?」
ルドヴィカの言葉は正しかった。
しかし、ルカはルドヴィカに「お兄ちゃん」と呼ばれることに微妙な違和感を覚えていた。
ルカにとって、ユディットは叔母というよりは姉のように感じる存在だったからかもしれない。
リューディガーもまた似たようなものだ。
2人ともルカにとって、保護者というより後見人に近い存在だった。
ルカは肩をすくめて言った。
「はいはい、わかったよ。写真でも撮るか。今日は天気がいいし。」
「いや!」
写真を撮ろうとすると、ルドヴィカは大声で拒否した。
彼女は写真を撮られるのが嫌いだった。
厳密に言うと、ルカが撮る写真が嫌いだった。
ルカは不満そうに声を上げた。
「なんでだよ、可愛く撮ってやるって言ってるのに。瞬きしてる間にすくすく成長するんだから、写真は撮っとかなきゃだめだろ。」
「お兄ちゃん、写真一回も上手く撮ったことないじゃん!嫌!」
その言葉には返す言葉もなかった。
ルカは遠くへと走り去るルドヴィカの後ろ姿を見つめ、少し残念そうにため息をついた。
ロビーの反対側から聞こえる騒がしい声に反応したのか、ルドヴィカが走って向かった先には、ユディットが微笑みながら歩いてくる姿があった。
「どうしたの?またルドヴィカに写真を撮らせようとしたの?」
「だって、どうしてあんなに写真を撮られるのが嫌いなんだ?」
ルカは天使のような顔で少し困ったような表情を浮かべながら首をかしげた。
その表情は宗教画に描かれる神聖な少年のようであり、周囲の者が称賛してやまないものだったが、叔母であるユディットには単なるおどけた表情にしか見えなかった。
ユディットは毅然とした態度で返答した。
「あなたもあの肖像画を描くのが嫌いだったでしょう?その嫌いが高じて写真機を発明するように命じたくらいじゃない。」
結婚式の前に描かれた肖像画を見て、自身も知らず口にした不満げな言葉を思い出したルカは、その後の出来事を振り返る。
写真機の仕組みに興味を抱き、そのシンプルな知識をもとに科学者たちに開発を命じたユディットの話を聞くたび、彼はこっそり笑みを浮かべていた。
ユディットが知っていたのは本当に基本的な写真機の原理だけだった。
しかし、賢い頭脳が何人か集まり、目標を明確にし、基本原理を理解すると、写真機の発明は驚くべき速さで進んでいった。
こうしてルカはとうとう写真機を発明した。
当初は白黒写真機に過ぎなかったが、それでも肖像画を描く必要があるという事実にルカは辟易していた。
しかし発明は続けられ、最終的にはどこでも持ち歩けるような便利な写真機が作り出された。
ユディットが写真機を発明させた理由は、ルカ・マイバウム卿が肖像画を描かれるのを嫌っていたからだという話が広まれば、人々はきっと大笑いするだろうし、それがまた世間の話題となるだろう。
しかし、ルカとしてはただ静かに微笑むしかなかった。
ユディットはため息をつきながらも苦笑いを浮かべた。
「ルカ、あなたは肖像画を嫌がっていたけれど、彼が写真機を嫌がっているのは聞いたこともないわね。」
「写真機と肖像画は違うだろう!」
ルカは堂々と反論した。
そんなルカを見つめるユディットの目には、共感の色はまるでなく、まるで冷淡な光を帯びていた。
その光景に、ルカの心には得体の知れない不安がよぎったが、彼はその理由を理解することはできなかった。
「分かったよ。ルドヴィカが逃げたんだから仕方ないさ。」
「そうだね。」
「じゃあ、ついでに叔母さんも撮っちゃおうか。」
「待って、私もちょっとやらなきゃいけないことが。」
ルカが話し終えるや否や、ユディットは無言で歩き出した。
ユディットも写真に関しては厳しかった。
ルカは自分の気に入る写真が撮れるまで、周りを巻き込んで騒ぎ立てる性格だった。
しかし、すでに何人かの被写体を選び抜いたルカが急にユディットに目を向け、彼女の背中を軽く叩きながら言った。
「ちょっと、撮らせてよ!」
「リューディガー、リューディガーのところに行って!」
「あんな奴を撮ってどうするんだ!」
成長したルカはユディットよりはるかに背が高かった。
ルカはすぐさまユディットを追いかけて捕まえた。
そうして、ユディットとルカは軽いじゃれ合いをしながら大通りを歩いていった。
幸せな春の日の出来事だった。
<完結>







