こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

31話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最初の協力⑦
遅い夕方の時間帯。
固く閉ざされていた寝室のドアが慎重に開かれた。
カーテンがかかって光が遮られているにもかかわらず、かすかに暗く感じられる部屋の中には、薄い黒色の衣を纏った男性が目を閉じたまま座っていた。
スツールから伸びた長い脚はテーブルにだらりと無造作に乗せられており、報告書を確認してはため息をついていたのか、指先に挟んでいた書類が今にも落ちそうな勢いでかすかに揺れていた。
「操作しろ。」
低い呟き声とともに、ジハードが目を開けた。
「失礼します。入ります。」
「うむ。」
ためらいなく歩み寄った来訪者は、ジハードの背後に立ち、報告を始めた。
「調べたところ、ヤナ嬢の体質には生まれつき多少の消化器系の弱さがあり、今回のクッキーに含まれていた成分を認識できないまま摂取してしまったものと推測されます。」
「………」
「さらに、錬金術組合の調査結果によれば、食品には有毒成分が含まれていました。ただし、それが温室で栽培されている種と同じものであるかどうかは、まだ断定できておりません。」
ジハードの補佐官は話を終えると、じっと主君の反応を伺った。
報告を受けた彼は内心驚きながらも、ジハードはまるで予想していたかのように落ち着いていた。
最初から疑っていたのだ。
だからこそ、錬金術組合に事前に調査依頼を出していたのだった。
「こうなると……以前の晴れやかな事件も、ヤナお嬢様が意図して引き起こしたのではないかと疑いたくなりますね。」
実のところ、内密の報告書でも自らに疑いを向けるような発言だった。
『本当にあのか弱かったお嬢様が、こんな計画を立てたというのか?』
ヤナ・トゥスレナが無関心の中で何年もの間、星の館に閉じ込められていた存在だったことは、このトゥスレナ家に知らない者はいない。
誰もがその原因を「弱い体に生まれつき、大した才能もなく、控えめで堂々とできない性格」のせいだと考えていた。
実際、かつてのヤナ・トゥスレナは、大家の誕生日会のような大きな行事でさえ、顔をほとんど見せなかった。
そのうえフィンダイアス大使館に派遣されていた2年間は、存在そのものが忘れ去られていた。
『一番驚いたのは、大家主様の作業まで手伝うことになったことだな。』
ふと我に返ったとき、ヤナ・トゥスレナはもはや別館のお嬢様ではなかった。
一年に一度か二度訪れるだけの客人だったにもかかわらず、彼女を取り巻く世界が明らかに変わったのを感じた。
しかし、何より変わったのは──。
「こうして見ると、ヤナお嬢様も少し……変わられたようですね。」
目が合うたび、じっと床だけを見つめ、かたくなに沈黙していたあの子。
会話が少しでも続くと、周囲の目線を気にしてそわそわしていたあの表情。
いきいきとした従兄弟たちの間で、まるで存在していないかのようだったあの存在感。
──そのどれもが、もう見られない。
ヤナ・トゥスレナは、確かに生きている。
『そうだ、この文章が一番的を射ているな。』
今のヤナ・トゥスレナは本当に生きている少女のようだった。
……もっとも、以前が死んでいたわけではないが。
「少し?」
ジハードが指の間でいじっていた紙をテーブルに投げ出しながら、くすっと笑った。
「少し変わったどころじゃない。」
紙片は蝶の羽のようにひらひらとテーブルに落ちた。
ヤナ・トゥスレナ。
ずっと昔からその名前に対して、ジハードの感情は特に大きなものはなかった。
最初にその少女が生まれたときには、ただ単に「不運な生まれ」と思った。
次に、兄が事故で亡くなったときには……奇妙な子どもだと考えた。
その後の記憶は曖昧だ。
かつては愛情も、ヤナへの同情も、ほとんど感じたことがなかった。
ロマンの手のひらの上で利用されるだけだった時期もあった。
『……そんなふうに思っていた時代もあった。』
すべては4年前までの話だ。
4年前。
ジハードのすべてが「変わった」あの日以降、ヤナへの彼の感情は、純粋な同情心と、わずかな懐かしさへと変わった。
捨てられた子ども。
それでも生きようとする子ども。
ヤナを見つめるたびに、何十年も前に失ったあの少女の面影がどうしてもよぎった。
──だからだろうか。
ついヤナに目を向けてしまった。
やせ細った身体を癒すために薬を送ったり、各地から珍しい特産品を取り寄せて贈ったりした。
狂ったような兄弟たちの後継者争いを無視し、トゥスレナ以外に新たな権力を求めたのも、ヤナの存在が少なからず影響していた。
少女の独立を守りたかったからだ。
『……でも。』
ジハードは二日前にヤナと交わした短い会話を思い出した。
「2年前、私がお前にした約束を覚えているか?もうその準備が整ったようだ。私と一緒にレテ聖へ行く気はあるか?」
「……あのときは、ただの思いつきかと思っていました。」
『あのとき?』
ヤナの言う「あのとき」とは、一体いつを指しているのだろうか。
本当にそうなのか?
2年前のあの「約束」など、そもそも存在しなかったのに。
「約束」というものは、一種のトリックだ。
本物のヤナ・トゥスレナと、偽物のヤナ・トゥスレナを見分けるためのトリック。
そして、そのトリックに引っかかったのは──「偽物」だった。
他の誰にも気づかれていない。
普通の人がヤナを見れば、「死の危機を乗り越えたから変わった」とか「適応しようとあがいている」と思うのがせいぜいだろう。
だが、ジハードは違った。
ジハードであるがゆえに、気づかずにはいられなかった。
『違う。違うんだ。』
「メルビン。」
「はい。」
「君は他人の正義をどう思う?」
「……え?」
「個別に分離された肉体を持つ人間?それなら、肉体は違えど魂が同じなら同一人物と言えるのかな?逆に、どこからどう違えば『別人』と言えるだろう?」
戸惑った表情で瞬きをしていた紫の瞳が、やがて冷静な声で答えた。
「難しい質問です。」
「難しくない。君の考えが聞きたいだけだ。」
「私は……、そうですね。魂によって決まると思います。黒魔法宗派では永遠の命を得るために肉体をすげ替える場合があると聞きましたが、表皮が変わっても名前は変わらない。人が変わるなら――見た目は同じでも、中身は違うと思います。」
「いつも通り慎重な答えだな。」
「……副官、もしかしてヤナお嬢様が別人になったとお考えですか?」
無邪気な好奇心を隠しきれない質問に、低く沈んだ声が続いた。
「そう思っているようだ。」
二人は互いに秘密を共有する間柄だった。
副官がジハードに忠誠を誓ったその瞬間から、ジハードは自らの半生をすべて明かしていた。
ジハードは肯定も否定もしなかった。
「調べてみなければ。」
ヤナの体を乗っ取った「新しい主人」。
それは本当に、一度死んだ魂なのか。
もし死んでいたなら、いつ、どのように死んだのか。
何によって死んだのか。 どこで死んだのか。 それとどう繋がっているのか。
あるいは……ジハードはすでに知っているのか。
「複雑になったな。」
「帰還の手続きを進めましょうか?」
「いや。」
もうすぐレテへ戻らなければならない。
心情としては、ヤナ・トゥスレナを連れてさらに観察したい。
しかしその行動を見咎められた場合、同行できなくなる可能性が極めて高い。
ヤナはトゥスレナにしっかりと根を張ろうとしているように見えた。
ラ帝国の四大家門のひとつ、神の使徒トゥスレナを取り込もうとしているのか?
それとも……肉体の主を軽視し、復活の足場を築こうとしているのか。
ジハードは小さく笑った。
『まさかヤナ・トゥスレナの魂が戻ってきた、なんてことはないだろうな。』
ぞっとする考えだったが、そんなことはありえない。
この4年以上、ずっとこの身体にとどまっているという事実が、その証拠だった。
「メルビン。」
「はい。」
「聖ブライト騎士団で、ヤナの護衛騎士だった者たちを調べろ。三人ほど。」
「承知しました。」
メルビンが退出した後、静かな部屋に一人残ったジハードは再び目を閉じ、考えた。
これからとても面白くなりそうだ――と。










