こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

32話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最初の協力⑧
翌日。
リンの一日は、深いため息とともに始まった。
彼女は疲れた体を起こし、ふかふかのクッションにもたれかかった。
「はあ。」
昨日の一件で、ヤナの体はさらに弱りきってしまった。
これまでなら、しばらく休めばすぐに元気を取り戻すだろうと高を括っていた。
しかしそれは甘い考えだ。
二日経ってもベッドからまともに起き上がれずにいるのだから。
消化も良くないのか、まともに食事もできず……言葉通り、死にかけていた。
『そんなに体を酷使した覚えはないんだけどな。』
無理をした?
でも、私が十四歳だった頃は、こんなに痛くも苦しくもなかったのに。
『ごめんね、ヤナ。絶対に元気な姿に変えてみせるから。』
それでも今回は、とても嬉しい知らせが届いた。
「聞いてください!これからはずっと本館でお過ごしいただけることになりました!」
「わかってる。」
「えっ?ご存知だったんですか?私は突然自分の部屋を本館に移すように言われたので……理由をお嬢様に尋ねたら、あんな答えが……」
「もともと新しい直属のお嬢様が来る予定だったの。あなたはまだ幼いし、過去に問題も起こしたから。でも、私が変えないって言ったのよ。」
オルガが目を丸くして私を見つめた。
「この城で私が信じられる人は、あなただけだから。」
「……ああ、お嬢さま〜」
「行き場のないあなたを受け入れてくれる人なんて他にいないんだから、これからもよろしくね。」
「ちっ、行き場がないわけじゃないのに……」
唇を尖らせたオルガが、へらへら笑いながら果物の入ったバスケットを置いて去っていった。
バスケットに差してあったカードには、 〈食べながら乾燥し、さっぱりと楽しんでください —ジハード宿舎より〉 と書かれていた。
いきなり果物の贈り物とは。
リンは今日から自分の寝室となった部屋をざっと見渡した。
1階北側にあるこの部屋は、ニナベルの寝室ほどではないが、十分に広く清潔だ。
『よし、これで本館に定住する目標は達成できた。』
問題は次だ。
『ロマンとキャロンが私を放っておくはずがない。今の私のことは知らなくても、過去のヤナは彼らの日常の汚れた秘密を全部知っているから。最悪の場合、暗殺しようとするかもしれない。』
そんな復讐を警戒して、ジハードの城へ出て行くわけにはいかなかった。
惜しいが、ジハードの提案ははっきりと断らなければならないと思う。
『ジハードがもう少しトゥスレナに滞在してくれればいいのに。』
ヤナに好意を示す執事がジハードであるのはいいことだが……その能力ゆえに城の外で過ごすのは利用するのが難しかった。
リンは、うだるような夜、自室で大公とジハードがこっそり話し込んでいた光景を思い出した。
「あんな愚か者のロマンに、いつまで屋敷の管理を任せるおつもりですか?責任感のない息子に。」
「この生意気な奴め!自分の父親にも言えないことを!」
リンはため息をつきながら、サイドテーブルの上に並べられた薬瓶を見つめた。
今朝、新しく薬瓶が2本増えていた。
効果がない薬をどうこう言っていたが、正直なところ、そんな薬があるわけない。
苦い薬を飲む苦しみだけが増えただけだ。
「お嬢様、ち、チェフ様が来られました……。」
「チェフ?通して。」
「その格好でですか?」
「ダメなの?」
「せめてこれだけでも羽織ってください!」
オルガは椅子にかかっていたショールを取り、ヤナにかけてくれた。
二人ともそわそわしていた。
これにしても無理もない。
何しろ流浪者だから。
まもなくして、少し慌てた様子のオルガがチェフを連れてきた。
チェフはそっとベッドに近づき、リンの顔色をうかがった。
そして椅子を引き寄せて座り、ため息をついた。
「君も本当に大胆だな。よくもあれを食べたもんだな?」
毒入りクッキーを飲み込んだ件について言っているようだった。
「私にはこの体しかないんだから、どうしようもないよ。」
力なく夏用の布団を持ち上げ、その中に潜り込もうとしたとき、自然な仕草で手を伸ばしたチェフが彼女の額に触れようとした。
びっくりしたリンはその手を払いのけた。
「何しようとしたの?」
一瞬止まっていたチェフは、小さく肩をすくめながら手を下ろした。
「震えてるからさ。熱があるか確かめようとしただけだよ。」
「ただ聞けばいいじゃない?」
「ふむ、そう言われるともう言い返す言葉もないな。わかったよ。ただあんまり怯えるな。俺はお前を食い殺すつもりなんかないんだから。」
呆然としたチェフの顔を見ていると、リンは少し失敗した気分になった。
『私、そんなに怯えさせるようなことした?でも、まだ数回しか会ってないじゃない。』
複雑になった気持ちを隠すため、リンは適当に質問を投げた。
「それで……君は何の用事でトゥスレナまで来たの?」
チェフは彼女の質問に無表情で答えようとし、すぐに観念したように目を伏せた。
「そうだ、ここではちゃんと待遇されないからだ。」
気が抜けたようだった。
知らないことがそんなにおかしいことでもないだろうに。
「何が分からないって?」
「正確に言うと、私はトゥスレナを探しに来たわけじゃない。レテの後続隊に従ってレテ城に向かう途中で、ちょっと立ち寄っただけなの。そこでは一季節の間、授業を受ける予定だったのよ。」
「授業?どんな授業?」
「剣術よ。」
なんだって?
「剣術なら、君たちの家門でも十分学べるだろう。わざわざジハードの一行にくっついてレテ城まで行く必要があるか?それに君は、家門で唯一の正統な後継者だって言ったじゃないか?」
黙って聞いていたチェフは、「はあ」と短くため息をついた。
「君、本当に何も知らないんだな?頭は良さそうなのに。」
『天才だと思ったけど、実はただ世間知らずだったのか?』
「天才じゃなくて、ただ世間知らずなだけだって言ってくれる?」
咎めるような視線にリンは頬を軽くつつかれた。
「レテ侯爵は、天が授けた剣士なんだ。二十歳にもならないうちにソードマスターの境地に達した帝国史上まれに見る天才。皇帝陛下にも一言もなく静かに従うから、陛下も深く信頼している。何よりも、お前の直属の上司なんだから、これくらいは覚えておけよ。」
な、なんだって?
驚いたリンは身を起こし、ヘッドボードにもたれかかった。
「大げさだよ。二十歳前にソードマスターだなんて、そんなのありえない。」
あの尊大なソードマスターの境地に到達した張本人でもあったため、チェフの説明がいかに荒唐無稽か、リンには痛いほど伝わってきた。
当時、最高の剣士の一人と評価されていたリンジョチャも、三十代半ばになってようやくソードマスターの初歩の門を開いた。
それも「戦争」という、生死の分かれ道に試練と苦難が存在していたからこそ可能だった境地だ。
今のような平和な時代に生まれていたら、さらに10年は遅れていただろう。
「みんな君みたいに思ってたよ。レテの後継者が現れるまではね。」
そう語るチェフの表情からは、たいした感動は感じられなかった。
まるで当然の事実を並べているかのような態度だ。
百の言葉よりも、さらに実感を持って伝わってくる行動だった。
『なんだよ、本当にソードマスターだって?』
想像もできなかった。
どうして?
生まれつき剣でも握って生まれたのか?
いったいどれだけ凄まじい天才なら、まだ子供の年齢でそんな境地に至れるんだ?
『……理由はどうあれ、ジハードの後ろ盾は絶対に手放しちゃいけない。』
お前も一生しがみつけよ、ヤナ。
「みんなレテ侯爵の弟子になりたくて必死なのに、当の本人は全然興味なかったんだ。でも今年の初めに突然、『四大家門からそれぞれ一名ずつ弟子を受け入れて剣術教育を始める』って発表したんだよ。…ところでこのリンゴ、食べてもいい?」
「うん。でも教育って言っても、たった一学期だけなんでしょ?」
あっさりとリンゴにかぶりつきながらチェフは笑顔で答えた。
「一日でも教わったら大変なことだよ。たぶんすぐにトゥスレナから出発するはず。皇帝陛下が『ちゃんと授業受けるように』ってプレゼントまで送ってきたくらいだし。」
その瞬間、リンの表情がカチリと固まった。
「……皇帝。」
「何?」
「チェフ、君が言っている皇帝。アウレリアン皇帝……だろ?」
「少しは勉強してたんだな、ヤナ。皇帝の退位が誰かくらいは知っているんだな。もっとも最後の英雄を知らないわけにはいかないだろう。さすがに天才ではなかったが。」
アウレリアン。
馴染み深い名前を思い浮かべると、血の気がすっと引いた。
孤児院を出て、外の世界で初めてできた親友。
共に逆境を乗り越えた同志。
そして、永遠に続くと信じていた……。
……アウレリアンは果たして、サブリナやテオンの裏切りを知っていたのだろうか?
もちろん、リンが知っているアウレリアンは、決してそんな人間ではなかった。
だが今になって、彼女がどんな目でアウレリアンを見ていたのか分からないのだとしたら、何の意味があるのか?
裏切られたのは、これまで信じていた者たちにだった。
それが今のリンだった。
「お前は……猫みたいだな。」
アウレリアンだけは違うと、どうして確信できる?
いや、アウレリアンだけじゃない。
もしかすると、クララもまた……。










