こんにちは、ピッコです。
今回は61話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
61話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 王女の来訪②
「殿下」
リプタンがパチッという音がするほど派手にナイフを下ろしながらそっとするほど柔らかい声で吐き出した。
「早朝でもよければ、私が直接ご案内しましょう」
「あら、そんなに気を使ってくれるなんて、どうしていいか分からないわ」
相次いで険悪に吐き出す言葉にも、王女は少しも萎縮した様子もなく椰楡した。
その姿がまるで一組の男女が言い争いながら口論を楽しむ姿のように見え、マックは顔を固める。
リプタンと王女が領地を見回す光景を想像するだけで胸がねじれた。
マックは衝動的に口を開く。
「私が・・・、ご、ご案内します」
リプタンの驚いた視線が彼女に響いた。
マックは乾いた唇を湿らせながら、わざと平然と話し続けた。
「リプタンは・・・、忙しいじゃないですか。私が・・・、殿下にアナトールを・・・」
「あなたも去年の秋に来たのに、何を言ってるんだ」
リプタンの指摘で、頬がカッと燃えるように熱くなる。
「で、でも案内くらいは・・・、できますよ。ルースの真似をして・・・、し、市場にも行ったことが・・・、あるし・・・、外郭の方にも・・・」
「外郭・・・?」
リプタンの声が突然沈んだ。
マックは危険な光が漂う彼の目を当惑して見上げた。
そういえば、彼が城を留守にしている間に魔物の襲撃で被害を受けた地域に救護をしに行ったと話したことがなかった。
マックはテーブルの周りの騎士の顔を注意深く見る。
端に座ったカロン卿は猛烈に首を左右に振っていた。
言うなという意味のようだ。
マックは乾いた唾を飲み込んだ。
自分は領主の妻として当然のことをしただけだ。
しかし、リプタンはそのように受け入れないかもしれない。
「魔法を学んでいるという事実を事前に言わなかった」と火のように怒っていた彼の姿を思い出し、マックは慌てて話題を変えた。
「わ、私が言いたいことは・・・、私も、アナトールについて・・・、よく知っているという・・・、のです」
「いい加減にしろ。あなたが無防備に城の外を歩き回るようにさせるわけには・・・」
「あら、私はどうでもいいんですか?」
アグネス王女がそ知らぬ顔で会話に割り込んできた。
リプタンはいらだたしい視線を彼女に向ける。
「殿下は自分の身一つぐらいは十分に守ることができるではないですか。私の妻は違います。彼女は一生クロイソ城の外に出たこともないんですよ!」
「りょ、領地の中を・・・、見て回るくらいなら・・・、私もできます!」
マックはかっとなって彼を睨みつけた。
威風堂々とした王女の前で、露骨に無能な子供扱いされているようで、プライドが傷ついた。
彼女は頬を赤く染めて抗弁する。
「それに・・・、ク、クロイソ城でだけ・・・、過ごしたわけではありません。公爵領で・・・、アナトールにく、来る道程も経ってるじゃないですか」
「そうですよ、団長。近衛騎士たちが護衛するはずなのに何が心配ですか?」
ヘバロンはこっそりと彼女の味方をした。
「本当に安心できないのなら、私が同行します」
続く攻勢にリプタンの顔はますます険悪になる。
すぐにでも大声を張り上げそうな姿に肝が縮んだが、ここで退くことはできなかった。
本当にマックは、リプタンがあの魅力的な女性と一緒に時間を過ごすことだけは防ぎたかったのだ。
「リプタンは寝る時間もないくらい・・・、忙しいじゃないですか。お客様に・・・、領地を案内するし・・・、仕事くらいは私に任せてください」
まれに意地を張る彼女の姿に、リプタンの顔色がちらちらと曇った。
沈黙が流れるのをしばらく、しばらく迷っていたリプタンが結局白旗を上げる。
「よし、あなたに任せろ」
それから、向かいの席で何がそんなに楽しいのか、にこにこ笑っている王女に、むっつりした顔で聞く。
「そうしてもよろしいですか?」
「招かざる客が何も言うことがありません。大事な奥様を出してくれて、ただありがたいだけです」
王女が胸の上に片手を置いて、身の置き所がないかのようにおどけた。
マックは恥ずかしさに顔を赤らめる。
王族を目の前にして自分の妻の安全に対してだけ心配しているので、王女としては気分を害することもありうる状況だ。
しかし、彼女はリプタンの反応がただ興味深いようだった。
「その図々しい性格は相変わらずですね」
リプタンは彼女のにこにこした笑顔を見ながら首を横に振る。
うんざりするような口調だったが、マックは彼の声から親近感を読み取ることができた。
胸がじいんと痺れる。
リプタンの無礼な態度を王女は大したことではないと思っていたし、リプタンも自分の無礼を相手が受け入れてくれるという事実をよく認識しているようだった。
彼らの間には苦難を共に乗り越えてきた人々の間の理解と絆が存在している。
マックはまるで異邦人になったような気分に包まれ、遠くからグラスだけを見下ろした。
気持ちが底抜けになった
けれど、どうして自分が彼らの間の親近感を責めることができるのか。・
アグネス王女は、リプタンが一番つらくて大変だった瞬間に一緒に戦ってくれた仲間だ。
レムドラゴン騎士団とルース、そして王女まで・・・、いずれもリプタンの友情と信頼を受けるに値する。
しかし、自分はどうか。
自分は果たして彼から信頼と愛情を受けるようなことをしたのか?
そんな考えで顔色を暗くすると、リプタンは眉をひそめながら彼女の髪を撫でた。
「あなたがしたいようにしてもいいと言ったじゃないか。もう顔をしかめるのはやめて」
マックは彼に自分のせせこましい嫉妬心を見られたくなかったので、急いで微笑んだ。
リプタンは彼女のグラスにワインを注ぎ、安心したようにかすかに微笑んだ。
その優しい表情に、マックは一瞬彼にキスを浴びせかけたい衝動にかられた。
輪郭がはっきりしている男性的な顔を撫で、固い膝の上に座って広い胸に顔を埋めて、彼の体臭を思う存分吸いたかった。
この人を完璧に占めるためには一体何をしなければならないのか。
そのような欲望にもし誰かが気づくのではないか、マックはお酒を飲むふりをしてグラスで顔を隠す。
頭の中が混乱し、心が寂しかった。
まるで見知らぬ所に一人残された子供になった気分だった。
鬱陶しい気持ちを振り払うためにちびちびと酒を飲んでいたところ、いつの間にか酔ってしまったようだ。
気がつくと、ある瞬間ベッドに横たわっていた。
マックは暗闇の中でぼんやりと瞬きをする。
リプタンが横になって彼女の髪からアクセサリーを外し、ゆったりとしたドレスのひもを解いていた。
「拷問だね」
リプタンはよろめきながら彼女の頭上からドレスを脱がせる。
マックはぼんやりとした目で彼のしかめっ面を見上げた。
リプタンは薄いシュミーズを身にまとい、無防備に横たわっている彼女の姿を、まるで天と地の敵であるかのように見下ろしていた。
「あなたを苦しめたくないから・・・、私がどれだけ我慢しているか知っている?」
マックは「我慢しなくてもいい」と言いたかったが、疲れ果てた喉からは何の音も出なかった。
気がもんだ。
配慮なんていらないから、夢中で私に酔ってくれ。
彼の自制力が彼女をさらに不安にさせた。
マックは理性を保つことができないほど彼に夢中になってほしかった。
そうすれば彼女は自分がつまらないみすぼらしい存在だということを忘れることができたから。
辛くて大変でもいい。
彼の腕に抱かれている時だけ、このすべての不安から、孤独から、解放されることができる。
リプタンがベッドに腰かけて乱れた髪の毛を慎重に整理してあげ、熱気で赤く燃え上がった頬を慎重になで下ろす。
焦れったいため息が間こえてきた。
彼は誘惑に打ち勝つことができなかったように彼女の胸をそっと掴む。
マックはうめき声をあげて彼の手を痛めるようなうめき声を上げて、胸をさらに押し付けた。
リプタンは低いうめき声を上げ、ワインの味がするしっとりとした,舌を彼女の唇に押し込んだ。
気だるい快楽に耳がつまった。
マックは重いまぶたを震わせながらスカートの裾を上げて足の間を暖めるのを待つ。
彼の荒れた大きな手が全身を撫でてほしいという渇望でお腹が焦げていくようだった。
しかし、リプタンは忍耐して遠ざかっていく。
彼がベッドから起き上がり、深いため息をつくのが感じられた。
がっかりする暇もなく彼女は再び眠りに落ちる。
マックは顔をびくびくさせるさらさらした舌の感触にそっと目を開ける。
黒猫のロイが細いひげで彼女の顔をくすぐっていた。
マックはベッドから起き上がり、手で顔をこする。
リプタンは今日もすでに外に出たのか見当たらなかった。
マックはがっかりしたため息をついて体を洗い、ルディスを呼んで体を着飾る。
幸いなことに、以前のように二日酔いで頭が割れるように痛くはなかった。
「王女様は練兵場を見物したいと早朝に出かけました。奥様がお仕事があれば教えてくださいとおっしゃったんですが・・・、どうしましょうか?」
マックは、魔物の討伐をしている人たちの体力は一体どうなっているのだろうと考えた。
長い旅程で疲れたはずなのに、アグネス王女は彼女より早く起きて城を見ていたのだ。
マックは目を細め、マントを急いで肩にかける。
「お、お出かけの手配をしてください。お、王女殿下をお迎えして村に下りてみなければなりません。馬車を待機させて・・・、村の地理を・・・、一番よく知っている・・・、女中を一人つけてほしいんだけど・・・」
「私が一緒に行きます」
ルディスの落ち着いた返事に、マックはほっとした表情をする。
案内をしてあげると大口を叩いたが、実際、マックは広場と市場に行く道の他には村の地理を知らなかったのだ。
「それでは・・・、外出の準備をしてください。わ、私は・・・、殿下を迎えに・・・、行かないといけません」
マックはグレートホールを不本意な足取りで出た。
アグネス王女はそれほど悪い人には見えなかったが、マックはまだぎこちなかった。
リプタンと結婚するところだったという事実を差し置いても、本音を見抜くような鋭い目つきと遠慮のない態度が不快なのだ。
その上、何の下心でアナトールに来たのかも分からず、警戒心を振り払うことができなかった。
アグネス王女は有名なハイレベル魔法使いだ。
そんな彼女が本当に視察という理由でこんな地の果てまで来たのだろうか。
(たとえ魂胆があるとしても・・・、私が防げるものでもないけど・・・)
マックは、すぐにまた意気消沈しようとする自分を落ち着かせながら、練兵場に向かって歩を進める。
天気は前日より快晴だった。
風は肌寒かったが日差しは熱く、地面にも春の気配が宿り、かすかに開いたように光が漂い始めた。
マックは、綿雲が通る青空を見上げ、城門を通って練兵場の中に足を踏み入れる。
すると、練兵場の真ん中で騎士と対峙している王女の姿がすぐに目に入った。
マックはびっくりした。
男のような服装に銀色の鎧まで着用した王女が騎士に向かって剣を振り回していたのだ。
彼女はまるでダンスのステップを踏むように敏捷に動き、騎士に向かって攻撃を浴びせると、騎士が余裕を持って阻止しながらしきりに何か指示を下していた。
「下半身が空いています。姿勢をもう少し低くしてください!」
練兵場の上に鋭く響く声に、マックは思わず肩をすくめる。
王女を指導する騎士はウスリンだった。
リプタンが彼を殴った後、何度か出くわしたが、まだよそよそしい間柄だったので、出くわすのがぎこちなかった。
後でまた訪ねてこようか。
階段の上に中腰で立ち止まっていると、王女が疲れたように床に座り込んだ。
「まったく!あんなにたくさん練習したのに一度の攻撃も効かないなんて!」
ウスリンは彼女のうなり声に剣を腰の上に突き剌し、微笑んだ。
「魔法使いに手を焼くくらいなら、すぐに騎士団から追い出されても何も言えません」
いつもむっつりした顔をしていた騎士から出たとは信じられないほと柔らかい声だった。
「それでも前よりだいぶよくなりましたね」
「汗一滴も流さずに話は上手ね」
王女は力の抜けた顔でつぶやきながら席を立つ。
マックはためらった後、階段をゆっくり降りた。
侍従が渡すタオルで顔の汗を拭いていた王女が彼女を見つけると、嬉しい笑みを浮かべる。
「おはようございます。マクシミリアン」
「い、いい・・・、朝ですね、殿下。昨夜は・・・、不便な所は・・・、なかったでしょうか?」
「とても快適でしたよ」
彼女は少し眉をひそめてマックに向かう。
「それより、気楽にアグネスと呼んでもいいと言っていませんでしたか?」
「王女殿下の名前を・・・、そんなにむやみに・・・、呼ぶことは・・・」
「マキシミリアンはかなり警戒心が強いですね」
彼女が探索するような目でじっと眺めていたが、すぐに分かったというようにうなずいた。
「いいですよ。それでは、せめてアグネス様と呼んでください。私は名前で呼ばれるのが好きです。相手に王女ではなく、自分として認識されるのが好きなんです」
自分自身に対する自負心が感じられる言葉だ。
マックは彼女の強烈な青い瞳に向き合えずに目を伏せる。
胸の中で気持ち悪い感情がもくもくと起こった。
「わ、わかりました。アグネス様。町の外に出たいのですが、出かける準備はできていますか?馬車を用意しておくように・・・、指示していますので」
「馬に乗って行ったほうが楽だと思うけど」
「下女の一人が・・・、同行することになって・・・」
王女がそっと眉をひそめて、どうしようもないかのように肩をすくめた。
「では、随行員たちを呼んできますね」
彼女は優しい口調で話し、振り向いた。
その後、黙って立っていたウスリンがしばらくマックを凝視し、頭を一度ぺこりとしては王女について体を回す。
しばらくして、2頭の馬が率いる豪華な馬車が門の前で立ち止まった。
アグネス王女との外出。
ルディスが同行してくれるのは安心ですね!