こんにちは、ピッコです。
今回は65話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
65話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 家族③
「何をそのように見ているのですか?」
突然間こえてきた声に、マックは考えを逸して首をかしげる。
ルースは図書館の入り口に立ち、リンゴをむしゃむしゃ食べていた。
その呑気な姿に彼女は眉間にしわを寄せる。
「今まで・・・、どこにいたのですか?図書館に来る度に・・・、姿が見えなくて心配しました」
「しばらく塔に閉じこもって魔導具を製作していました」
ルースはよろめきながら歩き、いつもの席に座り込んだ。
マックは不思議そうな顔で彼を見下ろした。
「元々は図書館で・・・、作業していたじゃないですか」
「もしかすると、ぎくしゃくした相手に遭遇するのではないかと思って、避難していたのです」
「ぎ・・・、ぎくしゃくする相手ですか?」
「アグネス王女のことです。できれは会いたくないんですよ」
意外な言葉に彼女は目を丸くする。
レムドラゴン騎士団のほとんどがアグネス王女に好意的だったので、当然ルースも彼女を良く思っていると思っていたのだ。
「王女と仲が・・・、悪いのですか?」
「向こうが一方的に私を虐めているだけです。アグネス王女はノルヌイ出身の魔法使いなので、世界塔の規律を破って逃げ出した私を変節者扱いしているんです」
彼は肩を抱きながらうんざりした。
「正直に言って、できるだけ関わりたくないんです。討伐隊で過ごす間、かなり苦しめられたんですよ。異教徒に対する神殿裁判官も、あれよりは寛大なのではないかと思うほどでした」
「知りませんでした。この前・・・、王女について言及する時は・・・、全然そんな気配なかったじゃないですか」
「仲が悪いという話をなぜするのですか?」
彼は生意気に話し、近くに積んでおいた本の1つを開く。
マックは妙な親近感に包まれて彼を見た。
1人ぐらいアグネス王女を嫌う人がいるという事実に安堵感を覚えたのだ。
そのような稚拙な感情に.なることが恥ずかしくもあったが、それでも安心するのは仕方ないだろう。
彼女は静かな口調でつぶやいく。
「わ、悪い方ではないようですが・・・」
「悪い人ではないでしょう。客観的に見て、能力も優れていて、それなりに公明正大な人だということは認めます。レムドラゴン騎士団にも友好的です。しかし、私の個人的なで不便に思うのは別じゃないですか」
彼の憚りのない言葉に気分がやや晴れ上がった。
彼女はためらった末、率直に告白する。
「実は・・・、私も王女様が不便です」
「安らかに思われたら、かえって驚いたでしょうね」
ルースは本のページをめくりながら無頓着に答えた。
「自分の夫と結婚しようとしていた女性を楡快に受け入れるほうがかえっておかしいですよ」
その言葉に心がいっそう安らかになる。
王女に嫉妬するたびに、マックは自分が昔話に出てくる意地悪な魔女にでもなった気がしたのだ。
「それでも・・・、王女様は、ア、アナトールをお手伝いしているんですが・・・、忌まわしい考え方をするのが申し訳なくて・・・」
「あの人はただで助けているのではありません。それなりに下心があるからなんですよ」
彼はページをもう1枚めくりながら鼻で軽く笑った。
「聞いたところ、魔物の素材を提供してもらうことにしたそうです。それだけでもアグネス王女にとっては儲かる商売でしょう。ここヘ通うのを見てみると、カリプス卿を王都に来るよう説得する機会があるだろうという計算もしたのでしょうね。ルーベン王は、彼をそばに置きたいと思っているでしょうから」
マックは肩をこわばらせる。
「王女様が・・・、リ、リプタンをドラキウムに連れて行くつもりなのでしょうか?」
「まあ、そんなつもりでここまで来たのではないでしょうか?」
彼が生意気に吐き出すと、彼女の固い顔を見て急いで付け加えた。
「もちろん、カリプス卿は王女がどんな提案をし来ようと断るでしょう。私たちの領主様は首都での生活があまり好きではありません。ドラキウム宮殿も同じです」
「ど、どうしてですか?」
「ありきたりではないですか。騎士の爵位を受けた平民、カリプス卿は宮殿を出入りする貴族から露骨な蔑覗を受けてきました。今になって彼らが態度を変えたからといって気分が良くなるわけがないでしょう。カリプス卿は極端なほど飾り気がない方です」
彼はちょっとしたことを言うかのように肩をすくめる。
「それにカリプス卿はアナトールを気に入っています。ここの王様になる予定の方が、ドラキウムが目につきますか?」
「お・・・、王様ですって?」
「アナトールの領地民にとっては、ルーベン王よりもカリプス卿の方が偉大な人物です。下町にあったつまらない領地をこれだけ育てた人は他でもないカリプス卿ですから。彼らは本当に自分の領主を慕っており、カリプス卿もこの地にのめり込んでいます」
マックは妙な感情に包まれ、窓の外を眺めた。
まるで筆で大胆に描き出した絵のような風景が広がっている。
ルースの言葉通り、リフタンはこの地に愛情を抱いていた。
彼がここを置いて首都に発つことはないだろう。
その事実を気に入りながらも、一方では苦々しさを感じた。
リプタンをこれほどしっかりと縛っているこの地が羨ましかった。
「とにかく、アグネス王女も、いつまでもここに居続けるわけにはいかないでしょう。カリプス卿を説得しても無駄だということに気づいたら、すぐに王宮に戻るはずです。その時まで我慢してください。私もできるだけ会わないように避けるつもりですから」
彼の陽気な声にマックは馬鹿げた考えから抜け出してかすかな笑みを浮かべた。
彼の言葉通り、王女ができるだけ早くリプタンを諦め、アナトールを離れてくれるのを待つしかない。
夫を奪われるかも知れないという不安感から、一刻も早く抜け出したかった。
しかし不幸にも「できるだけ王女に会いたくない」というルースの願いは叶わなかった。
南海港とアナトールをつなぐ巨大な道路を建てる工事が始まり、ものすごい人手が必要になったのだ。
騎士たちは一日に何回も魔物の討伐をために領地の外に出て、莫大な数の労働者たちが彼らの保護の下で基礎工事を始めた。
このような状況だから、ルースもひたすら城の中に閉じこもっていられなくなったのだ。
彼はすぐに討伐隊に投入され、アグネス王女にいじめられる羽目になる。
ルースは死に物狂いで苦しんだが、少しも気の毒ではなかった。
むしろ羨ましかった。
アナトールのすべての人がリプタンを助けることができるのに、自分だけが何もできないという事実があまりにももどかしかったのだ。
ユリシオンとガロウさえも領地の外に出て魔物をやっつけたり、騎士たちのお手伝いをしながら仕事を手伝っているのに、マックは城の中でおとなしく庭でも手入れしなければならなかった。
もちろん、城を管理監督することもそれほど暇なことではない。
しかし、マックはがらんとした家に一人で残った子供になったような気分をなかなか振り払うことができなかった。
そんな日々が続くと、魔法を磨いても何の役にも立たないという懐疑感さえ覚えてしまう。
カリプス城の外に出ることもないのに、防御魔法や光を作り出す魔法、風を呼び起こす魔法のようなものが何の役に立つというのか。
初めて魔法を学んだ時に抱いた、素敵な冒険家になってリプタンと共にする幻想は壊れて久しい。
彼は自分の危険な冒険に自分を巻き込むことは決してないだろう
マックはその事実を悟り、寂しさと疎外感を感じた。
しかし誰にも率直に打ち明けることはできない。
使用人たちは皆親切だったが、弱い本音を打ち明けるには適切でない対象だった。
リプタンは忙しすぎて、ある意味最も素直になれない相手でもある。
結局、マックにできることは、一人で孤独感を和らげ、機械的に一日ー日を過ごすことだけ。
「最近、食事が苦手ですね。どこか不便なところでも・・・」
遅い昼食を少し食べていると、ルディスが心配そうに尋ねる。
マックは首を横に振りながら作り笑いを浮かべた。
遅い時間までリプタンの帰宅を待っために睡眠を減らしたところ、体力が目に見えて減って食欲がないだけで、体が痛いわけではない。
「目の下が黒いです。お昼寝でもしたら、どうですか?」
「し、心配してくれてありがとう。でも・・・、午後に香辛料の行商人がく、来ることになっていますから」
「それでは、夕食はお休みいただけるように、食事をお部屋に別にお入れしましょうか?」
彼女は首を横に振った。
「お、お客様がいらっしゃるのに・・・、私一人だけ部屋で別に食事をすることはできません」
「体の具合が悪いと言ったらお客様も理解してもらえる・・・」
「わ、私は本当に大丈夫です」
しつこい勧誘がやや煩わしく感じ、言葉を派手に切り取ると、ルディスは口をつぐんだ。
マックは不快な沈黙の中でパンを少しずつちぎって無理やり口の中に押し込んだ。
確かに体が重くて疲れている。
しかし、明るい昼間にベッドに横になってぶらぶらしていたところで、自虐的な考えだけが後を絶たないことは明らかだ。
むしろ忙しく体を動かす方が精神健康に良いという考えで、彼女は食べていた食べ物を置いて席を立ってマントを羽織った。
行商人に会う前に厨房でも見て回るつもりだった。
「奥様、お部屋にいらっしゃいましたね!」
部屋を出ると廊下から緊迫した声が聞こえてくる。
首をかしげたマックは、思索になり走ってくるロドリゴの姿を見て目を大きく開けた。
「ど、どうしたんですか?」
「道路建設現場に問題が生じたようです。魔物のために人足がたくさん怪我をしたと、衛兵たちと救護物品を送ってくれと連絡が来ました」
マックの顔から血の気が引いた。
道路建設現場にはリプタンが出ている。
彼がいるのに問題が起こったということは、ものすごい魔物が暴れたに違いない。
一瞬にして恐怖心が押し寄せてきたが、マックはやっと平常心を取り戻した。
昨年の冬、このような問題が起きた時、どう対処すればいいのか経験したではないか。
彼女はルースがしていた指示をようやく思い出す。
「い、今すぐ馬車に・・・、ひ、必要なものを用意してください。大きな釜と焚き物・・・、器、きれいな布、糸、針、薬草・・・、必要なものはすべてです!」
「分かりました」
「ば、馬車を用意して、も、もし必要かもしれないので毛布もの、載せてくれとつ、伝えてください。ほ、報告に来た人は、ど、どこにいますか?」
「練兵場で衛兵たちを準備させています」
「ど、とんな状況なのか、せ、正確に話を聞かなければいけませんね。ば、馬車に荷物を積んで、城門の前に来てください」
ロドリゴはうつむいたまま階段を駆け下りた。
マックもあたふたと外に出る。
ルースにも頼れない状況だ。
1人でも落ち着いて対処しなければならない。
マックは冷や汗で湿った手のひらをスカートの裾にこすりつけ、一気に庭を横切った。
城門を通過すると、衛兵たちが荷車3台に荷物を積んでいる光景が目に入った。
彼女はまっすぐそこに向かう。
「何か問題が起きたと聞きました。しょ、消息を・・・、持ってきた人は誰ですか?」
「私です。ウスリン・リカイド卿の指示を受けて、必要なものを取りに来ました」
中年の兵士が前に出た。
マックは乾いた唾を飲み込んで尋ねる。
「し、深刻な状況ですか?ふ、負傷者の数はどれくらいですか?」
「20人ほどの人足が負傷し、監督していた衛兵15人が大怪我をしました。重篤な重傷を負った人たちは、魔法使い様が一応応急処置をしてくれましたが、前方ではまだ魔物討伐が終わっていない状況なので、半分ほどが放置されています」
まだ討伐しているという言葉に指先が冷たくなった。
「領主様は・・・、ぶ、無事ですか?」
「まだ討伐が終わっていないので、確答は難しいのですが、私たちの領主様ではありませんか。きっと大丈夫でしょう」
マックは兵士の力強い口調に落ち着きを取り戻す。
「わ、分かりました。急いで・・・、準備してください」
兵士はうなずいてから再び荷車に戻る。
マックは彼らが荷車の上に武器やテント、食料を積む姿を見守りながら決然と目を輝かせた。
彼の言葉通り、リプタンは大陸ーの騎士だ。
心配しなくてもいいだろう。
自分は自分の役目を果たすことだけに集中すればいい。
マックは両手を合わせて心の中で祈りを詠んだ。