こんにちは、ピッコです。
今回は81話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
81話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 夫の世話
リプタンは夜遅くなってようやく部屋に戻ってきた。
太ももをつねりながら、眠気に耐えていたマックは、席から立ち上がって、ぞろぞろと彼の前に走っていく。
疲れた顔をして部屋に入ってきたリプタンが、その姿を見て目を大きく開ける。
「まだ寝ないで何してるの?」
「お帰りをお待ちしておりました。何があったのか気になって・・・」
彼はそっと眉をひそめ、椅子に腰掛けて鎧を脱ぎ始めた。
マックは彼が洗えるように水がいっぱい入ったやかんを暖炉の中にかけておき、服を脱ぐのを助けるために彼の背後に近づいて腰に手を上げる。
すると腕から腕甲の継ぎ目を解いていたリプタンがぎこちない動作で彼女の手を押した。
「私一人でできるから気にすることはない」
「・・・夫の世話をするのも・・・つ、妻の仕事じゃないですか」
そう言っておいて、あまりにも図々しいのかと思って、マックは顔を赤らめる。
彼が彼女の世話をしたのは数え切れないほど多いが、彼女が彼の世話をしたのは片手で数えるほどだ。
彼女は素早く弁解するように付け加えた。
「あなたがとても・・・遅く帰ってきて、早く出かけたので・・・することがないですが・・・もともとは、つ、妻が主人をリラックスできるように・・・しなければならないじゃないですか」
それから返事も聞かず、彼の手から奪うように重い防具を受け取る。
その重さに一瞬腕がふらついた。
やっとのことで姿勢を維持し、ふらふらと歩いてチェーンメールをかけ、上に胸甲とグリーヴまできちんと置いておいた。
10歩にもならない距離を往復しただけなのに、額が汗で濡れている。
どうしてこんなに重いものを着て音もなく歩いているのだろうか。
「それは放っておけ」
彼女が最後に彼が解き放たれた鞘を動かそうとすると、リプタンはすばやく引き止めた。
「あなたには持てない」
マックは不審な目で毎日身に着けている剣を見つめる。
背中に担わなければならないほどの大きさの大剣に比べれば、彼の剣は平凡な軸に属していた。
剣身の長さは概算で約4クベット(約120センチ)ほどに見え、何の装飾もない取っ手や革製の鞘もそれほど重くは見えない。
マックは自信満々に反論した。
「そ、そんなはずないでしょう。振り回すのは無理でも・・・持ち上げるくらいは・・・わ、私にもできます」
頭の上に汗に濡れたチュニックを脱ぎ捨てていたリプタンが、彼女の細い手首を眺めながら片方の眉毛を上げる。
「無理だ」
断固たる言葉にマックは熱い顔で黒い取っ手に手を上げた。
しかし、彼の言葉どおり持ち上げるどころか、傾く剣を支えることも難しかった。
想像以上の重さに驚き、彼女は剣の柄をしっかりと掴んだ。
なんとか剣を床に落としてはいないが、手首が折れそうにぶるぶる震えてきた。
彼女は顔が赤くなるように力を入れる。
剣の先がなんとか床から指の長さ一本くらい浮かんだ。
「み、見てください。持てるじゃないですか」
「それが今持ち上げたの?」
リプタンは呆れたように舌打ちをし、彼女の手から剣を持ち上げた。
「さあ、怪我をするぞ」
そして、まるで羽でも扱うように軽い手さはきでベッドの横に寄りかかって立てた。
ものすごい腕力の差にマックは呆気に取られる。
どうしてあんなことができるの?
「ふ、普通・・・剣が全部あんなに重いんですか?」
「私の剣は普通のバスタードソードよりずっと重い方だ。私も最初は扱うのに苦労した」
彼がかすかな笑みを浮かべて見せては、彼女が沸かしておいた水をたらいに受けて顔を洗い、タオルに水をつけて体を隅々まで拭く。
マックは着替える服を取り出し、彼のそばに置き。慎重に話を切り出した。
「伯爵が・・・何の用事で人を送ったのか・・・き、聞いてもいいですか?」
リプタンはタオルで首筋をこすりながら平然とうなずく。
「同盟を要請するために人を送ったんだ。だんだん増える魔物のせいで頭を痛めているようだったよ」
「ど、同盟ですか・・・?」
「レムドラゴン騎士団が魔物討伐に協力してくれれば、代価としていくらかの補償を与えるということだ。それに私の建設事業にも積極的な支援をしてくれると言っていたよ」
出征命令ではないという事実にマックは、ひそかに安堵のため息をついた。
「それでは・・・ロベルン伯爵と同盟を・・・む、結ぶつもりですか?」
「考慮してみるとだけ言った。悪くない提案だけど、アナトールの軍事力を分散させるだけの価値があるかどうかはまだ確信が持てないからね・・・」
「もうすぐ・・・しゅ、出征を去ることになるかもしれませんから?」
手から洗っていたリプタンは、びくっとしてマックの方を振り返る。
彼女は慌てて付け加えた。
「き・・・北から魔物たちが・・・人々をしゅ、製撃して、いると聞きました。レムドラゴンの騎士団も・・・呼ばれるようになるかも知れないと・・・」
「誰があなたにそんなくだらない話を並べ立てたの?」
リプタンの声にひびが入る。
マックは体をすくめて、躊躇いながら答えた。
「しゅ、修業騎士を・・・治療している時に偶然聞くようになっただけです」
その後、ルースが詳細に説明を加えてくれたという話はあえてしなかった。
余計な火の粉だけ飛ぶに違いない。
リプタンは軽く舌打ちし、タオルを椅子の上に投げつける。
「行くかどうかはもう少し見守らなければならない」
「もし・・・出征命令が下されれば・・・」
マックは乾いた唾をごくりと飲み込んだ。
ルースを通じてすでに彼ではない他の騎士が去る計画だと聞いたが、それでも彼の口を通じて確認してもらいたかった。
「リ、リプタンが・・・指揮をすることになるんですか?」
リプタンは質問の意中を探るように彼女をじっと見つめ、ゆっくりと首を横に振る。
「いや、ウスリンかヘバロンか、とっちかを送るつもりだよ」
「そ・・・そうなのですね・・・」
彼女は思わずあからさまに安心した様子をのぞかせた。
その姿をじっと見下ろしていたリプタンが片手で彼女の頬を包み込みながら尋ねる。
「私が去るのが嫌なのか?」
マックは緊張した目で彼を見上げた。
率直に話して、彼が少しでも面倒くさがっている様子を見せるのではないかと心配した。
彼女は慎重に言葉を選んだ。
「リプタンが・・・いてくれたほうが私ももっと、ほ、ほっとしますからね。りょ、領地民たちも・・・安心すると思います・・・」
「・・・そうだろうね」
彼の瞳の上にかすかに失望の色がよぎる。
しかし、彼女が何と言う前に、その弱々しい表情はいつもの淡々とした顔の後ろに消えてしまった。
リプタンは首にかけていたタオルを洗面台に投げつけ、生意気に言った。
「私もアナトールを空けておくつもりはない。長い間放置しておいただけに、この地の責任を果たすつもりだよ」
「ル、ルーベン王が・・・お呼びになったとしてもですか?」
「あの男が私に食い下がると、少し気が悪くなるだろう」
彼は眉間にしわを寄せ、すぐに軽い態度で肩をすくめた。
「それでも逃げ出す言い訳はいくらでも作り出すことができる。ルーベン王も馬鹿でない限り、私に必要以上の忠誠心を強要したら、何が起こるかよく知っているだろう」
不遜を極めた言葉に背後に冷や汗がにじんだが、正直ほっとした。
アナトールに留まるという彼の決意は思ったよりもしっかりしているようで、彼女はリラックスする。
「よかったです」
「私がそばにいるのが安心だから?」
マックはゆっくりうなずいた。
物思いにふけった目でじっと見下ろしていたリプタンが頭を下げて彼女にキスをした。
マックは瞼を震わせる。
水気が残っているしっとりとした唇が甘美に触れてから落ちた。
彼の荒い指が彼女の耳たぶを優しく撫でた。
「・・・そうだね、安心していいよ。私があなたを守るよ。どんな場合でも」
その言葉に胸の片隅がずきずきと痺れてきた。
マックは彼を見上げながら確認でもするかのように問い返す。
「ど、どんな場合でも?」
「どんな場合でも」
彼は彼女の顔を覆って繰り返した。
「どんな危険も君のそばに近づけないようにする」
彼女は目の周りに溜まった水気を隠すために頭を傾け、彼の手のひらに顔をこする。
幼い頃、自分を安全に保護してくれる騎士を夢見たことがあった。
自分に他人の心を引くところがないという事実に気づき、すぐに諦めたが、リプタンと一緒にいる時にはその時の夢想が再び目覚めるようだった。
想像の中で彼女は騎士たちが命を投げ出してでも守りたいと思う高貴な淑女であり、彼は自分だけを盲目的に崇拝する騎士だった。
喉が熱くなるのを感じながら、マックは彼の首に腕を回す。
リプタンは息を切らしながら彼女を抱き上げ、情熱的なキスをし始めた。
すべすべした舌が口の中を柔らかく吸い込み、さらさらした手のひらが背骨を繊細に一つ一つ推し量っていく。
マックは、カラスの羽のように豊かな彼の髪の毛を撫で、血筋が逆立った鋼鉄のような腕と少し荒くなったあごを撫でることで応対した。
彼の頬の筋肉が硬くなり、真っ黒な瞳は欲望でさらに濃くなった。
(もうそろそろ慣れてきそうなのに・・・)
彼は眉間にしわを寄せ、濁った声でつぶやいた。
彼女はなんとかまぶたを持ち上げ、不思議そうな目をする。
リプタンは彼女の唇の上でため息をついた。
「あなたに触れるたびに全身の血が沸き上がる。ますます酷くなってる気がする」
マックは震える笑みを浮かべながら彼の首筋に顔をうずめた。
皮膚の上に残っている水気を軽く拭うと、リプタンがこわばって彼女を強く抱きしめた。
心地よい震えが全身を貫通する。
彼の熱さ、硬さ、強さが彼女の中に火のような官能を呼び起こした。
骨が溶けるような感覚に包まれ、マックは彼の体に手足を巻きつける。
触れ合った胸板を通じて彼の心臓がドンドンと速く動くのが感じられた。
「時にはあなたを求めすぎて苦しくなる」
「リプタン・・・」
彼女は彼の手が服の中に入り込むことを感じながら目を閉じた。
リフタンがマックに言ってほしい言葉は別にあったのでしょうね。