こんにちは、ピッコです。
今回は35話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
35話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自分にできること
その日、マックはリプタンの馬に乗せられ、城に戻った。
だらりと垂れ下がった彼女を抱いて部屋に入ったリプタンは、自分で彼女を
洗ってあげて、服を着せ替えた後は食べ物を食べさせてあげた。
それからまるで子供を寝かしつけるように胸の上に乗せて眠りにつく。
リプタンのそのような淫らな行動は一時的なものではなかった。
彼は彼女と一緒にいるときは、ほとんど乳母のように振る舞った。
ともすると食べ物を直接食べさせようとし、必ず浴槽を一緒に使わなけれはならないと固執し、早朝にはルディスから櫛を奪って彼女の髪を直接とかすことまでした。
そのような行動に、マックは少し戸惑う。
マックは夫婦の間には冷淡な礼儀と丁重な無関心、そして義務だけが存在すると聞いてきた。
自分の妻にこのように熱心な関心を注ぐ夫の話は一度も聞いたことがない。
しかし、彼女が聞けなかっただけで、もしかしたらリプタンの態度は結婚した男性の自然な行動かもしれない。
誰が知っているだろうか。
マックはクロイソ城の外に出たことがなかったのだ。
外出はせいぜい、領内の教区神殿を訪れたのが全て。
それさえも14歳になってからは禁じられた。
彼女の常識のほとんどはクロイソ城を訪れた人たちの口から聞いたもの。
それさえも大部分が冷笑的なこの上ないロゼッタと父親を通じて知ることになったのだった。
もしかしたら、彼女が知っていた世の中が間違っていたかもしれない。
マックは最近、そんな混乱に包まれていた。
「意外と手先が器用ですね」
ルースの声にマックは考えを逸した。
彼女が整理した数式を細かく見ていたルースは満足そうな笑みを浮かべながら言った。
「習得も予想外に早いです」
褒め言葉かどうか紛らわしい言葉にマックは苦笑いする。
「ずっと、お、同じことばかりく、繰り返していると・・・、自然に速くなりますね」
「もう仕上げの段階です。この速度なら明日には魔法陣を完成させることができるでしょう」
彼女は安堵のため息をつく。
興味津々が濃かったのもしばらく、計算して図形を描くことだけにうんざりするほど繰り返したところ、今は羊皮紙を見ただけでもうんざりした。
彼女は硬い首をこすりながら不平を言った。
「い、以前は、ま、魔法が書類と格闘する、仕事だとは知りませんでした。もっと幻想的なし、仕事だと思ったのに・・・」
「魔法は高度な学問です。非常に精巧な計算と研究を経なければなりません。刺激を味わえる瞬間というのは、戦闘現場にいるときだけです。世界の塔に住む魔法使いたちは、それさえも味わえず、一生をこのような魔法の図案を作ることに捧げます」
マックは仕事をやめて、不思議そうな目で彼を見る。
「ル、ルースも世界塔のしゅ、出身の魔法使いですか?」
「もちろんです。一時はそこに身を置いていました」
彼女は目を大きく開けた。
世界塔は古代の魔法使いたちがイシリア大洋の真ん中に作った人工島、ノルヌイを指す言葉だ。
公爵の娘であるマキシミリアンも、そこに関しては耳が痛いほど聞いている。
魔法使いたちの揺りかごであり、世の中のすべての知識が集まっている宝庫、どの国の内政にも干渉しない中立地であり、世界秩序を守護する賢者の島ノルヌイ・・・。
しかし、ルースはそのような賛辞を正面から否定するように、とてもうんざりしながら言った。
「世界トップ出身の魔法使いたちは高位魔法使いに進級するやいなや色々な制約を受けることになります。ノルヌイのあらゆる危険で秘密の魔法を体得できるようになる代わりに、その力を私的に使って世の中を乱すことができないように監視を受けることになります。上級魔法使いは、生のほとんどを世界の塔で過ごします。私はそれが嫌で逃げ出しました」
「し、しても・・・、い、いいのですか?」
「だめです。そのため、今も世界塔出身の魔法使いたちに会うと、大逆罪扱いされています」
ルースは大したことではないかのように遠慮なく言った。
マックは、「魔法使いたちは皆、こんなに図々しいのだろうか」と気になる。
「じゃ、じゃあ・・・、リ、リプタンとは世界の塔を出て渡り、さまよっているうちに出会ったのですか?」
「そうですね。傭兵になったばかりの時、あの方に会いました。カリプス卿はその時からすでに有名人でした」
マックは好奇心で目を輝かせた。
「ど、どうしてですか?」
「ありきたりではないですか。びっくりするほどハンサムな顔に16歳とは信じられないほどがっしりとした体つき、それに心臓が震えてまともに直視できないほどの度胸まで・・・。カリプス卿は、あの時からすでに狂人として通っていました」
「きょ、狂人・・・?」
極端な言葉にマックは目を見開いた。
ルースはそういう言葉でも足りないかのように首を横に振る。
「本当に物怖じしない少年でした。武装もしないまま、短刀一本だけ持ってオーガに飛びかかるのではないか、盤龍の口の中に飛び込んで龍の頭蓋骨を割る狂ったことを瞬きもせずにやっつけるのではないか。今もあの方がしたことを思い出すと、背筋が湿ってしまいます。カリプス卿と一緒に依頼を引き受けることになる日には、一日中髪の毛が逆立っていなければなりませんでした」
マックはぼんやりと口を開いた。
彼の言葉には畏敬の念を抱くよりは、肝を冷やし、後ろに冷や汗が滲んだ。
16歳でそんな危険千万な行動をして通っていたなんて。
ロゼッタやユリリシオンよりも若い年齢ではないか。
マックは乾いた唇を湿らせながら震える声で尋ねる。
「い、今もそ、そんな・・・、仕事をし、しますか?」
「今も身を惜しまず飛びかかるのは同じですが・・・、あの時のように危険千万な賭けをすることはほとんとありません。敢えてそんな際どい行動をしなくても、普通の魔物は軽くやっていけるほど強くなったおかげです。ここ数年、あの方がそんな風に危険を冒すのは、ドラゴン討伐の時以外は見たことがありません」
「ド、ドラゴン討伐の時は・・・、い、一体な、何をしたんですか?」
とても問わざるを得なかった。
ルースは彼女の質問に大きなため息をつく。
「カリプス卿は外部の魔力を一時的に吸収し、自分の剣技として活用する非常に独特な能力を持っています。幼い頃から魔物討伐をしながら、ドラゴン亜種の魔物の血を体にかぶることが多く、体質が変わったのです。カリプス卿はその能力を利用してレッドドラゴンを倒しました。自然界に存在する最も強力な魔法だというドラゴンブラスを正面から分けて、ドラゴンの魔力を吸収した後、剣技に乗せて竜の頭を切ったのです」
彼女は彼がドラゴンが噴き出す炎の中に身を投じる光景を想像し、身震いする。
ルースは回想するだけでも身震いするのか、ぎりぎりと歯ぎしりした。
「ほんの少しでも計算が外れていたら、カリプス卿は一握りの灰になっていたでしょう。その無知を無視した行動のおかげで、全大陸で最も勇猛な騎士として名声を博したのです」
この前にもリフタンの活躍ぶりに関する話を間いたことがあったが、それがそんなに無謀なことだとは知らなかった。
マックは恐怖で震える。
リプタンは本当に死んでいたかもしれない。
彼を知る機会を永久に得ることができず、あの悲惨な初夜だけが彼らの間の全てとして残っていたのかもしれない・・・。
「そんなに・・・、怖がらせるつもりはありませんでした」
青ざめた彼女の顔を見て、ルースが驚いたようにつぶやく。
「貴婦人の前で話すことではなかったですね。優悪な人間の間で時間を過ごしているうちに、私も繊細さを失っているようです」
「私が・・・、先に聞いたじゃないですか」
彼に本来繊細さというものがあったのか疑わしかったが、彼女はあえて言わなかった。
その後、マックは何も間かずに静かに仕事に取り掛かる。
しかし、頭の中は複雑だった。
リプタンは騎士だ。
いつでもまた危険の中に身を投じることになるだろう。
冬が過ぎると、リプタンはルーベン王に呼び出され、騎士たちを率いて遠征に出ることになり、もしかすると今度こそ永遠に戻ってこれないかもしれない。
リプタンがいくら強力な騎士だとしても、不死身ではない。
そんな考えをすると、急に息が詰まってきた。
うかうかと手に入れたこの安楽さと幸福がどれほと危険なものだったのか、今まで気づかなかった。