こんにちは、ピッコです。
今回は57話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
57話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 治癒魔法
翌日、ためらった末、マックは再び図書館に向かった。
幸いにもルースは何事もなかったかのように平然と彼女を迎えてくれる。
マックは魔法の本を広げて座り、しばらく彼の顔色をうかがっていた。
昨日あんなに怒っておいて、また口を出すのがきまりが悪かったのだ。
目によく入らない文字ばかりとめどなく眺めていると、マックはやっと口を開いた。
「き、昨日言った・・・、あ、あれですが」
「え? 」
自分の仕事に集中していたルースは困惑した顔で彼女を見る。
マックは乾いた唾を飲み込んだ後、ぎこちなく話し続けた。
「は・・・、は、話し方を・・・、矯正するれ、練習をすればよ、よくなると言ったじゃないですか。ぐ、具体的にはどうしたほうがいいでしょうか?」
ルースは「ああ、その話か」とうなずいて、すぐに生意気に答えた。
「そうですね。お望みでしたら、効率的な矯正方法を探してみます。まず、リラックスした状態で会話をできるだけたくさんしてみてください」
「か、会話ですか・・・?」
「何でもたくさんするほど上逹するものではないですか?なるべく落ち着いた状態を保ちながら、たくさん話をしてみるのです。興奮されたときは、早口になって、どもりが酷くなりますよね。奥様の場合、平常心を保つことが何より重要に見えます」
そのように直接的な指摘を受けるのが恥ずかしく、マックは目を伏せる。
「わ、わかりました。また・・・、何をすればいいんですか?」
「そうですね・・・。ゆっくりきちんと話す練習をした方が役に立つのではないでしょうか?遅くても大丈夫です。正確に発音することを繰り返して上逹させるのです」
マックは顔を真っ赤に染めて不快に視線をあちこち転がし、固い舌をほぐしながらゆっくり話してみた。
「分かりました。こうですか?」
「ええ、そういう風にですね。普段おっしゃっていることを見ると、過度に焦っていらっしゃいますね」
「そ・・・、そうですか・・・?」
「この方法があまり効果がなければ、他の矯正方法を探してみます。一応あれこれ方法を試してみましょう」
ルースならではの画期的な矯正方法があるのか知らないと思っていたマックは、少しがっかりした表情をする。
確かに、ルースがどれだけ賢くても万能ではない。
彼だからといってこれといった手があるはずがなかった。
マックは失望を抑えながら再び本の中に顔をうずめる。
その姿をじっと眺めながら、何かを考えるようにあごを撫でていたルースが再び口を開いた。
「そういえば昨日結局は実習ができなかったんですね。今日もう一度試してみましょう」
のんきに吐き出す彼の言葉に、マックは顔をこわばらせる。
「私が行ったら・・・、またこ、混乱が・・・、起きるのでは・・・」
「練兵場に行こうとしているのではありません。ここには騎士以外にも人が溢れているじゃないですか。厨房に行けば、包丁を使って手を切ったり、火の前で調理をして手を火傷した使用人が1、2人くらいはいると思います」
「それはそうですが・・・」
マックがためらいがちになると、ルースはやや強い口調で話した。
「魔法を上逹させることは本当に重要です。いくら優れた魔法理論と精巧な魔法式を頭の中に入れても、具現力を育てなければ無用の長物ではないですか」
「し、知っています。で、でも・・・、い、嫌がる人にし・・・、し、したくはないんです」
「下人は嫌がらないでしょう。一日中忙しく働いていたので小さな傷は世話できないでしょうから、治療してくれると言えばむしろ喜ぶはずです」
ためらっていたマックは結局、中腰の席から立ち上がる。
彼の言うとおり、いつまでも避けることはできないことだった。
だが、昨日苦い拒絶をされたので、なかなか勇気が出なかった。
彼女は屠殺場に連れて行かれるヤギのように、ゆっくりとルースの後を追う。
使用人たちを相手に魔法を試して失敗したら?
笑い物になるのではないか。
癖のように暗鬱な想像を繰り広げ、マックは台所の中に足を踏み入れた。
幸いなのか不幸なのか、いつも賑わっていたキッチンは今日に限って閑散としていた。
「おはようございます、奥様」
口笛を吹きながら、ひしゃくで釜の中をかき回していたシェフが、彼女を見て軽快な笑みを浮かべる。
「何か必要なものでもありますか?」
「と、特によ、用事があって来たのでは・・・」
もぐもぐと吐き出す言葉に、後ろに監視員のように立ちはだかったルースが、肩で彼女の背中をポンと押した。
その無礼な行動にそっと眉をひそめたマックは、すぐにため息をついて口を開く。
「も、もしかして・・・、か、体に傷がで、できた人はいないかと思って・・・、き、来たのですが」
「傷ですか?」
シェフは当惑した表情で大きな頭を掻いた。
きちんと説明せよするかのように、ルースがもう一度彼女の背中をポンと押す。
マックはいらだたしく彼をにらみつけ、再び口を開いた。
「ナ、ナイフで切られてるか・・・、火傷したり・・・、手首とか足をくじいたり・・・、そういう・・・、き、傷があるじゃないですか」
「そんなことは日常茶飯事です。特に、あのクロムという奴は仕事が下手で手が傷だらけです。さっきも釜戸からパンを取り出してて、手のひらを火傷してしまったのです」
マックは首をかしげて「クロム」と称された使用人を見る。
16歳にもなったかと思う小さくて痩せた体躯に顔が黒く焼けた少年が、手のひらに布をぐるぐる巻いて包丁を使っていた。
マックは一度深呼吸をした後に続いて話した。
「あ、あの少年をちょっと・・・、よ、呼んでもらえますか?」
怪訝な表情をしていた料理長がすぐに少年を呼んだ。
「おい!クロム!おいで、奥様がお呼びだ!」
力強い料理長の叫びに少年は雷に打たれたように背中をびくびくさせ、矢のように走ってきた。
「ど、どうされましたか?」
ひょっとして自分が何かミスでもしたのかと思ったのか、少年が顔を真っ青に染めて腰をかがめる。
コック長も何の理由で怪我をした人を探すのか気になるようで好奇心の湧く目を向けた。
マックは咳払いをした後、威厳のある態度で話した。
「て、手を・・・、怪我したって聞いたんだけど・・・、見せてくれる?」
「わ、私の手のことですか?」
呆然とした顔で細い目をばちばちさせていた少年が、あたふたと手に巻いておいた布を外す。
赤く火傷をして爛れた手のひらは、見た目にも酷く痛そうに見えた。
マックは不安そうな顔をした少年の視線を無視し、彼の傷の上にそっと手を置いて深呼吸をする。
少年が肩を大きく揺らした。
城主の妻の仕事なので、今何をしているのかと聞くこともできず、体だけぶるぶる震えて従順な姿がかなり気の毒だった。
しかし、説明をすると余計に不安になりそうで、マックは何も言わずに徐々に魔力を引き上げる。
すると手のひらに熱い熱気が集まり、少年の傷に優しく染み込み始めた。
使用人も徐々に痛みが消えることを感じたのか、目を大きく開ける。
マックは十分な魔力を注入した後、徐々に手を離した。
少年の手は綺麗に癒されていた。
「なんてこった・・・!」
方方から嘆声が流れ出る。
しかし、一番驚いたのはマックだった。
まさか一度で成功するとは思わなかったのだ。
魂が抜けた顔で少年の手をほんやりと見下ろしていたマックは、すぐにルースの方を振り向いてびょんびょん跳ねる。
「せ、成功です!わ、私がせ、成功しました!」
「よくできました!初めてにしてはとても立派です!」
ルースも感心するかのようににっこり笑って彼女の背中を大きくたたいた。
最初の魔法が成功したことに鼓舞されたマックは、使用人たちを振り返り、自信満々に叫んだ。
「じ、実は数週間前からち、治癒の魔法を習っているんですよ。練習相手が必要なので、あの、そうなんですけど、も、もしかして怪我をした人は他にいませんか?」
「私たちが志願してもいいですか」
突然割り込んできた声にマックは驚いて振り返った。
台所の入り口にニルタ卿とカロン卿、そして顔だけをやっと覚えた若い騎士一人がぽつんと立っていた。
練兵場に行かない限り、このような時間に騎士たちと会うことは珍しかったので、マックは奇襲でも受けた人のように慌てる。
どうしていいかわからない彼女を.見て、カロン卿が丁寧に言った。
「驚かせたらすみません」
「あ、そんなことないです・・・」
「こんなに実力があるとは知らず、私たちは昨日は失礼を犯しましたね」
「そ、そんなことは・・・」
マックはぎこちなく手を振る。
戸口で大きな体をかがめて立っていたヘバロンは恥ずかしそうに後頭部をかき回して中に入ってきた。
「組手中に傷ができたので・・・。今からでも治療を受けられますか?」
彼は手の甲に小さな擦り傷を見せてくれた。
マックは当惑した表情で彼の顔と手の甲を交互に見る。
突然の騎士の態度変化がよく理解できなかった。
彼女が何の返事もしないと、騎士の顔に苦々しい気配がする。
「やはり、昨日のことで気分を害されましたか?」
「そんなことないです!ただ・・・、ちょ、ちょっと驚いて・・・。こ、こちらにお座りください。す、すぐに治療を・・・」
使用人たちは注意深く椅子を持ってきて彼らが座れるようにした。
すると、騎士たちは大げさに痛いふりをしながら、その前に列を作る。
「私は手首を挫きました」
「私は肩を・・・」
「あの、全部・・・、見てあげますから」
マックは乾いた唾を飲み込んだ。
もし緊張して失敗したら、何の恥かと思って肩に力が入った。
その姿を後ろで見守っていたルースが笑いを流す。
「あまり緊張する必要はありません。みんな昨日のことが気になって、言い訳をしてやってきただけですから」
その言葉にヘバロンは眉をひそめ、彼女の目にも何の意味もない見える傷を指差して熱を上げた。
「何言ってるの!こんなに血が出てるのに!」
「一滴もあるかとどうかと思うのですが・・・」
ルースは呆れたように舌打ちする。
体が散漫な騎士が大げさに言う姿にマックは思わず笑いを流した。
急に気持ちがいっそう軽くなった。
彼女はリラックスして、騎士の手に癒しの魔法をかけた。
あっという間に消えた傷を見て、ヘバロンはすごい魔法でも目撃したかの.ように熱い賛辞を送る。
滑稽に感じられるほど誇張された態度に、マックはとうとう大笑いしてしまった。
その姿を見て、ヘバロンも一緒に微笑んだ。
「昨日のあいつの言ったことは、あまり気にしないでください。気がもんではいけないことを吐き出すだけです」
「き、気にし、していません」
「それなら幸いです」
ヘバロンはにっこりと笑って席から立ち上がる。
マックは次々と騎士たちに癒しの魔法をかけた。
その後は、使用人たちの小さな傷まで治療した。
手に火傷をした少年以外はみんな放っておいても治るほど些細な傷だけだったが、あまりにも魔力が少ないのでマックはヘトヘトになる。
しかし、胸の中には活力が溢れていた。
マックは汗まみれの額をぬぐいながら満面の笑みを浮かべた。
あまり大したことではないことだとしても、誰かの役に立つこと自体が嬉しかったのだ。
何の役にも立たない人間という言葉だけが耳にたこができるほど入ってきた彼女には意味深い発展だった。
初めて他人に価値を認められたようで鼻息が再び強くなる。
「もしよろしければ、いつでも私たちを試験対象にして来てください。他の騎士たちにも言っておきます」
ヘバロンは騎士たちを連れ出す直前、彼女の方を振り向いて言った。
マックは照れくさそうにうなずく。
その日以来、マックはよく台所に行き、使用人たちに癒しの魔法をかけた。
時々、騎士たちの負傷を治療したりもしている。
毎日食堂に座って1日に5、6回はきちんと治癒魔法を繰り返したところ、日々実力が向上し、かなり大きな傷もきれいに治療できるようになった。
しかし、どもる症状はなかなかよくなる気配がない。
毎日一人で部屋に閉じこもってきちんと話す練習を重ねたり、食堂の暖炉の前に座って出会う人々と対話を試みている。
けれども、舌はだんだん鈍っていくような気がした。
マックは挫折しないように必死になり、毎日空中に向かって発音記号を順番に覚えたり、吟遊詩人の歌詞を詠んだりする練習を続ける。
そのような情けない姿をリプタンや使用人たちに見せたくなく、一人でいる時にこっそりとしていたため、思ったより容易ではなかった。
魔法の勉強と城の暮らしを立てることも疎かにできない。
さらに、安息の季節が終わり次第、庭園の造園もしなければならなかった。
早くもロドリゴと商人アデロンを逹れて計画と予算を組むためにマックは頭をかきむしっていた。
安息の季節の終わりに近づくほど、一日を2倍に増やしてほしいほとど、やることが多くなる。
「最近、顔がやつれているようだね」
入浴を終えて新しい服に着替えたリプタンが、マックの頬を撫でながら話した。
マックはぎこちなく微笑んだ。
慣れないことを一度にしようとすると、当然力に余る。
彼女はここ数週間、リフタンが起きる夜明けに起き、彼の睡眠時間に合わせて眠り続けた。
元気旺盛な騎士の生活パターンに無理についていったため、目の下に黒い影までできている。
彼は眉をひそめ、親指で彼女の目を軽くたたいた。
「やっばり・・・、魔法を習うために無理しているんだろう?最近、あいつらに癒しの魔法をかけてるみたいだけと、そのせいで体力が・・・」
「い・・・、いいえ.練習を・・・、地道にやらないと・・・、実力が伸びないから・・・、みんな、私に協カ・・・、してくれているのです。わ・・・、私が消耗するま、魔力はあまりないです・・・。私がち、治療で・・・、できる傷は・・・、本当に・・・、た、大したことないんですよ」
彼女は落ち着いて話そうとし、慎重に彼の表情を見る。
リプタンは彼女の3倍か4倍忙しく働いていたが、顔に疲れの色は全く見えなかった。
どうして一日二日でもなく、毎日一日に三、四時間ぐらい寝ながらもあくびを一度もしないことができるのか。
彼女は少し不思議そうに彼を見た。
リプタンは毎日鍛冶屋で新しい兵器を製作することを相談して監督し、衛兵たちと見習い騎士たちを訓練させ、最近は帰ってくる水の季節に始まる道路工事の着工計画まで作り始めた。
自分の体を二つ、三つに分けておいても、彼がすることの半分も耐えられないだろう。
にもかかわらず、リプタンの顔は血色が良く、ぜい肉一つない筋肉質の丈夫な体で活気に満ちていた。
リプタンは温かい腕で彼女を抱き上げてひざの上に置き、耳と首の後ろを優しく撫でる。
「前みたいに無礼な奴はもういない?」
「あ、ありません」
「・・・大変なことは?」
「た、大変なことも・・・、ありません」
リプタンの眉間にわずかにしわが寄った。
彼は少しいらいらして言った。
「もともとくだらない話をすることはなかったけど、最近は何を聞いてもそんな返事ばかりだね」
「私、本当に・・・、み、みんな良くしてくれて・・・、大変なこともないから・・・」
彼が何を望んでいるのか分からず、マックは言葉を濁す。
リプタンはしばらくの間彼女をじっと見つめ、クッションに背を向けて座る。
「庭園の造園計画を立て始めたんだって?」
「は、春になると・・・、訪問者が来るから・・・、その前に飾らないといけないと思って・・・」
「働きすぎじゃないの?使用人たちを監督するのも大変だろうに・・・」
心配そうな声にマックは苦笑いした。
誰が誰に仕事が多いと言うのか分からない。
「リ、リプタンの仕事に比べれば・・・、な、何も大変ではありませんよ」
「おい、今誰と比較してるんだい?私は一生の間鍛えてきた人だ。私の体力は他の騎士よりもずば抜けて優れている。反面、あなたは普通の女性たちよりも弱いじゃないか」
「よ、弱くないですよ。む、むしろ・・・、健康な方です」
父親に背中から血が出るほと鞭打ちを受ける時も、彼女はなかなか気絶しなかった。
この間、オーガと出くわした時は卒倒してしまったが、ちっぽけなネズミを見ただけで悲鳴をあげ失神してしまう貴婦人たちに比べれば元気なほうではないか。
しかし、リプタンはとんでもない話でも聞いたかのように鼻を鳴らした。
「一生を城の中だけで過ごした人が何を言っているんだ」
彼は日焼けした大きな手で彼女の腰をつかみ、心配そうに眉をひそめる。
「ほら、一握りにもならないじゃないか。あなたは私の体を半分に裂いたのと同じくらい細い」
「リ、リプタンが・・・、大きすぎるんですよ・・・。私は、本当に平凡です」
リプタンは鼻を鳴らした。
「私が知っている女性の中には、あなたほどか弱い人はいない。見ているとハラハラするんだよ」
マックは少し戸惑った。
自分は背がそれほど高くない方であり、体に肉付きがそれほど多い方でもなかったが、彼が言うようにはらはらと感じられるほどか弱い体型ではなかった。
しかし、彼は心から心配そうな顔をしている。
もしかして、リプタンの周りにはすらりとした背丈にしっかりした体つきの女性だけがいたのだろうか。
確かにアグネス王女は遠征にも参加するほどだから、自分より丈夫で活力あふれる肉体を持っているだろう。
マックは威風堂々とした美しい女性が、夫のそばに並んで立っている姿を想像してみた。
絵のようによく似合うカップルを頭の中に描いてみるだけでも、剌されたように胸が痛くなる。
いつからか、彼女を苦しめる亡霊はロゼッタではなくアグネス王女に変わっていた。
マックは、どうして見たこともない女性と自分を比較して自虐するのか理解できなかった。
「お・・・、大げさですって。そうやって・・・、し、心配するほどでは・・・、な、ないですから」
泣きそうな心情に少し強い口調で話すと、彼女の背筋を撫でていたリプタンの手が少しぎくりと動いた。
彼は口元をゆがめて自嘲的な声で言った。
「でも私はあなたが風の前に立っているだけでも心配になる」
それから、彼女の体を少し強く抱きしめ、頭頂部にあごをしっかりと押さえつけた。
マックは彼の広い胸に頭をもたせかけ、鼓動する.心臓の鼓動に静かに耳を傾ける。
窓の外にはみぞれが幽霊のように舞っていた。
マックは沈黙の中を流れる妙な緊張感を鋭く認識する。
いつからか彼らの間には微妙な緊張感が漂い始めた。
リプタンは彼女に優しくしようと必死になり、過度に細心の注意を払ったが、彼女の心を完全には打ち明けることはない。
ある時は、彼女と寝室以上のことを共有したくないようにも感じた。
しかし、彼のそのような態度を恨むことはできない。
簡単に自分を表に出せないのはマックも同じだから。
彼女はリプタンの前では自然な姿ではいられなかった。
決して彼にだけはみすぼらしい姿をありのままに見せたくなかった。
マックは誰よりもリプタンの前で話す時に緊張し、彼が自分に幻滅を感じるのではないかという恐怖に慎重な態度を取ってしまっていた。
皮肉なことに、彼を思う心が大きくなるほど、彼に向けた防御壁も厚くなっているのだ。
その壁のため、彼らの関係はどの時点に至っても深くならず足踏みばかりしている。
マックは自分のこのような考えが行き過ぎた妄想に過ぎないと信じたかった。
もっと深い関係のようなものは世の中に存在しないかもしれない。
彼らは同じベッドを共有していて、彼は自分を安全に保護し、不足なく支えていた。
自分は彼のためにカリプス城の暮らしを監督していたし、いつか彼の後を継ぐ後継者も生むことになるだろう。
夫婦はそれで十分な関係だった。
しかも彼らは父親の利己心によって無理に結ばれた関係。
それ以上を望むのは厚かましいことかもしれない。
「疲れたから、今日は何もしないから緊張しないで」
彼は突然彼女のこわばった肩を撫でながら言った。
寝室での事が気が進まず、緊張しているように見える。
マックは大丈夫だと言おうとしたが、口をつぐんだ。
彼の胸に抱かれたかったが、実際にとても疲れているし、先に手を差し出すことも恥ずかしかったのだ。
リプタンは彼女の額に唇をこすりつけながら声をひそめてささやいた。
「君には休息が必要だ」
彼は彼女をベッドの上に寝かせ、枕元のランプを消す。
それから自然に横になって、片腕を彼女の頭の下に押し込んだ。
マックは彼のわき腹に食い込んで動転した。
リプタンの体からは甘いながらも男性的な匂いがぷんぷんと漂っていたのだ。
それを胸の奥深くに吸い込むと、リプタンが不便そうに少し寝返りを打ち、小さくため息をつきながら彼女の肩を優しく撫でてくれる。
マックは満足そうにその手を吟味した。
太ももに触れる彼の体が硬くなったのが感じられたが、リプタンはそれ以上の接触はしてこなかった。
マックは彼の広い腕の心地よさと安らぎに浸り、ゆっくりと眠りにつく。
リフタンの望みとしては、マックには何もしないで贅沢だけを味わってほしいのでしょうね。
クロイソ城での生活と同じように・・・。