こんにちは、ピッコです。
今回は58話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
58話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 騎士のプライド
翌日、昼から冬の雨が降りしきる。
そのせいで訓練が早く終わったようなのか、マックが遅い昼食を食べながら盛んに魔法書を読んでいる時、体がびしょ濡れになった騎士たちがどっと食堂の中に入ってきた。
マックは注意深く彼らに挨拶する。
最近になってよく声をかけ、頻繁に治癒魔法をかけさせてくれたおかげで、これまで無愛想に見ていた騎士たちも彼女を見ると嬉しそうに声をかけ始めたのだ。
その変化に喜んで、マックは焼きたてのパンが口の中でとろけるとか,今日はスープが美味しいというくだらない話をぺらぺらと並べた。
すると、騎士たちが飢えたお腹を押さえて大げさに騒ぎ立てた。
そんなくだらない話を交わしながら笑っていると、ふと一番後ろに尻尾のようについてきたユリシオンの姿が目に入ってくる。
マックはびっくりして彼のところへ走って行った。
少年の顔が血だらけだったのだ。
「ど、どうしたんですか?な、何が起きて・・・」
「貴婦人、お元気ですか」
少年が自分の酷い状態に相応しくない呑気な挨拶をした。
マックは呆れた顔で少年のめちゃくちゃな顔を眺め、使用人にきれいな布とお湯を準備してくるように言った。
後を追って食堂の中に入ってきたガベルがその姿を見てため息をつく。
「冬の雨のせいで練兵場がすっかりぐちゃぐちゃになって、よりによって今日がこの青ニオたちが騎馬訓練を受けることになった日でした。こいつが馬に乗って走っていると,盛大に地面を転がりこんな状況になりました」
「そうやって一人だけ転がって終わったんじゃなくて、隊列を効果的に崩したせいで2次被害が・・・」
カロン卿は頭をこすりながらうめき声をあげた。
ユリシオンは恥ずかしそうな顔で血まみれの髪をごしごしとかき回している。
「私のせいで・・・。本当にごめんなさい、カロン卿」
「まったく、私を地面に叩きつけたのはあなたカで3番目だよ、坊や」
カロン卿は暖炉の前に立ち、よろめきながら濡れた体を乾かした。
マックは少年が血まみれになったのに少しも心配している様子を見せない彼らの態度に少し腹が立り、それから顔をしかめた。
「ユ、ユリシオン、頭に手をつけてはいけません!ち、血が出るじゃないですか。こっちに・・・、座りなさい。い、癒しの魔法を・・・、かけてあげます」
「見た目だけで、そんなに深刻ではありません。血も止まりましたし。貴婦人に負担をかけるわけには・・・」
「バ、バカみたいに・・・、ふざけないで・・・、どうぞお座りください」
マックは彼の腕を少し荒く引っ張り、暖炉の近くに置かれた椅子に座らせた。
少年はその行動に驚いたように目を大きく開けたが、マックはまるで傷ついた野良犬のような格好になったユリシオンが心から心配だった。
マックは彼の頭の上に腰を曲げて傷を注意深く観察する。
ガベルはきれいなタオルをお湯で濡らした。
「サイズが合わない兜をしたせいで、転んだときに頭皮が破れたようです。骨には異常がないようですが・・・、かなり長く傷がつきましたが、大丈夫ですか?」
「この程度の傷なら・・・、私の魔力で・・・、ち、治療できます」
マックはタオルで血痕を注意深く拭いた後、傷口を調べた。
血まみれの銀色の髪の間に長い傷が見える。
マックはその上に手を置き、魔法式に従って魔力を運用した。
一日も休まず着実に魔力を集めてきたおかげで、今ではほとんどルースと同じ速度で治癒魔法ができた。
彼女は彼の額にくっついている髪を後ろに渡して。傷がすっかり治ったかどうか入念に調べた。
「他の所は・・・、怪我はありませんか?」
「け、結構です。大丈夫です。」
ユリシオンはそばかす一つない白い頬の上に赤い紅潮を浮かべながら言った。
マックは自分があまりにも気兼ねなく触ったのかと思ってぎこちなく手を離す。
ユリシオンは細くてほっそりした体格で女性に劣らずきれいな顔をした少年だったが、まもなくレムドラゴン騎士団の一員になる予定の立派な男性でもある。
まるで子供を扱うようにするのは適切ではないだろう。
彼女ぎこちない笑みを浮かべながら、彼にきれいな新しいタオルを渡した。
「か、顔についた血を・・・、ふ、拭かないと」
「あ!ありがとうございます」
ユリシオンがしわのない笑みを浮かべながら、濡れたタオルで顔を拭いた。
「私も頭にこぶができたのですが、見てもらえますか?」
火の前に立って雨に濡れた体を乾かしていたカロン卿が後頭部を包みながら頼んできた。
マックはすぐに彼にも癒しの魔法をかけた。
騎士たちはタオルで体を乾かして食卓の前に席を取って座り、下女たちが持ってきた食べ物を食べ始める。
マックはうっかり彼らと同席して食事をした。
騎士たちは主に練兵場の隣に位置した宿舎で昼食を解決し、彼女はほとんど図書館に閉じこもっていたので、このような時間に同じテーブルの前に座るのは珍しいことだ。
彼女はほとんど冷めてしまったシチューを少しずつすくって、騎士がぎっしりと並ぶ長い食卓を見回す。
「旦那様は・・・、城の外に出た・・・、のですか?」
「団長は執務室でニルタ卿とリカイド卿、ロンバルド卿・・・、そして魔法使い様と会議中です」
「会議ですか・・・?」
「帰ってくる水の季節にある討伐の計画を絞るんです」
向かい側に座って湯気がゆらゆら上がってくるスープをすくって食べていたガベルが突然吐き出した。
「騎士団の中にも序列が存在します。実力が優れた騎士であればあるほと発言権も強いです。冬の終わりになると、団長は彼らとよく集まって今後の日程について話し合ったりします。最近、北から魔物が大挙移動してきているそうですから、それに対する対策も立てなければなりません」
「次の討伐出征には私も参加できるでしょうか?」
あたふたと食べ物を食べて片付けていたユリシオンが目を輝かせながら会話に割り込んできた。
カロン卿はあからさまにうんざりした。
「今日見せてくれたあのむちゃくちゃな騎馬の実力を考えると、お前の騎士叙任式を来年に延ばさなければならないところだ」
「同感だよ。あなた、ゴブリン討伐の時も山で大きく転がったんだって?注意力がそんなに酷くて、入団式でもまともに行うことができるだろうか?盤龍どころか、火トカゲー匹でも捕まえてくれは幸いだ」
「2度とこんなミスはしません!盤龍1匹じゃなくて2匹!3匹でも狩ってくることができるんですって!」
ガベルの皮肉にユリシオンはかっとなって叫んだ。
マックは行き交う会話に追いつけず、目だけがゴロゴロと動いた。
マックが気になっていることに気づいたのか、そばで丁寧に食事をしていたカロン卿が丁寧な口調で説明してくれた。
「レムドラゴン入団申告式がドラゴンの亜種魔物を狩ってくることなのです。叙任式を行う前に、龍の魔石を取得してこそ、我々の一員として認められることができます。レムドラゴン騎士団ならではの儀式です」
「実際、魔石を持つ魔物なら、どんな魔物でかまいません。しかし、盤龍は初心者が挑戦するのにちょうどいいのです」
濃い茶髪の若い騎士が割り込んで熱心に説明を手伝った。
「ブルトカゲなどを捕まえてきたら笑い物になるだろうし、ワイバーンやヒドラ、バジリスクのような上級魔物を、新米の騎士が狩ってくるのは難しいでしょうから」
「ば、盤龍は・・・、どんな・・・、魔物なのですか?」
「ドラゴンに酷似した外見をした魔物です。平均20クベット(約6メートル)から30クベット(約9メートル)ほどの大きさで、全身が硬いうろこで覆われていて、鋭い歯と爪を持っていますよ。ただし、ドラゴンと違い翼もなく、ブレスも使えません」
「それでも甘いやつらではありません。飛べない代わりに身のこなしがすばしっこくて足も速いので、奴らに追いかけられ始めたら馬に乗って全速力で走っても逃げられません。嗅覚もとても良くて、どこに隠れてもすぐに見つかってしまいます」
「それに抗魔力も強いので、大抵の魔法は通月しないです」
騎士たちが見習い騎士を怖がらせようとするかのように、お互いに一言ずつ手伝い始めた。
「一番頭の痛いところは、群れを成して生きているということだ。知能は劣るくせに協同能力だけは優れていて、獲物を見つけるとお互いに信号を送りながら執拗に追跡してくるという。新米の騎士が3、4頭も狩りができる魔物ではないという話だ」
「将来が見え見えだね。お調子者のロベルがむやみに盤龍に飛びかかって、彼らの昼食のネタになる無残な結末が!」
「昼食でもいいの?あなたのような小さいやつは、口直しでごくりとすれば残ることもない」
彼らの冷やかしに顔が青白くなったのはマックだった。
彼女は純真無垢な顔をして、か弱い体をした少年を心配そうな目で見つめる。
今やっと17歳になった幼い少年が耐えるにはあまりにも恐ろしい試練だった。
「ま、まさか・・・、ユリシオン一人で・・・、ま、魔物狩りに出かけるのは・・・、違いますよね?」
「私と一緒にするつもりです。今年、叙任式をする騎士は私とユリの2人だけなんです」
隅で何も言わずに食事をしていたガロウが口を開いた。
ガロウはユリシオンよりわずか1歳年上。
ユリシオンより背も高く体格も良い方だったが、それでもやはり未熟な少年の姿を完全に脱げなかった。
彼女はますます顔を曇らせる。
「ふ、二人だけで・・・、行くんですか?すごく・・・、危なくないですか?」
「その程度の危険も耐えられないとレムドラゴン騎士団の一員になる資格がありません」
カロン卿は断固として言った。
「そして、二人の実力なら十分にやり遂げられます。今日のような愚かなミスさえしなければですね」
「名誉を回復するためにも一番大きいやつを捕まえて来なければなりませんね」
ユリシオンはあごを高く上げて傲慢な態度をとった。
「覚えておいてください。私が取ってきた盤龍の皮で、卿たちの新しいブーツをお作りしますので」
「ああ、爪楊枝にはなるね」
騎士たちはくすくす笑い出した。
マックは彼らが何気なく意地悪な冗談を言うのを見て唖然とした。
彼らは純真な少年たちが、危険の中に飛び込むことが心配にもならないというのか。
眉をひそめて彼らを不満そうに睨むと、向こうでくすくす笑いながらお腹をつかんで笑っていたガベルがこっそりと口元を下げる。
「ほらほら、貴婦人の前で悪態をつくな」
マックはそれを指摘する代わりに、見習い騎士たちに対する心配を引き続き表明した。
「誰かが・・・、そばで見守ってくれるのは・・・、やるんですよね?二人はまだ・・・、幼いじゃないですか。き、危険な状況にな・・・、ならないように・・・、誰かが後ろで・・・」
「貴婦人、私たちは面倒を見なければならない子供ではありません。一人の一人前の騎士として認められるための試験に保護者は必要ありません!」
「そうですね。そんなお話は侮辱に他なりません」
ユリシオンとガロウは彼女の言葉にむっとした表情で抗議する。
マックは当惑した表情で彼らを見た。
彼らは死んだり怪我をしたりすることを恐れないのだろうか。
少年たちはこれから迫ってくる試練に、少しも怯えたり縮こまったりする様子ではなかった。
その「蛮勇」に近い自信に、呆れた畏敬の念まで感じるほどだ。
彼女は彼らより4、5年を生きているが、彼らの半分も勇気がなかった。
「侮辱する・・・、考えはありませんでした。ただ・・・、心配になって・・・」
「ご心配には及びません。こう見えても、この二人の剣術は卓越した才能を持っています」
マックは突然割り込んできた声に頭をもたげた。
ヘバロンとリプタンがレストランの中に大股で入ってきたのだ。
「経験が足りないだけで、実力はすでに普通の騎士に劣らないです。特にロベルは才能においてはカリプス卿に匹敵するほどですから」
「えっ!」
ヘバロンの言葉にユリシオンは飛び上がった。
「どういう荒唐無稽な話ですか!私のようなものは、カリプス卿の足の先にも及びません!」
「・・・その落ち着きのない性格さえ直せば、本当に使えそうなのにね」
ヘバロンはため息をついて、後ろで待機した使用人たちにもっと食べ物を出すように言った。
リプタンは会話を完全に無視し、すぐにマックの隣の椅子に座る。
マックは鋭い顔を見てよそよそしい笑みを浮かべた。
黒いチュニックに金色の帯をつけたリプタンは、まるで聖書に出てくる悪魔のように誘惑的な魅力を発散していたが、同時に冷淡で不快に見えた。
あの日の事件以後、リプタンは彼女が騎士たちと一緒にいるのを目撃する度に地獄門を守る番人のように神経を尖らせているのだ。
ウスリンのように、誰かが彼女の心を傷つけるのではないかと心配しているようだった。
「食事中にこいつらがどっと入ってきて困っていたんじゃないよね?」
「いいえ、違います。き、騎士団の・・・、入団申告式について・・・、説明してくださっていました」
「二人が叙任式を行う前に、申告式を行わなければならないのではないでしょうか。盤龍が冬眠から目覚める水の季節が少ないですね」
ガベルがリプタンの鋭い態度にも屈せず、図々しく笑いながら会話に割り込んだ。
リプタンは物思いにふけったような表情であごを撫でる。
「魔物討伐訓練はさせているのか?」
「なんとかしています。でも、歓迎式を行う前に、もっと実戦経験を積んだほうがいいと思います。全然頼りないですから」
カロン卿の骨のある言葉にユリシオンは何か抗議しようとするかのように唇を尖らせ、リプタンの視線が届くとすぐに口を閉じて正しい姿勢を取った。
リプタンは鋭い目つきで2人の見習い騎士を注意深く観察する。
「次の偵察には君たちも参加するように。魔物討伐は一般的な戦闘とは違う。実戦経験を積んでおくと役に立つだろう」
「わかりました!」
ぐっと気合が入った返事に、リプタンの口元にやや笑みがこぼれる。
リプタンを仰ぐ少年たちの瞳には、畏敬と尊敬、そして欽慕の感情がたっぷり込められていた。
リプタンも彼らにそれなりの愛情を持っているように見えた。
マックは彼らの間を流れる強い絆を羨ましがった。
彼女はその場に一緒にいたが、彼らの世界に属していなかったから。
反面、ユリシオンとガロウは数ヶ月後には騎士になってリプタンとすべての危険を共にすることになるだろう。
もしかすると、自分より彼らの方がリフタンと一緒に行くことが多いのではないだろうか。
そのような考えをすると、心の片隅で疎外感が起きた。
「どうしたの?食べ物が気に入らない?他のものを出せと言おうか?」
リプタンは彼女のスプーンが動かなくなったことに気づき、眉をひそめて尋ねる。
マックは首を横に振った。
「いいえ、違います。十分に・・・、食べました」
「もう少し食べて」
「お腹がいっぱいで・・・」
彼女はぎこちなさそうな笑みを浮かべながら、片づけておいた本を持ち上げる。
「私は・・・、さ、先に・・・、失礼します。少し・・・、疲れていて・・・」
「まだ食べ終わってないじゃないか」
「た、たくさん食べました。本当です」
リプタンはじっと彼女を見つめ、ため息をつきながらうなずいた。
マックはゆっくりと食堂を出る。
冬が過ぎたら、彼はまた遠征に出るかもしれない。
再び城に一人で彼を待ちながら気をもむことを思うと胸が痛くなった。
マックはいらいらして唇をかんだ。
もし、自分が強力な魔法を繰り広げることができるようになれば、一緒に連れて行ってくれるのではないか。
しばらく希望に満ちた考えをしていたマックは、彼の頑固な態度を思い浮かべながら首を横に振った。
率直に言って、自分にリプタンを追いかける勇気があるのかも分からなかった。
マックは乱れた髪の毛を手で梳かしながら、長いため息をつく。
新米騎士の叙任式は、無事に終わるのでしょうか?
ちょっと不安ですね・・・。
リフタンと騎士たちの絆を羨ましがるマック。
リフタンが討伐に連れて行ってくれる可能性は0に近いのでは?