こんにちは、ピッコです。
今回は36話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
36話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自分にできること②
「心が別のところに行っているんですね」
ルースはマックの状態を機敏に読み上げ、それを指摘する。
彼が残った仕事を推し量るかのように目を細めて机の上を見渡し、すぐにペンを置いた。
「今日はこの辺で」
マックは立ち上がり、図書館を出た。
今日は.新しい使用人たちが来る日だ。
リプタンと相談した結果、商人のアデロンに使用人をさらに30人斡旋してほしいと頼んだのだ。
女主人として,彼女は新しい労働者たちに挨拶をし、彼らの教育を担当する使用人たちを数人選び、対面させた。
その後は厨房の様子を見に行く。
使用人たちは相変わらず忙しそうだったが、以前のように戦争のような雰囲気ではなかった。
冬の準備もほぼ大詰めを迎えている。
「数日内に初霜が降りそうです」
ロドリゴの言葉に、マックは心配で顔を曇らせた。
「その前に衛兵たちに防寒着を支給しなければならないと思いますが」
「ほとんど完成しているそうです。使用人たちがもっと入ってきたので寒波が押し寄せる前には全て終わらせることができるでしょう」
冬の備えが終われば、城の時間もゆっくり流れるようになるだろう。
このように慌ただしい時間も、まもなく終わるはず。
彼女は最後に各部屋に薪が十分であることを確認し、部屋に戻って日記を書いた。
日はますます短くなり、仕事をしているといつの間にか闇が降りている。
ろうそくに火をつけて薄暗い窓の外を眺めた。
考えがすぐにリプタンに向かう。
彼はこの城の誰よりも忙しく働いていた。
リプタンは一日中領地を覗察し、兵士を訓練し、城壁の周りを回りながら、市や隠れているかもしれない魔物や略奪者を掃討しに回っている。
それだけではない。
村に新しく建てる建物の進捗状況を調べたり、徴収人たちと共に税金に関して相談したり、領内に問題を起こす人物はいないか調査するなど、明け方から深夜まで一休みもしなかった。
それでも彼は決して疲れた様子を見せることがなかった。
「鉄でできているのかな・・・?」
マックは畏敬の念まで感じた。
リプタンは、普通の人間ならとっくに疲れ果てていただろう過重な責務を瞬きもせずに解決する。
彼の強さをかみしめながら、昼間にルースに言われたことを頭から払いのけた。
リプタン・カリプスは超人だ。
彼はどんな試練も乗り越えることができるほど強健な人だった。
だから、起きてもいないことを怖がる必要はない。
マックはそのように自分をなだめながら夕食を食べて休憩を取る。
しかし、いざ遅い時刻、部屋に戻ったリプタンが2日後に討伐に出ることにしたという話をすると、彼女はあっという間に心の平和を失ってしまった。
彼女のこわばった状態に気づかなかったかのように、彼はブーツとよろいを脱ぎ、淡々と話し続ける。
「明日にはリバドンから賠償金が届くよ。そうすれば囚人たちをすぐアナトールの外に追放させることができる。新しい城門もほとんど完成したとルースが言うんだけど、魔導具も明日には完成するんだって。いくらか私が領地を空けておいても何の問題もないだろう」
「ど、どこに行く、行くのですか?」
彼女は乾いた唇を湿らせながらかろうじて平然としていた。
「あの山の向こうにゴブリンの群れが場所を決めたそうだ。4、5日ぐらい滞在しながら根を抜いておくつもりだよ」
リプタンは窓の外に高くそびえる峰の1つを指しながら言った。
マックは心配そうに彼を見る。
「き、危険ではない、ないのですか?」
その質問にリプタンは気が抜けたようだった。
「はは、まさか私がゴブリンにやられるんじゃないかと心配してるの?」
彼は馬鹿げているかのように高笑いする。
「ゴブリン討伐は面倒なことであり、危険なことではない。ウサギ狩りより少し厄介な程度だよ」
「べ、別に危なくないなら放っておいても・・・」
突然、彼の顔にいらいらした様子が浮かぶ。
「この地を守るのは私の義務だ。今それを疎かにしろと言っているの?」
鋭い声にマックは肩をすくめた。
「ゴブリンは下級魔物だが、繁殖力が非常に優れている。根こそぎにしておかないと、ものすごく増殖して行商人を襲撃したり、狩場をめちゃくちゃにしたりする。そんなことが起きないように事前に防ぐのが私の仕事だ」
「すみません。私が・・・、テ、テーマを超えました」
マックは急いで謝る。
リプタンは彼女のこわばった顔を見て、長いため息をつきながら片腕を差し出した。
マックは自然に近づいて抱きしめる。
彼は彼女の肩に鼻筋をこすりつけ、髪を一つに編んだ。
「暖かいベッドを置いて、冷たい土の床で寝るのは、私もあまり気に入らない。それでも私はやるべきことをしなければならない」
マックは何も言わずに彼の濃い黒髪を撫でる。
彼が寒い冬の風に吹かれながら寝ると思うと心が痛かった。
騎士の妻はいつもこのような寂しい気持ちに耐えなければならないのだろうか。
もしかしたら、他の貴族女性たちは自分の心を守るために夫と適当な距離を維持するのかもしれないという気がした。
彼女はふと顔を曇らせる。
彼と親しくなりすぎたのではないかと怖かった。
翌日、城門にはオーガが金槌で叩いてもびくともしないような巨大な鋼鉄の門が掲げられた。
そしてその左右にはルースの作った魔導具が設置される。
ここ数日羊皮紙の山と格闘させた魔導具は、かぼちゃ一つほどの大きさの象牙色の丸い円盤の形をしていた。
結果を見るために城門まで追いかけてきたマックは、好奇心に満ちた目で望楼に設置された魔導具を見つめる。
円盤の端には古代語がぎっしりと書かれており、真ん中にはルースが見せてくれた赤い魔石がちりばめられていた。
「これは、な、何で作ったんですか?」
滑らかな円盤の表面を掃きながら間くと、ルースが大したことないように答える。
「バジリスクの骨です」
マックはさっと手を離す。
「ほ、骨ですか?」
「バジリスクやワイバーン、リザード、このようなドラゴンの亜種魔物は強力な抗魔力を持っています。ほとんどの魔導具は、これらの魔物の骨で作られています」
彼女は目を細め、滑らかに光沢のある円盤を見下ろした。
魔物の骨だと思うと、訳もなく不気味に見えてしまう。
「骨は骨です。憚る理由はありません」
彼女の表情を見たルースは情けないように舌打ちする。
「お肉を食べる時も骨を触りませんか?」
「ま、魔物の骨はち、違うじゃないですか」
彼女は不満そうな声でぶつぶつ言った。
ルースは答える価値もないかのように、鼻で笑って魔導具を設置することに没頭し始めた。
彼が石柱に魔導具をしっかりと打ち込んで粘土で固定させた後、城門の外に出た。
マックもその後を追おうとしたが、衛兵たちに指示を出していたリプタンに捕まってしまった。
「城壁の外は危険だ」
「ル、ルースは・・・」
「あいつは高位の魔法使いだ。自分の身ぐらい守れる。あなたはこの中でおとなしく待っていて」
マックは断固とした声に静かにうなずく。
彼は警備員たちに彼女を保護するよう命令した後、城壁を登ってルースに指示した。
すると、城壁の向こうから巨大な火花が膨らんだ。
続いて、ものすごい轟音とともに巨大な火の玉が城門に向かって飛んでくる。
マックは悲鳴を上げた。
まるで火炎の熱気に反応するように大地が微細に揺れ、すぐに地上に巨大な防壁が湧き上がり、炎を遮る
彼女は呆然としてその荘厳な光景を眺めた。
見物に来た領地民さえも驚いて地面に座り込んだ。
「相変わらず騒々しいな」
そばに護衛するように立っていた騎士が軽く口笛を吹いた。
彼女は騎士たちの平然たる態度を見て、彼らにはこのようなものすごい光景が日常的なことだという事実に気づき。
彼らは彼女は夢にも考えられないような途方もないことを経験しながら生きているのだ。
「よし。魔導具がちゃんと作動するね。城門を開けて」
リプタンが大声で叫ぶと、どっしりとした鉄の門が開き、ルースが土ぼこりをかぶった格好でよろよろと歩いて入ってきた。
「ここまでしなければなりませんか?」
「私が領地を空けてもアナトールは完璧に安全だということを皆に見せなければならない」
リプタンは壁の下を歩いて降りてきて言った。
「これくらいなら、誰も侵入しようとしないだろう?」
「まあ、安全だという噂が広がれば行商人も増えるでしょうし・・・、悪いことはないでしょう」
ルースはどうしようもないかのように同意する。
マックはその時になって、たった今繰り広げられた光景が、魔導具を試すためのものだけでなく、見物に来た領地民たちを安心させるための演出だったことに気づいた。