こんにちは、ピッコです。
今回は95話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
95話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 抑えきれない気持ち⑤
ガベルはリプタンをじっと見つめた。
鋭い目つきで彼女と騎士たちを交互に脱んだリプタンは、これ以上反対する名分を見つけられず、口元を歪める。
彼はしばらく黙っていたが、抑えられた声を吐き出した。
「・・・よし、実力を試してみよう。外へ出て」
彼はさっと振り向いてドアの外に出る。
ヘバロンは緊張で凍りついたマックの肩を軽くたたいた。
「奥さんが成功すれば、団長もこれ以上反対することはできないでしょう。鼻を平たくしてください」
それは成功した時の話だ。
このように騒ぎを起こしておいて、この前のように虚しく失敗したらどうしよう。
マックは乾いた唾を飲み込んだ。
(いや、バリアーは・・・そんなに簡単に壊れないよ)
この前、メドリックが試しに畑を耕す時に使うつるはしを振り回した時も、びくともせず持ちこたえたのではないか。
しかし、やせ細った老人のつるはしと鍛え抜かれた騎士の一撃は全く違うだろう。
彼女は騎士たちとともに練兵場に向かう途中、彼らのたくましい腕と種馬のように強靭な脚をちらりと見た。
リプタンは訓練を受けていた騎士たちを後ろにかじり、ある程度のスペースを確保した後、彼女を振り返った。
「さあ、これから魔法を試してみなさい」
彼が腰にかかった黒い取っ手を握るのを見て、騎士たちが素早く前に飛び出す。
「ちょっと、ちょっと待ってください!それは違いますよ!団長の攻撃を防ぐことができる魔法使いが世の中に何人いると言いますか!」
「わあ!本当に酷いね!ルースでも団長の攻撃は防げないのに!」
「騒ぎ立てるな。当然、力の調節をするつもりだ」
騎士たちはもちろん、マックまで彼に不信の目を向けた。
リプタンが必ず彼女の防御壁を崩すつもりだということは、馬鹿でない限り分かるだろう。
ヘバロンは大声でブーイングした。
「そんなことは納得できません。団長を除いた他の騎士の攻撃で試してみないと、どんな結果が出ても認めません!」
「それは私には納得できない!奴らは適当に手加減しながらやるのが目に見えているじゃないか」
「手加減しないと?レムドラゴンの全力を尽くした攻撃を防御する魔法使いが世界にどれだけいるんですか!トロールレベルの攻撃さえ防げば十分じゃないですか!」
「二人とも落ち着いてください」
再び怒った野良犬のように神経を尖らせるヘバロンとリプタンの間にガベルが割り込んだ。
「余計な言い争いで力を抜かないで、こうしましょう。奥さんが直接指名する人が試験官になるのです。力の加減は目で見るだけで分かるじゃないですか」
リプタンはマックの方を向いた。
マックは素早く彼の目を避ける。
気が狂わない限り、自分が彼を指名するはずがない。
マックは自分を選ぶようにプレッシャーをかけるリプタンに背を向けたまま騎士に目を通した。
ヘバロンはリプタンよりも背が高く背もやや高かった。
他の騎士たちも一様に肩が大きく開いて腕には筋肉が膨らんでいる。
彼女は目を細め、彼らの様子を注章深く観察し、騎士の中で最もほっそりした体格のガベルに目を向けた。
「わ、私が・・・指名すればいいんですよね?」
「はい、奥様がお相手をお選びください」
「それでは・・・ラクシオン卿が・・・相手になってほしいです」
優しい笑みを浮かべていたガベルの口元が少し痙攣を起こす。
「私を選んだ理由は何か聞いてもいいですか?」
「い、一番・・・頼もしいから・・・」
リプタンの冷たい視線が頬を刺すのを感じたが、マックはわざと知らないふりをして言った。
ガベルは、彼女がどんな理由で自分を選んだのか気づいたように、曇った目つきでため息をついて前に出る。
「分かりました。私が試してみます」
彼は腰から長い剣を抜いて姿勢をとった。
尋常でない威圧感にマックはあたふたと恐怖心を引き上げる。
練習した通り魔力を回転させると、足元にかすかな振動が響き渡り、2、3歩先の地面が高く突き上がった。
マックはその上にルースが教えてくれた強化魔法式をかぶせる。
すると、土で作った障壁がさらに厚く、硬くなった。
「できました!」
「それでは行きます!」
マックは魔力を最大値まで引き上げ、速いスピードで回転させた。
心臓がドキドキし、背中から冷や汗が流れる。
地面を蹴る音が聞こえ、まもなく重い打撃音と共に防御壁が大きく揺れた。
マックは緊張した顔で壁を見つめる。
その後を継いでドンドン、という音が2、3回続いたが、壁は壊れずに堅固に持ちこたえた。
自らも信じられなかった。
どきまぎした作った土壁を眺めていたマックは、すぐに意気揚々とリフタンを振り返る。
彼は土ぼこりの中にそびえ立ち、一言で定義しがたい複雑な視線で彼女を眺めていた。
暗く沈んだその表情にマックは笑みを浮かべた。
ヘバロンは彼の周りの重い雰囲気にもめげずに近づいてニヤニヤする。
「これくらいなら団長も納得できますよね?」
リプタンはさっと身を乗り出した。
「・・・勝手にしろ」
それから、ひどく怒ったように、ふらりと歩いてしまった。
その冷たい態度にもかかわらず、ヘバロンは肩をすくめてばかりいた。
「あまり気にしないでください。ああ見えても合理的な人です。すぐに気分をほぐしますから」
どうか彼の言葉が正しいことを願い、マックは遠ざかるリプタンの後ろ姿を焦がす目で眺めた。
夫の意思に正面から逆らったことで、後になって気が重くなる。
彼女は首を横に振りながら弱気になった。
いずれにせよ彼は許した。
彼と一緒に去ることができれば、冷淡な態度や怒りに満ちた視線ぐらいはいくらでも甘受することができた。
彼らはすぐに遠征に出る準備に取り掛かった。
マックもグレートホールに戻り、必要なものを手に入れる。
ルディスは心配性の母親のように荷造りを始めた。
マックは15着もの服を革袋に詰め込むルディスを止めるのに苦労した。
彼女だけでなく、ロドリゴと他の使用人たちも、これを持っていくのはどうか、あれも必要ではないかとあらゆる物を持ってきた。
甚だしくは裁縫師夫婦まで炎天下で顔が焼けるとし、帽子とベールを用意した。
マックはその中から必ず必要なものをいくつかだけ選んだ。
幼い見習い騎士たちのために作った丈夫なズボン1着と下着3枚、靴下1枚とチュニック2着をきれいに折っただけでもカバンがいっぱいになる。
その中に薬草袋とルースの医療道具、磨石3個を詰め込み、到底あきらめることができず象牙で作った小さなヘアブラシと半分に切った石鹸を布袋に入れて腰帯にぶら下げた。
薬草図鑑や魔法書も持って行きたかったが、重さも重いし、そのように高価な物を持って旅行に行くというのが負担になり、ルースが整理してくれた羊皮紙を何枚か持っていった。
「必ず奥さんがそんな危険な所へ行かなければならないのですか?」
かばんの紐をしっかりと結んでいると、そばをうろついていたルディスが震える声で尋ねる。
感情をよく表わすことのない落ち着いた下女が自分に愛情を表わすのが嬉しくて、マックは顔を赤く染めた。
「し、心配しないで。西大陸最強の騎士たちと一緒に行くじゃないですか。何もないと思います」
彼女はためらいながらマックの手を握った。
「どうか・・・お体にお気をつけて」
マックは彼女の暗い茶色の目をのぞき込み、力強くうなずく。
ルディスは悲しそうに微笑みながら彼女の手をしっかりと握り、後ずさりした。
マックは最後に悲しげに鳴いている猫を1匹1匹胸に抱いてキスをした後、部屋を出た。
ドアの前に待機していた下女が、自分が持っていくと言って、彼女の手からカバンを受け取る。
マックはレムの鞍上に座り、グレート・ホールの使用人たちの猛烈な見送りを受けた。
練兵場にはすでにすべての騎士が出発準備を終えて列をなして立っていた。
この2日間、遠征に出る準備を整えている状態なので、準備するのに時間がそれほど長くはかからなかったようだ。
「必要な荷物は全部お持ちですか?」
彼女が隊列に近づくと、前列を点検していたガベルが声をかける。
マックはうなずいた。
ガベルが彼女の鞍にかかっているバッグの大きさを見計らうように目を細め、背後に手招きした。
「おい!カリプス夫人が来たぞ」
彼の呼びかけで2人の少年が隊列の後ろに立っていた随行員の間から出てきた。
マックは巨大な馬を引きずり出すユリシオンとガロウを見て目を大きく開ける。
ユリシオンは大げさに彼女の方へ走ってきた。
「貴婦人が一緒に行かれるという話を聞きました。旅行中、私たちが奥さんの護衛をすることになりました」
「でも、ユリシオンとガロウはまだ見習いじゃないですか。遠征に参加しても、だ、大丈夫なんですか?」
「随行騎士は本来、叙任式を控えた見習い中から選びます。ここ数ヶ月の間、経験も十分に積んだので心配しないでください」
ガロウが頼もしく胸をすっと張ると、ユリシオンはその横で勇ましくうなずいた。
「この前のように奥さんを危険にさらすようなことは絶対にないでしょう。私たちが何があっても奥さんを安全に守りますので、何の心配もしないでください!」
マックはしばらく会っていない間にかなりたくましくなった少年たちを見て微笑んだ。
「あ・・・ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ロヴァルとリバキオンは、随行騎士の中で最も優れた実力を持っています。移動中はいつも二人と一緒に通うようにしてください。そして、絶対に勝手に隊列を離脱してはいけません。問題が生じたときは、私や他の騎士に必ず知らせてください」
ガベルが厳粛な顔で注意を与えると、マックは真剣にうなずいた。
「肝に銘じます。ところで・・・リ、リプタンはどこにいますか?」
「団長はあちらにいらっしゃいます」
彼が指す方向に首を回すと、ロドリゴと頭が真っ白な2人の老騎士、そして若い騎士3人と話を交わすリプタンの姿が目に入る。
ガベルが説明を付け加えてくれた。
「城の管理権限を委任されているところです。グレートホールの管理はロドリゴに、軍事施設の監督はオバロン卿とセブリック卿に任せることにしたそうです」
リプタンはそれぞれ鍵の束を、風采の良い老騎士とロドリゴに渡して、隊列の一番前を歩いた。
マックはタロンの背中にさっと乗る彼の姿をじっと見つめる。
リプタンの視線もすぐ彼女に向かって飛んできた。
彼女は彼が考えを変え、置き去りにすると言うのを恐れて体を引き締めた。
しかし、リプタンは何も言わず、城門の前に馬の頭を向ける。
「出発する!」
彼の大きな声が響き渡ると、壁の上に立った衛兵たちが力強くコッペルを鳴らした。
その音を合図に、騎士たちが列をなして秩序正しく堀を渡り始める。
マックは手綱をしっかりと握りしめ、レムを隊列に沿って運転した。
カリプス城が背後にますます遠ざかると、内部で恐怖と妙な興奮が大きく膨らんだ。
これからどんなことを経験するのだろうか。
彼女が不安に思っていることに気づいたのか、隣で馬を走らせていたガロウが落ち着いて言った。
「そんなに心配することはありません。去年の春、ずっとアナトリウム山地を歩き回りながら魔物を討伐したので、すぐに戦闘が起きることはないでしょう」
マックは少年が自分よりずっと毅然としているのを見て恥ずかしそうにした。
ガロウだけではなかった。
彼女と同年代の若い騎士たちも一様に落ち着いた顔をしている。
彼らが巨大な群馬を完璧に統制して村を横切ると、行軍を見ようと道の端に集まった領地民たちが畏敬の念を抱いて視線を送ってきた。
マックはオオカミの群れに紛れて入った小さな子犬になった気分だった。
試験は無事に突破!
いよいよ出発です。
これまではずっとカリプス城で起きてきた出来事ですので、これからどのような展開になるのか楽しみですね。