こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は319話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
319話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛④
「毒だと?」
外部から招いた医師の検証結果を受け、シアンは目を細める。
毒殺だなんて。
シアンは視線を巡らせ、そばにいるリンドン公爵の表情を探った。
彼は大事な娘を失い、深い悲しみに暮れていた。
怒りに燃えるリンドン公爵は、世界を呑み込むかのような恐ろしい表情を浮かべていた。
「東部の森に生息する蜘蛛の毒です。外見上は心臓麻痺のように見えますが、ここを注意深く調べると、毒が全身に回り激しく変色していることが分かります。」
「確かか?」
「私の命を懸けて断言します。」
医師の確認を受け、沈黙していたリンドン公爵は、静かにベッドの傍らに歩み寄った。
命を失い、冷たくなった娘の手を握る彼の心は、まるで剣で突き刺されるような痛みで締め付けられた。
「すまない、本当にすまない。父が無力だったせいで、こんな風に送り出してしまった。」
死者は言葉を持たない。
静かに眠るかのように横たわるセシリアを見つめるリンドン公爵の肩は、重く沈んだ。
「約束するよ。お前をこんな目に遭わせた奴を、必ずこの手で討つ。決して奴らを野放しにはしない。そして命を懸けて、お前に許しを請う。」
「公爵。」
リンドン公爵は、視線をシアンに合わせることなく立ち上がる。
シアンは無言のまま部屋を後にした。
その背中を見送った後、シアンが手にしていた杯を振り返り、蒼白なセシリアの顔を覗き込んだ。
彼女の目は後悔の色を帯びていた。
「皇后、私の未熟な執着が、ついにあなたを死に追いやってしまいました。」
シアンは罪悪感に苛まれ、杯を持つ手を震わせた。
彼女が望まなかった人生を強いたばかりか、守ることもできなかったのだ。
怒りは止まらなかった。
セシリアの死で最も利益を得る家門は、フリードリヒ大公家だ。
彼ら以外に、このような毒殺を計画し、実行に移す胆力を持つ者はいなかっただろう。
問題は、この毒殺をどうやって明るみに出すかだ。
証拠や状況証拠はあっても、決定的な証拠を見つけない限り、復讐は遠い夢に過ぎない。
シアンの目には、これまでに見たことのない冷酷な殺気が宿っていた。
「必ずや復讐し、その報いを受けさせる。」
帝国宮廷は公式にセシリア皇后の死を発表した。
シアンはセシリアの死を「持病による心臓麻痺」として公表した。
しかし彼は密かに人を送り、セシリアが死ぬ前の行動を追跡しつつ、自身は無力な皇帝を装い続けた。
怒りと悔しさに苛まれながらも、冷静に事態を進めるための策略だった。
「・・・」
棺に横たわるセシリアを見つめるシアンの目には、悲しみと怒りが入り混じっていた。
沈黙の中で彼女を見つめながら、リチャード皇帝が亡くなった時に感じた喪失感が再び蘇った。
宮廷内で唯一の味方だった彼女の死は、彼の心を深くえぐるものだった。
シアンは杯を握りしめながらも、視線をベロニカに移した。
セシリアが毒殺される前日、ベロニカと茶を共にしたという証言が浮上している。
調査によれば、毒は血液を巡り、臓器に深刻な影響を及ぼすまで24時間かかるという。
まだ確証はないものの、ベロニカが容疑者であることは明らかだった。
「皇后殿下。」
セシリアの亡骸を前に、ベロニカの目がどこか冷たい輝きを放っていた。
涙は流していなかったものの、悲しみを押し殺しているかのような態度でセシリアに対して誠実に哀悼を表していた。
しかし、セシリアを毒殺した可能性のある容疑者としてベロニカを思い浮かべると、心に重苦しい感情が広がり、小さな溜め息が漏れた。
それからしばらくして、シアンは毒の出所を追跡していた議員と密かに会った。
「分かったのか?」
「いくつかの経路をたどった結果、出所は大公家だと思われます。」
シアンの目が鋭く光る。
これで大公家の関与が明確になった。
しかし、誰が毒殺を指示したのかという問題は依然として解決していなかった。
大公家が宮廷内で権力を強化している最中に、直接的な証拠をつかむことは簡単ではない。
不安が胸に押し寄せる中、宮殿外で活動していたシアンの信頼できる騎士フィギンが密かに現れ、シアンに近づいた。
「久しぶりだな、卿。」
「陛下に敬礼申し上げます。」
シアンとフィギンが顔を合わせるのは半年ぶりのことだ。
これは、デンが私室でシアンの行動を監視していることもあり、ほとんど陰謀のような状況にまで発展する可能性があった。
「進展は?」
「追加で4人の貴族が協力することになりました。約束通り、後援金をリンデン伯爵に送りました。また、関与している可能性のある貴族の中から3人を特定しました。」
「苦労しているようだな。」
「そして、明示された通り、皇妃についての調査も行いました。報告しますか?」
シアンは杯を指でなぞる。
危険を承知で宮殿を出たのは、フィギンからベロニカに関する報告を直接聞くためだった。
「2年前、熱病で倒れた皇妃が教会に戻って以降、奇妙な噂が立ったそうです。」
「奇妙な噂?」
「皇妃がまるで別人のように変わったというものです。」
当時、シアンは学術院で学んでおり、セシリアとの政略結婚を果たすため、彼女に尽力していた。
説得しようと無理に手を尽くした時期だ。
学術院の人脈が教会まで繋がっていることを考えれば、情報を無視するわけにはいかなかった。
「未熟だったとでも言うべきでしょうか? 教会でも手に余るほどの影響力を持っていたそうです。」
シアンは眉をひそめた。
彼が知る限り、ベロニカは教会を軽視し放置するような人間ではなかった。
それを許すほど寛容な性格でもない。
「しかし興味深いのは、そんな皇妃が一年後には教会を掌握した女王となったことです。極端な行動を重ねていますね。」
シアンは思考を整理できなかった。
ベロニカは規範に収まらない種類の人物だった。
「もしかして熱病の後遺症や何かだろうか?」
「調べましたが、医師たちによれば、そのような後遺症はないとのことです。」
「そうか、事実だな。後遺症によって認知能力が低下することはあり得ますが、それでも皇妃が教会で再び名前を馳せたのは・・・」
「それを見れば、それが本当でないとは言えないでしょう。」
黙って慎重に聞いていた医師も、その言葉に同意した。
フイギンが再び話を続けた。
「ですが、当時こんな噂がありました。ベロニカ皇妃が実際に患ったのは熱病ではなく、毒に依存していたという話です。」
「毒?」
医師は何かを思い出したように、毒を半ば反射的に口にした。
「思い出しました。当時、大公邸に招かれた医師たちの多くが毒で何らかの問題を抱えていました。私の後輩もその一人でした。」
「その後輩と連絡は取れるのか?」
フイギンが問いかけると、医師が顔をしかめて言った。
「いいえ、それ以来会っていません。」
「どのくらい前だ? 大公邸に招かれた後に行方が分からなくなった医師たちの遺体が見つかった。彼らが亡くなったのはおそらく一か月ほど前のことだろう。」
「そういうことか。」
医師は青ざめた。
シアンはその一連の出来事を咀嚼しながら、更なる質問を投げかける。
「では、その医師たちが皇后を殺害した毒に関与していたということか?」
「それはないと思います。クモ毒は繊細で、人為的に混ぜると毒性が死んでしまいます。さらに、当時大公家が雇った者たちが毒を使ったのは、彼らを毒殺するための罠だったようです。」
「ということは、ベロニカが毒に依存していたというのは事実である可能性もあるのか。」
シアンはこれまでの状況を整理し直した。
考えれば考えるほど疑問が深まる。
(ベロニカが毒に依存していたのは何年も前のことだ。だが、治療に当たった医師たちを今になって殺害する必要があるのか? 一体なぜそんな理由がある?)
どうにも腑に落ちない。
大公家の背後に潜む闇にまつわる噂話が複雑に絡み合っている。
その噂を使い、人々を動揺させた上で医師たちを殺害することには、それなりの動機が隠されているのだろう。
『全部燃やしてやるか。お前の政体が揺らげば、大公家がお前を見限るかもしれないぞ?』
瞬間的に、シアンの脳裏にレンが以前言った言葉がよぎった。
その当時はその言葉の真意を理解することができなかったが、微かにではあるが糸口を掴んだような気がした。
(まさかベロニカが・・・)
シアンの顔には、何か重大なことに気付いたような緊張が走った。
もし自分の推測が正しいのであれば、これまで解けなかったパズルがピタリと当てはまる。
月日が流れても変わらなかったあの表情、リチャード皇帝やラファエルが見たベロニカの本性、そしてシアンに向けられた彼女の感情もある程度説明が可能だった。
深く考え込むシアンを心配そうに見つめる執事フイギンが、声をかけた。
「どうなさいましたか、陛下?」
「整理が必要だ。それにしても、疲れが溜まったな。宮殿に戻るとしよう。フイギン卿、ベロニカについての調査を続け、結果を報告してくれ。」
「承知いたしました、陛下。」
シアンはローブを羽織りながら秘密の場所を後にする。
不気味な路地を歩く彼の瞳には、複雑な思考が渦巻いていた。