こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
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334話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 大切な人②
シアンが訴えるような眼差しでエレナを見つめる。
その視線にエレナは息を呑み、何も言い返せなかった。
誤解を招くような状況ではあるが、イアンの存在についてはどんな形でも説明できるものではなかった。
シアンが低い声で静かに言葉を紡いだ。
「そんなに悲しい話だったのか……。」
「どうしてそんな夢を見たのかはわからないが、夢はあくまで夢です。心に留めないようにしてください。」
「……。」
「私の未熟な絵が陛下の心に波を立てたのですね。申し訳ありません。」
エレナはあくまで平静を装いながら頭を下げた。
しかし彼女の内心では、シアンを見るたびに湧き上がる感情の波に耐えきれない思いだった。
「あなたがそう言うのなら、それが答えだ。」
短い沈黙の後、シアンは口を開いた。
その表情には、一切の動揺も見せず、確固たる決意が浮かんでいた。
動じない心を持ちながらも、その姿勢には温かさが滲んでいた。
エレナの言葉を信じるなら、シアンは疑念を挟むことなく、相手の言葉を受け入れる人だ。
そんなシアンの真摯な姿にエレナは罪悪感を覚えた。
彼女の心はかき乱され、その場にじっと座っていることすら辛くなった。
「陛下、失礼ながら、先に立ち上がってもよろしいでしょうか?今日は無理をしたせいか、体調が優れなくて……。」
「具合が悪いのか?」
「はい、休めば大丈夫です。ご心配なく。」
申し訳なさそうに立ち上がったエレナは、体を支えるために椅子の背を掴んだ。
『熱が出ている気がする……。』
エレナの意識は混乱していた。
自分の体ではないかのような感覚と、精神的な衝撃に耐えきれず、彼女は無意識にソファから立ち上がると、ふらつきながらその場を離れようとした。
その瞬間、足がもつれて転びそうになった。
「夢だ。」
シアンの独り言のようなその声が、彼女の足を止めた。
『振り返ってはいけない。』
これでいい。
これ以上しつこく彼にしがみついてはいけない。
彼のためにも。
シアンは片手を胸に当て、目を閉じて静かに祈った。
「ガイア女神の御許で、イアンが幸せでありますように。」
「……!」
手を取ろうとした瞬間に聞こえてきたシアンの言葉に、エレナの感情が堰を切ったように溢れ出した。
彼女は嗚咽を漏らし、こらえきれない涙を流した。
できることならイアンにその言葉を届けたい――そう願った。
しかし、それを口にすることすら叶わない。
湧き上がる感情の波に飲み込まれたエレナは、精神が追いつかず、身体が反応し始めた。
頭がぼんやりして視界が揺らぎ、足がガクンと崩れた。
「エレナ!」
倒れゆくエレナを見たシアンは、咄嗟に身体を動かした。
地面に倒れ込む直前、彼は素早くエレナを抱き寄せた。
その手の感触は、優しく温かかった。
「大丈夫か?」
エレナを見つめるシアンの瞳が揺らいだ。
その瞬間、彼女の目から一筋の涙が流れていた。
何が彼女をこれほどまでに苦しめているのか分からない。
ただ一つだけ確かに言えるのは、その涙が自分の心に響いているということだった。
彼には知られざる事情があるのだろう。
「……陛下。」
シアンの声に反応するように、エレナが無意識のうちに答えた。
「そうだ、私だ。しっかりしろ。」
「……。」
「エレナ!そこに誰もいないのか?医者を呼べ!早く!」
意識を失ったエレナを抱きしめたまま、シアンが叫んだ。
・
・
・
夢なのか、それとも失われた記憶の断片なのか。
エレナはどちらの方向なのか分からなかった。
はっきりしているのは、彼女が今皇宮におり、皇妃の身分であるということだけだった。
少し離れたところにシアンが見えた。
靴を履いていたエレナが、歩く途中で転びそうになるのではないかと気になりながら急いで追いかけた。
「おっと。」
急ぎ足で歩いているうちに、突然足がもつれた。
よろけたせいで赤く腫れた足首が痛んだ。
エレナがうめきながら止まると、シアンが振り返った。
彼女がぎこちなく笑うと、シアンは静かに彼女を見つめてから視線をそらした。
遠ざかるシアンの後ろ姿を見送りながら、エレナの胸は少し痛んだ。
「何を言っても届かないのね。」
縮まらない距離に比例して、胸の奥がきゅっと締め付けられるようだった。
しばらく痛みをこらえたエレナは、再び歩き始めた。
痛む足首を引きずりながらも、ここにとどまることはできなかった。
そうして皇宮の廊下を進んでいくと、遠くにシアンが見えた。
廊下でデンと話をしているようだ。
「よかった。」
エレナはそっとシアンの後ろに立ち、安堵した。
どんな会話をしているのか分からないが、そのおかげで一緒に歩くことができるようになったのだ。
遅れて到着したエレナに一瞥もくれないシアンは、再び目的地に向かって歩き始めた。
エレナはその後ろ姿を見つめ、慌ててついていった。
このように一緒に歩ける時間は、エレナにとって何物にも代えがたい貴重な時間であり、諦めるわけにはいかなかった。
こうしてシアンについていくうちに、何かがおかしいと感じた。
ここに来る途中は急いで歩いてきたせいで足首が痛んだが、今はそれよりも痛みがずっと和らいでいるように思えた。
「陛下の歩調なのだろうか……。」
さっきより明らかに歩くスピードが遅くなったように感じたのだ。
「思い過ごしよ。そんなはずがない。」
エレナはそんな考えを振り払おうとしながら、心の中の雑念を消し去った。
彼女が転んだときに振り返ってくれたあの方だ。
これ以上、深読みする理由はないと思うことにした。
特別に優しくしてもらった記憶もないその方に、期待などしようとも思わなかった。
・
・
・
そのとき、突然、そよ風がカーテン越しに吹き込んできた。
エレナは体を起こし、目をぎゅっと閉じてから再び開いた。
「……あ。」
エレナが見たのは、自分に見覚えのある天井だった。
湿った肌に触れるシーツの感触にも見覚えがある。
これは彼女の寝室だった。
「まるで馬鹿みたいな夢を見たな。」
腕を上げて天井を見つめるエレナの瞳はぼんやりとしていた。
夢のせいか、過去と現在の記憶が絡まり、混乱していた。
あの夢が現実だったのか、ただの幻想だったのか、区別がつかなかった。
シアンが自分を見捨てたのか、それとも理解しようとしていたのか――
夢の中の状況を正確に把握しようとしたが、彼女は自分が見たいものだけを見たに過ぎないのではないかと疑念が生まれ、混乱した。
「そういえば、どうして私がここに……あ!」
エレナは急に昨夜のことを思い出し、現実感を取り戻した。
昨晩、彼女は気を失ってしまった瞬間の記憶が鮮明に蘇ったのだ。
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