こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

39話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- シュペリオン公爵③
幸運にも、待つ時間はそれほど長くなかった。
数日後のことだった、再び旅を続けることになったのは──。
出発した馬車が、シュペリオン領の端へと差しかかった頃だ。
「……あの。」
馬車の向かい側に座っていたレリアが、おそるおそる口を開いた。
その様子を見て、シュペリオン公爵は「その時が来た」と感じた。
実は、少し前からレリアが不安げに指先をいじっているのを見て、気づいていたのだ。
レリアは唾を飲み込み、こう言った。
「お伝えしたいことがあります。」
少なくとも、シュペリオン公爵には真実を伝えなければならないと思った。
実はここ数日間、レリアはずっと悩んでいた。
この話を、どう切り出せばいいのか。
母のことを――
どうして自分がその娘だと知っているのか聞かれたら、答えようがなかったからだ。
『小説の中に転生してきたから知っているなんて、言えるわけないよね。』
だから、いろいろと嘘を考えたりもしたが、どれもまともなものはなかった。
あまりに無理な作り話ばかりで、かえって怪しまれそうだった。
それでもレリアは最善を尽くすつもりだった。
『でも、もしかして……。』
理由を言わなくても、その存在だけで信じてもらえるかもしれない、という気がしてきた。
シュペリオン公爵と騎士団の人々は、旅の間ずっとレリアに優しく、温かく接してくれた。
その優しい大人たちの態度は、レリアにとって嬉しくもあり、同時に少し怖くもあった。
もし事実を告白して、シュペリオン公爵が「それは嘘だ」と信じてくれなかったら――今まで見せてくれたあの優しい笑顔が、すべて消えてしまうかもしれない。
もしかしたら、追い出されるかもしれない。
『まあ、追い出されても、なんとかなるはず……。』
逃げる覚悟さえあれば、そこまで悪くない。
それに、レリアには母の形見の首飾りもある。
いくつもの理由を胸に、迷っていたレリアだったが、ついに決意して口を開いた。
「私は……つまり、正式にはイリス皇女様の娘です。名前はレリアといいます。」
「イリス皇女……。」
レリアの言葉に、シュペリオン公爵は顔をしかめた。
イリス皇女がエリザベスを虐げていたことを彼も知っていたのだろう。
「でも……私の本当の母親はエリザベス前皇太子妃です。」
「……。」
「私を育ててくれた乳母が教えてくれました。お母さんが私を産んで、イリス皇女に託したって。」
「続けて話してごらん。」
「イリス皇女の赤ちゃんは流産したそうです。それで、お母さんは私を助けてほしいと頼んだんです。それでイリス皇女が、子どもをすり替えたんです……。」
「……」
「ライディオス皇帝をだますために、そうしたと聞きました。」
レリアは震える声で、隠していたことを打ち明けた。
しかし、シュペリオン公爵からは何の反応も返ってこなかった。
『やっぱり、信じてもらえないのかな……。』
レリアはそっと顔を上げ、公爵の表情をうかがう。
だが、顔を見た瞬間、レリアは慌てて唇をきつく結んだ。
シュペリオン公爵は、まるで小さな世界が崩れ落ちたかのような、絶望に満ちた表情で泣いていた。
かつて獅子のように鋭かったその目は、今はかすかに弱々しく見えた。
「私のせいだ……私が守れなかったからだ。私があの子を……。」
シュペリオン公爵は、崩れるように泣き崩れた。
レリアもまた、胸が締めつけられる思いだった。
自ら子供を手放さなければならなかった心情を、完全に理解することはできなかったが、それでも痛みは伝わった。
「・・・それで、その乳母は今どこにいるんだ?」
しばらくして涙をこらえたシュペリオン公爵が尋ねた。
レリアは慎重に答えた。
「私が幼いころ、皇城を離れたそうです。」
「何だって……。」
シュペリオン公爵の額に深い皺が寄った。
その瞬間──。
どうやって生き延びてきたのか――それを問うまなざしだった。
「私は一人で過ごしていました……。」
「ライディオスが、お前を捨てたのか?」
「……はい」
「畜生め!」
シュペリオン公爵の顔は、まるで死神のように恐ろしく変わる。
ライディオスに向けた怒りがどれほど深いか、容易に想像できた。
すでにライディオスを倒して、エリザベスの復讐は果たしていたはずだった。
だが、シュペリオン公爵の心に刻まれた憎しみは、死ぬまで消えることはないだろう。
――そもそも復讐とは、そういうものなのだ。
レリアは、ライディオスが自分を神殿に送り込んだという事実を、結局口にはしなかった。
もしそれを話してしまったら――禁忌の魔法を破れば、自分は死ぬことになるだろう。
「かわいそうに……」
レリアは、優しく自分を見つめるシュペリオン公爵を見て、そっと微笑んだ。
「でも……私は大丈夫です。」
「……可哀そうに。」
シュペリオン公爵はレリアを抱き寄せ、その頭を撫でた。
初めて孫娘を抱きしめた彼は、まるで世界が崩れたかのように涙を流した。
「……。」
レリアも、ただひたすら流れ落ちる涙を拭いながら、微笑み続けた。
レリアは慎重に口を開いた。
神殿に行ったことは言えないので、嘘をついた。
城の外に出て、良い友達に出会ったのだと話した。
その友達と楽しい思い出をたくさん作ったことを、懐かしそうに語った。
また、友達たちが自分を「隊長」と呼んでいたこと、意地悪な大人たちをやりこめたこと、美味しい食べ物をたらふく食べたこと――ほんの少し、記憶を脚色しながら、唯一ともいえる幸せな思い出だけを選んで話した。
不幸だった過去は、話したくなかった。
例えば――あまりに空腹で、木の葉や泥水をすすっていたこと。
レオ皇太子に蹴られたこと。
双子の皇子たちに補給係の役目を奪われたこと。
忘れたくても、ユリアナに謝らなければならなかったことなど、忘れたいほど胸が痛むことは、結局言葉にできなかった。
その話を持ち出してしまえば、それだけ祖父の心を痛めることになる。
だからその事実は永遠に秘密にしたかった。
孫娘と祖父が互いに傷を癒し合っているうちに、馬車はいつの間にかシュペリオン公爵邸へと近づいていた。
馬車が止まった後、公爵はいつの間にか泣いたのか、泣き腫らした顔をぐっと引き締め、馬車を降りた。
ただ、赤くなった目は隠せなかった。
幸いにも、険しい表情がその顔を隠していたため、公爵は泣いたようには見えず、むしろ怒っているように見えた。
その後ろから、目と鼻が赤くなったレリアの話に、騎士たちの表情には驚きと感動がにじんでいた。
『泣かせたんだな。』
『そうか……あの方がこんなにも慈愛を注いでくださったのか。あの方が、こんな小さな子どもに……。』
誰が見ても、泣き顔のレリアを見れば、騎士たちは自然とそんなふうに思わずにいられなかった。
けれど、レリアは馬車から降りるなり、シュペリオン公爵の手をぎゅっと握った。
公爵はそんなレリアを見下ろしながら、やさしく微笑んだ。
レリアは緊張した心を抱えたまま、大きな城を見上げた。
帝国創立時から続く名家なのだろうか。
城の大きさからして、とにかく圧倒されるばかりだった。
まるで、今にも押しつぶされそうな気分になり、レリアは胸がきゅっと締めつけられる思いだった。
恐る恐る城内に足を踏み入れると、並んで待っていた使用人たちが一斉に頭を下げた。
そしてその中央には、白い喪服を着た美しい女性が立っていた。
幼い女の子と手をつないでいるシュペリオン公爵が近づくにつれ、彼女の表情は強張っていった。
やがて目の前まで来ると、彼女の顔は真っ赤に染まった。
「お父様!この子は何ですか? まさか、どこか外で子どもを作ってきたわけではないですよね?」
「会うなり大騒ぎしてるところを見ると、元気にしていたようだな。」
「……誰なんですか、お父様?」
栗色の髪をした女性がしかめっ面をしながら、レリアを見下ろした。
その瞳には警戒心とわずかな悪意。
レリアはその目の悪意に気づき、怖くなってそっと目をそらした。
シュペリオン公爵は、いつの間にかレリアを抱きかかえ、どこかへ向かっていた。
後ろからは、薄茶色の髪の女性が、すごすごとついてきていた。
「お父さま、あの人、誰ですか?」
「兄たちはどこにいる?」
「長兄様はまだです。お父さまがおっしゃった予定より早く到着なさったんです。カリウス兄様は数日前に到着しているので、すぐに来ると思います。昨日は薬草酒をたくさん召し上がったそうです。」
公爵の問いに、彼女はつつがなく答えた。
レリアは公爵の胸に顔をうずめながら、慎重に様子をうかがっていた。
外から見たよりも、内装はさらに豪華だった。
まるで皇城の本殿のように装飾された内部を見て、レリアは内心でため息をついた。
そしてようやく気を落ち着けると、ふかふかのソファに腰掛けた。応接室のようだった。
「ここで少し待っていなさい。」
「……はい。」
シュペリオン公爵はそう言い残して、どこかへ行ってしまった。
「お父様!」
栗色の髪の女性はシュペリオン公爵を呼び止めるように後を追った。
取り残されたレリアは緊張のあまりごくりと唾を飲み込んだ。
『本当にここまで来られたんだ。それも、検問に引っかかることなく。』
もしかすると、皇室の追跡から最も安全な場所はここなのかもしれない。
フェルセウス皇帝はシュペリオン公爵を敬っているからだ。
『まさかシュペリオン公爵家に私が隠れているなんて、思いもしないでしょう。』
そう思うと、少し心が落ち着いた。
ただ、シュペリオン公爵家は誰でも受け入れるような場所ではない。
『皆に自分の正体を明かすわけにはいかない。
そんなことをすれば、皇帝にも知られてしまう…。でも、おじい様は話すつもりみたいだった。』
レリアはどうすべきか悩んだ。
けれど、それよりも旅の疲れが一気に押し寄せてきて――。
少しの時間が過ぎた。
応接室のドアが開く音にびくびくしていたレリアがぱっと立ち上がった。
「……」
応接室のドアが開き、中に入ってきたのは先ほどの栗色の髪の女性と、彼女に付き添われた老婦人だった。
老婦人の顔を見た瞬間、レリアの体がすくんだ。
するとすぐに目が真っ赤になった。
「……」
なぜか力なく見える老婦人は、レリアを見るとすぐに足を止めた。
そして信じられないという表情を浮かべた。
その後ろからシュペリオン公爵も応接室の中へと入ってきた。









