こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

69話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 風の精
今回の舞踏会は、社交界の若い貴族たちだけの集まりだった。
主催者のユリアナは、数多の令嬢たちが皆出席する会だと話していた。
本当にそうなのかと思うほど、美しく着飾った未婚の貴族女性たちが非常に多く集まっていた。
もちろん、それに見合うような貴族の男性たちも多かったが、人数を見てみると、全員が義務で参加したわけではないようだった。
セドリックとデミアン皇子は妹の晴れ舞台を見守るために参加したようで、何人かの令嬢たちと楽しそうに会話を交わしている姿が見えた。
「ちょっと雰囲気が微妙だね。」
そのとき、シャンパンのグラスを軽く揺らしながらロミオが言った。
レリアは遠くに見えるガラス越しの皇女とその姉妹たち、そしてルートと視線を交わしたあと、ロミオと一緒にテラス付近に立っていたところだった。
「…何がですか?」
レリアが尋ねると、ロミオがさっと片方の端を指さした。
そこを見てみると、ある令嬢が不安そうに周囲をうろうろしていた。
よく見ると、以前見た赤髪の令嬢だった。
「名前はグレイスだったか?」
とにかく、ユリアナの侍女たちの一人だったし、ティーパーティーのときにどこに行っていたのか直接聞かれた令嬢だったので、覚えていた。
「それから、あそこを見て。」
ロミオが指さしたもう一方の場所には、若い令嬢たちと従者たちが集まっていた。
少し注意深く観察してみると、彼らはさっきの令嬢を指さしながら離れて、くすくす笑っていた。
「また、あそこ。」
ロミオは別の場所を指さした。ユリアナ皇女とその姉妹たちが見えた。
彼女たちは服の裾をつまんで集まっていた令嬢たちを、礼儀正しい顔で見下ろしながら話をしていた。
「…ああ。」
レリアはすぐにロミオの言いたいことがわかった。
社交界であからさまに誰かをからかうことは非常にまれなことだった。
シュペリオン領地でも似たような話はよく耳にした。
年若い貴族や、人数の多い貴族たちがするような行動はよく似ていた。
でも今のこれは、少し奇妙だった。
どう見ても、あそこに集まっている令嬢たちが、ひとりの令嬢をいじめているように見えたのだが――
「ユリアナとその侍女たちが主導しているみたいだな。」
集まっているグループの中の一人がユリアナの侍女たちの方を見て鋭い視線を送っているのを見て、確信した。
「誰かは平和を守るために光竜と戦いながら命を賭けて戦っていたのに……貴族たちはこんなくだらないことをして遊んでる。なんか滑稽じゃない?」
言葉とは裏腹に、ロミオはさっぱりとした表情で笑っていた。
レリアもまた、友人たちが戦場で苦しんでいる間、自分は安全な場所で食べて眠っていた者として、申し訳なさを感じていた。
「私はテラスに行って休むよ。浮気者役がうまくやってくれるだろうし、必要なものがあったら持ってきて。」
そう言って、ロミオはさっとその場を離れた。
「………」
ひとりきりになったレリアは、緊張で息が詰まりそうになった。
ただでさえ、数人の貴族がずっとチラチラ見てきていて落ち着かなかったのに…ロミオがいなくなった途端、みんなが露骨に彼女を見始めた。
きっと、ひとりでいるから声をかけやすいと思ったのだろう。
『逃げることもできないし。』
そのとき、遠くから自分を見ていたルートと目が合った。
彼は口をパクパクさせながら何かを言っていた。
よく見ると、「早く風の精の役を演じろ」という意味のようだ。
この場にはセドリックとデミアン皇子がいるので、どうやら確実に比較対象にしたいようだった。
レリアがうまく風の精を演じてこそ、ルートは自分の点数を稼ぐつもりなのだろうと思った。
「ウザいヤツ。」
レリアはルートの計画に賛同はできなかったが、ただおとなしく従うことにした。
ルートの気が楽になるなら、その方がいいと思ったのだ。
「心が軽くなれば、早く告白もできるでしょうし。」
レリアは軽く咳払いをしてから、目が合う令嬢たちに微笑みかけ始めた。
すると警戒心が和らいだのか、何人かの令嬢たちが話しかけてきた。
彼女たちは口を揃えて、レリアの容姿を見て驚嘆した。
誰かはドナテッリの絵よりも美しいと褒めてきた。
レリアは心の中で「浮気者のように、浮気者のように」と繰り返しながら、表情を作って柔らかい態度で応じた。
そんな時だった。
片方から小さな騒ぎが起きた。
会話していた令嬢たちと一緒にそちらへ目を向けると、さっき見た「グレイス」という令嬢がいた場所だった。
「ちょっとグレイスさん、まさかまだ私をストーキングしてるの?」
「い、いえ。私は最初からそんなこと一度も……」
「こんな無礼なことをするなんて。こんなことが続くなら、私ももう見逃せないわ。」
グレイス嬢は今にも泣き出しそうな、か弱い様子だった。
そして、その前で大声を出していたのは――
「デミアン皇太子じゃない?」
銀髪をきちんと撫でつけたデミアン皇太子だった。
何が原因かはわからないが、彼はイライラしながらグレイス嬢を睨みつけていた。
人々はその様子を囲んで見守りながら、ひそひそと話していた。
レリアは隣にいた令嬢に尋ねた。
「何があったんですか?」
「えっと、それは……」
その令嬢はレリアナの顔を見て頬を赤らめたが、すぐに早口で言った。
「実は、グレイス嬢がデミアン皇太子殿下を一方的に想っているだけでなく、ストーキングしているという噂が流れていたんです。ゾッとしますよね?」
「…そうなんですか?」
「ええ。でも今日、デミアン皇子殿下の衣装を事前に確認して、カップルルックみたいに合わせて来たみたいなんです。ほんと鳥肌立ちません?」
「………」
彼女の言葉通り、デミアン皇子は青と金色が混じった礼服を着ていたが、グレイス嬢もまったく同じような色合いだった。
「呆れるわ。ユリアナ皇女様の侍女だったのに、どうしてそんなことができるの?」
レリアはひっきりなしに飛び交う令嬢の言葉を片耳で聞き流しながら、騒ぎの中心をもう一度見た。
グレイス嬢は本当に悔しそうな表情だった。
目の前でしくしく泣いているデミアン皇子は本当に怖いほどの表情で、それを見るのがつらいくらいだった。
しかし見守っていたセドリック皇太子が現れたため、騒動はすぐに静まった。
貴族たちは再びぽつぽつと集まってパーティーを楽しみ始めた。
だが視線は依然として一人で立っているグレイス嬢に向けられていた。
皆、彼女のことを話題にしているのだ。
「本当にあからさまで、ひそひそ話が多いな。」
グレイス嬢は涙をこらえながらも、姿勢をぴんと伸ばしていた。
きっと噂に立ち向かうため、その場を離れずにいるのだろう。
この場から逃げ出せば、人々はそれを真実だと確信してしまうに違いない。
その姿が気の毒で、見つめているうちに、レリアの中にふと良い考えが浮かんだ。
目的はさておき、セドリックとデミアン皇子に良く思われることが重要だった。
ルートが望んでいるのは、まさにそれだったのだから。
ルートは「レイモンド卿」を貶めて、自身の優越性と誠実さを際立たせようとしていた。
その点をアピールして、ユリアナの家族に良い印象を与えたいのだ。
もしレリアがあの令嬢の味方をし、ルートがそのレリアと対立するようになれば?
セドリックとデミアン皇子は自然とルートを自分たちの味方として迎え入れるだろう。
ユリアナも同様に。
もともと大々的な政治闘争よりも、社交界の水面下の繊細で巧妙な駆け引きのほうが、
感情に訴える力は強いものだ。
それを利用するのは申し訳ない気もしたが、レリアにとってグレイス嬢は本当に放っておけない存在だった。
「話しかけに行こう。」
実際にストーキングしたのかどうかも分からない。
ただの噂ではないか?
それに、グレイス嬢を嘲笑っていた男女の群れの中に、ユリアナとその侍女たちがいるのを見て確信した。
彼女たちは一様に、ひとりで立っているグレイス嬢を笑いながら楽しんでいたのだ。
悪意に満ちた楽しさがあふれる微笑だった。
レリアは、それをすべて見て見ぬふりをしているようなユリアナに疑念を抱いた。
「まさか……」
レリアナは原作でさらっと流れていた内容をふと思い出した。
ユリアナをけしかけ、嫉妬した令嬢たちをセドリックとデミアン皇太子が叱ったという話だった。
『まあ、どうせあの皇子たちは私とは関係ないし。』
レリアはため息をひとつついてから、ひとり立ち尽くしていたグレイス嬢のもとへと歩いて行った。
コツコツという足音がホールに響いた。
まるで演奏者たちが演奏を始める直前のような静けさが漂っていた。
最初はレリアを見守っていた人たちも多かったが、彼らは驚いた表情だった。
ひとりで震えて立っているグレイスのもとへ歩いていくのを見て。
グレイスは、デミアン皇太子が公然と無視した人物だった。
つまり、彼女の味方をしてはいけない、という意味でもあった。
グレイス嬢の味方をすれば、デミアン皇太子を無視することになるからだ。
それは社交界の暗黙のルールだった。
しかし、他の人々の目に映る「レイモンド卿」はどう見てもアウラリア家の貴族ではなかった。
だからこそ、そんな行動ができるのかと思うと驚きだった。
「グレイス嬢。」
レリアナが前に現れると、グレイスは驚いて口を開いた。
「お、お久しぶりです。レイモンド卿。」
「少し前のティーパーティーでお会いしましたね。」
「…はい…。」
レリアは小さく微笑みながら、彼女にシャンパングラスを差し出した。
グレイス嬢は不安げにユリアナ皇女の侍女たちがいる方を見つめた。
「えっと、レイモンド卿…。」
「私と一緒にいると、妙な誤解を受けるかもしれませんよ。」
彼女がそう言おうとしたときだった。
演奏者たちがゆっくりと優雅な舞曲を演奏し始めた。
「グレイス嬢。ファーストダンスをお願いしてもいいですか?」
レリアの問いかけに、グレイス嬢は答えることができず、涙ぐんでいた。
「もしかして、私がそばにいるともっと気まずいですか?」
「いえ、そうではなくて…… 私のそばにいると、周りの人たちから非難されてしまいます。私のことは助けなくてもいいんです。」
そう話すグレイスの声は羊のように震えていた。
レリアはしばらく考えてから尋ねた。
「もしかして、デミアン皇太子に誤解されるのが嫌で…?」
「違います!」
もし本当にデミアン皇太子のことが好きで、それが理由ならと話そうとしたが、グレイス嬢は手を振って否定した。
「私はあの方をストーキングなんてしてません!最初から心に留めていたわけじゃありません。あれはただの誤解を受けただけで……」
「そうだと思いました。」
「……!」
グレイスは嗚咽した。
何度も会話を交わしたこともないレイモンド卿が自分を信じてくれるとは、想像もしていなかったからだ。
しかも、自分のもとへ歩み寄ってきてくれたなんて。
彼女の婚約者でさえ、あちらで他の男爵家の令息たちと一緒に自分を笑っていた。
涙が今にもこぼれそうだった。
本当はこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、そうすると家門の体面までもが傷つくと思い、必死に耐えていたのだ。
レリアは緊張で身体がこわばっているグレイスのために、踊りを再び誘う代わりに、いくつかの言葉をかけ始めた。
とてもささやかな会話だった。
「アウラリア皇城には鳥がたくさん住んでいるようですね。そのおかげで、どんなに夜更かししても、朝には鳥のさえずりで目が覚めるんですよ。」
こういう時ほど、軽い会話が心を和らげるものである。
レリアには、グレイスの気持ちがよく分かった。
彼女もまた、今より幼かった頃、シュペリオン領地で、いくつかの貴族たちに指をさされた経験があったからだ。
祖父や叔父、叔母には話さなかったけれども。
「ありがとうございます、レイモンド卿。」
レリアの配慮のおかげで、グレイスは少しずつ心が落ち着くのを感じた。
レイモンド卿がそばに立っているだけなのに、人々の視線が刃のように鋭く感じられなくなった。
一方、今までグレイス嬢をあざ笑っていた人々は、今度は二人をチラチラ見ながら気まずそうにし始めた。
もともと内心ではグレイス嬢に同情していた一部の貴族たちは、レイモンド卿を称賛した。
「真の騎士ですね。」
デミアン皇子の顔色をうかがわなければならない立場ではあったが、騎士道を重んじる貴族の男性たちはそう口にした。
「こんなにも容姿が美しいのに、正義感までお持ちだとは。」
「わぁ…本当に素敵。グレイス嬢が羨ましい。まるでロマンチックな物語のよう。」
女性貴族たちはくすくすと笑いながら、その様子を温かい眼差しで見守っていた。
一方で、数人の男性貴族たちはその光景を見て顔をしかめた。
「そんなの許されるのか?異国の貴族がデミアン皇太子を差し置いて無視するなんて。」
「軟弱そうだな。ひ弱で力もなさそうなのに、あんな男のどこがいいんだ…。」
「みんな目が曇ってるんだろう。あきれた…。」
一方、テラスに行くと言っていたロミオは、2階の手すりにもたれながらレリアを見つめていた。
まるで刃のように鋭い眼差しで。









