こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

43話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 曖昧な駆け引き⑤
『す、数千ゴールド!?』
私は「えっ」と息を呑んだ。
贈り物が少し多いとは思っていたけれど、まさかそんな大金が使われていたとは知らなかったからだ。
公爵はただ肩をすくめて、淡々と応じた。
「それはエドウィンの私財だ。」
「小公爵様の私財を除いても数千……ということですか……!」
ロゴンは戸惑ったように慌てて言った。
「正直、少し行き過ぎではないでしょうか?ディアナお嬢様にも、こんなに多くの予算を使われたことはありませんのに……」
「ロゴン。」
ロゴンの言葉を黙って聞いていた公爵が、じっと冷たい目で彼を見つめた。
「おかしなことを言うな。すでに他の家門から支援を受けている者に、私がなぜそれ以上の金を使うと思う?」
「えっ?いえ、そうではなくて……。ただ、同じく公爵様の治療を受けに来られたのに、対応があまりにも違うようで、少し混乱しました。申し訳ありません。」
ロゴンはそっと尻尾を巻きながら、頭を下げた。
彼の混乱は理解できる範囲内だった。
見たところ、彼は公爵家の予算を管理しているようだった。
前世と比べれば、公爵家での私の扱いや評価はかなり良くなっていたが、文書上の後援対象として認められていたのはディアナだけであり、治癒力もディアナには及ばないという噂も広まっていた。
そんな私に手形帳まで渡すのは、確かにやりすぎだと考えるのも無理はない。
『それにまだジョシュアが完治したわけでもないし。』
だが、ロゴンの気持ちを理解できるとはいえ、胸がちくりと痛むのはどうにもならなかった。
私は手にしていた手形帳をそっとテーブルの上に置いた。
するとまるで見透かしたかのように、公爵の落ち着いた声が執務室内に響いた。
「私が正式にベルゼを後援すると言ったのは、もうずいぶん前のことではないか?」
「えっ?は、はい。そうですね。」
「それなのに呼び方がいまだに『あの子』だとか”子ども” とは。」
どうやら公爵は、ロゴンの心配が度を越していると考えたようだった。
明らかに不快さを含んだ表情に、ロゴンは冷や汗をかきながら頭を下げた。
「申し訳ありません、公爵様。以後、注意いたします。」
「ただ少し愚かな発言かと思ったが、あんなに鈍感だとは思わなかったな。」
「………」
「エマ・キャスターから始まり、ジュリアーク・スヴェンまで。実にがっかりするような行動ばかりだ。ここまで来ると、人を見る目がないのはそなたではなく私の方か?」
「こ、公爵様!そういう意味ではなく……」
「もういい。」
ロゴンが慌てて釈明しようとしたが、公爵は冷たく遮った。
「もう出ていけ。」
「……はい。失礼いたしました。」
ロゴンは言い訳もできず口を閉ざし、もう一度手形帳を見下ろした。
その時だった。
彼が再び腰を伸ばした瞬間、ふと彼と目が合った。
「……!」
私はハッとして身をすくめた。
ロゴンの表情はいつもと変わらなかった。
公爵様の命令に忠実に従う、無表情で端整な顔立ち。
だが私を見つめるその両目が、どこかほんの少しだけ優しく輝いているように感じられた。
ロゴンが部屋を出ていくと、執務室の中にはしばしの静けさが訪れた。
「……すまなかった、ベルゼ。」
しばらくして、公爵が重々しく口を開いた。
「ロゴン、あの男は仕事一筋の人間だから、気が利かないんだ。君のことが嫌いでああしたわけではないから、あまり気に病まないでくれ。」
「私は大丈夫です!」
その真心こもった言葉に、私は慌てて笑顔を浮かべた。
―実際、誰からも認められるのは容易なことではないのだから。
「それにしても、ロゴンはちょっと……。」
胸の内を押さえて沈んでいた私は、そっと公爵に尋ねた。
「でも、公爵様。エマおばさんと……スベル、いえ、スヴェンのことは何だったのですか?」
「ああ。」
公爵は少し戸惑った表情で話し始めた。
「実は、あの二人を推薦したのはロゴンなんだ。」
「ロ、ロゴンの推薦ですか?」
「ああ。」
顎に手を当てたまま、公爵はしばらく沈黙したのち、ぽつりと口を開いた。
「恥ずかしい話だが……子どもたちの母親が亡くなったあと、しばらくの間、家庭をうまく顧みることができなかった。」
「あ……。」
「酒に溺れていた私に代わって、ロゴンが子どもたちを懸命に支えてくれたんだ。急いで世話係たちを雇って……。選ばれたのは、なんとあの二人だったんだ。」
驚くべきことだった。
公爵の直下にいた二人の使用人が、最近問題を起こして追い出されたというのだから。
そのとき、公爵の表情が少し陰りを帯びて沈んだ。
「二人とも、公爵家で長く仕えてきた者たちだったから、特に気に留めず任せていたのだが……」
「………」
「結局すべて私の責任だ。どんな人間なのか、もう少ししっかり調べていたら、こんなことにはならなかったはずなのに。」
彼は自責するように、しばらく黙り込んだ。
「私の至らなさのせいで、君に嫌な思いをさせてしまったな、ベルゼ。すまなかった。」
「公爵様のせいじゃありません!」
公爵の謝罪に、私はすぐに首を横に振った。
「その人たちが悪いんです!公爵様が信じてくださったのに、子ども相手にあんな酷いことをするなんて!」
なぜいつも謝罪や後悔は被害者の役目なのか、わたしには分からなかった。
将来の公爵夫人という地位に執着し、ジョシュアを利用したエマ、公爵に対する良心の呵責と情熱をエドウィンにぶつけていたジュリアーク……その加害者たちは、結局一度も謝罪の言葉を口にしなかった。
その話を聞いた公爵は、寂しそうに微笑んだ。
「それでも、お前が我が家に来てくれて本当によかったと思っている。おかげで、あの件もすべて明るみに出たのだから。」
そう言って、公爵はほっと息をついた。
「……ちょっと早く大人になりすぎたのかもしれんな。ジョシュアとは違って、エドウィンは何かあってもあまり言葉にしない子でな。」
公爵はそのことを残念そうに語った。
でも、わたしにはその理由がわかっていた。
ある晩、エドウィンが密かにわたしを訪ねてきて、こう言ったのだ。
『自分の手で直接片をつけた方がいいと思ってさ……。検査検査で忙しいお父様に余計な心配をかけたくなかったんだ。最近も、ジョシュアのことであまり眠れていなかったし。』
エドウィンが公爵様をかばってそう言ったことは、口に出さずにおくことにした。
そんな深い思いまでは、私が代わりに伝えるべきではないから。
『……わかっています、公爵様。』
その代わり、今日も何があっても必ず公爵家を守ると、私は心に誓い直した。
『私は、もう一つも我慢しません。』
『ん?』
『エドウィンやジョシュに何かあったら、公爵様のところに飛んできて全部話します! そして必ず仕返ししてやります!』
『……復讐?』
私の言葉の意味をようやく理解した小公爵は、くすっと笑った。
『復讐は済んだ。あとは無事に帰ってこい。前みたいに無茶だけはするなよ。』
『ゴードンじいさんがあの歯は丈夫だって、何回かもっと叩いてもいいって言ってたのに?!』
『だめだ。それでもだめ。』
彼ははっきり言った。
私は少し残念に思った。
「ベルジェ。」
ふいに公爵が厳かな声で私を呼んだ。
「はい?」
「お前は今でも、自分の立場と年齢に比べて十分すぎるほどのことを成し遂げていると言っている。」
「えっ……」
「スピア書を準備しながら、もしかしてお前は私の兄弟ではないかと思ったよ。五歳の子が、すでに起業しているとは。」
彼は私を見つめ、真剣な目つきで静かに言った。
いつか、そうした疑いを受ける日が来るかもしれないな、と。
だから私は落ち着いて用意しておいた弁明を口にした。
「実は秘密なんですけど……全部おじいさまがやれって言ったんですよ!」
「そうだとしても。」
だが彼は私の言葉をそのまま受け流しはしなかった。
「普通、君くらいの年頃の子どもは、貴婦人に夢中になるより、人形やおもちゃで遊ぶもんだ。」
「……」
「クラウド夫人をなかなか上手くまねていたようだな。少し前にも君の香水を尋ねたそうじゃないか。」
その言葉に、私は大きく目を見開いた。
『ヘアミストのことじゃなくて……私の香水の方?』
あの瓶を全部使い切るとは思えないし、その人が私の香水を尋ねたという話は本当らしい。
店のオープンと同時に招待状を送って、もう一度フェアリーハーブの刻印を入れようとしていたところだった。
希望の兆しだった。
しかし同時に、不安な気持ちもわいてきた。
『もしかして公爵様は、私が事業をすることをよく思っていないのでは?』
とはいえ私は堂々と成人女性の候補者として支援を受け始めたのだ。
しかし、変な仕事ばかりしている姿が支援者としての立場を難しくする可能性があるということを、私はようやく自覚した。
「ごめんなさい……。」
「何も悪いことをしたわけじゃない。」
おどおどしていた私に、公爵は眉間にしわを寄せてからすぐに表情を和らげた。
「支援している子どもが多方面で優れた才能を見せれば、むしろ嬉しいことだ。だが――」
「……」
「たまに君を見ると、何かに取り憑かれているように感じることがある。」
「と、取り憑かれて……?」
「そうだ。」
公爵は憂いを帯びた金色の瞳で私を見つめた。
「ひょっとして、私が君に“しっかりやれ”とプレッシャーをかけてるのか?」
「えっ、そんな!?」
私は驚いて慌てて首を横に振った。
「そんなことないです!全部、私がやりたくてやってることなんです!」
「それならよかった……」
公爵は言葉を濁した。
しかし、彼の瞳はまだどこか曇っていた。
なぜ彼がそんなことを考えたのかは分からないが、その鋭い観察力に私は驚き、思わず息をのんだ。
正直に言えば、私は回復してからはちょっと頑張りすぎていたかもしれない。
でも、それは「しっかりしなきゃ」というプレッシャーではなく、自分がどう行動すれば公爵を支えられるのかという悩みから来ていたのだ。
原作に登場するアイテムで大金を稼ぐことも、皇太子の助力者となることも、すべて同じ展開だった。
そういう意味で、私はどうしても心配だった。
「もしかして公爵様は…… 私が治療以外のことをするの、嫌いですか?」
「そんなわけがない。」
おそるおそる聞いたにもかかわらず、彼はきっぱりと否定した。
「やりたいことがあれば、なんでもやるといい。私の許可なんてなくても、建物を買いたければ買えばいいし、物を売りたければそうすればいい。」
「……」
「それくらいの支援もできないで、どこが保護者だと言えるだろうか。」
そして彼は私と目を合わせて、温かい声で言った。
「私が言いたいのは、“あまり頑張ろうとしなくてもいい”ということだ、ベルゼ。君はまだ子どもなんだから。」
「公爵様……」
「君が事業をしながらも、一方ではエドウィンのように一途に未熟なままでいてくれることを願うというのは……」
「……」
「私があまりにも欲張っているのかもしれないな」
その最後の言葉は、ほとんど独り言のようだった。
しかし私は、なぜ彼がそう言うのか、心から理解できた。
『……公爵様は、私が来てから起きたすべての出来事に対して、深い責任を感じていらっしゃるのね』
「未熟であってほしい」という言葉は、私に向けられたものだけではなかった。
しばらく家の中のことに気を配れなかった間、気の利かない大人たちの顔色をうかがいながら、息子たちが萎縮していたことが気がかりでならないのだ。
そして、私にもそんな思いをさせたくないという、彼の優しさから出た言葉なのだと分かった。
『……でも、公爵様。私はもう十分に大きくなりましたし、これ以上成長することなんて、ないんです』
残念ながら、私は彼の願い通りにはできない。
なぜなら、公爵様を傷つけようとする人々がそこら中に蔓延っていたから。
彼らから大切な人たちを守るために、私はもっと冷酷に、もっと強くなるしかなかった。










