こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

77話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 理不尽な決闘②
レリアも息を切らしながら、肩で大きく呼吸をしていた。
その時だった。
舞台の上に上がってきたデミアンがナンプ卿を足で押しのけ、退場させるよう命じた。
彼の顔は静かに怒りをたたえていた。
「次は俺の番だ、レイモンド卿。ありがたく思えよ、お前が皇女の名誉を傷つけた罪、しっかり償ってもらうぞ。」
ありえない…
レリアは眉間にしわを寄せた。
実際に皇女の名誉が傷つけられたのであれば、こんな決闘ではなく裁判にかけられていたはずだ。
デミアンもそれを理解している。
裁判にまで発展するほどのことではないと。
そのとき、舞台の端に立っていたもう一人の皇子、セドリックが提案した。
「レイモンド卿。ナンプ卿を一撃で倒したところを見ると、かなりの実力者のようだが、いっそ私たち二人を同時に相手にしてみてはどうだ?」
「え、それって……。」
「じゃあ、承諾したということで。私たちが卿に一つ教えてやろうじゃないか。」
その言葉を終えると、セドリックも袖をまくり上げて円形舞台の中央へと歩いていった。
ナンプ卿が倒れているのを見て満足したのか、観戦していた貴族の男たちはさらに大きな声を上げた。
「そうだ!ナンプ卿を一発で倒したなら、2対1が妥当だ!」
「殺してしまえ!皇子様!」
「やっと公平になったな!顔面をぶん殴ってしまえ!」
はあ。なんて理不尽な理屈だ?
レリアは言葉を失い、呆れた表情でセドリックとデミアンを見つめた。
彼らと向かい合って立っていると、ふいにこみ上げてきた悔しさと込み上げる感情に、目と鼻が熱くなった。
「………」
幼い頃だけでなく、今になってもこんなに自分を苦しめるなんて。
正直、レリアはセドリックとデミアン皇子のことが本当に憎かった。
でも、いつも意識的に彼らのことを考えないようにしていた。
ずっとこの二人のことを思い出しては憎んでいたら、亡くなった母がとても悲しむだろうから。
たとえペルセウス皇帝の子供であっても、彼らは自分と同じく、母が苦しみながら産んだ兄弟なのだ。
兄弟同士で争うのを好む親などいない。
事実を口に出すこともできないその状況が、さらに胸を痛め、悔しさでいっぱいだった。
一体どんな恨みがあるというのか、あの二人はなぜここまで自分を苦しめるのだろうか――
「……」
そんな中、セドリックとデミアンはレリアをここで殺すつもりなのか、巨大な拳を振り上げて見下ろしていた。
敵意と悪意に満ちた視線が鋭く突き刺さる。
何よりも、ユリアナや皇女の名誉を守るために…その理由で自分にそんな目を向けるという事実が胸を締め付けた。
「……」
虚しい気持ちに、もはや何がどうなろうと関係ない気がしてきた。
意気が削がれたレリアは、もはや戦闘の構えを取ることすらしなかった。
そもそも、今は使える薬も残っておらず、作る時間もないのだから。
ピッ!
そのときだった。
セドリックの合図を受けたのか、端に立っていた騎士が笛を吹いた。
同時にセドリックとデミアンは構えの姿勢を取りながら、レリアを取り囲んだ。
セドリックが先に前に出て、デミアンはセドリックが敗れた場合すぐに飛びかかれるように、体勢を低くして少し後ろに構えていた。
セドリックはすぐには拳を繰り出さず、優雅にレリアを見つめていた。
少し前、レリアがたった一撃でナンプ卿を沈めた姿に警戒しているようだった。
セドリックが言った。
「早くかかってきたらどうだ?」
逃げ出そうとして言ったようだが、レリアはまったく反応を示さなかった。
セドリックは奇妙な表情を浮かべたかと思うと、すぐに近づいて拳を繰り出した。
確かにナンプ卿とは違い、拳の速さも力もまるで違っていた。
そもそもナンプ卿は普通の貴族であり、セドリックは正式な訓練を受けた騎士で、戦場にまで赴いた経験もある人物だった。
パクッ!
拳が当たる音とともに、レリアの体が床を転がった。
ナンプ卿の巨大な拳に打たれても微動だにしなかった彼女が、今回は倒れ込んだことで、観客席からの歓声は一層大きくなった。
「わあああっ!」
「殺してしまえ!」
「死ね!」
皆が熱狂して「殺せ!」「打ちのめせ!」と叫んでいた。
セドリックはその歓声に気分を良くし、地面に倒れ込んだレリアを見て笑った。
彼はゆっくりとレリアに近づいた。
そして足で軽く彼女をつつきながら大きな声で言った。
「卿、さっき言っただろ?命を落とさなければ、法には触れないって!」
その言葉とともに、彼は左手でレリアの襟元をつかみ、拳を握った右手を振り上げた。
「………」
しかしその瞬間、セドリックは一瞬動きを止めた。
「レイモンド卿」が自分を見つめるまなざしのせいで、なぜか気分が急におかしくなったのだ。
『…あり得ない。』
頭の中に誰かが浮かんだが、この場面で思い浮かぶはずのない人物だった。
セドリックはためらいながらも、罪悪感に満ちた気持ちで右手をさらに高く振り上げた。
そして小さな顔めがけて拳を振り下ろそうとした――
「ううっ!」
突然、右手がぴくりとも動かなくなった。
セドリックが混乱して視線をめぐらせると、観客席の貴族たちが一斉に静まり返り、同じ一点をじっと見つめていた。
誰かがこちらに向かって歩いて来ていたのだ。
騎士たちはその男に近づけず、ただ動けずにいた。
まるで何か得体の知れない力に阻まれているかのようだった。
白いローブをまとった男だった。
「…何だ?」
セドリックはレリアの襟をつかんでいた手を放し、驚いて立ち上がった。
デミアンもまた眉をひそめながら、その方向を見つめていた。
男はゆっくりとした足取りで、分かれた群衆の間を抜けて舞台までやってきた。
セドリックは目を細めた。
あの男…よく見ると、クロイツ教の紋章が刻まれたローブを着ていた。
セドリックとデミアン皇子の目の前に来ると、男はローブのフードを下ろした。
思ったとおりだった。
「グリフィス、お前だったのか。」
「……」
セドリックとデミアンは、無表情で彼を見つめていた。
戦場に参加していたかどうかはともかく、他の連中と同様にグリフィスとは仲が悪かった。
「二人がかりで一人と闘うとは。皇子様ともなると大層立派ですな。」
グリフィスは皮肉たっぷりの口調で言った。
初対面のあいさつがそれとは。
セドリックとデミアンは呆れるばかりだった。
グリフィスも皇子ではあるが、今では継承順位から外れた落ちぶれた身。
王宮に見捨てられた皇子の端くれである。
セドリックは内心、グリフィスを嘲笑った。
それに、ここはアウラリアの王城の中なのだ。
堂々とここで皇子である自分たちに口出ししてくるとは。
「我々はただ、皇女の名誉を汚した者と正々堂々と決闘していただけだ。」
「はあ。」
グリフィスは答えもせず、床に倒れているレリアのそばに歩み寄った。
そして、足先でそっと彼女を突いた。
レリアの体が回転して顔が見えると、彼は無表情なまま口元をわずかに吊り上げた。
「………」
その瞬間、彼が手を差し出した。
レリアの瞳孔が大きく開かれた。
体の中に澄んだ気が流れ込んでくるようだった。
さっきまで肉体的苦痛で顔が歪みきっていたというのに、嘘のように痛みが消えていった。
神経質そうな彼は、埃を払ってからセドリックとデミアンに軽く申し出た。
「それなら、私がこの友人の代わりに試合に出よう。」
「お前が?なぜお前が?」
「……」
「お前とあいつにどんな関係があるんだ?」
セドリックの問いに、グリフィスは視線をレリアへと移した。
二人の目が合った。
「友人のためなら、それくらいのことは。」
グリフィスは淡々とした眼差しでそう告げた。
レリアは不意に心臓が止まりそうな感覚に襲われた。
『“親友”…まさか…まさか私のことをわかっているの?』
ありえないと思いつつも、思考が混乱した。
その間にグリフィスは着ていた重たげなローブを脱ぎ捨てた。
ローブはふわりとレリアの頭上に舞い上がった。
戸惑って見上げると、グリフィスはレリアに「そっちへ行け」と無言で目配せをしていた。
「……」
レリアはおそるおそるグリフィスのローブを抱えて、そっと脇へ避けた。
『いったい、いつ来ていたの?』
レリアがぶるぶると震えている間、取り囲んでいた男性貴族たちは皆、一様に冷たい視線を向けてきたが、レリアの近くに近づこうとはしなかった。
イライラする気持ちは否めなかったが、周囲に誰も敵意を見せる者がいないことで気は少し楽だった。
グリフィスは袖をたくし上げながら言った。
「さっきみたいに、二人まとめてかかってきてもいいよ。」
その挑発に、セドリックとデミアンは目を細めてにらみつけた。
セドリックが口を開いた。
「…決闘中に神性力を使うのは禁止されてる。知ってるだろ?」
「うん、もちろん。」
グリフィスは当然のことのように答え、戦闘態勢に入った。
その姿はまるで賭場で素手の格闘試合をする選手のように自然だった。
セドリックが視線を送ると、どうすればいいか分からずにいた騎士が戸惑いながら笛を吹いた。
同時にセドリックの拳が飛んだ。
見守っていたレリアは思わず目をぎゅっとつぶった。
しかし、何の音も聞こえず、目を開けてみると、グリフィスが軽やかにセドリックの攻撃を避けていた。
後ろで見ていたデミアンもその様子に堪えきれなくなったのか、拳を握って前に出てきた。
『卑怯なやつらめ…!』
レリアは歯を食いしばり、内心で二人を罵った。
舞台の中央では、いまだにグリフィスが立っていた。
セドリックとデミアンはわずかに険しい表情をしていた。
「ところで、ひとつ確認しておきたいことがある。」
「………」
グリフィスが拳を避けながら尋ねたが、セドリックは返事をしなかった。
延々と避け続けていたためか、いらだちを隠せない様子だった。
「さっき聞いたんだけど、命さえ奪わなければ違法じゃないって。本当に?相手が皇族でも?」
「お前らが俺たちを殺す前に叩きのめせると思ってるのか?なんだかんだ言っても俺たちは二人だぞ。」
セドリックは笑った。
二人は戦場でグリフィスが活躍している姿は、これまでの戦いではほとんど見られなかった。
最後の戦闘でも、彼は後方で神聖力による治癒しか行っていなかった。
それなのに、あんなに自信たっぷりに現れるなんて…信じられず、可笑しくなってきた。
「返答は?」
グリフィスは返答を促すように再び問いかけた。
セドリックは鼻で笑った。
「そうだ。だがそんなことは起こりはしない…!」
セドリックは言い終えることもできなかった。
その一瞬、グリフィスの拳がセドリックの顎を的確に打ち抜いたのだ。
後ろでうろたえていたデミアンも、同じく一瞬で終わった。
バシッ!
セドリックが復讐しようとグリフィスに向かって槍を振り回した瞬間、体が宙に舞った。
先ほどまで「殺せ」「切り裂け」と叫んでいた護衛兵たちの間には沈黙が広がった。
グリフィスは倒れているセドリックに近づいて襟首をつかみ、拳を振り上げた。
さっきセドリックがレリアをつかんでいたように、レリアは止めるかどうか迷う暇もなく、拳が振り下ろされた。
騎士たちはどうすべきか分からず呆然とした。
皇子様の口から「命を奪わなければ反則ではない」と言われたとはいえ、彼らにとって自分たちが守る皇族が打たれる姿は到底見ていられるものではなかった。
騎士たちが止めに入ろうとした瞬間、グリフィスは隙を突いた。
「うぐっ!」
円形の舞台に入ってきてグリフィスを制止しようとした騎士たちは、まったく動けずにその場で固まってしまった。
それは神聖力のせいだった。
グリフィスは騎士たちを落ち着かせるかのように、軽く言った。
「心配するな。終わったらすぐ治してやるから。」
その言葉を聞いた騎士たちは、動揺しながらも内心では安心していた。
戦場に参加していない騎士たちであっても、一度でも騎士であればグリフィスが誰なのかは知っていた。
戦場で功績を立てた者たちは皆有名人だったからだ。
その中でもグリフィスは、非常に優れた神聖力の持ち主として有名だった。
だがそのグリフィスの言葉に、デミアンは侮辱されたかのように激怒し、歯ぎしりをした。
デミアンは体を起こした。苛立ちがこみ上げていた。
ロミオやカーリクス、あの連中が関わるかもしれないと心配して母にまで頼んで見張らせていたのに、まさかグリフィスが現れるとは。
彼は唾を吐き、血だらけの鎧を回して辺りを見渡した。
そこには血まみれになって倒れたセドリックがいた。
よくも僕の兄さんを…!
セドリックの姿を見たデミアンの目の前は真っ赤に染まった。
「この野郎が……!!!」
デミアンはグリフィスに向かって罵声を浴びせた。
しかしグリフィスは面白がっているように笑っただけだった。
「野郎だと?ニケア帝国の皇族を侮辱するつもりか?」
「こ、この…!」
「君の言う通りなら、僕の父はクズってことになるな。まあ、間違ってはいない。」
「………」
「それより、君のことも治してやるから、そんなに嫉妬するな。」
グリフィスの声は最後まで冷静だった。
バシッ!
その言葉のあと、グリフィスはもう言葉を交わさなかった。
レリアは目を背けることもできず、ぎゅっと目を閉じた。
ちょうど10秒だけ数えようと決めたその瞬間、10秒が経過してから目を開けた。
円形舞台の床には血がぱっと飛び散っていた。
セドリックは仰向けに倒れており、デミアンはやはり顔が血だらけでひどく荒れていた。
騎士たちはすでに止めようとしたが、依然として体がまったく動かず、ただうろたえるばかりだった。
レリアが目を閉じてから10秒後、状況はさらに凍りついていた。
「グリフィス様!」
もう駄目だと思い、レリアは彼を止めるために名前を呼んだ。
グリフィスは自分を呼ぶ声に反応してレリアを見つめると、デミアンの首元を放した。
そしてすぐに上着の袖をまくり、手を差し出した。
その指先から出た白い光は蝶のようにやさしく空中を漂った。
神聖力のおかげで傷だらけだったセドリックとデミアンの顔は再び穏やかに戻っていった。
「とても面白い決闘だった。さあ、行こう。」
グリフィスはレリアに軽く声をかけた。
「……」
レリアは何も言わずに彼の後をついていった。
後ろを振り返ると、騎士たちが皇子たちを背負って走っていくのが見えた。
呆然としたまま再びグリフィスの背中を見ると、ようやく我に返った。
――でも、グリフィスはいつ来たの?
どうやってここに来たの?









